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第三話 武闘家の意外な目的

「ラーベ様、いつかのようにお知恵を拝借したく。この事件を解決していただきたいのです」


 〝宝箱〟の中身が紛失している以上、参加者達を帰すわけにはいかない。

 トマス男爵は苦心して全員を説得。

 その上で、謎解きを私に依頼してきた。


 もちろん、そこに謎がある限り、私は協力を惜しまない。

 まずは気絶している武闘家の男性を、カレンに命じて起こさせる。

 というか、そもそも寝たふりですよね?


「と、お嬢様が申しておりますので。そのまま芝居を続けるなら、首をへし折りますが、如何なさいますか?」

「……勝者には従う、二言はない」


 ムクリと起き上がった武闘家さんはやはり大きかった。

 閣下より身長が高い人物を、初めて目にしたかもしれない。


「俺の名はガンサイ」

「目的もキリキリ吐かれては如何でしょう?」


 カレンのかける圧力に屈したわけでもないのだろうけれど。

 武闘家――ガンサイさんは、訥々(とつとつ)と語りはじめた。


「人を探している」


 彼は私とカレンの胸元をしばらく注視し、


「……豊満な胸の、冒険者の女だ。秀でている、魔術にも、鍵開けなどにも」


 そう仰った。

 カレンが無言で彼の(すね)を蹴る。

 ガンサイさんは痛痒すら感じていない様子で「憐憫(れんびん)を感じるほど薄っぺらな……」と続けたので、取っ組み合いの喧嘩が始まった。


 ……事態の収拾がつくするまでしばらくかかったが、話をまとめよう。

 ガンサイさんは、ダンジョンがある町で冒険者をしていた。

 その時に二名の人物とパーティーを組んでいた。

 しかし、そのうちの一人が姿を消してしまう。

 方々を探したが見つからず、随分と経ってから風の噂で、この土地周辺で目撃されたと聞き及び、足を運んだのだとか。

 その際、旅程もろくに立てなかったので金子が底を尽き、飲まず食わずでふらついていたところ匂いに釣られて屋敷に侵入したと。


「つまり、〝宝箱〟とは無関係と証言されるのですね」

「ではなぜ、先ほどお嬢様へ襲いかかったのですか。答えによっては、こう(・・)でございますよ」


 言いながら、カレンが拳を振り下ろす。

 ガンサイさんはそれを愉快そうに見詰め、ぽつりとこう告げた。


「似ていたからだ。仲間が、パーティーを抜ける切っ掛けになった女と」


 私も、そしてカレンも押し黙る。

 つまるところ、それは、妹の――いや、いまはいい。

 考えるべきことは別にある。


「それよりもラーベ様、宝箱の中身の行方は?」


 不安げなトマス男爵。

 彼の言葉が正しい。

 いま優先すべきは、〝開かずの宝箱〟が如何にして破壊されたかと言うことの方。


「いえ、主様。一旦お開きにされては如何でしょうか? お客様を皆帰されて、ことの追及は後日とした方が醜聞も」


 そう言いだしたのはアゼルジャンさん。

 確かにと苦悩する男爵。


「…………」


 私は両手を顔の前で打ち鳴らし、そのまま合掌。

 目を閉じて沈思黙考の姿勢に入る。

 これは一種のルーティンであり、実行することで思考は加速し、推理は一気に飛躍するのだ。


 絶対に壊れることがない宝箱。

 停電後、破壊された上蓋。

 優勢でありながら、何もないところで転んで負けたガンサイさん。

 人捜し。

 魔術と鍵開けに秀でた冒険者。


「――明瞭なことです」


 私は、会場を見渡して、一同へと微笑みながら告げた。


「宝箱は壊されてなどいません。この会場の中に、無傷で残されています」


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