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幕間 とある策謀家(自称)の転落

「ふざけるなーっ!」


 ドノバン・クレエアは、報告を聞いた瞬間絶叫をあげた。

 そのまま怒りと絶望に任せ、執務机の上にあったもの全てを腕で薙ぎ払う。


 先ほどまで上機嫌で(たしな)んでいた好物のワインもグラスごと床に落ち、砕けた。

 それは二度とは戻らない栄華を現しているようで、ドノバンは再び咆哮を上げる。


「なぜだ? なぜこうなった?」


 起きたことは単純だ、内通がバレたのだ。

 第三王子と通じることで、王家の秘密を入手。これを用いて国家の転覆と王位の奪取を(はか)る。

 それがドノバンの策略だった。

 しかし、これは失敗した。


 ことが露見した以上、第三王子はクレエア家を迅速に売るだろう。トカゲの尻尾切り。これは時間の問題だ。

 すでに愛娘リーゼは、王都から呼び戻しているが……かくまえるかどうかはギリギリの勝負となる。


「もっとも、リーゼには〝結社〟の手勢を付けてある」


 人の印象にまったく残らない、こそ泥を自称する小男だ。

 いまのところ職務に忠実であり、こちらの意向通りに動いている。

 おそらくは護衛として使えるはずだとドノバンは考える。


「そうだ、全てが白日の下にさらされたわけではない。全容解明までは時がかかる」


 内通は露見したが、愛三王子以外の王族を皆殺しにしようとしたという事実が明るみに出たわけではない。

 王宮も馬鹿ではないから、数日の内に査察団を編成して乗り込んでくるだろう。

 だが、それまでに準備は出来るはずだと、ドノバンは素早く打算を廻らせていく。


「幸い、平和ボケした王族どもはまだ我々が防諜を担っていると思い込んでいる……」


 今回の一件について、クレエア家は世に出たこととは別の真意があった。これは国を守ることである。

 ……そんな言い訳が立てば、危機的状況を回避出来るかもしれない。

 否、出来なければ戦争か、領地の没収かというラインまで来ているのだと、ドノバンは否応なく理解した。


 事態を静観しているだけでは、ことを(うれ)う有力貴族や商人達、多くのコネクションがクレエア家を損切りしていくだろう。

 なんとしても、状況を打破しなければならない。


「くそったれ……」


 どうしてこうなったのか?

 ぐるぐると、ぐるぐると、ドノバンの頭の中では同じ言葉ばかりが回る。

 全てが上手くいっていれば、今頃は自分とリーゼが大陸の頂点に立っていたはずなのに。

 なぜこんなにも不憫な目に遭わなければならないのか。


「そうだ、なにもかも、あの失敗作が悪い」


 脳裏に浮かんだのは、漆黒を煮詰めたような娘の姿。

 あらゆる謎を解き明かし、全てを破滅に追いやるバケモノ。


「ハイネマン家の暗部を暴露でもすればかわいげもあったろうに、寝返りおって……いや、待てよ?」


 辺境伯エドガー・ハイネマン。

 王都事変解決の立役者とされている男。


「そうだ、あの男に全ての罪をなすりつければいい……!」


 ドノバンの顔が大きく歪む。

 狂気に。


「ああ、そうだとも。こんなときのために失敗作をやつの元へ送ったのだ。埋伏(まいふく)の毒! いまこそ憎き怨敵を蹴散らすとき……!」


 すべてが逆だったことにする。

 事件を解決したエドガー・ハイネマンこそ黒幕、首謀者であり、己の名声を高めるための自作自演だった。世論をそう仕向ければいい。


 そうと決めたドノバンの行動は速かった。

 〝結社〟へと連絡を取り、秘密裏に情報を操作。

 クレエア伯爵家と対をなす辺境伯家を、今度こそ完膚なきまでに叩き潰すため。


「そうだ、元よりそのための結婚。今日まで仕込みを続けてきた〝証拠〟という罠だ。さあ、やり遂げて見せよ〝影〟!」


 ドノバンが闇黒へ向かって叫ぶ。

 〝影〟は。

 わたくしは。


「あの謎解きのバケモノを用いて、ハイネマン家を滅ぼせ、出来るな――カレン・デュラ!」


 ただ、こう答えるのみだった。


「――御意」


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