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閑話 未来鏖殺事件 ~犯人視点~

 僕はエブルディオ。

 実は幼いときにね、異世界へと転移してしまって、そこで酷い光景をいくつも目にしてきた。


 命からがら大陸へと戻ってきたぼくは大いに考えたのさ。

 こちらの世界からあちらの世界にいけるように、あちらの世界もこちらにやってこれるんじゃないかって。

 そうなったら全滅戦争は必死だ。


 というわけで、まずは手足となって働く組織を作ることにした。

 え? 異世界転移なんて突飛な話、受け容れてもらえるわけないだろうって?

 ふっ……話術!

 そう、話術は全てを解決する。


 舌先三寸言いくるめ、あちらの世界で得た知識で稼いだ巨万の富をちらつかせれば、だいたいのやつは傘下に入った。

 次に必要なのはコネクション。

 ああ、危惧は解るさ。こんな荒唐無稽な与太話で国の中枢に入り込めるわけないってことだろう?


 魔術……!

 魔術は全てを解決する……!


 異世界に行ったことで飛躍的に能力の向上した僕は片っ端から魔術であれこれして、ついに組織を旗揚げしたのさ。

 君たちがいうところの〝結社〟、本当の名前を――いや、これは蛇足だねぇ。


 ネクストステップ。

 コネと財力と手足を手に入れた僕は、各地を蚕食(さんしょく)して回ったんだがね、ここで立ちはだかってくる相手がいた。


 そう、悪の貴族クレエア家。

 ことあるごとにぼくの策謀を邪魔してくる彼らには手を焼いたし、後々明らかになったことだけど、それがたったひとりの黒髪黒眼の少女によるものだと知ったときは、がらにもなく怒りを燃やしたものさ。

 ラーベお嬢さんに固執したのは、それが理由だよ。


 ただ、あそこの当主とは意気投合してね、たっぷり利用させてもらった。

 その過程で、クレエアが積み重ねてきた人類史の遺産も手に入れた。

 本家の彼らは忘れているようだったけれどねぇ、色々と便利に使わせてもらって、まずは大陸人類の意識改革と打って出たわけだが――


 ――なんなんだこの黒髪黒眼娘は!?


 何もかも、一切合切、こちらの努力を全部破壊してくるじゃないか!?

 たかが末端の悪党の死因を暴いた。

 それだけのことが巡り巡って、動乱を二度も回避させるかね?

 ありえない。

 おかげでぼくは、彼女にありったけの注意を払うことになった。


 ……お察しの通り、それが敗因だ。

 彼女が手に持っていたファイヤー・アームズ――あちらの世界ではリボルバーというのだが、それを構えられたとき、このお嬢さんならば突飛な使い方をしてくるかも知れないと身構えてしまったのさ。

 思えば彼女への奇襲、ほとんど成功していないねぇ。

 読み切られていたと、考えるべきなのかも知れないなぁ。


 とにもかくにも、僕の策謀は全て水泡と帰したわけだ。

 話術! 魔術! 金銭! 権力! コネ!

 なにもかもが、彼女の前では無意味だったのさ。


 ……いや、それでも勝てるはずだったんだけどねぇ。

 彼女が単なる推理機巧だったのなら。

 僕の最大の誤算はね、ラーベ・ハイネマンが、とっくに人間であり、他者の心を理解するようになっていた、ということだよ。

 まったく、それを促したのは誰だったのだろうね。

 エドガー・ハイネマン?

 なら、僕は愛の力の前に破れたということになるのか。


 うーん、悪くない気分だ。


 そんな奇跡が成立するなら、きっとこの先もきみたちは上手くやっていけるだろう。

 ただ、どうしても解せないことがある。

 君なら解るだろう、クレエアの末孫ちゃん。

 あの黒髪黒眼のお嬢さんは。

 本当に、人を愛するなんてことが、出来るのかい?


「何を仰るかと思えば――笑止!」


 僕の手足であり、協力者であり、敵であり、そしていま面談に来てくれた彼女は、こう言うのだった。


「お姉様はずっとはじめから、愛深き人ですわよ」


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