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第四話 ポータルの異常

 セレナさんによってエブルディオが撃退された、すぐあと。

 扉が蹴破られん勢いで開いた。

 ノックは無い。必要ない。

 彼にとって、この屋敷で自由にならないものなど一つも無いからだ。


 呼び込んできたのは、閣下。

 エドガー・ハイネマン辺境伯。

 彼は室内の状況を確認するよりも先、真っ直ぐにこちらへと駆け寄り。

 そして、強く、私を抱きしめた。


「……閣下、痛いです」

「悔恨が人を殺すならば、俺はいま、数百の人生を無為に棄てていただろう」

「いつにも増してなにを言っているか解りません」

「謝罪だ。駆け付けることも出来なかった愚者から、命を取り留めた乙女への、ある限りの感謝を込めた、な」


 つまるところ、襲撃を未然に防げなかったことを悔いているらしい。

 しかし、それは無理からぬことだろう。

 なにせ、屋敷の警報魔術は、いまになってようやく起動している。

 セレナさんが突撃してくるまで、なにひとつとしてそれは正常な値を示していたのだ。


 ここから導き出される推論は二つ。

 エブリディオ側には魔術を欺瞞(ぎまん)する手段がある。

 或いは、この屋敷にさえ、あれの内通者が巣くっており――


「そろそろ話してもいいの?」


 呆れたような声音で、剣聖の後継者が、こちらを見ていた。

 ……頬が熱い。

 そういえば、抱きしめられたままだ。


「小鳥よ、発熱しているのか?」

「閣下、どうか頭を冷やされてください」

「冷やすべきはおまえだ。すぐに医者を」

「乳繰り合うのは後にして欲しいの」


 今度はうんざりとセレナさんが言ったからだろう。

 閣下がゴホンと咳払いをした……私を抱きしめたままで。

 なるほど、これはしばらく解放してもらえなさそうだ。


「とりあえず、情報交換をしませんか?」


 たくましい腕と大胸筋に抱かれつつ、私は可能な限り理性的な提案するのだった。



§§



「リーゼが私の部屋に侵入してきた、この時点で屋敷の警戒状態は最高になっていた。合っていますか?」

「間違いない。そこで俺は、窮余(きゅうよ)の策を打った」


 閣下の勘は当たる。

 だからこそ、彼はセレナさんを王都から呼びつけ、同時に他の手も講じていた。

 それが、冒険者さんの活用だ。

 かつて私たちと関わりのあったスライムテイマーのチームが、外部に配備されており、エブルディオを隠密に追いかけているらしい。

 これには変装の名手、衛兵さんも同行しており、顔や姿を変えられた程度で巻かれることは無いとのこと。

 また、危険に慣れている冒険者であるから、いよいよとなるまえに撤退することは契約段階で決められていたらしい。


「おまえの到着が遅れたのはなぜなの?」


 身分的には王族お抱えの剣士であるセレナさんは、閣下に対しても礼節など存在しない振る舞いをする。

 けれど、この場でそんなことに目くじらを立てるものなどいはしない。

 閣下は、瞳を赤く燃やしながら告げられた。


「こちらも襲撃を受けた。十人の手練れだ。瞬時に切り伏せることは適わず」

「生け捕りに出来るかも知れない、という選択肢をあちらは突きつけてきたわけですね?」

「……優先順位の判定ミスだ。いかようにも俺を(なじ)り、間の抜けたことだと笑い、呪うがいい小鳥」


 そんなことはしないが。

 だが、思考と体術は相性が悪い。

 私のように、そもそも自分が動くことを頭から取り除いているような異常者ならともかく、閣下には抜群な効果を示しただろう。


「ともかく、おまえたちが無事だったのはよかった。よかったと、いってやるの。そのぐらいには、こちらも大人になったの」


 セレナさん……。


「ありがとうございます」

「ふん……なの」


 そっぽを向く彼女へ微笑みかけ、すぐに私は思考を回す。

 なぜ、エブルディオは私を襲撃したのか。

 決まっている、あちらにとって不都合な真実へと肉薄したからだ。

 だが、それを詳らかにする前に、確認すべきことがあった。


「閣下、カレンは無事ですか?」

「……これも俺の失策だが、そこにいる次代の剣聖を即座に呼び寄せるため、あれにはポータルへ向かわせた」

「……それで」

「無事だ。だが、戻るまで時間がかかっている」


 ホッと息をつく。

 彼女に限ってそんなことは無いだろうと思ったが、最悪の場合、〝結社〟に暗殺されていた可能性もあったのだ。

 しかし、ポータル?


「カレンならば、直に王都までジャンプできるのでは?」

「おまえの忠実なる従者曰く、転移が極めて不安定だと述べていた」


 不安定?

 それは、転移跳躍が、という意味ですか?


「ああ。事実として、転移門を使っている一般市民からも同様の声が上がっている。これは、大陸全土で同様の状況だと推察される」


 なにか、奇妙な実感があった。

 確信ではなく、予兆でもなく、ただそうなのだと、この指先が核心に触れる。

 けれど、推論だけで世の中を動かすことは出来ない。

 それが、途方もなく荒唐無稽な理屈であるならば、なおさらに。


「閣下、二つお願いがあります」

「述べよ。いま真実に最も漸近しているのはおまえだ」

「冒険者の方々を通じて、各地のダンジョンの様子を探ってください。それから」


 私は、意を決して提案を口にする。


「もう一度、外洋の調査を」


 この二つの調査の結果が出たとき。


「恐らく私たちは、再びパロミデス王と謁見する必要が出るでしょう」


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