閑話 追い詰められたリーゼ事件 ~犯人視点~
アリサよ。
イリスではないですわ。
さて、今回は某教団の某聖女を抹殺しつつ、無事に脱出するためのトリック。
入れ替わったようでぜんぜん入れ替わっていない殺人を考案したわ。
わたしとイリスの顔はソックリですし、まあバレようがないわね。
十割勝ちですわ。
……わたしたち以外に、十割顔が同じ姉妹が教団の村にいますわ。
え? なに? こわっ。
ラーベ様ご姉妹、ちょっとそっくりすぎじゃありません?
い、いえ……さすがにこんなことで露見するはずが……。
とりあえず、ラーベ様の妹君には申し訳ないですが、殺人の罪をかぶってもらいつつ、ラーベ様にも集落に閉じ込められていただきつつ。
最終的には、辺境伯家が介入してくるような大事に仕上げていくわよ……!
だが、駄目……っ。
あっさりトリックを看破され、いまは街角のカフェに呼び出されたわ。
なんか恐い顔のメイドがやってきて脅されたので、迂闊なこともいえずガチガチな緊張を隠すため、なんとなくサングラスを着用したんだけど。
ええ、正直、十割ビビってますわ。
あ、ついに来ましたわね黒の貴婦人。
ラーベ・ハイネマン様。
まずはどう切り込んでくるか見物――
「確実にイリスさんを葬るため。たとえ回復術と聖櫃があっても助からないようにするため。合っていますか?」
うわぁあああああ!
ラーベ様がいきなりクリティカルな質問をしてきたんですが!
一発二発ぐらいなら笑って誤魔化せますけど、もう無理、限界よ。
だってこれ、もう答えじゃない!
それでも無理矢理に笑って誤魔化し、皮肉を返して一矢報いたつもりにはなったけど。
のど、のどが渇く……。
とりあえずお水を注文。
これで一息ついて……はっ!?
このカフェを指定してきたのはラーベ様。
ということは、わたしが注文するものに、前もって仕掛けをしている可能性とか、ないかしら?
自白剤とか、毒とか入っていたりとか……だって、悪の貴族クレエア家の方なのでしょう?
……よしましょう、これは口にしない。
絶対、十割これ、危険なので。
しかし、わたしも貴族の娘。
そう簡単に引き下がりはしませんのよ?
婦人会の話を出し、お家事情というラインに流れを落とし込め……どうだ、会心の一撃!
あえて借りを作りました、みたいな言動することで、あちらの優越感をくすぐりつつ、ちょっとだけ罪悪感を抱かせて追及をかわす構え!
よし! 勝った、勝ちましたわ、わたし!
かの有名な黒い名探偵令嬢に十割……いえ、五割ぐらいの勝利です!
勝ち誇り、颯爽と立ち去ろうとする私の背中へ投げかけられる問い掛け。
え、婦人会?
……待って下さいまし。
確かに婦人科医の話はしましたが、それは言葉のあやで。
は? え、これ……今後婦人会に出席するたびに、わたし、この方とお会いするわよね?
もしかしなくても、そのつど秘密の暴露をされるのではないかと怯えなくちゃいけないわけ?
それって、いったいなんの罰ゲーム?
あーん! こんなことなら犯罪なんて手を染めるんじゃなかったわ。
もうクレエア家の真似事なんて、こりごりよー!
……なーんてね。
罪を犯したのだから、このあと全ての人生は償いに費やすわ。
その程度の覚悟、子爵夫人なら当然持っていてよ?
だから、あなたも精々首を洗って待っておくことね。
この大陸の貴族は一枚岩ではないけれど、あなた方に対しては、断固として応じます。
トリックを授けてくれてありがとう。
そしてクレエアの娘を一挙に殲滅できなくてご愁傷様。
彼女たちの叡智は、必ずあなた方の喉笛を食いちぎることでしょう。
ええ、回復術でも癒えることのない、致命的な傷を与えると、わたしが保証するわ。
そうでしょう、黒幕気取りの愚者――
〝結社〟の聖騎士さま?




