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第二話 妹違い危機一髪

 思い立ったら即行動。

 今回ばかりは閣下への連絡も後回しにして、渋るカレンを説き伏せ、現地へと向かう。


 総本山がある街まで、戸惑った様子を隠せなかったアリサさんだったが。

 到着すると、表情を一変させ、どこからか調達してきた衣装を私へと押しつけてきた。

 ずきんと身体のラインが見えないローブ。

 どうやらこれが、聖櫃の社における修道女の格好らしい。


 そのまま、なにひとつ疑われることなく、教団の扉を叩き、内部へと侵入に成功する。

 見張りの男性達は、アリサさんへ、ペコペコと頭を下げていた。

 不思議な光景過ぎて、思わず小声で訊ねてしまう。


「なにか、妙に(こな)れていませんか?」

「過去に数度、潜入しているので……」


 熟達者だった。

 というか、子爵夫人がやっていいことではなかった。


「いまさらですが、子爵家の力を使って介入、というのは難しいのでしょうか」

「それをするとイリス――妹に姿を隠されてしまうのですわ」


 既に試したわけと言うことか。

 となれば、潜入調査が手っ取り早いのは、これまで閣下のやり方を学んできた私にも得心がいく。

 バレたときはその時で切り抜けるとして、いまは情報収集に努めよう。


 教団は、村はずれの森の中に位置していた。

 幾つかの粗野な家屋、小屋、物置……そう言ったあれこれを別とすれば、この場で目立つものは二つある。

 ひとつは、しっかりとした門構えの、受付を兼ねているらしい建物。

 もうひとつは、一目でそれとわかる〝神殿〟だった。


「あの、受付さんがいる建物はなんですか」

「教祖の屋敷らしいですのよ」


 いまいちよく解らないといった様子で、アリサさんが答えてくれる。


「受付の人と話すことは簡単なのだけど、中には入らせてもらえないの。たぶん、肥え太った教祖が信者から搾り取った金で裕福に暮らしているのだわ」


 それを貴族が言うのは大丈夫なのだろうか?

 という思いはいったん飲み込み、ついで神殿について訊ねる。


「神殿であっているわね。あそこに信者を集めて、聖女の奇跡を与えるって訳。でも、造りなんか一度見たけど、ほとんど劇場みたいでしたわ」


 見世物小屋、とまではいかないが、どうにも聖女さんたちの扱いが良くなさそうだと思えてきた。


「その聖女さんたちは、普段どこに?」

「教祖の屋敷ね。でも、いまは聖女の数が少なくて、常駐しているのはうちの妹だけのはず」


 そこまで解っているのなら、諸々のリスクを考慮しても、子爵に手勢を動かしてもらうほうが早いのではないかと考えて。

 ああ、なるほど体面なのだと、理解する。


 貴族が、悪い噂のない宗教を取り潰す。

 潰さなかったとしても、内部へ大きく干渉する。

 これは、領民からすれば面白くない。

 なにせ、現世利益を与えてくれる団体と徴税人の頭目だ。

 端から印象が違いすぎだ。

 しかもこの街は、アリサさんの夫が治めている地域ではない。

 他領への干渉など、子爵自身も快く思わないだろう。


 だから彼女は、単身で何度も潜入調査を行ってきたわけだ。

 それほどまでに妹さんのことを思って、自分の立場も弁えて。

 ……仮に、私が彼女と同じ境遇になったとき、これほどまでに行動的であれるだろうか?


「……? お嬢様は、謎さえあれば周囲の意見など無視して行動なさるので、いらぬ心配かと存じます。カレン、呆れ」


 脳内の親友がうるさい。

 閑話休題。


 さて、見て回れる範囲は見て回った。

 これ以上は、誰かから話を聞くか、建物の内部に入ってみるしかない。

 どうするかとアリサさんへ訊ねると、彼女は強気な眼差しになって。


「神殿に聖女がいないか調べる。いなかったら……悪徳教祖の屋敷に殴り込みでよ!」


 と、猛々しく仰った。

 そのときは、遠くから監視してくれているだろうカレンとかにも助力を頼もう。

 ちなみにオレンジ髪の親友がこの場にいないのは、三人連れだとさすがに怪しまれるからだ。


 聖櫃の社教団、見える限りの行き交う人々と、神殿の収容人数を考えるに……百人ほどの組織だと考えられる。

 少なくとも、総本山に常駐しているのはその程度だ。

 ならば、いくらアリサさんが潜入に手慣れていても、足手まといが二人つくことは避けたかった。

 ……そして、私が現場を見て回れないというのも我慢ならなかった。

 わがままである。


 というわけで、神殿へと向かうため、鼻息も荒くアリサさんは一歩を踏み出し。


「ぎゃふん!」


 その場で、派手にスッ転んだ。

 顔面を強打したのか、悶絶している。

 かなりの勢いだったので、これは治療が必要かも知れない。

 私は、たまたま通りかかった人物を呼び止める。


「すみません。ちょっと連れのものが怪我をしてしまって」


 けれどそれは、予想だにしない人物との再会を意味していた。


「あら、あらあら。それは大変でしたわね。大丈夫ですわ、いまなら聖女様が――げぇー!? お姉様!」

「……なにをしているのですか、リーゼ」


 そこにいたのは他ならない私の実妹。

 リーゼ・クレエアだったのだから。

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