閑話 違えられた予言書事件 ~犯人視点~
耐えました、よ。
耐えて、耐えて、耐えきりました、ね!
我が家が絶えたときはどうしたものかと思いましたが、わたしことマリア、いざ復讐開始、ですよ!
この計画は、嫁いできたときから考えてきた十年来のもの。
さらには協力者である聖騎士の力も借りて、ブラッシュアップを進め、もはや盤石の布陣。
どのような捜査の手が入ろうとも、きっとやり遂げられるはずです、よ。
まずは予言書が夫であるジョンの目につくよう誘導して――待って。
待ってください、ジョン。
確かに命に関わる予言がありますが、これは世継ぎが生まれないぐらいの認識でいいでしょう。
そんなに取り乱す必要は――あ、あああ、いけません、よ!
ジョン、ステイ。ステイ、ですよ!
そんな、辺境伯家などに協力を求めては。
わたし、知っていますから、ね。
いらっしゃるのでしょう、最近噂になっている漆黒の名探偵が!
……なんて内心で騒いでいる間に……辺境伯夫妻が合流してしまいました、よ。
これは、先行きが不安、ですね。
とはいえ、まごついているわけにもいきません。
なぜならばこれから行うのは復讐、トマス家に我が子爵家の怨念をぶつける三本勝負!
予言三本勝負、第一弾、はじめ!
というわけで、勝手口からこっそり厨房へと忍び込み火種をばら撒いていきます、よ。
この間、誰かが出入りしないよう、厨房の入り口には信頼の置ける使用人を配置しました。
この十年、勝ちってきた信頼。
これこそがわたしのアドバンテージ! 復讐パワー!
準備を終えたらそそくさと脱出。
そして適当な使用人と話をしてアリバイを作れば完璧な――え、あれは庭師の……?
勝手口の前に陣取って、菜園や庭木の世話を焼く彼。
神がかっていませんか、タイミング!?
彼がいることで、この厨房、密室と化したのでは?
事実、そうなりました、ね。
これには例の名探偵も頭を抱えています。
よし、たたみをかけるべきでしょう。
予言犯罪三本勝負、二本目!
わたしは、自分の服を全て裁断。身につけている服も切り裂いて参ります。
……いえ、待ってください、よ。
すべて切り裂いてしまっては、着替えがなくなるのでは……?
一着だけ、残しておきます、か?
なにかここからバレるような気がしますが……。
いえ、ここは突っ張る、前ツッパ、ノーブレーキ!
そして渾身の悲鳴。
ばらばら衣装の中に横たわるわたし。
これで、わたし自身が被害者になったので、誰も疑えないはず……!
ほぼ勝ち確です、ね。
あとは、ジョンの元へ監視の目が集中するように女主人として指揮を執り、協力者である聖騎士が忍び込める環境を構築。
予言犯罪三本勝負、三本目! 決行!
燃えた……!
燃えました、よ。
忌まわしき我が家の叡智、大陸の破滅を占ってしまったがゆえに男爵家に死蔵される運命だった予言書が、全て燃えましたね。
これで、子爵家の清算は済んだ、と考えていいでしょう。
そして、私の大勝利と。
ええ、間違いありません、ね!
は?
なぜ辺境伯様が?
え?
その黒い娘を黙らせればわたしの勝ちなのでは?
え? あ? は?
は、始まってしまいましたよ、新たな予言三本勝負が!?
そして読み解かれています予言の正しい内容が!
これは、わたし、赤っ恥では!?
……というわけで、これがわたしの復讐でした。
は? 負けておりません。
よくて痛み分けでしょう。
だって、わたしの目的は遂行したのですから。
解っています、よ。
エブリディオ、あなたの狙いは予言書を燃やすことではなく、その真に重要な内容を闇に葬ること、ですね?
ですが、させません。
なぜなら私は、トマス男爵家の女主人、マリアなのですから。
今回の事件を通じて、予言の内容は辺境伯家の二人にすり込まれたはず。
もちろん、子爵家の完全版と比べれば、精度の甘い、絶対的な記述の足りない予言ですが……十分です。
わたしの犯行を暴いたあの二人ならば、きっと――
だから、勝ち逃げさせていいただきます、ね。
あなたも精々気をつけることです。
彼女たちは。
どうやら我が家と同じくらい、互いを信頼しているよう、ですから、ね。




