閑話 透明な壁の向こう側事件 ~犯人視点~
どうもレックス・デュラです。
聞いてくれ、俺の妹が凄い。
まずカレンだ。
大陸騒乱を二度にわたって防いだってなに?
しかも転移魔術の熟達者になってた。
転移術はさ、マジで難しいんだよ。
凡人だと百年修行しても無理。
コツとか普通掴めないからね?
それをあの若さで習得して――いや、〝結社〟と関わりがあるって何だ?
え、身体能力と魔術の才能を見せられて悪の組織にスカウトされた?
すごすぎないか、俺の妹。
昔は生きてるのが不思議なぐらい病弱だったのに……お兄ちゃん、泣いちゃうかも知れない。
けど、悪党と付き合いがあるなんて心配だよな。
うちはこれでも王家と付き合いあるし、なんとか裏で手を回して、安泰に過ごさせてやりたいよ。
「我が家で大事件が起きれば、性根のいいカレンなら帰ってくるのではありません?」
!?
マジョルカ、おまえ天才か? 俺の妹たち賢すぎない?
というわけで、早速お家問題と言うことでカレンを呼びつける。
けど、あいつを家に縛り付けておく理由とか、お人好しの父上にも俺たちにもないので、デュラ家の家訓に則って魔術の悪用ダメ絶対! という方向で説得を試みた。
でも、そんなので本当に家出を取りやめてくれるだろうか?
「父上に狂言自殺してもらいましょう。インパクトが大きいですし、なにより魔術の悪用がよくないことだとカレンも解ってくれるはずです」
!?
……いや、一応驚いたけど。
驚いたけれど、驚きよりこれ、恐怖が勝らない?
普段大人しい妹から、狂言自殺とかいう言葉が飛び出してくるの、お兄ちゃん的には驚愕よ?
しかし、怖ろしいというのは怖ろしいほど切れまくった謀略という意味も含んでいる。
一瞬でこれだけのことをでっち上げられるマジョルカ、マジ才女。
で、このことを説明すると、父上もノリノリで協力してくれた。
可愛い子供のためならばと、秘伝の透過魔術の使用まで踏み切ってくれる。
ただ、現場を捜査されたら、一発で父上が死んでいないことはバレてしまう。
マジョルカが血流を止めるトリックを考えてくれたけど……ここは協力者が欲しい。
それも、めちゃくちゃ権力のある。
「お連れしましたわ!」
!?!?!?
なんか妹が聖騎士を連れてきた。
いや……ないだろ、男爵家にそのコネは!
恐いよ、おまえの人脈が、そら恐ろしいよ!
しかし、条件が整ったのはガチだ。
あとは実行あるのみ――!
そういうわけで、なんかカレンにくっ付いてきた不吉な黒色辺境伯夫人をいなしつつ、俺たちはトリックを成立させていく。
完璧、ここまでマジョルカの引いた図面通り!
ただ、犯人をカレンにしてしまうのはやっぱり心が痛むよな……。
「なので、ダメ押しをします」
!?!?!?!?
だからってマジョルカ、妹に毒を盛るか!?
死なない程度の毒だからって、真犯人がいると見せかけて容疑から外すためだからってポイズンをインする!?
もはやドン引き。
だが、ここまで来たら家族の命運を懸けて突っ走るのが長男の勤め。
マジョルカ、おまえの謀略は俺が成功させてみせるぜ……!
――失敗しました。
というか、一から十まで、あの聖騎士野郎に踊らされてました。
いや、もしかするとマジョルカに入れ知恵したのも……?
だとしたら、あいつは初めから全部企てていて?
はぁ……兄として不甲斐ない。
妹たちが無事だったのがせめてもの救いだが……これから生涯をかけて、罪を償っていこう。
……それで?
ここまで正直に話したんだ。
当然ヤツに、あの聖騎士に一泡吹かせられるってのは、本当なんだろうな?
俺の問いかけを受けてその女は。
あの不吉な漆黒によく似た艶やかな貴婦人は。
口元を悪徳につり上がらせて、こう答えたのだった。
「もちろんですわ。家族愛、とーっても大切なものですものね?」




