第五話 解決編
「どうやら、カレン嬢が犯人だったようだねぇ」
聖騎士さまは、一同を集めてそう仰った。
例の仕切りがある部屋ではない。あそこは未だに立ち入り禁止だ。
ちなみに家宰さんもいない。別件に対処しているとか。
「有り得ない、なにか理由があるはずだ」
異議を唱えたのは、レックスさん。
マジョルカさんもこれに追従する。
全身甲冑が腕を組んだ。
「けれど転移術を用いて逃げ出したことは事実だからねぇ。彼女には後ろめたいことがあったと、そう考えるべきじゃないかな。たとえば……実の父親を殺したとか」
「有り得ないといった!」
「それはなぜだい?」
レックスさんの抗弁を受け。
聖騎士さまは首をかしげる。
ただそれだけのこと。そこには威圧感も何もなく。
けれど、当主代行であるレックスさんは、言葉に詰まってしまい。
「決まりだねぇ。デュラ男爵殺人の犯人は間違いなくカレン・デュラ――」
エブルディオさまが、事件に幕を引こうとした。
その時だった。
「大変でございます」
家宰さんが、血相を変えて飛び込んできた。
何事だいと応じる聖騎士さまへ、彼はこう告げる。
「辺境伯エドガー・ハイネマン様が、カレンお嬢様を伴って参上なさいました!」
§§
「事件現場を検める」
開口一番、姿を見せた閣下はそう言い放った。
しっかりカレンを保護して連れてきてくれたあたり、やはりエドガーさまは信頼が置ける。
これに反発したのは、聖騎士さま。
「おやおや、いきなりやってきてぼくの領分を侵されても困ってしまうなぁ」
「貴様は何者か」
「見て解るとおりの聖騎士さ。ただ、ちょっとばかし立場が違う」
エブルディオさんは、天下御免のスクロールを開く。
「パロミデス陛下より〝結社〟事件の捜査、その全権を請け負っていてね。たとえ辺境伯殿が相手でも、勝手は許さないよ」
「クク。小鳥が俺を呼び寄せるなど何事かと首をかしげたが、そういうことか。ならば、刮目し頭を垂れよ」
威厳に満ちた顔つきで、閣下が、懐からあるものを取りだした。
それを見て、周囲がざわめく。
なぜならば、今しがた聖騎士さんが広げたのと同じスクロールが、そこにはあって。
「今日付を以て、〝結社〟追討の指揮は、俺が一任された。無論、陛下の玉璽も押印されている。下がれ、聖騎士。エドガー・ハイネマンには、貴様が封じた場所へと踏み入る第一級の権限がある」
「……謀ったねぇ、辺境伯夫人」
恨めしそうな声で、聖騎士様がこちらを見遣った。
そう、この構図を描いたのは、他でもない私なのだ。
「首尾よくいったようですね、カレン」
「もちろんでございます、お嬢様」
スッと姿を現したのは、私の親友にして侍従カレン・デュラ。
彼女には脱走の濡れ衣をかぶってもらったわけだが、それは閣下と連絡を取るためだった。
まったくの偶然で王都におられたエドガーさまだが、その要件はある程度推察がついていたからだ。
そう、結論は既に出ている。
彼は〝結社〟追討の綸旨をもらい受けるため、王都へ馳せ参じていたわけだ。
だからこそ、この場へのお呼び出しが適えば、どんな札よりも強力なカウンターを聖騎士さんに決められると考えた。
如何に聖騎士でも、それを任ずるパロミデス王には逆らえない。
よって、これで捜査が可能になる。
……ただそれは、一つの推論を確定させる、儀式でもあって。
「では、参りましょう、現場へと」
「待って欲しいものだね、辺境伯夫人。あの場は極めて重要な痕跡が残っている可能性があり、ぼくとしては絶対に立ち入るべきではないと。そうだ、手続きだって煩雑で――」
「あなたには聞いていません」
この期に及んで言い訳を重ねる聖騎士さまへ、ぴしゃりと断りを入れ。
私は、閣下へと向き直る。
「構いませんか、閣下?」
「おまえはそうでなくてはならない。征け、小鳥。思うがままに」
「はい!」
そして私たちは、あの透明な壁がある部屋へと入る。
「う、うそよ!」
すぐに悲鳴を上げたものがいた。
カレンの姉君、マジョルカさん。
透明な仕切りの向こうには、右胸にナイフが突き立てられた、一目で死体だとわかる、変わり果てたレオポルト男爵の遺体があって。
「父上が、死んでいるはずがない!」
狼狽し、叫び出すレックスさん。
「お嬢様、これは、いったい」
「……明瞭なことです」
戸惑うカレンへ、私は、残酷な事実を告げる。
「デュラ男爵は、狂言自殺に失敗したのです」




