第20話:エデンスフィア【中編】
『天蓬国の神 ルミテルスが討たれた事により、守護神たちは自分の存在を、そしてその根幹となる国と人間を守るため、それぞれが対抗策を講じていった。それは己の権能を活かした方策で、土地神へとなるもの、国同士協力するもの、神託者を通して更に人間たちへ干渉しようとするものなど様々だった。全ての国の経緯を説明したいところだが、お前の知りたい情報とは関係ないものも含まれるから、ここでは最低限の情報だけにしておこう』
「あ、あぁ。そうしてもらえると助かる」
いきなり12の神と国の情報を教えてもらっても覚えきれない。それよりも、俺はタツの命に関わるという情報が欲しい。
『全ての神が対抗策を講じる中、ライザールの神 テクノスはそれらに反対した。これ以上人間を成長させることは、過去に起きた滅びを繰り返すことになると考えたからだ』
「それで、どうなったんだ?」
『神とは利己的なものだ。人間に忘れられ、信仰を失えば神も存在できない。それ故、自国の人間を失うことを神々は一番恐れた。確実に力を強めていく天蓬国を警戒した神々に、テクノスの言葉は聞き入れられなかった。そしてこの時から、神々が連絡を取り合う事は無くなった』
完全に決別したってわけか。テクノスってやつにも、少し同情しちまうな……。
『それぞれが独自の路線で国を改革していく中、変わらず見守ることに徹した神もいる。それが “慈愛の女神 セルミア“ と “施しの神 メルキオール“ だ』
「メルキオールって……あの樹の?」
『そうだ。メルキオールはアマツクニの守護神として降り立った。だが、アマツクニは特殊でな。旧世界の神が、僅かに残った自然と供に、消滅する事無く生き残っていたのだ。それを知ったメルキオールは、ほとんどの力を旧世界の神に与え、自分は桜の木となり国の行く末を見守る事となった。そしてアマツクニとライヴィア王国の国交が結ばれた際、このパラディオンへと寄贈されたのだ』
そ、それって体のいい追い出し食らったんじゃ……。会社を立ち上げた社長が、親族に追い出される的な。
『お互いの名誉のために言っておくが、決して追い出されたわけではない。メルキオールも自分の存在を保つ為の力しか残っていなかった。だが、八百万の神たちによる支配体系の中にいるよりは、パラディオンで神聖樹として存在した方が、信仰も集まると考えてのことだ。決して追い出されたわけではない。……恐らく』
なんで2回言った。しかも恐らくって!
自分の力を全部あげて、追い出し食らって、今では水汲みさせられてるのか。本人がいいならそれでいいんだが、施しの神 メルキオール…………いい人すぎるだろ。
『カザンからの情報によると、テクノスはメルキオールを探しているらしい。あの樹がメルキオールだということを知っているのは、ここにいるメンバーを含めて僅かの人間のみ。テクノスが何故メルキオールを探しているのかは分からないが、恐らく話をする為だと思う。テクノスは、セルミアとメルキオールを特に信頼していたからな』
「あれがメルキオールだってことは、敵には言ってあるぜ」
カザンがあっけらかんと言い放つ。それを聞いて、ラヴィがため息をついていた。なんか俺らのことも敵に言ってあるって言ってたよな?
『それについては今は置いておくとして、話を戻そう。女神セルミアは自分の名を冠した宗教を作り、国や人種に関係なく、慈愛の精神をもって人々に救済を施すことを教えとした。これは国の始まりから変わることなく、変革時以降も変わることはなかった』
「じゃあ、一応テクノスの提案をセルミアだけは受け入れたってことか?」
『いや、そうではなかった。宗教を通して信仰を集め、人間に幸福をもたらすことを考えたセルミアは、その考えを変えるつもりはなかった。だが、決して人間の成長を否定する気もなかったのだ。例え魂の進化が進み、負の魂が増えてきたとしても、それを上回る慈愛の精神があれば大丈夫だとテクノスに説いた。だが、テクノスには理解できなかった。むしろ、一度破滅を味わっておきながら、なぜそんな悠長な事が言えるのだと憤っていた』
なんか、大分話が拗れてきた感じがする……。
『ライヴィアとライザールは、元々は一つの大きな国だった。だが、この仲違いが原因で国は二つに分かれ今に至る。神々の筆頭としての矜持が邪魔をしたのか、国が分かれてもなお、テクノスは自分の考えが正しいのだと言うことを理解してもらう為、何もしようとしなかった。しかし、そんなことは意に介さず、他国はめざましい発展を遂げていく。喪失感、孤独感、怒り、悲しみ…………神だったテクノスの魂も、既にこの時変質していたのかもしれない。テクノスの意思とは関係なく成長していく人間を見て、遂にテクノスは動き出した』
「…………」
『まずテクノスは、神託者を通して多くの魔導具を人間達に与えた。それにより、ライザールは遅れた分を取り戻すかのように発展していく。そして、それと同時に発生し始めた負の魂を再利用し始めた』
「再利用?」
『お前もよく知る、レヴェナントだ。人間の死体に負の魂を憑依させ、動く屍と化す外法。テクノスは負の魂を自身に取り込み、レヴェナントを作り出し、自国に発生させ、魔導具をもってそれを討伐させた』
「そ、それって……マッチポンプってやつじゃねぇのか?」
『その通りだ。テクノスは自分が生み出した怪物を、自分が与えた魔導具で国民に討伐させた。これによって、テクノスの神託者が団長を務める【アズール騎士団】は国の守り手として名声を高め、テクノスの信仰も集まっていった』
……なんだよそれ。守護神とか言っておきながら、やってることは汚い小悪党じゃねぇか。
『無論テクノスは、レヴェナントの発生源が他にあると国民には告げていた。それが邪龍と呼ばれ、討伐対象となった【星の守護者】だった』
「はぁ? 守護者がこの世界を作ってくれたんだろ? なんでそいつを討伐対象なんかにするんだよ!?」
体の奥から激しい怒りが込み上げてくる。その場で立ち上がり、声を荒らげてしまった。
『さっきも言ったが、テクノスは既に壊れていたのかもしれない。テクノスは増え続ける負の魂を取り込み、狂気と共にその力を増し続けていた。そしてテクノスは守護者を敵とし、その力を手に入れることを求めた。それは再び世界をやり直そうとしたからなのか、自分の考えを受け入れなかった神々への復讐なのか、それは分からない。だが今に思えば、負の魂を利用したレヴェナントを多くの国へ送り込んだのは、人間の成長を危険視する警告だったのかもしれない。その危険性を知ればきっと考えを改めてくれる、との最後の希望。それとも、お前達の間違った考えのせいで世界は滅びるのだ、とのメッセージなのかもな』
「な、なんて野郎だ……」
さっき少しでも同情したのが馬鹿だった。みんなに意見を聞き入れてもらえなかったからって、勝手に拗ねて破滅願望者に成り下がって……こいつこそ邪神じゃねぇか。
『そして守護者討伐が始まった。だが、守護者は万物を共鳴魔力とし、未来を見通す力を持っていた。守護者はこの凶行を予見しており、対策を講じていた』
「見抜いてたのか……」
『あぁ。しかし、どう足掻いても、世界再編の為に力を失っていた自分では、滅びは避けられないと分かっていたのだろう。そこで守護者は、敢えて自分を標的として晒し、あらかじめ自分の力を受け継ぐ分身────器を生み出していた』
「器って…………ま、まさかッ────」
『そう、タツこそがその器。守護者の器として生み出された分身体だ』
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