第19話:エデンスフィア【前編】
『かつてこの星が誕生した時、それに伴い “星の管理者“ ・ “星の守護者“ と呼ばれる存在も生まれた。その名のごとく、星を管理するための存在。今後は守護者と呼ぶことにする』
有無を言わさず話し始めたディア。いきなりスケールのデカそうな話に、ゴクリと喉を鳴らしてしまう。
『守護者は星の実質の支配者の姿をとり、陰ながら生命を見守り続けていた。かつて、この星は龍が支配していた。それ故、守護者は龍の姿になることもできたという』
それってどれくらい昔の話なんだろう。恐竜がいた時くらいだろうか? まぁ、ここが地球ならの話なんだが。
『だが、外的要因によって龍は滅びた。そして時は流れ、次に星の支配者となった生命が人間だ。今までの生命とは比較にならない程、人間は知性と創造性に溢れていた。多様性と可能性に満ちた生命体──だが、それが災いとなった。本来であれば、死んだ魂は星に還り、新たな生命への力となる。だが、発達した人間の魂を星が消化できなくなったのだ』
「魂の消化?」
『恨みや憎しみを持って死んだ魂は、通常の魂に比べて大きな魔力を持っている。その穢れた魔力は自然と星には還らず、新たな生命の力となることはできない。それ故、穢れが薄れるまで星の内部で澱み続ける事となる』
「そうなるとどうなるんだ?」
『溜まり続けた憎しみの魔力は星の嘆きとなり、様々な災害を引き起こす。負の感情が、まさに負の連鎖を引き起こすのだ』
戦争────その言葉が頭に浮かんだ。もしそんなサイクルが星にあるのなら、戦争が起これば一体どうなってしまうのだろう。
『そして戦争が起こった』
悪い予感が当たったようだ。やっぱりそうなるのか……。
『世界を巻き込んだ戦争。多くの人間が恨みを持って死んでいった。星の自浄作用を大きく超える負の魂、その星の苦しみは大地震や噴火を伴い、さらに多くの人間が死んだ。繰り返される死の連鎖──そしてその結果、地獄が溢れた』
「地獄が……溢れた?」
『星の内部に溜まり続けた負の感情が地上にまで及び、全ての生命を飲み込んでいった。こうして人間は滅んだのだが、それを嘆いた守護者はある行動に出た。再び人間を復活させようとしたのだ』
「随分、人間に肩入れしてくれるんだな」
『守護者は一時期は人間として暮らしていたらしい。その際に人間の文化に直接触れ、大いに感銘を受けたという。そのことが幸いして、守護者は人間にもう一度チャンスを与えようとしたのだろう。だが、地上はもはや生命が住むことはできない地獄と化している。そこで守護者は、人間の新たな出発点に天界を選んだ』
「天界って、神様とやらがいる場所?」
『その通りだ。人間の信仰や想像が生み出した神々だったが、超常の存在として確かに存在していた。しかし、人間が滅んだことにより、多くの神がその力を失い、人間と共に消滅していた。だが、全ての神が消えたわけではなかった。辛うじて消滅を免れた神々は、自分達の住む天界に人を住ませることに対して、ある条件をつけた』
「条件?」
『今度は自分たちが人間を管理する、という条件だ。守護者はこの要求を飲まざるを得なかった。それ以外に、人間を助ける選択肢がなかったからだ。守護者はあくまで生命に対して中立の存在。人間に肩入れすること自体が、既に使命から逸脱した行為だった。その条件を飲んだ守護者は、人間の管理を生き残った神々に託し、全ての力を以って土地と生命を復活した。人間達の新たな楽園となるように願いを込めて────それがこの世界、【エデンスフィア】だ』
エデンスフィア……俺とタツがやろうとしてたゲームの名前。でも、ここは決してゲームの世界なんかじゃない。だとするなら────。
『エデンスフィアの管理を任された総勢12柱の神々────その筆頭であるテクノスは、まず初めに人間に呪いをかけた』
「呪い? なんでそんなことを……」
『魂が負の感情に侵されると、死に至る呪いだ。人を殺めるなどしても、呪いは発動した。テクノスは再び人間の負の感情によって世界が滅びるのを危惧した。それ故に安全装置として呪いをかけ、早めに芽を摘もうとしたのだ』
「それで、結果はどうだったんだ?」
『この呪いは大いに効果があった。悪人のいない世界、人間は神への信仰と共に、平和に暮らしていた。始まりの12柱の神々は、それぞれが守護者の作った国に降り立ち、それぞれの権能を活かしながら過ごしていた』
悪人のいない世界、か。確かに平和なんだろうけど……呪いっていうのがどうも気になる。
『だが、神々は──人間という生命の本質を分かっていなかった。人間は、成長する生き物だということを』
話の雲行きが怪しくなってきた。無表情で話すディアだが、若干声が強張った気がする。
『安全装置として人間にかけられた死に至る呪い。その呪いを克服するものが出てきたのだ』
「克服って……悪いことしても死ななくなったのか?」
『そうだ。負の感情は大きな魔力を秘めていると言ったな? それ故、呪いを克服した者は大きな力を持っていた。初めは取るに足らない数だった。だが、その数は確実に増していき、最早無視できないところまで来ていた。────そして今から500年前、神々が最も恐れていた事が起きた。神が人間に討たれたのだ』
「神様が人間に負けたってのかよ……」
俺のボヤきに、コクリと頷くディア。
『討たれたのは、【成長の神 ルミテルス】。天蓬国の守護神をしていた神だった。ルミテルスを討ったその男は、今もなお天蓬国皇帝として君臨している』
「…………」
『神が人間に敗れる。オウガたちにとっては希望となる情報だが、神々にとっては到底信じられない話だった。人間の魂の成長の為に、ルミテルスはわざと討たれたのではないかと考え、そう結論付けた程だ。今となっては、真相は分からないがな』
オウガは神の呪いを受けている。その呪いを解く為には、テクノスを倒す必要があると聞いた。前例があるのは、確かに希望となる。人間は神を倒すことができるんだ。
『しかし理由はどうあれ、神が人間に討たれたのは事実。神々は、それぞれが独自に対抗策を講じていった。これにより、世界は大きく変化していくことになる』
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