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タツノシン ~Astral Stories~  作者: コーポ6℃
第三章 邂逅編 ゲヘナ城塞攻略戦
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第17話:赫翠の交わり カザン VS ルジーラ

 全身を深紅の鎧で覆い、月光を受け光り輝く二本の角。赤黒いマントをたなびかせ、巨大な戦斧を構える堂々たる威容。鬼神と化したカザンの目の前には、金色に輝く瞳をぎらつかせる褐色の美少女。カザンに呼応するかのように、全身に闇を纏い変貌を遂げる。



 【焔冥のレガリア ブレイズ・ソウル】────死の翠星ルジーラの持つそのレガリアは、カザンの怒りの感情と同じく、人が持つ “とある負の感情” を共鳴魔力レゾンとし具現化した魂の武具。それに加え、A・S(オールシフター)としての特性を活かし、全ての人間の魔力を吸収し自身の攻撃力に変換するという、恐るべき能力を有している。

 そしてルジーラの出生に関わる生まれついての加護・異能……人の魂を燃料とした炎の生成、飛行能力。ルジーラの持つ全ての能力が噛み合い、このレガリアを最強の存在たらしめていた。



 闇から姿を現したのは、全てを漆黒の鎧で身を包み、自身の数倍はあろうかという巨大な翼を携えた獣。翼に生えた爪は更に禍々しさを増し、一本一本が命を刈り取る鎌のように蠢いている。闇夜を照らす翠炎を纏ったその姿は、まさしく悪魔そのものだった。



 カザンのレガリア、戦斧に嵌め込まれた怒涛核が輝き出す。一瞬にして辺りは灼熱地獄と化し、両者を含む全てのものを焼き尽くしていく。だが、ルジーラは自身が焼かれながらもまるで動じることなく、カザンへと襲いかかる。


 ルジーラの翼爪とカザンの戦斧が激突する。火花を散らし擦れ合うレガリア──その火花に着火するかの様に、カザンの戦斧から爆発が生じる。空へと弾き返されるルジーラだが、その爪には傷一つ付いておらず、まるでそれをアピールするように翼爪をガシャガシャと動かす。



 カザンの戦斧に熱が集まっていく。それを見たルジーラは空中で翼爪を束ね、その切先に翠炎を圧縮していく。両者示し合わせたかのような行動、それは解放の時も同じだった。

 戦斧から放たれる灼熱の熱線、翼爪から放たれる翠色の大火球。轟音と閃光を撒き散らしながらぶつかり合う赫と翠。拮抗し合う様に見えた両者の攻撃だったが、熱線に含まれるカザンの魔力を火球が吸収し、遂には火球が熱線を蹴散らし始めた。


 カザンが力を込めるほどに強大になっていく火球。攻撃を諦めたカザンに、勢いを増した大火球が着弾する。地面が激しく揺れ、カザンの灼熱地獄を吹き飛ばすほどの熱波が、周囲を覆い尽くす。広がる熱波に当てらてたレヴェナントたちは、その全てが翠炎によって燃やし尽くされていく。



 着弾点で燃え盛る翠炎を振り払い、姿を現すカザン。その深紅の鎧には、まるで亡者が縋り付くかのように、翠炎が纏わりついている。だがその炎も、カザンが戦斧を振るうだけで消えてしまった。そして再び、互いに攻撃をぶつけ合う両者。




 

 ────2人は楽しんでいた。並の相手なら、自分と対峙した時点で死んでいる。でも……今目の前にいるのは、自分の持つ全ての力を受け止めきれる相手。2人といない、2度と出会えないかもしれない好敵手。

 いつまでも楽しんでいたい──そう思い戦い続ける2人は、やはり “似たもの同士” だった。


 だが、何事にも終わりは訪れる。幾度となく攻撃を合わせてきたルジーラは、戦いながらも戦場全体を把握しており、最後の攻撃へと転ずる。



 カザンの攻撃を掻い潜り、虚空を掴むことすら可能な鉤爪で、カザンの両肩をがっしりと鷲掴む。カザンの両肩付近の空間が歪み、その場に固定されたかのように、カザンの動きが阻害される。



「────ッッ!」

「あははッ!」



 笑い声を上げながら、空へと飛び立つルジーラ。その漆黒の身体が、光に包まれ消失する。固定された両肩を、魔力で強引に振り払い、ルジーラが消えた空を見上げるカザン。


 カザンには、消えたルジーラが何をしているのかが分かっていた。一度幽世(かくりよ)へと跳躍し、物理法則を無視できる幽世で魔力を消費し加速する。そしてその速度を保ったまま現世うつしよへと姿を現す。


 問題はどこから現れるか。音速を超える速度で突撃してくるルジーラを視認してからでは遅い。だが、迷うことなくカザンは戦斧を構える。


 ルジーラが望むのは力と力のぶつかり合い。決して背後から襲ってきたりはしない。カザンを空間固定したのも、攻撃を当てる為ではない。ルジーラから好敵手《愛する人》への、“最後の攻撃に移るよ“ というサインだった。



 カザンの戦斧に凄まじい熱が圧縮されていく。かつて、レガリアを身に纏ったタツとシンを相手に使用した最大の攻撃。自身をも死に追いやるかもしれない諸刃の刃。


 この戦いを見ていた者には、これで世界が滅びるかもしれないと思わせるほどのカザンの魔力。その魔力が、戦斧の中心で激しく輝く怒涛核に集まりきった時、カザンの前方の空間が歪み────世界は無音になった。




 両翼に携えた6本の翼爪を一つに束ね、翠の爆炎を纏いながらカザンへと突撃するルジーラ。その圧倒的エネルギーを持った翠星に、破滅をもたらす戦斧を振り下ろすカザン。



 ────空は一瞬にして炎に包まれ、大地は裂け、その衝撃波で城壁が破壊されていく。閃光と轟音、衝撃が撤退し続けるカザン傭兵団の背中を叩き、遠くから戦いを見守っていたフラウエル達を萎縮させる。


「きゃあ!」

「くッ……カザン!」

「な、なにが起こってんのよ!」


「めッ……目があぁ! あと耳も!」

「てぃ、ティナ!? フラウ! ティナが目をやられました!!」


 スコープで戦いを見ていたフルティナが、激しい閃光によって視力を奪われていた。慌ててその目を治癒するフラウエル。

 嵐の後の静けさ……それぞれが耳鳴りの音しか聞こえない戦場で、煙に巻かれた2人の姿が徐々に見え始める。



 空中で逆さまにぶら下がるルジーラと、戦斧を振り下ろしたまま動かないカザン。両者とも鎧はひび割れ、互いの象徴である武器も破損している。



「うーん、今日も抱擁ハグで終わりかー。キス位まではいけるかと思ってたんだけどね」

「なんだ、もう終わりか?」



 レガリアが解かれ、再び褐色の美少女が姿を表す。その顔はニコニコとしており、誰が見てもご機嫌そのものだった。そしてカザンもまたレガリアを解き、少し乱れた赤と銀の混じった髪を手で捲り上げる。



「中はもう全部終わったみたいだしね。ウチ、今幸せな気持ちでいっぱいなんだよ。もしこのまま戦い続けてオウガとガウロンが横槍入れてきたら……お姉さん怒り狂っちゃうかも」

「そうかよ、じゃあとっとと消えな」



「んもー、なぁにその言い方。ピロートークで余韻にひたろうって気はないの?」

「ピロー……? なんだ、話があるってのか?」


「カザンちゃんさぁ、なんか弱くなったんじゃない? 昔の君はもっと攻撃が重かったけどね」

「どの口がほざきやがる。弱くなったのはテメェだろ。昔はもっと苛烈だったぜ」


 カザンの返しに、キョトンとした表情になるルジーラ。



「あれれ、本当に? 自分じゃよく分からないなぁ。まぁ楽しかったからいいんだけどね」

「話は終わりか?」


「どうしてそんなに急ぐのかな? 今いい気分だから、色々教えてあげようと思ったのに……お姉さん悲しいな」

「もったいぶらずさっさと話せ」


「しょうがないなぁ。じゃあ、なにはともあれ────」



 満面の笑みでパチパチと拍手するルジーラ。ただし手甲に邪魔されたその音は、祝福の音とは程遠かった。



「おめでとう、カザンちゃん。重要拠点であるゲヘナを落とし、二大騎士団が合流したタルタロスも時間の問題。これで平和が訪れるね!」

「白々しいことを。所詮、仮初の平和に過ぎん。……お互いにつまらん時間ではあるがな」


「んふふ、そうだね。でも、お姉さんこれから忙しくなるんだよ」

「なんでだ? 」


「天蓬国だよ。ライザールが撤退したことを知ったら、間違いなく兵を送り込んで来るだろうね。その対応をしないといけないんだよ」

「お前ら協力関係にあるんじゃないのか?」


「あの国と真に協力し合える国なんて存在しないよ。唯一の同盟国であるアマツクニ、そこへ攻め込むのに協力したのは誰だと思う?」

「まさか、この前の騒動は天蓬国が裏で糸を引いてやがったのか?」


「そういうこと。ライザールと裏で取引してても、弱ったと分かったら必ず攻撃してくる。ライザールは世界に敵視されてるから、世論も味方してくれるだろうしね」

「ちッ、あの国らしいな。で、わざわざテメェが迎撃に行くのか?」


「上陸されると厄介だからね。攻め込むなら海路を取るだろうから、海の藻屑になってもらうつもりだよ」

「御国防衛の為に頑張るたぁ、らしくねぇじゃねえか」


 カザンの指摘に、ため息を吐き目を逸らすルジーラ。



「無頼を気取ってはいるけど、お姉さんにもしがらみってものがあるんだよ。アラテアに頼まれたら、さすがにウチも断り辛いからね」

「聖女アラテアか。じゃあついでに、ライヴィアに近づいてくる天蓬国の連中も片付けといてくれ」


「カザンちゃんにお願いされたら、お姉さん断り辛いなぁ。貸し一つだからね?」

「はいはい。で、ディセント計画はどうなってんだ?」



 ディセント計画────地獄に落ちた女神セルミアを、現世に召喚しようというセルミア教の計画。その計画の中枢にいるのがルジーラ達 執行者だが、口に指を当て首を傾げる。



「さぁ〜?」

「おい、とぼけてんのか?」


「本当に知らないんだよ。ノヴァリス4姉妹、あの子たちは既に器として出来上がってる。特にリリシアは器としては申し分ないし、いつ実行されてもおかしくないんだけどね」

「戦争は一旦終わった。今が機じゃねぇのか?」


「計画を取り仕切ってるグラスが、最近やる気ないみたいだしね。こそこそと何かやってるし、オウガにでも聞いた方がわかるんじゃないの?」

「…………」


 チラリと城塞に視線をやるルジーラに、言葉が詰まるカザン。


 

「あっ、もしかして秘密だった? ごめんね、内緒にするから」

「……コウモリ女、テメェはどこまで知ってやがる?」


「んふふ、言ったでしょカザンちゃん。ウチに聞いてくれたら何でも教えてあげるって」

「テメェら三人は何が目的だ? テクノスの手先だと思ってたが、むしろ敵対してんのか?」


「調子に乗った神はお仕置きしないといけないからね。人間を舐めたツケが回って来たんだよ。グラスとアラテアの思惑の先にある障害、それが神なんだよ。そしてウチは……言わなくても分かるでしょ?」

「へッ、ただ戦いたいだけってか」


 そう言い切るカザンの言葉に、ルジーラが今日一番の笑顔になる。



「そう、肉体こころも熱くなるような戦いを──やっぱりウチを理解してくれてるのはカザンちゃんだけだね……お姉さん嬉しいな」 


 巨大な翼をバサバサと動かし、顔を紅潮させるルジーラ。



「じゃあそろそろ退散しようかな。暇ができたらパラディオンに遊びに行くよ」

「冗談だろ? パラディオンにはラヴニールがいるんだぞ」


「げッ、そうだった。できればあの子には会いたくないんだよねぇ」

「はっはっは、向こうも同じだろうよ」


 何かを思い出すように自分の頬をさするルジーラに、カザンが声をあげ大笑いする。そんなカザンを見たルジーラは、目を丸くして驚いている。だがすぐに、目を細め優しく微笑む。



「ふーん、そうやって笑うんだ。カザンちゃんがどんな風に暮らしてるか、興味が出てきたよ」

「え、おい。マジで来るつもりか?」


 漆黒の翼を広げ、反転し空へと飛び上がるルジーラ。



「あ、そうそう。シンに伝えといて……シチュー美味しかった、ごちそうさまって」

「は? いつの間に食ったんだ? っていうか何でシンのこと知ってんだよ!?」

 

「じゃあねカザンちゃん。また遊びましょ」


 そう言い残し、瞬く間に翠星は見えなくなってしまった。話し相手のいなくなったカザンは、頭を掻きながら踵を返す。


 熾烈な戦いの跡──人と人が戦った跡とは到底思えない、天変地異を彷彿とさせる破壊の跡。その跡を歩くカザンに、仲間達が歓声を上げながら駆け寄る。

 2人の戦いで破壊された城壁から、オウガとガウロン、そしてタツとシンが姿を現す。さらに遅れて、フラウエルとノヴァリス4姉妹が合流した。



 仲間から多くの死者を出したこの戦い。だが、戦いは終わった。この戦いの結末は瞬く間にライヴィア王国を駆け巡ることになる。

 

 カザン率いるカザン傭兵団がゲヘナ城塞を落とし、死の翠星ルジーラを退けた、と────。

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