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タツノシン ~Astral Stories~  作者: コーポ6℃
第三章 邂逅編 ゲヘナ城塞攻略戦
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第16話:魂の盟約

 瘴気の煙となって蒸発してしまったボルフェルがいた位置に、シンが泣き崩れている。敵だと思っていた人が、実は知り合いだったかもしれない……しかも、それが分かったのが今際の際だったのだから────


 

「シン……」

「タツ、俺は……俺を知ってるやつを……友達だったかもしれないやつを殺しちまったのか──?」



「シン、彼を殺したのは僕だよ。シンじゃない」

「そんなの、どっちでも似たようなもんじゃねぇか! くそ……なんで最後の最後で……もっと早く気づいてれば────」





「────シンは、僕を責めてるの?」

「え…………」



 シンが何を言われたのか分からないといった表情で、僕に振り返る。


 ……胸が痛い。でもこのままじゃ、シンが自責の念に押しつぶされてしまう。それを回避する為なら、僕は自分の心を偽ることだって厭わない。



「シン。さっきも言ったけど、彼の魂は壊れてた。僕が彼の汚れた魔力を全部吸い取ったから、かろうじて何かを思い出したんだ。死ぬ以外に、彼が正気に戻ることはなかったんだ」

「…………」


「彼は敵だったんだ。もし彼が友達だって分かったら、戦わずに僕を見殺しにしたの?」

「そ、そんなはずないだろ!」


「じゃあ……お願いだよシン。今は、僕を助けることだけ考えて欲しい。敵のことより、僕のことを考えてよ────」



 シンの苦悩が僕を責めているかのような物言い。本当はそんなこと、微塵も思ってない。シンが苦しんでいるなら、一緒に苦しんであげたい。でも……でも今は────



「僕はシンの為なら誰とだって戦う覚悟だよ。シンは違うの?」

「……いや、違わない。俺もお前の為なら誰とでも戦うつもりだ。……すまなかったタツ、突然のことで混乱してたんだ」



 ……ごめんよ、シン。



「シン、ヴィクターがまだ残ってる。城塞内をコソコソ移動してるよ」

「よし、ならそいつを相手するか。行こうタツ」



 シンが背中を向ける。シンに僕の心情を悟られないよう、気持ちを切り替えてから背中に飛び乗る。



 ────────────────────


 

 残るヴィクターは、どこかで見たことがある魂だった。ただ、どうしてもそれが思い出せない。それを考え込んでいると、全身を駆け巡る悪寒に襲われた。



「な、なんだ!?」

「これは……」


 シンも何かを感じ取ったみたいだ。空を見上げると、翠色の流れ星のようなものが飛んでいるのが見えた。



「なんだありゃ?」

「…………ルジーラ」


 死の翠星ルジーラ。アマツクニではツボに気を取られてて気づかなかったけど、まさかこれほどの力を持ってるなんて……。

 神域者ディビノスの証である金色のオーラを纏い、虹色に輝くA・S(オールシフター)の魂。その美しくも他者を圧倒する魂に、僕は初めてカザンの魂を見た時のような恐怖感に襲われた。


 ──でも……でも僕には、彼女がみんなが言う様な悪党には見えなかった。それは彼女が、癒しの波長を持つA・Sだからなのかもしれないけど。


「大丈夫か、タツ?」

「う、うん。ちょっとびっくりしただけだよ」


 シンが僕を気にかけてくれている。シンも落ち込んでいたはずなのに……結局シンに心配をかけている。



「あれがルジーラか。お前から見てどうだ?」

「正直言って、強すぎて分かんないね……」


「マジかよ。俺を100としたらルジーラはどれ位だ?」

「え、うーん…………530000位かな?」


 その数字にシンが噴き出す。絶望感が伝わったようで何よりだ。まぁ実際はそこまでではないかもしれないけど、今の僕たちが逆立ちしても勝てないことだけは確かだ。



「絶対に勝てないヤツじゃん!」

「カザンに任せるしかないね……」


 オウガは、今ここにいる戦力でルジーラに対抗できるのは、カザンしかいないと言っていた。もしここにラヴニールさんがいれば話は別だっただろうけど、今はその言葉通りカザンに任せるしかない。



(シン、そろそろ近づいて来たよ)

(オッケー。不意打ちでやっちまうか?)


 僕の言葉のせいで、シンが殺し急いでるように感じてしまう。シンに変な影響を与えるくらいならそれでもいいんだけど、相手が誰なのか見極めてからでもいいかもしれない。



(とりあえず見てみよう。ここからは忍足で行こう)

(あいよ)



 シンがそろりそろりと歩を進める。家の角から先を覗いてみると、修道服を着た肌色の悪い男が、何かを地面に埋めているのが見えた。



(何やってんだ?)

(分かんない……なんか挙動不審だね)



 その男はキョロキョロと辺りを警戒しながら、せっせと何かを埋めている。そして、その男の横顔に、僕は見覚えがあった。



「あ!!」



 驚愕のあまり口から出た僕の声に、シンとその男が跳ね上がる。



「おいタツ! なにやってんだよ!?」

「ご、ごめん! だってあの人!!」


 その男と目が合う。僕たちを見たその男も目を見開き、驚いている様子だった。



「誰だよ?」

「セコーモだよ! アマツクニにいたヴィクターの!!」


 セコーモ────アマツクニにあるイズモ村を襲った4人のヴィクターの1人。使い魔である虫を操り、僕たちをずっと監視していた。

 そういえばシンは、ほとんどセコーモの顔は見てなかったんだよね。使い魔の虫を経由して話していたし、僕は牢屋から出してもらうときに、直接話してたから分かったけど。



「た、タツ! それにシン!! よかった、生きてたのか!?」


 セコーモが両手を広げて感激している。それに対し、シンは殺気を放ちながら手を鳴らしている。



「なに仲間ムーヴかましてやがんだこの野郎。お前が相手なら遠慮はいらねぇ、八つ裂きにしてやるぜ」


 にじり寄るシンに、慌てて両手を突き出すセコーモ。



「ま、待て待て! 俺は味方だ!!」

「お前が味方だぁ? なにフカシこいてやがる。っていうか、なんで生きてんだよ? カザンに殺されたんじゃないのか?」

 

「お、俺は今、カザンのユニオンになっている! 強制的ではあったが、今はあいつの使い魔なんだ!!」

「カザンのユニオン? んなこと、カザンから聞いてねぇぞ。お前がここにいるってこともな」


「俺だって何度も報告しようとしたんだ! セルミア教に動きがあれば逐一報告しろと言われてたからな! ……なのにあの野郎、まるで応答しやがらないッ!一方的に通信を切ってやがるんだ!!」



 主人とユニオンは魔力で結びついており、主人の魔力があるかぎり遠方でも念話ができると聞いた。恐らくそのことなんだろうけど、カザンの性格を考えると、面倒くさくて居留守を使ってた可能性は大いにあり得る気がする……。



「んな話、誰が信じるかよ」

「本当だ! タツ、頼む! お前からもなんとか言ってくれ!!」


「シン、セコーモの言ってることは本当だよ」

「マジで?」


 見たことあるようで思い出せなかった理由が分かった。セコーモの魂の色に、カザンの色が混じってるからだ。きっとセコーモの言ってることは本当なんだと思う。

 ……とはいえ、セコーモがコウタ達の仇であることに変わりはない。



「どうする、シン? シンがしょすって言うなら、僕は止めないけど……」

「ま、待てって! それに、俺を殺したって無駄だ! カザンにユニオンにされた際に、【魂の盟約】を結ばされているからな!」



「魂の盟約? なんだそりゃ」

「俺の命をどうこうできるのはカザンだけだ。例え俺の肉体と魂を破壊しても、カザンの魔力がある限り何度でも復活する。殺すだけ労力の無駄だ!」


「つまりどういうことだ?」

「簡単に言うと、セーブ&ロードみたいなもんだよ。盟約を結んだ時点でその魂の情報がお互いに記録され、どれだけ破壊されてもお互いの魔力がある限りロードできるんだよ」


「まじかよ……めちゃくちゃ便利じゃないのか?」

「もちろん、そんなうまい話はないわけで。肉体の復活なんてカザン級の魔力がないと無理だし、盟約にも条件がある。盟約は決して対等な関係じゃなく主従関係になるんだ。主人に対して完全に魂を屈服させなくちゃいけないし、主人が命令すればいつでもしもべは死ぬことになる。そんな一方的な盟約を結びたいと思う?」



 僕の説明に、シンが腕を組んで悩んでいる。



「確かに無理かも。相手が嫌なヤツだったら屈服なんてしたくないし……いい奴だとしても、尚更屈服なんて出来なさそうだよな?」

「そういうことだよ。上辺だけじゃ駄目なんだ。シンは僕を奴隷として見れる?」

「無理だな」


 かつてカザンがダインと戦ったように、相手の魂を屈服させるには戦うことが一番だ。敗北した相手は、心身ともに相手に屈服する。そして主従関係を結ぶんだ。もし戦いもなく屈服できるとしたら、それは完全なる利害の一致、もしくは自分の精神を完全に操れるような人位なものだろう。



「それで、セコーモはカザンとどんな盟約を交わしたの?」

「…………俺がヤツの言うことを聞き、ヤツはいつでも俺の命を奪えるという盟約だ」


「ま、マジでメリットないじゃん。よくそんな条件のんだな、お前」

「し、仕方ないだろ! 受け入れなければどちらにしろ殺されてたんだ!! そもそも、強制的にユニオンにされた時点で地獄の苦しみを味あわされて、反抗する気力なんて残ってなかった……」


「分かったでしょ、シン。相手を本当に屈服させるにはここまでしなくちゃいけないんだ。生殺与奪の権利を奪われるし、奴隷相手に有利な条件を提示してくれる人なんていないよ」

「よく分かった。しかし、よく知ってるなお前」

「ま、前にカザンから聞いたんだ」


 おっとと、話が逸れてた。でも、これでシンにも魂の盟約の危険性が分かったはずだ。悪魔との契約と呼んでも差し支えないものだしね。



「まぁ、経緯はわかった。で、ここで何してたんだ?」

「こいつを城塞周辺に埋めてたんだ」



 そう言ってセコーモが大きなカバンから取り出したのは、何かの結晶だった。



「なにそれ?」

「……わからん」

 

「わからんって、舐めてんのかお前」

「ほ、本当にわからんのだ! セルミア教の上層部からの指示で、バレないようにこいつを埋めてこいと言われたんだ!!」


 教団が指示した……ってことは、なんでもないってことはなさそうだけど。僕はその結晶を一つ手に取ってみる。



「これ、オウガがエーテルダイブした時の場所に埋めてあったやつだね」


 よく見ると、この結晶が色々な場所に繋がっている。上から見ないと分かりにくいけど、城塞全部を包み込む結界のようにも見える。



「ってことはオウガの仕込みか? あいつ、セルミア教とも繋がりがあるのか」

「……かもね」


 オウガについては、まだよく分からないことが多い。憶測でものを言うのはやめておこう。地獄炉に、オウガと一緒にもう1人いるみたいだし…………しかもA・S。


 

「と、とにかく。俺の役目は終わった……俺は引き上げるから、カザンに連絡には出ろと言っておいてくれッ」

「あぁ、報連相は大事だからな」


 シンが妙に納得したように首を縦に振る。そしてセコーモは闇に包まれるように消えてしまった。



 遠くから、身体を揺さぶる様な爆発音が響いてくる。恐らく、カザンとルジーラが戦っているんだ。地獄炉は既にオウガの手中にあり、ガウロンが抑え込んでいたヴィクターも今は姿が見えない。


 

 終わりが近づいている。多くの人間の思惑が交錯する、この戦いに────

拙作を読んで頂きありがとうございます。感想・質問・指摘などしてもらえると嬉しいです。

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