第14.5話:ガウロン VS ランシラス
タツとシンがボルフェルと戦っている頃、ガウロンもまた戦闘を開始していた。ヴィクターの1人、ランシラスの周りには影がウヨウヨとうねり立ち、鋭い切先をガウロンへと向けている。
「ヴェルオンに待機と言われ納得いかなかったが……まさか貴様の方から来てくれるとはなぁ、ティエンタの英雄」
「どうやら、お前は戦力として数えられていないらしいな」
「減らず口を……今すぐ黙らせてやるぞ!!」
影が鋭さを増し、ガウロンへと襲いかかる。攻撃を躱し屋根へと逃げるガウロンだが、どこまでも追尾してくる影によって建物は切り裂かれ、崩落する屋根と共に落下する。
「死ねぇ!!」
ガウロンを取り囲むように影が伸び、心臓目掛けて飛びかかる。──ガウロンが七星剣を抜き、逆に影たちを切り裂く。七星剣の輝きに触れた影は、霞のように消滅していった。
物理攻撃の及ばない影を消滅させられたことに驚愕するランシラス。だがすぐに瓦礫の影から複数の影を伸ばし、ガウロンへ攻撃を試みる。
背後からの攻撃──しかしガウロンは振り向くことなくその影を躱し、伸び切った影を七星剣で切り裂く。
(月明かりの夜……影との境界が曖昧となり、その存在を視認することすら困難なはず。……なのに何故避けれる!? こいつには何が視えているんだ!!?)
がむしゃらに攻撃を仕掛けるが、どの角度から攻撃を仕掛けても全て避けられ、そして無効化されていく。自分の攻撃が全く通じないことに、ランシラスは後退りし始める。
(なんなんだこいつは!? 魔力探知かッ? だが、それにしてもこの反応速度はおかしい……まるで未来を視ているかのような────ッッ)
思考を巡らすランシラスの隙を、ガウロンは見逃さなかった。一気に距離を詰め、ランシラスの懐へと潜り込む。
「おのれッ────」
自らを影と同化し、逃れようとするランシラス。だが、影へと変貌していくランシラスの胸に、ガウロンの七星剣が突き立てられる。
「がああぁッ……ば、馬鹿な……」
影へと変貌しつつあった身体は元に戻り、そのまま仰向けに倒れ込むランシラス。目を見開き、微動だにすることなく夜空を眺めている。
「しばらくそのままでいてもらうぞ」
そう言い放ち、胸に突き立てられた七星剣に触れるガウロン。相手の魔力を吸収・無力化する七星剣。あとは時間が来るまで、この剣に触れていればいい。そう思っての行動だった────だが、七星剣を通して流れ込んでくる魔力には、壊れかけたランシラスの魂の記憶が含まれていた。
「…………人の見た目なぞ当てにはならない。そうタツに言ったのに、傲慢なのは俺の方だったか」
時が止まったかのように静止したランシラス──その見開かれた目に手をかけ、優しく瞼を閉じる。
「安らかに眠れ。お前の……お前達の無念はオウガが────シンが必ず晴らしてくれる」
戦いが終わるその時まで……まるで寄り添うように、静かに眠るランシラスを見守るガウロンの姿があった。
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