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タツノシン ~Astral Stories~  作者: コーポ6℃
第三章 邂逅編 ゲヘナ城塞攻略戦
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第12話:オウガの協力者

 月明かりが、柔らかく石造りの家を照らし出している。遠くから響いてくる戦いの音を感じながら、1人の影が静かに家に入っていく。主の存在しない家の中は静まり返っており、自身の足音だけが妙に耳に残る。


 この建物の下に地獄炉が存在している。オウガは地下への入り口がないか、見落としがないようにゆっくりと歩を進める。

 足音に変化がないか注意深く家の中を捜索するが、どこにも地下への入り口は見当たらない。



(奴らは転移することができる。そもそも入り口が存在しないのか?)


 そう結論付け、時間の無駄だと悟ったオウガは歩みを止める。



「──この下だ。もう一度頼む」



 誰かにそう告げるオウガ。するとオウガの周りの空間が歪み、光と共にオウガの姿が消失する。





 ────暗黒の空間。微かに脈打つ何かが、赤い光を放っている。赤黒く錆びついた配管が蠢くように、空間全体を覆っている。異様な熱気を放つ装置……その中心からはとめどなく瘴気を垂れ流している。低い唸りを上げるその装置は、まるで地獄の呪詛を囁いているかの様だった。


 地獄炉────地獄に堕ちた魂や妖魔の類を呼び出す、ライザールの神テクノスが作り出した魔導具。直径50mはあろうかという巨大なその装置の前に、オウガの姿はあった。




「────グラス」

「お側に」


 オウガの影から、1人の女性が姿を現す。修道服を着た、妖艶な雰囲気を醸し出す女性。ヴェールによって目元は隠され、その口元は笑みを浮かべている。


 ディセント計画を取り仕切る、セルミア教の執行者達の長 グラス。オウガ達と敵対しているはずの組織のリーダーが、オウガに頭を垂れている。



「グラス、どれ位かかる?」

「配下のものを使い、既に下準備は出来ております。30分もあれば終わるかと」

 

「そうか、では始めてくれ。今この時も、仲間たちが戦っている」 

「はい。お任せください」



 グラスが、地獄炉の前に立ち両手をかざす。パキパキと音を立て、地獄炉が凍りついていく。

 ……いや、凍りついているのではなかった。まるで水晶の様な鉱石が、地獄炉を覆っていく。

 その様子を、オウガはただ黙って見守っている。


 グラスの予告通り、30分足らずで地獄炉は完全に結晶石に覆い尽くされた。赤い光が明滅していた地獄炉は、その光を携えたまま、まるで時が止まってしまったかの様に停止している。



「終わったか?」

「はい。これで地獄炉は私の……ひいてはオウガ様の物となりました」


「ここにいるヴィクター達は地獄炉と繋がっていた。奴らを倒した際に暴走する可能性は?」

「既に地獄炉とのパイプは切断しております。その心配はありません」


「よし。この結界はどれ位もつ?」

「お望みとあればいつまででも」


「テクノスはこの地獄炉を奪還しようと目論むだろう」

「その可能性は否定できませんが、入口であり出口でもあるこの装置を抑えた今、テクノスには何も出来ません」


「部隊を送り込んで来るのではないか?」

「テクノスにとって、このゲヘナは重要拠点ではありません」


「重要拠点ではない、か。ならばアズール騎士団の本隊が来る可能性は低いか」

「はい。ですが、偵察部隊程度は送り込んでくる可能性があります。その際の対処も、私にお任せください」


「大丈夫なのか?」

「雑兵如きでは、A・S(オールシフター)である私の【反魔力アンチマジック】を破ることは出来ません。この城塞に近づいたが最後、幽世かくりよに引きずり込み地獄炉の燃料とさせていただきます」


「テクノスの神託者が来る可能性は?」

「テクノスの神託者である、アズール騎士団 団長【サンディス】は、過去に受けた傷がまだ癒えておらず、居城から離れる事ができません。その可能性は0かと」


「分かった。ならば────」



 笑みを絶やすことなく、グラスはオウガの命令を静かに待つ。



「1年だ。1年……この地獄炉を守り抜け。それから──」

「私は貴方様の忠実なるしもべ。何なりとお申し付け下さい」


「このゲヘナ周辺はパラディオンの管轄になるよう、既に根回しは済んでいる。とはいえ、王国側からも監視の兵を派遣しようとするだろう」

「セルミア教の執行者と信徒をゲヘナに住まわせます。戦いで亡くなった騎士達の鎮魂の為と称せば、王国側は教団に何も言うことはできません。理由をつけ、王国の兵士は追い返しましょう。またライザール側の軍の編成も、1年後となるよう調整しておきます」



 グラスの提案に、オウガが静かに頷く。そして自身の手を力強く握りしめる。



 

「1年後……その時こそ、俺はテクノスを討ち果たす」

「例えこの命尽きようとも、テクノスを討滅する為に尽力致します」


「それが、俺たちが交わした【魂の盟約】」

「そして神殺しが成った時────私はオウガ様の肉体と魂を拝受する」


「あぁ、好きに使うがいい。……扱えるのならな」

「ふふ……その日が来るのを楽しみにしております」



 まるで主人を見送る侍女の様に、頭を下げるグラス。



「ではグラス、後は頼んだぞ」

「どうぞ心置きなく。1年後にお会いしましょう」

拙作を読んで頂きありがとうございます。感想・質問・指摘などしてもらえると嬉しいです。

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