第11話:潜入チーム
俺とタツ・オウガ・ガウロンの4人は、城塞の東に位置する岩山を移動している。月が出ているとはいえ視界も悪く、足場も悪い。正直気が滅入るルートだが、ここしかルートがないので仕方がない。
ちなみに俺の身体能力向上の為に、タツは俺が背負って移動中だ。
俺たちは全員フード付きのマントを羽織っている。より姿を隠蔽するためなのだが、一つ気になるのはオウガだった。
……なぜなら、今のオウガは鎧を着ていないのだ。オウガの鎧はレガリアらしく、月光を受けるとキラキラと輝くらしいので解除しているというワケだ。顔には仮面をつけているが、時折覗く銀色の髪、思ったよりも華奢な身体、そして何よりも身長が全然違うのだ。
鎧の時は身長は180以上あったと思うのだが、今は多分170あるかないか位だ。実は厚底ブーツだったとか?
「このまま進んで城壁に飛び移るのか?」
「いや、城塞内部への移動手段は確保してある。もう少し進めば、その手段が使えるようになる」
受け答えしてくれるが、その手段の詳細は教えてくれない。まぁ信じて付いて行くしかないか。
既に戦闘は始まっており、俺たちの周りには赤い花粉が飛び交っている。なんだか鼻がムズムズしてきた。もしかして、オウガの仮面はこの為か? もしそうなら、俺たちも仮面が欲しかった。
(タツ、花粉症とか大丈夫か?)
(大丈夫だよ。シンは?)
(魔力の粉らしいけど、なーんか意識すると痒くなるんだよな)
念話で雑談していると、先導していたガウロンの足が止まる。
「ここか?」
「あぁ、そのようだ」
ガウロンの確認に、オウガがこくりと頷く。
(タツ、何か見えるのか?)
(うん。ここから──なんか線が伸びてる。それが城塞内部の至る所に繋がってるよ)
なんだそれ? ワープポイントか?
「タツ、地獄炉の位置は変わってないか?」
オウガがタツの書き込んだ見取り図を広げてくる。
「うん。変わってないよ」
「そうか。よし、みんな手を繋いで目を閉じてくれ」
ガウロンが言われるままオウガの手を取るので、俺も言われた通りにする。ひんやりとした手──俺との体温差に少しびっくりしてしまう。
冷静さを取り戻す意味も込めて、目を閉じる。次の瞬間、足場が無くなったかの様な浮遊感と共に、身体が引っ張られる。ジェットコースターに乗っていると勘違いする程の引力に驚愕し、つい目を開けてしまった。
────目を開けた先には、見たことのない建物があった。俺たちはさっきまで岩山にいたはずなのに……。
って! マジでワープしてるじゃねぇか!!?
「お、おいッ、これって────」
「エーテルダイブだ。リリシアの花粉のおかげで、魔力を行使してもバレなかったようだな」
エーテルダイブ────ルジーラが使うという幽世と現世を行き来する空間移動法。幽世は魔力が支配する世界……そこで魔力を消費して距離を稼ぎ、現世に戻ってくるという仕組みらしいが────
「お前も使えるのかよ……」
「ふふ、まだまだ秘密にしてることは沢山あるぞ?」
オウガが嬉しそうな声を出す。こいつとは一回、腹を割って呑む必要があるな。
「タツ、ここで間違いないかな?」
「うん、この建物の下だよ」
「よし、俺は地獄炉の掌握に行く。後は頼んだぞ」
「あぁ」
「よく分からんが任せておけ」
マジでよく分からんうちに目的地に着いてしまった。もうちょっとダンボール被ったりステルスしていくと思っていたんだが……。
オウガは建物の中に入って行ってしまった。ならばこれからの俺たちの目的は時間稼ぎなワケだが────
「タツ、ヴィクターはどうなってる?」
「外でヴィクターの1人がカザンと戦ってるよ。残りの3人は城塞内部に残ってるみたい。こっちにはまだ気づいてないみたいだけど」
「残りの奴らも外に出られると厄介だ。こちらから仕掛けることにしよう」
ガウロンが現状把握の為、タツに質問している。奴らも様子見のつもりだったのか、城塞内に残ってくれてるのは助かった。問題は、どいつの所に向かうかだが……。
「地獄炉に繋がっていない奴は放っておけ。俺はあっちへ行く。昼間に相手していたヴィクターだ」
一度戦った相手なら、素直にガウロンに任せるべきだろう。ならば俺たちはもう1人のヴィクターの元へ行くとするか。
「じゃあ俺たちは残りのヴィクターの相手をしてくる。タツ、案内頼むぜ」
「うん。それじゃあガウロン、気をつけてね」
「あぁ、お前達もな」
そう言ってガウロンは軽々と建物の屋根に飛び移り、すぐに見えなくなった。なんて身のこなしだ……俺もやってみるか?
「シン、あっちだよ」
ちょっとガウロンに憧れて冒険したくなったが、大人しくタツの指差す方向へと走り出す。オウガがどれ位時間が掛かるのかは分からないが、とにかく敵の注意を引き付けなくては。
ルジーラもいつ来るのかが分からない。外が混戦状態となるかもしれない事を考えると、カザンの時間稼ぎにも限界がある。俺とガウロンがしっかり時間稼ぎするのが最善だろう。
タツの示す方向に向かうため、幾度も建物の角を曲がる。
「ダミーって言ってたけど、偽物には見えないよな?」
「多分、ちゃんとした家だよ。魔力で作られてるね」
一応住もうと思えば住めるってわけか。でも、ここに住人は1人も存在していない。住人のいない家々とは、ここまで不気味なものなのか。
「シン、この先だよ!」
「おう!」
最後の建物の角を曲がると、教会の様な建物の前に出た。その教会の前にある階段に1人の男が座っている。逆立つブラウンの髪に、青い軽防具を身に付けている。防具の隙間からは、よく鍛え上げられた筋肉が見え隠れしていた。
歯をギリギリと鳴らし、不機嫌そうに貧乏揺すりをしている。そして俺たちの存在に気付いたのか、血走った青い瞳をギョロリとこちらへ向ける。
「なんだぁ、お前ら? 何で人間がここにいるんだよッ」
「ヴィクターか、ここで何してる?」
俺が質問し返すと、男の額に血管が浮かび上がり、貧乏ゆすりが激しくなる。石で出来た階段が、その振動でひび割れていく。
「聞いてるのは俺なんだよッ! くそッ、ヴェルオンのやろう……何が好き勝手暴れられたら困るだ! 留守番してろだぁ? ふざけやがってよぉ!! なんか粉っぽいしよぉ!!!」
なんか知らんがメチャクチャ怒ってるぞ。頭をガリガリと掻き毟っている。
「ね、ねぇ……大丈夫?」
「あぁーん? で、お前ら誰だよ」
「俺はシン、こっちがタツだ。実は道に迷ってな」
情緒不安定なヤツらしいが、何とか誤魔化せないかな? 対話に持ち込んで、時間を稼ぐのもありだと思うんだが。
「道に迷っただぁ? ……クックック、そりゃ災難だったなぁ」
「あ、あぁ」
男がゆらりと立ち上がる。……なんかまずい予感がする。
「そうだよなぁ……月が出てるのによぉ、このボルフェル様に大人しくしてろなんて無理な話だよなぁ!?」
ボルフェルの青い瞳が金色へと変色していき、身体が黒い瘴気で包まれていく。
「気をつけてシン! この人、神域者だ! 多分4人の中で一番強いよ!!」
「ま、マジかよ!? そういうことは先に言ってくれよタツ!!」
神域者とは言ってもピンキリだ。でも、このボルフェルという男は間違いなく強い。それは、今俺が感じているプレッシャーが物語っている。こいつ相手に、果たしてどれだけ時間を稼げるか……。
不思議な感覚だった。不安でいっぱいのはずなのに、何故かボルフェルと戦えることに俺は────喜びを感じていた。
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