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タツノシン ~Astral Stories~  作者: コーポ6℃
第三章 邂逅編 ゲヘナ城塞攻略戦
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第9話:開戦

 闇に包まれた戦場で、松明の明かりが微かな光を投げかける中、傭兵達は鎧を着込んだ重い足音を立てている。だが、奇妙なことにその手には武器を持っていない。唯一武器を持っているのは、先頭で圧倒的な存在感を放つ、深紅の鎧を着た男だけだった。


 巨牛に跨り、身の丈ほどのロングソードを持つ男──カザン傭兵団 団長 “鬼神オニガミ カザン“。松明に照らされ、兜から覗かせる顔は不敵な笑みに満ちている。



 カザンの視線の先──城塞の前には、闇に蠢く海と見紛う程のレヴェナント達。だが、無秩序な展開ではない。数万のレヴェナント達は、正確な間隔を保ちながら、城塞を守る態勢を整えている。天に構える槍が、月の光を浴びてキラリと輝く。

 

 壮大な敵の陣形の最後尾には、青い鎧を身につけ、巨大なランスと盾を持った騎士が佇んでいる。

 

 その騎士の背後に聳え立つ城壁。フルティナとシンによって破壊された城壁は、既に以前と変わらぬ威容を誇っている。城壁の上に設置された魔力砲も、5門全てが魔力を携え傭兵達を狙っている。

 





「すごい数ね。アタシ達の数十倍はいるんじゃない? 流石にドキドキしてきたわ」

「あそこに突っ込むのか……」


 一番隊 隊長カシューと、三番隊 隊長ペロンド。互いの心境を語る彼らの手にも、やはり武器は握られていない。


 

「あれだけだと思うなよ? 突っ込めば、後ろからも出現するだろうぜ。全方位から敵が来ると思え」


 カザンが己の剣で肩をガンガンと叩き、まるで値踏みするかのように敵陣を睨め付ける。



「作戦は伝えた通りだ。一番隊と三番隊は俺と共に敵陣に突っ込む。敵の司令官とコウモリ女は俺が相手する。お前らはレヴェナントと変異種を殺しまくれ。四番隊と五番隊は後詰めだ」


「作戦って言えるのそれ?」

「まぁ、いつも通りといえばいつも通りだけどな」


「へッ、そう……いつも通りだッ」


 ニヤリと笑うカザン。そして反転し、声を荒らげて檄を飛ばす。



「いいかテメェら! もしここで俺たちが敗れたなら、今までの勝利など何の意味もなくなる! ならば俺たちに残された選択肢は一つ、敵を殺し勝つことだけだッ!!」



 空気を裂く刃風を響かせ、カザンが剣を敵陣へと向ける。



「奴らを見ろ! 死に損ないの寄せ集めなど、俺たちの敵ではないッ! そして後輩共に見せてやれ! テメェら一番隊と三番隊の強大さをなぁ!!」



 傭兵達から笑みは消え、顔つきが険しく変貌する。その身体からは、陽炎の如き揺らめきが発せられる。



「ヘッ、いい顔だ。死ぬときゃあ前のめり────そして、怒りながら死んでいけ。そうすりゃあ……俺がもう一度使ってやる」



 怒りの感情を共鳴魔力レゾンに持つ、カザンならではの激励。死してなお、団長と共に戦える──そのことが、恐怖を上回る闘争心を傭兵達に植え付けていた。



「ソルム、鳴らせッ!」


 カザンの指示に、ソルムと呼ばれた大男が前に躍り出る。手に持った巨大な角笛を口に当て、体格が変わるほどに大きく息を吸い込む。



 ────戦場に響き渡る重低音。ビリビリと全身を震わす音が、戦場を満たしていく。

 顔を朱に染め、血管を浮かび上がらせながら、自身の持つ全ての魔力を音へと変換していく。魔導具である角笛を通して叩きつけられた音は、カザン傭兵団の精神を著しく上昇させた。



 そして訪れた音の終わり。角笛の音になり変わり、男たちの怒号が戦場を支配する。




「突撃ぃーーーーッッ!!!!」



 地を揺らし、巨大な蹄の跡を残しながら突撃するカザンとダイン。そしてその後を、一番隊と三番隊が雄叫びを上げながら追従する。歩兵である傭兵達と、ダインを駆るカザンでは速度に差があり、自然とカザンが先行する形になる。



 城塞に設置された魔力砲が動き始める。5門全ての魔力砲が砲身に暗い光を帯び始め、その照準をカザン達へと定める。既に魔力の充填を完了していた魔力砲は、その凶弾を惜しむことなく発射する。鈍い音と共に放たれる黒い光弾────




 ────闇の中から、魔力砲に向かって2本の光が放たれる。砲身から発射された光弾が、その光に撃ち抜かれ大爆発を起こす。月光によって強化されたフルティナのトランスガンが、魔力砲の2門を的確に撃ち抜いたのだ。

 城壁を巻き込み爆散する魔力砲──だが、残った3門から放たれた光弾は、狙い通りカザン達へと降り注ぐ。





「ダイン!!」

『────ッッ』



 カザンの声と共に、ダインがその巨躯を持ち上げ、黒金の鎧で固められた両脚を地面に叩きつける。

 前方の地面が大きく陥没し、カザンの目の前に岩壁が迫り上がる。


 突如出現した岩壁と光弾が衝突する。爆音と共に、岩の砕ける音が響き渡る。ガラガラという岩同士のぶつかり合う音、巻き上がる砂煙が、カザン傭兵団の存在を完全に包み隠す。


 だが、その隠れ蓑を切り裂くかのようにカザンが姿を現した。剣を構え、レヴェナント達へと斬りかかる。そしてその背後から、カシューとペロンドが姿を現した。しかしその姿は、先ほどまでとは別物であった。


 カシューは全身を覆う鎧に鳥の如き翼と、右手には盾、左手には輝く剣を。ペロンドは四肢に巨大な鉤爪を携えた鎧で全身を固め、長く伸びた牙が妖しく光り輝く。

 カザンに続き、それぞれの得物で敵へと襲いかかる。


 更に続く一番隊と三番隊の傭兵達。総勢2000人の武器を持たぬ傭兵達は、いつの間にかそれぞれが光り輝く武器を携えていた。



 その輝きは魂の輝き────そう、それはレガリアだった。傭兵達の精神は、カザンとオウガのカリスマ性、そして魔導具である角笛によってエーテルフォージを引き起こしていた。

 カシューとペロンドを除く傭兵達のレガリアは、かろうじて武器だけを顕現したものであり、特殊な能力を持たぬただの武器でしかなかった。だが、高められた魂を武器と化したそのレガリアは、重く、鋭く、レヴェナント達を容易く切り裂いていく。



────────────────────



「馬鹿なッ……一軍全てが玉璽保持者レガリアホルダーだと!?」



 カザン傭兵団の戦闘力に驚愕するのは、指揮官であるヴィクターの1人【ヴェルオン】。戦線を押し上げるカザン達の猛攻に気を取られていると、後方の残った魔力砲に光が撃ち込まれる。



「なに!?」



 フルティナによって、残りの3門に次々に光が撃ち込まれる。バチバチと音を立て、沈黙していく魔力砲。トランスガンに組み込まれた太陽石の力が、魔力砲の再充填を阻害していた。



「ちッ、あの時の狙撃手か。だが、大体の位置は分かった。変異種を送り込み、その息の根を止めてくれる」



 ヴェルオンが、瘴気を垂れ流すオーブを掲げる。オーブが妖しく輝き始め、変異種と呼ばれる怪物がフルティナ達のいる丘へと転送されていく。



「指揮系統から外れるが、変異種ならば生あるものを片っ端から襲っていく。とりあえずは……ん──?」



 空を見上げるヴェルオン。闇に紛れて、何かが自分たちの周りに飛来しているのに気づく。



「何だこれは? ───粉、か?」


 

 ────飛来する赤い粉。それは、リリシアによって生成された花から撒かれた花粉だった。魔力を帯びたその花粉は、瞬く間に戦場を覆っていく。様々な魔力が混在していた戦場が、リリシアの魔力で統一されていく。だが、実害のないその花粉に、ヴェルオンは首を傾げる。



「何の真似だ? 一体何の意味があるというのだ──ッッ!?」



 ヴェルオンに向かって、レヴェナントが飛びかかってくる。手に持った巨大なランスで、虫を払う様にそれを叩き落とす。不快な音を響かせ、砕け散るレヴェナント。

 ……飛びかかってきたのではない、こちらへ吹き飛んできたのだ。そう認識したヴェルオンは、1人の男へ視線を向ける。



「いよぉ、ちょっと付き合ってもらうぜ」

「……全滅のカザンか」



 たった1人で敵陣を突破し、大将の元へと辿り着いたカザン。敵に囲まれながらも不敵に笑うカザンに、ランスの先端を向けるヴェルオン。ヴェルオンの駆る異形の馬が、低い唸り声を上げる。


 両者とも示し合わせたように駆け出す。武器を構える2人──繰り出したカザンの斬撃は盾によって逸らされ、ランスがカザンの喉元目掛けて突き出される。それを手甲で力任せに払いのけるカザン。



 刹那の攻防──カザンの剣は欠け、手甲はひび割れている。それに対し、ヴェルオンは盾もランスも無傷のままであった。



「ふ、随分(なまくら)な剣を使っている様だな」

「特売品の剣だ。だが、テメェ如きにはこれで十分だ」



 カザンの挑発に青筋を浮かべるヴェルオン。

 赤い霧の舞う闇夜の戦場に、幾度となく激しい金属音がこだまする────

拙作を読んで頂きありがとうございます。感想・質問・指摘などしてもらえると嬉しいです。

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