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タツノシン ~Astral Stories~  作者: コーポ6℃
第三章 邂逅編 ゲヘナ城塞攻略戦
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第8話:タツ、リリィの助手になる

 シン達と分かれ、僕はフラウエルさんとリリシアさんと一緒に怪我人達の治療にやって来た。……まぁ僕は見学に来たんだけど。

 本場の治癒士って人が、どんな風に治癒を施すのかがすごく興味があった。シンに対して気合注入するのに、何か得るものがあるかもしれないしね。



「はぁ、やらないって決めたその日にまたやることになるとはね」

「ごめんねリリィ。でも、リリィが一緒だと心強いよ」


 顔を赤らめそっぽを向くリリシアさん。このリリシアさんって人、言動は高飛車だけど、多分すごく優しい人なんだろうな。



「僕も何か手伝えないかなぁ?」

「うーん、そうだね。私は1人でも大丈夫だから、タツちゃんはリリィと一緒に行ってもらおうか?」

「はぁ? あたしだって1人で十分よ」


「この前は王国の医師団の人達が処置してくれてたからよかったけど、今回は傷口の洗浄・消毒とか異物の除去とかもしないといけないし、2人の方が効率がいいと思うよ? タツちゃんに消毒とかしてもらったらどうかな?」

「めんどくさいわねぇ。フラウ、あんた一気に治せないの? あたしの時もやったらしいじゃない」


「む、無理だよ。あの時はリリィの花粉っていう症状だけだったから出来たわけで、今回はみんな傷の度合いも箇所も違うから、余計手間取っちゃうよ。地道に一人一人診ていくのが一番だよ」

「……はぁ、分かったわよ。じゃあさっさと行くわよ、お嬢ちゃん」


「あの……僕、男だからね?」



 2人が顔を見合わす。……確かに中性的だとは思うけどさぁ! 2人は僕の本当の姿見てたんじゃないの!?

 


「ご、ごめんなさい。可愛らしいからてっきり女の子かと……」

「紛らわしいわね、あんた。どっちかにしなさいよ」

「どっちかってどういうこと!? 男だってば!」


「そういえば、大きい方の姿も女かと思ってたわ」

「そ、そんな馬鹿な……」



 何という屈辱。これでもシンみたいになりたくて色々してたのに。この姿はともかく、元の姿まで女の子に見られてたなんて!



「まぁもういいじゃない。ごめんねタツくん」

「フラウエルさんは何歳なの? 僕、本当は16歳なんだけど」


「私も16歳だよ。あ、でも確かにさっき見た姿は……じゃあ同い年なんだね」



 そう言ってニッコリ笑ってくれるフラウエルさん。うーん、この人は天使だなぁ。魂の美しさも相まって、後光が差しているようだ。



「じゃあ改めて、私はフラウエル。みんなからフラウって呼ばれてるよ」

「そっか、よろしくねフラウ! 僕のこともタツって呼んでね!」


「うん、よろしくねタツ」



 再度自己紹介を行なったフラウが、チラリとリリシアさんを見る。



「あたしは18歳よ。リリシア様と呼びなさい」

「もう、リリィったら」

 

「よろしくね、リリィ!」


 構わず愛称を呼ぶと、ふんっと顔を背ける。

 ふっふっふ、残念でした。僕は魂の揺らめきで、今その人がどんな感情なのか分かるのだよ。リリィは表面上こそ嫌がっているけど、本当は嫌がっていない!


 …………ってこれ、自分で言っといて何だけど変態っぽくない? なんかノゾキみたいでよろしくない気がする。



「じゃあ2人とも、私はこっちに行くから。もし手に負えない患者さんが来たら、私を呼んでね?」



 そう言い残し、フラウは行ってしまった。怪我人は今、二つに分けられている。みんな概ね軽傷だけど、その中でも傷口の大きい人は、フラウが担当するみたい。僕達が担当するのは、擦り傷や打撲程度の人たちらしい。


 それにしても、フラウはキビキビと動いてすごく慣れてる感じがする。こんな治癒士が近くにいてくれてるというだけで、仲間は安心する事だろう。

 フラウは外見も綺麗だけど────魂が本当に綺麗だった。まるで高純度の太陽石を思わせるような……ううん、そんなものでは例えられない位、綺麗で、艶やかで、神々しかった。



「さっさと行くわよ」

「うん」


 不機嫌そうに歩き始めるリリィ。でも僕は……そんなリリィに、何故か癒される感じがした。これが、A・S(オールシフター)の持つ癒しの波長なのだろうか。フラウ程じゃないけど、A・Sであるリリィの魂もすごく綺麗だった。



「……ちょっと、フラウと比べないでよね」

「え゛ッッ」


 げげッ! 何でバレたんだろう!? もしかしてA・Sってそういうのに敏感だったりするの!?



「先に言っとくけど、あたしはフラウみたいに上手く治癒できないからね。本職じゃないんだからね!」

「え? あぁ、そういう事……」



 相当負けず嫌いなのだろう。先に予防線を張るリリィが、何だか可愛く見えた。



「大丈夫だよ。僕なんて何にもできないし」

「そういえばあんた、何で一緒に付いてきたのよ? A・Sかと思ったんだけど、違うんでしょ? 男だし」


「うん。A・Sじゃないんだけど、僕はシンだけは治すことができるんだ。治癒力向上の参考にならないかな、って思ってさ」

「ふーん、魔力の型が一致してるのね。珍しいわね、双子以外でそんな相手と出会うなんて」


「そんなに珍しいの?」

「世界中探しても見つからないんじゃない? そんな相手と出会ったんなら、それは運命としか言い様がないわね」



 ────運命、か。



「さ、始めるわよ。こいつら虫みたいに数だけはいるんだから」

「すごい言い方」


 とても治癒士とは思えない物言い。……あ、治癒士じゃないのか。


 僕は怪我した部分をもう一度水で流し、消毒する役目を仰せつかった。ただ、背が低いから色々とやりにくそうだ。

 僕達の元に、ゾクゾクと仲間達がやってくる。数は50人ほどだろうか。既に自分たちで応急処置はしているようで、正直放っておいてもいいような怪我も多い。

 


 ……多分これ、リリィ目当てに来てるんじゃないかな?


 それが分かっているからなのか、リリィは深くため息をつく。でも、リリィは一人一人ちゃんと診てあげている。時折悪態はつくけど、相手の症状を聞き、それに対して適切な薬草や治癒を施している。


 本職じゃない? 僕には、その言葉が信じられなかった。



「ねぇ、リリィ。一人一人あげてる薬草が違うみたいだけど──」

「全員怪我が違うからね」


「どうやって区別してるの?」

「相手の魔力──魂と同調して肉体の異常箇所を調べてるのよ。まぁ今回は目に見える怪我ばっかだし、同調するまでもないんだけど、一応念の為ね。体の中に異物があるかもしれないし。で、傷を治すイメージで魔力を流し入れるんだけど、あたしは植物を媒介してイメージする方がやりやすいから、それぞれに合った薬草を出してるってわけよ」


 

「へー、ただ魔力を流し入れるだけじゃ駄目なんだ」

「結局それは、相手の自己回復力を促進してるだけだからね。怪我してる箇所の把握と、治すイメージを強く持ってやる方が効率が上がるわよ」



 一応シンに対して、腰が痛い時は腰を治すイメージでやってはいたけど、同調して異常箇所を調べるなんてやってなかった。これからは、僕もそれを意識してやっていけば、よりシンの役に立てるかもしれない。



「すごいやリリィ! すごく治癒士って感じ!」

「ま、まぁ? あたしは飲み込みが早いからね。…………全部フラウの受け売りだけど」


「それでもすごいよ。ダチョウ女なんて言われてたからどんな人なのかと思ってたけど──」

「誰がダチョウ女ですって!!」

「ぐああああああぁぁ」



 触診を受けていた傭兵さんが悲鳴を上げる。打撲らしく、手首が紫になっている。その箇所をリリィに握り締められた感じだ。



「何よ、うっさいわね。打撲位で大袈裟なのよ……って、あんたこれ折れてない?」

「えッ!? もしかして今ので折れちゃったの!?」


「ばッ───そんなわけないでしょ! 最初から折れてたのよ! あんた、フラウのとこ行きなさい。ったく、痩せ我慢するんじゃないわよ」

「うぅ……リリシアさんに診てもらいたかったんだけどなぁ」



 そう言い残し、スゴスゴと傭兵さんは立ち去っていった。



「リリィは骨折は治せないの?」

「治せるわよ。でも、あたしがやると歪になるかもしれないからね」


「そうなの?」

「大きな切り傷とかでも、元に戻そうと思ったら医師にある程度復元してもらわないと無理よ。それでも跡が残っちゃう位だしね。それを無しで元に戻そうとするなら、フラウみたいに魂の記憶を読み取って治癒しなくちゃいけないわ」


「やっぱり難しいの?」

「あたしには無理ね。言うなれば、肉体を再錬成してるようなものだしね。っていうか、ほとんどの治癒士が無理なんじゃない? それを簡単にやっちゃうフラウがおかしいのよ」



 ────やっぱり、フラウは特別なんだ。あの魂の輝き、リリィをして無理だという治癒を難なくこなす力。その力の源は何なのだろう? 今の僕に分かっているのは、フラウがリリィ達と同じく神域者ディビノスってこと位だ。

 

 しかもその魔力量は────オウガやカザンよりも多い。  



「気になるなら見てきたら?」

「ううん、今回はリリィの助手として教えを請うよ!」

「……あっそ」



 顔を赤くするリリィ。素直な気持ちに耐性がないのか、いちいち反応が可愛い。まぁこんなこと言ったら、今度こそ本当に骨を折られるかもしれないから黙っておく。



 それからしばらくして、全ての怪我人を治癒した僕たちはフラウのところに向かった。そこで、シン達が作ってくれたシチューをみんなで食べた。向こうは向こうで色々あったみたいだけど、食べたシチューはものすごく美味しかった。

 シチューを食べ終え、それぞれが作戦のために動き出す。



 空の色が変わり始めている。僕とシンにとって、この戦いが意味するものは大きい。


 

 そう。この戦いに勝たなくては、何も始まらない。

 この戦いに勝ち、真の仲間を得た時こそ────僕たちは、 “真実“ を知ることになるのだから。

拙作を読んで頂きありがとうございます。感想・質問・指摘などしてもらえると嬉しいです。

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