第6話:パーティー編成【後編】
【死の翠星ルジーラ】────セルミア教の暗部とも言われる、執行者という名のシスター達。
そして、その執行者の中でも特に強い力を持つのが “3人の執行者” と呼ばれる3人。
【執行長グラス】・【糸紡ぎの聖女アラテア】・【死の翠星ルジーラ】。その中でもルジーラの力は頭一つ抜けているらしく、執行者最強と言われている。
俺とタツは気づかなかったのだが、アマツクニでカザンがこのルジーラと戦ったらしい。しかも……レガリア状態のカザンとだ。俺が言うのもなんだが、あのカザンと戦って生き残れるということが、ルジーラの強さを証明している。
過去に何かあったのか、オルメンタはひどく怯えている様に見える。
「……ルジーラがいるの?」
「さぁな。だが、あいつとアマツクニで会った時、ゲヘナで会おうって言い残してたからな。間違いなく来るだろうよ」
カザンの言葉に、リリシアが眉を顰める。リリシアもルジーラのことを知っているようだが、さっきまでの威勢の良さが無くなっている。やはり、それだけの相手ということなのだろう。
「なぁ、ルジーラってのはそんなに強いのか?」
強いとは聞いている。そしてみんなのこの反応、疑う余地もない。ただ、訳のわからないものに飛び込んでいくかのような、この不安感を少しでも払拭したかった。
そんな俺の為だけの質問に、オウガが答えてくれた。
「強い。いや、強すぎると言っていい。人類の癒し手と言われるA・Sだが……ルジーラに限っては破壊者と言うのが相応しいだろう」
「A・Sなのか?」
「そうだ。ルジーラはA・Sの持つ力を、全て敵を殺す事に利用している。それに加えて、奴自身が持つ共鳴魔力なのか、加護なのか……遥か先の音を聞き分ける聴覚に飛行能力、更には幽世と現世を自由に行き来することもできる」
「あの世とこの世を行ったり来たりできるのか?」
「その認識で間違いない。エーテルダイブと言われる空間移動法だ。それ故、ルジーラは神出鬼没で行動が全く読めない。今回に限り、事前に参戦することが分かっているのは幸運と言えるかもな」
むしろ不運な気がしてきた。つまり、どこから現れて、どこで聞き耳立ててるか分からないってことだろ? もしかしたら、この会話も聞かれてるのかもしれない。
「ルジーラの最も警戒すべき力は、奴のレガリアから放たれる死霊の炎だ。A・Sの特性を活かした恐るべき炎。対象に着火すれば、その対象者の魔力を吸い上げ一気に燃え広がる。燃えて死ぬか、魔力が枯渇して死ぬか……どちらにしろ、一度燃えれば逃れる術はない。奴の魔力を上回らない限りはな」
想像はついていた。やはり、そのルジーラも玉璽保持者なんだな。他者に魔力を与えることのできるA・S。その力を、ルジーラは奪う事に使っている。
俺もタツに与えてもらっているから、その恐ろしさが分かる。もし逆なら、俺は一瞬で死ぬだろう。
「今ここにいる俺たちの中で、ルジーラに対抗できる戦力はカザンだけだ。だが、幸いなことにルジーラはカザンに執着している。どちらにしろ、カザンに頼む他はない。頼んだぞカザン」
オウガがカザンに視線を向ける。カザンがニヤリと笑い、力強く自分の胸を親指で突く。
「おいおい、誰にもの言ってんだ。俺は “パラディオンの英雄“ カザン様だぜッ。コウモリ女の一匹や二匹任せとけってんだ」
そう力強く言い切るカザン。俺もカザンには全幅の信頼を寄せている、疑ってなどいない。ただ、今のカザンの名乗りが気になっていた。そしてそれは、他のみんなも同じだったようだ。
「どうしたカザン。異名を変えたのか?」
「おう。ガキ共に言われたんだが、気に入ったからこっちにするぜ」
“全滅のカザン” 終了のお知らせ。まぁ自称だし、聞いてた事典にはずっと “全滅のカザン” で載ってるんだろうな。
少し話が逸れたところで、タツとガウロンが帰ってきた。2人に作戦内容を説明したところ、花粉も特に問題はないようだった。ぶっつけ本番になるが、今は2人を信じるしかない。
作戦を纏めるとこうだ。
俺とタツ・オウガ・ガウロンの4人は城塞内部に潜入、オウガが地獄炉を確保するのをサポートする。その際ヴィクターと戦闘になった場合は、なるべく時間を稼ぐ。ただし、オウガが無事地獄炉に到達した場合は、俺とタツ・ガウロンは敢えて姿を現し、交戦することも視野に入れておかねばならない。
ノヴァリス4姉妹とフラウエルの5人は、城塞から南西へ2キロ離れた丘へ向かい、リリシア達の能力で潜入組のサポートをする。その際敵の襲撃が考えられるが、ルリニアさんが護衛してくれるとのこと。
そして、正面から陽動作戦を行うカザン・カシュー・ペロンド達だ。敵を殲滅しつつ、ヴィクター相手に時間を稼がねばならない。
城壁に設置された魔力砲も、今度は一斉砲火してくる可能性がある。その際に、フルティナが防ぐことができるのは5門の内の1門だけ。次弾装填は妨害することができるようなので、初撃だけは自分たちで何とかしなくてはならない。
そして、最も懸念すべきはルジーラだ。こいつに関しても、もはやカザンに頼るしかない。このパーティーが、最も苦難だと言えるだろう。
「作戦は決まった、決行は日が沈んでからだ。夜戦の準備をしておけ」
オウガの指示で、皆が動き出す。城壁を修復している今ではなく、ヴィクター達の慢心をつくためにも、敢えて夜に行動するらしい。戦うカザン達は大変そうだが、当の本人たちは特に気にしてなかった。
夜まではまだ時間がある。オウガ・オルメンタ・ガウロン、そしてカザン・カシュー・ペロンドは夜戦の準備に向かった。フラウエル達は怪我人の治療に向かうようだ。タツが一緒に行きたいというので、俺たちも一緒に行く事にした。
正直俺が行ってもできることはなさそうだが、ルリニアさんとフルティナが食事の用意をするらしい。俺はこの2人について行く事にした。料理なら、俺も何か手伝えるはずだ。
怪我人達が集まる陣地に到着した俺らは、二手に分かれた。ぶっちゃけタツも治癒ができるわけではないのだが、本人がA・Sの治癒を見たがってるから引き止めるのも可哀想だ。見学することで、何か掴めるものがあればいいのだが。
夜戦開始までの数時間────タツと分かれ、それぞれのパーティーで行動を開始した。
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