第4話:オウガの目的
「俺たちの目的────それは、ゲヘナ城塞に設置された地獄炉を無傷で手に入れる事だ」
「手に入れる? 破壊するんじゃないのか?」
俺の疑問に、オウガがカザンをチラリと見る。
「こいつらには全て話してある」
「そうか、ならここにいるメンバーは全員知っている事になるな」
船で色々聞いたからなぁ。2人が言ってるのはどの秘密のことなのだろうか……。
「シン、俺たち──いや……俺の最終目標は、ライザールの神テクノスを倒すことだ」
「あぁ、そのことはカザンから聞いた」
オウガの受けた呪いを解く為にも、テクノスを倒さないといけない。それは事前に聞いていたことだが、呪いのこともみんな知っているのだろうか? 俺から迂闊な発言をするのはやめておこう。
「テクノスは幽世と呼ばれる地獄の最深部にいる。全10層から構成される地獄は、各層が無数の部屋のように枝分かれしている。もしまともにテクノスの元へ行こうとすれば、膨大な時間がかかる。幽世では肉体に縛られず、魂の力──魔力がものをいう世界。魔力を消費すれば時間を短縮することもできるが、最深部へ到達するまでに消費する魔力は計り知れない。魔力を失えば、テクノスを倒すこともできなくなる」
テクノスの元へ行くまでに力を使い切ってしまうってことか。確かにそれじゃ本末転倒だな。
「そこでこの地獄炉だ。テクノスの生み出したこの魔導具は、テクノスのいる地獄へと繋がっている。最深部までとはいかずとも、かなり近くまで繋がっているはずだ。いわば地獄炉は、テクノスへの近道ってわけだ」
「なるほどな。でもよ、確保ってどうするんだ?」
「それは俺を信じて任せて欲しい」
オウガがキッパリと言い切る。カザンを見ると、静かに頷いていた。
それなら、俺から聞く事はない。カザンが信じろと言うなら、俺は信じるだけだ。
「これを見てくれ。これは、王国の騎士団が作成したゲヘナ周辺の地図と、城塞内部の見取り図だ」
オルメンタがテーブルに地図と見取り図を広げる。ここよりも高い位置から見れば、確かに内部も見えるだろうが、よくここまで精巧な見取り図が描けるものだ。居住区っぽい家々や、教会のようなもの、偉い人が住んでそうな大邸宅っぽいものまで描写されている。
「これ、人が住んでるのか?」
「いや、これは恐らく地獄炉を隠すためのダミーだ。私たちは、この多くの建物から地獄炉を探さないといけない」
オルメンタがため息混じりに話す。
ゲームだと1番大きな建物に設置してそうなものだが、流石にそういうわけにはいかないか……。この中から探すとなるとかなり骨が折れそうだ。しかも、上にあるのか下にあるのかも分からないんだ。
「僕、地獄炉の位置分かるよ?」
全員がタツを見る。
そうだった、タツは魔力の流れも分かるんだった。ってことはタツがいれば解決じゃないか!
「ここからでも分かるのか?」
「うん。見えるんだけど……これ、見取り図の建物と今の建物が一致してないと思うんだ」
「まさか、定期的に建物を変化させてるのか? だとすると、地獄炉も移動している可能性が高い。この見取り図は役に立たないか……」
オルメンタが見取り図を丸めようとする。
「あ、それもらっていい!? もっと高いとこから確認して、地獄炉がどこにあるか書き込んでくるよ! 今の位置と建物さえ分かれば大丈夫だもんね?」
「あ、あぁ。構わないが」
見取り図を受け取って外に向かおうとするタツを、ガウロンが引き止める。
「どうする気だ?」
「空飛んで見ようかなって」
タツがあっさりと言い放った空飛ぶ発言。その場にいた女性陣が目をパチクリさせている。だが、ガウロンはまるで疑う事なく話を続けた。
「空を飛ぶのはやめておけ」
「え、なんで?」
「奴らもこちらを監視している。飛行能力を持つものがいると分かれば、何か対策をしてくるかもしれん。今は、奴らを刺激する行為は慎むべきだ」
「そっかー。うーん、どうしよう?」
「城塞内部を覗ける場所に連れて行ってやる。行くぞ」
「え? う、うん。ありがとう!」
そう言って出ていくガウロンの後に続くタツ。
なんか、すごく息が合ってる感じだ。タツの言ったことを、微塵も疑うことなく行動するガウロン。タツの事を信用してくれているのが素直に嬉しかった。
「地獄炉の事は2人に任せよう。2人が戻るまでに、作戦を立てるぞ」
オウガがオルメンタに視線を送る。小さく頷いたオルメンタがゲヘナ周辺の地図に手を置く。
「このゲヘナ城塞には入り口がなく、左右は岩壁に囲まれた天然の要害です。そして大小様々な丘によって形成された土地、正面以外は軍で戦う事は困難です。そして、地獄炉を確保する為には城塞の内部へと侵入しなければなりません。ここは、侵入するメンバーを厳選して、正面で陽動作戦を行うのが得策かと」
「そうだな。そして遅くなったが、リリシアの質問に答えよう。恐らく3体のヴィクターを殺せば──地獄炉は暴走するのだろう」
「暴走?」
「今は制御されているが、手当たり次第に魂や魔力を吸収し、多くの妖魔を排出する。恐らくその際には、その力に耐えきれず地獄炉も崩壊するだろう」
暴走──アマツクニでプラームが自分を贄にした事を思い出す。もしかして、あれも地獄炉を暴走させたのかもしれない。山に潰されたので地獄炉がどうなったのかは見てないが、恐らく同じことが起きるのだろう。
しかも、多分あいつらは任意に暴走させることもできる気がする。下手に追い詰めると、暴走させる可能性があるってことだ。
「地獄炉を失うわけにはいかない。俺が地獄炉を手に入れるまで、ヴィクターは倒さず時間を稼ぐ必要がある」
敵を全部倒してゲット! って訳にはいかないのか……。これは、思ってたより難しいのかもしれないぞ。
「オウガ様、よろしいでしょうか?」
「オルメンタ、何かいい案が浮かんだか?」
オルメンタがここにいる俺たち全員の顔を見回す。そして力強く微笑み、高らかに宣言した。
「はい! ここにいる全員の力をもってすれば、必ず成功します!」
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