第3話:集いし仲間達
「同年代?」
オウガが疑問を呈す。その疑問に対して、リリシアとフラウエルは首を傾げる。
……なんだ? こいつらには俺たちの姿が違って見えているのか?
確かに俺たちの元の年齢を考えれば、こいつらと同年代位だろう。しかし他の連中には、俺たちは老人と子供にしか映っていない。一体何が起きているんだ?
俺はチラリとタツを見る。タツも困惑しているようだ。顔は青ざめ、汗をかいている。そんなにビックリしなくてもいいのに。
「まぁこいつら本当は18と16らしいからな。でも見た目はジジィとガキだ。お前ら本当はババァだったりするのか?」
カザンの冗談混じりの発言に、リリシアが食って掛かる。
「誰がババァよ!? っていうかあんた誰よ? 偉そうにしてんじゃないわよ」
偉そうなのはお前だと思うんだが。だがややこしくなりそうなので黙っておく。
「リリシア、こいつがカザンだ。そしてこっちがカシュー、こっちがペロンドだ」
「カザン? ふーん、こいつがねぇ。ふーん」
カシューとペロンドには見向きもせず、カザンを物色するように眺めるリリシア。ペロンドが悲しそうな顔をしている。
「お前がリリシアか。なるほどな、オルメンタが言った通りの女みたいだな」
「何が言った通りなのよ?」
「自意識過剰のダチョウ女だ、ってな」
「…………??」
意味が分からなかったのか、リリシアがフルティナの顔を見る。ニッコリと笑ったフルティナが説明を開始した。
「ダチョウっていうのはアニマライズに生息してる大型の鳥類で、免疫力が強くて病気にならないし、傷の治りも早いんだって! 走る速度が早くてスタミナもあるけど、頭が悪いらしいよ! 危険な状況を省みず突撃しちゃったり、何してたか忘れちゃうらしいね! あはは! 確かにお姉様っぽいね!」
言い方ぁ!! このフルティナって子、空気が読めないんじゃないか!?
リリシアが口をパクパクさせながら、みるみる顔が赤くなっていく。
「────くすッ」
リリシアの隣にいるフラウエルが肩を震わしている。手で口を抑えているが、笑っているのはモロバレだ。
「ふ、フラウ! あんた何笑ってんのよ!? 友達が馬鹿にされてるのよ!!」
「ご、ごめんなさいリリィ! で……でも……ぷふッ……と、特徴が一致しすぎてッ────」
笑うのを必死に堪えようとして、逆にツボに入ってしまったようだな。我慢しすぎてフラウエルの顔は耳まで真っ赤だ。それに釣られてか、ルリニアさんも顔を手で覆い隠している。
「お、おい! いい加減にしないか!! 今の状況を分かっているのか!?」
オルメンタが声を荒らげ注意してくるが、その口角は上がっている。そしてその横では白銀の騎士が鎧を震わせている。……これオウガも笑ってるよな?
「お前がダチョウ女なんて言うのが悪ぃんだろ?」
「そうよ! この鶏ガラ女!!」
カザンとリリシアに責められるオルメンタ。後ずさりしながらも、リリシアの悪口に怒り心頭のようだ。
ギャーギャーと言い合う仲間達。作戦会議じゃなかったのか?いつまで経っても止むことのない喧騒に、俺は遂に我慢できなくなった────
「ぷッ──ははははッ!」
堪らず吹き出してしまった。
なんだよこいつら、面白いじゃないか。初対面だし、俺なりに緊張してたんだけどな。目の前で繰り広げられるドタバタ劇を前にして、すっかり気が抜けちまった。本当に、同年代の友達みたいだ。
俺が笑ってると、みんなの視線が俺に集まっていた。
「はは、あー……わりぃわりぃ。我慢できなかったわ」
「何笑ってんのよ! 元はと言えばあんたが原因でしょ、このジジイ───って、あれ?」
「え?」
リリシアとフラウエルが目を白黒させている。どうしたんだ?
「な、なんで? さっきまで確かに……」
「おじいさんと子供になってる……」
マジで意味が分からない。何で老人と子供に見え方が変わったんだ? 一体何が起きてるんだよ!?
──幕舎内を妙な沈黙が包み込んだ時、再び幕が開かれ、1人の男が入ってきた。
「ガウロン、戻ったか」
「馬がなくてな。戻るのに時間がかかった」
オウガが口にした名前。ガウロン──ティエンタの英雄と呼ばれるA・Sの男。
カザンは、このガウロンの事を “切り札“ だと言っていた。実物を目の前にしてみて、その言葉の意味が分かった気がする。カザンとはまた違った、強者の風格というものが伝わってくる。
タツの目には、ガウロンはどう映っているのだろうか?
「いよぉ、ガウロン」
「戻ったか、カザン」
カザンが手を挙げ挨拶を交わす。その横でカシューとペロンドも手を挙げ、ガウロンが静かに頷いていた。
「全員揃ったな。初対面の者も多い、一度自己紹介しておこうか」
そう切り出したのはオウガだった。一方的な情報ばかりで、俺とタツについてはみんな知らないもんな。その提案には大賛成だ。
オウガを先頭に、順番に軽く自己紹介を行なった。そして最後にガウロンが名乗った時、フルティナがさっきの話題を持ち出した。
「ねーねーガウりん。ガウりんには2人がどう見える?」
それは俺も気になっていた。さっきの2人もA・S、ガウロンもA・Sだ。A・Sには何か違った見え方があるのかもしれない。
……しかし、ガウロンがA・Sというのは秘密のことらしいが、このフルティナって子はそれを知っているのだろうか? 別にそんな意図は無く、聞いたのはただの偶然かもしれないが。
「どうでもいいことだ」
このガウロンの発言で、俺たちの容姿についての話題は終わってしまった。俺たちにとって気になることではあるが、まぁ今はそれよりも優先することがあるしな。質問をしたフルティナも、 “そっかそっかー” と言って、それ以上追求しなかった。
「シンとタツのおかげで敵は沈黙している。現状を整理しよう。まずはガウロン、テラスとクレセント騎士団はどうなった?」
「クレセントが囮となり、テラスは無事に脱出した。クレセント側はかなりの被害を被ったようだが──」
「が、ガウロンさん。あの、団長のドリューズさんは?」
「無事だ。奴は、最後は自分を囮として味方を逃していた。勇敢に戦っていたぞ、フラウエル」
「そうですか、無事でしたか……」
ホッとため息を吐くフラウエル。その団長さんとは知り合いなのだろうか?
「敵は殲滅したのか?」
「レヴェナントと変異種はあらかた始末した。だが、ランシラスと名乗るヴィクターは撤退した」
「お前が取り逃がしたのか? 珍しいな」
カザンの言葉から、いかにガウロンを信頼しているのかが伝わってくる。オウガも信頼しているように、やはりこのガウロンは相当な強さなのだろう。
「少し気になることがあってな」
「気になること?」
オルメンタが首を傾げる。
「ランシラスの魂が、何かに繋がっているのが視えた。地獄炉と直結して、魔力を補給しているのかと思ったのだが────」
「違ったのか?」
「分からん。だが、嫌な予感がしたのでな。奴を仕留めるのは保留しておいた」
そういえば、このガウロンはタツと同じく魂が視えるらしい。ただ、その精度はタツと比較すれば数段劣るとカザンが言っていたが……タツに聞けば何か分かるかもしれない。
「なぁ、タツ」
「──へ?」
またボケっとしてやがった。大方、ガウロンを視ていたのだろう。口数が少なすぎて存在が薄くなってるぞタツ!
「どうしたの?」
「聞いてなかったのかよ。お前なら、ここから敵の様子が分かるんじゃないか?」
「え、うん。ちょっと待ってね!」
タツが慌てて城塞方面に視線を向ける。自分で言っといてなんだが、この距離から視えるかな?
「うーん、ヴィクターが4人いるかなぁ。その内の3人から、何か紐みたいなものが伸びてるね。これは────地獄炉と繋がってるみたい」
タツがそう発言すると、その場にいたほとんどが感嘆の声を漏らした。この距離からでも敵の数が分かるというタツの能力の利便性、それも仕方ないことだ。
「3人? もう1人は?」
「特に何も繋がってないね。うーん、なんか見たことある気がする魂なんだけど……」
オルメンタの質問に、腕を組み首を傾げるタツ。ヴィクターで見た事がある魂なんていたか?
「地獄炉と繋がっている。ガウロンの予想と一致したが、3人だけというのも分からない。ただの魔力供給ではないのか?」
オウガにも分からないようだ。ただ、ガウロンが嫌な予感がしたと言っていた。多分何かあるのだろうが……。
「なんか……僕には導火線みたいに視えるけど──」
「導火線?」
「うん。なんていうか、ヴィクター達から火がついて地獄炉がドカン! って感じがする」
そのタツの言葉を聞いて、オルメンタの顔色が変わる。そして視線をオウガに向けると、オウガがゆっくりと頷いた。
「……なんということだ。俺たちはもう少しで間違えるところだった。礼を言うよタツ」
「え? ど、どういたしまして」
どゆこと? 俺にはさっぱり分からない。
「ガウロン、よく踏みとどまってくれた。お前の直感は正しかったようだ」
「そうか、やはりな」
おーい、誰か説明してくれ!! 俺だけ置いてけぼり食らってる感じなんだが!?
「ちょっと。ワケわかんないこと言ってないで説明してよ」
ナイスだリリシア! こういう時、物怖じせず聞けるのは才能だぞ才能。
「あぁ、すまなかった。その前に、この戦いにおける俺たちの目的を教えておこう」
オウガがテーブルの上に手を置き、静かに宣言する。
「俺たちの目的────それは、ゲヘナ城塞に設置された地獄炉を無傷で手に入れる事だ」
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