第2話:魂の視え方
「ごめんよシン! あまりにすごかったからつい……」
今回は自分の魔力だけでなく、周りの熱も利用したから腰痛程度で済んだけど、やっぱりタツの助力がないと駄目だった。城壁と共に崩れ落ちた俺を、タツが必死に介護してくれている。
「はっはっは、カッコよく決めたのに台無しだなシン!」
カザンが愉快そうに笑っている。
技名まで考えてこの場に臨んだのに、最後にこの体たらく。あぁ、恥ずかしい! 誰も見てない事を祈るばかりだ。
タツのおかげで激痛と痺れもなくなり、せめてもの足掻きで平然を装って立ち上がる。
「大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。この技は封印しようタツ」
「え!? もったいない!!」
2度目の封印。今後この技を使う度に、今日の事を思い出して気持ちが萎えそうだ。城壁を破壊してカッコよく去るつもりだったのに……。
「よし、行くぞ」
「へーい」
カザンに付いて、俺たちも撤退する。ガラガラと崩れ落ちる城壁の音以外は、異様なほど静かだった。気づけば全てのレヴェナントがいなくなり、戦闘は停止していた。
ラヴィの予想通り、城壁を破壊したことで、リソースを城壁内の防衛と修復にまわしたのだろう。敵も、まさか城壁の一面全てが壊されるなんて思っていなかったはずだ。“全滅のカザン” という存在を除いては。
カザン以外にも、城壁を破壊できる者がいるという事に敵は警戒し、身動きが取り辛くなるはず。この結果はきっと俺たちに有利に働くことになる。そう確信し、陣地へと引き上げた。
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────多くの幕舎が設置された陣地に、続々と仲間達が引き上げてくる。カシューとペロンド達も、少し後に戻ってきていた。そして、カザンと向き合う1人の騎士。白銀の鎧で身を固めた、絵本にでも出てきそうな騎士。聞くまでもなかった、この騎士が誰なのかを。
「──カザン」
「いよぉオウガ。久しぶりだな」
お互いの拳を軽くぶつけ合い、挨拶を交わす2人。それだけで、2人の関係の深さを感じ取ることができた。そして、そのオウガの後ろにいる女性──グレーのショートカットの髪に、美しいオッドアイと泣きぼくろが特徴的な、凛然とした女性。
「オルメンタ、姉妹達と再会できたらしいな」
「久しぶりだなカザン。お前がいない間に色々あったが、無事再会できたよ」
嬉しそうに顔を綻ばせるオルメンタ。話に聞いていた、離れ離れになった姉妹達と無事再会できたらしい。それにしても、本当に嬉しそうな顔をしている。
感動の再会シーンを眺めていると、オウガが視線をこちらへと向ける。
「さっきは見事だった。カザン以外の人間に城壁を破壊されるとは、向こうも思っていなかっただろう。俺がオウガだ」
「シンだ。ちなみに、破壊した後は見てないよな?」
「タツです。初めまして!」
「早速だが、2人とも付いてきてもらえるかな?」
「あぁ」
俺たちは、一際大きな幕舎へと案内された。中央に設置されたテーブルには、この城塞付近の地図らしきものが置かれており、まさしく作戦会議といった感じだ。
今ここにいるのはオウガと俺とタツ、カザン、カシューにペロンド、そしてオルメンタの7人。話に聞いていたガウロンはいないようだ。
「もうすぐフラウエル達もやって来る。5番隊の話によると、ガウロンは単騎で正規軍の救援に向かったらしい。しばらくすれば戻ってくるだろう」
単騎で救援……でも、オウガの言葉からは、まるでガウロンを心配している様子がない。戻って来ることを確信しているようだ。それは占いによるものなのか、それとも純粋にガウロンという男を信頼しているからなのか……まぁ、恐らく後者なのだろう。
「まずは、礼を言わせてくれ。君たちのおかげでレヴェナント達は撤退し、大きく時間を稼ぐことができた」
「いいってことよ。あれ位、俺たちには朝飯前よ。なぁ、タツ?」
そう言ってタツに振ったが、タツから反応がない。タツは瞬きもせずオウガの事を見ている。
「おい、タツ」
「ッ!? あ、ごめん!」
俺が肩を叩くとやっと反応した。
「そうか……君には視えてるんだね? でも今は────」
そう言って、オウガが口元に人差し指を当てる。タツは小さく頷いて、何も言わなかった。
タツは人の魂が視える。オウガは、神の呪いを宿しているとラヴィから聞いた。恐らくタツにはそれが視えたのだろう。
そんなやりとりをしていると、幕が開かれ新たな人物達が顔を出す。
一目見た正直な感想だ。全員が美人だった。戦場には似つかわしくない美女達。なんとなく恥ずかしくなってタツを見ると、タツはまたもや呆けていた。見たこともないような綺麗な魂がいるって言ってたけど、もしかしてこの4人の中にいるのか?
「呼び出してすまない。魔力砲を破壊したのはフルティナか? よくやってくれた」
「へへーん。もっと褒めて褒めて!!」
フルティナと呼ばれたポニーテールの女の子が、オウガに褒められて鼻を高くしている。どことなくタツっぽい。
「4人に怪我はないようだな。フラウ、すまないが怪我人が多く出ている。後で診てやって欲しい」
「はい。今すぐ行きましょうか?」
「いや、戻ってきたのは軽傷者のみだ。後からでいい」
「…………わかりました」
オウガの言葉に目を伏せるフラウエルと呼ばれた栗毛の女の子。恐らく多くの仲間が死んだのだろう。
一見するとおっとりとした可愛らしい女の子に見えるが、その目からは力強さを感じる。
話に聞いていたA・Sの治癒士とはこの子の事だろう。タツ曰く、A・Sの魂は太陽石のように虹色らしい。ってことはタツが見惚れてるのはこの子か?
「リリシアもすまないが手伝ってくれないか? フラウだけでは時間がかかる」
「治癒士の真似事はもうしないって決めたんだけど。ま、仕方ないわね」
高飛車な態度をとる、派手な服装のリリシアという女性。もしかしてこの人もA・Sなのかな? 気になってタツに聞いてみた。
「なぁタツ。どっちの人がA・Sなんだ?」
「2人ともA・Sだよ。なんて綺麗なんだろう…………」
完全に見惚れてるわ。まぁ、その気持ちも分からないでもない。
特にこのリリシアという女性……超が付くほど美人だし、何よりスタイルがいい。黒を基調とした服は体のラインがくっきりしてるし、腰のクビレが丸見えのヘソ出しルック。男なら誰もが振り返る容姿だろう。
「ちょっと、何見てんのよ? ヤラシイ目で見ないでよね」
あっ…………。
「おいタツ、A・Sは癒し系じゃないのかよ? 見間違えてるんじゃないのか?」
「失礼だよシン。魂は綺麗だよ、魂は」
「あんたも失礼なのよ!! “魂は” って何よ!? “は” って!!?」
「ね、姉様! 抑えて下さい! 相手は子供ですよ!?」
後ろにいた金髪の美女がリリシアを抑えてくれている。多分、この人がルリニアさんだろう。見た目からして優しそうな女性だ。この人がA・Sじゃないのか?
そしてこの後────リリシアとフラウエルの発言によって、俺とタツは困惑することになる。
「はぁ? 子供? 何言ってんのよ。どう見てもあたしらと同年代でしょ。ねぇフラウ?」
「うん、そうだよね?」
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