第1話:ドラゴンハート
第三章開始です!みなさん、よろしくお願いします!!
丘の上から見下ろす戦場の景色。敵の最大拠点と呼ばれるゲヘナ城塞。その巨大さと異様さは、そこにあるだけで敵を威圧するようだ。
城塞の一部が爆発したことによる焦げ臭い匂いが、風によってここまで運ばれてくる。だがその匂いが、決して破壊できない壁ではないと教えてくれた。
眼下で敵に囲まれているのが、カザンたちの真のリーダーであるオウガの率いる部隊。今はこちらに気を取られて両軍とも動きを止めているが、依然ピンチなのには変わらない。
「さぁいくぜ、テメェら。カシューとペロンドの部隊はオウガの援護に行け。正面から来る敵は俺が相手をする。城壁はシンとタツに任せるぜ」
事前に打ち合わせた通りだ。このゲヘナ城塞は、レヴェナントを転移させるのにも、魔力砲を撃つのにも、そして城壁を修復するのにも魔力を消耗する。もし城壁の大部分を破壊することができたのなら、一時的にではあるが全ての機能をストップさせる事ができる、というのがラヴィの考えだ。
カシューとペロンドの部隊はオウガの救援へ。俺とタツ、そしてカザンで真正面から城壁を破壊する。
ふっふっふ、俺達の力を見せるにはうってつけの作戦というわけだ。
カザンがレガリアである戦斧を引っ込め、背中に差した大剣を手に取る。
「いくぞぉぉ!!」
カザンの号令をうけ、全員が駆け出す。丘を下り、敵であるレヴェナントの大群に攻め入るカシュー達を横目に、俺たちは真っ直ぐに城壁へと向かって突き進む。
俺達の前方に黒い闇が広がり始める。続々と形作られていく死兵達。だが、先行するカザンの剣によって、動き出す前に蹴散らされていく。
「雑魚は任せな」
「あぁ。しかし、お前今日は剣なんだな?」
「あの金棒特注なんだよ」
そりゃすまんかった。アマツクニで俺が折っちゃったからな。俺達の路を切り開いてくれるカザンに続き、どんどんと城壁へと近づいていく。警戒していた魔力砲は、未だ沈黙したままだ。爆発したことで警戒してるのか、こちらを狙ってくる様子はない。
そしてレヴェナントだが、確かにアマツクニで見た奴らとは比べ物にならない。人と遜色のない動き、的確に繰り出してくる槍。だが、それでもカザンの敵ではないようだ。なまじ動きがいいからか、カザンに対して尻込みしてるようにも見える。
カザンの振るう大剣によって両断され、ダインの巨躯に吹き飛ばされている。
「カザン、ここでいい!!」
「よし、始めな!」
前方で戦うカザンを呼び止める。城壁まではまだ距離があるが、ここで十分だ。
「始めるぜタツ」
「やっと喋れた! ところで何をするの、シン?」
そう、俺はタツにも秘密にしていた。今回の決戦にと考えてきた────必殺技の事を。
何故秘密にしたか? それはその方が盛り上がるからだ。
だが、勘違いしないで欲しい。これは決して酔狂でやっていることではない。ちゃんと理由があるのだ。
まず、エーテルフォージと呼ばれる魔力量の上昇。これは砕いて言うなら、テンションが上がればその分強くなるということだ。必殺技も、ここぞというときに使うからこそ意味がある。滅多に見せないからこそ、必殺となり得るのだ。
俺が必殺技を内緒にすることで期待できる効果はこうだ。
俺はタツにカッコいいところを見せれる→テンションが上がる
タツはあまりのカッコよさに驚く→テンションぶち上げ
ということだ。これにより2人の魔力量は天上知らず、必殺技の威力も上がるというもの。
そして、共鳴魔力と呼ばれるモノの存在。レゾンを操ることができるもの、魔力を消費しレゾンを生み出すことができるもの、逆にレゾンを魔力に変換できるものといくつかに分類される。
自身の魔力を消費して火を操ることができても、火から魔力を得ることはできない者がいるってわけだ。
どれもできるのが理想だが、ただでさえ見つけることの難しいレゾンに高望みはできない。
では、俺はどうなのか?
結論から言うと、俺はその全てが可能だった。俺はレゾンを操り、レゾンを魔力に変換することもできた。そして、レゾンを生み出すことも。
俺はこの世界に来てからずっと考えていた。
初めは偽物かと思った。そして、次はゲーム的な耐性でもあるのかと思い込んでいた。マグマをものともせず、タツの火炎放射でも火傷すら負わず、カザンの作り出した灼熱地獄すらも耐え切った。
そう────俺のレゾンは【熱量】だった。温度と言うべきか悩んだが、熱が高ければ高いほど俺の力も上がる為、あえて熱量と表現した。
そう考えれば、今までの出来事にも納得がいった。特にカザンとの戦いでは、俺たちはレガリアを身に纏い、信じられないような力を発揮した。
今思えば、あれは俺とタツのエーテルフォージに加え、カザンの灼熱地獄による強大なバフがかかっていたということだ。まぁ、相性が良かったってことだな。
一つ疑問なのは、何故かタツも平気だったって事なのだが、今はよしとしよう。
そして最後に、人間にとって切っても切り離せないモノをレゾンに持ち、全てが可能な者を【強化常態】と呼ぶ。このオリジンは常に身体能力と魔力に強化がかかっている状態で、常人とは比較にならない強さを持つらしい。
だが、デメリットもある。強大さ故の反動なのか、身近にあり過ぎるものを変換するせいなのか、このオリジンは何かしらの副作用を抱えている。
そして、俺はこのオリジンだった。生きていく為に自ら発する熱、そして周囲を取り巻く熱──それらを思い通りに生み出し、操ることができる。
ラヴィに確認したが、間違いなくオリジンに分類されると言われた。
ではデメリットは何か? もう言うまでもないだろうが────腰痛を始めとした症状だ。熱を放出し過ぎて起こる体の硬直、そして知能や身体能力の低下。それが俺の副作用だ。
だが、その副作用も気にする必要はない。
なぜなら! 俺にはタツという相棒がいるからだ!!
例え力を使い過ぎて副作用が起きても、タツに治して貰えば何の問題もない。そう、俺たちは…………常に2人で戦うのだ!
説明が長くなったが、俺は気を取り直してタツに宣言する。
「タツ────封印を解くぜ」
「封印? …………ま、まさかッ──あの技を!?」
ふっふっふ、さすが俺の相棒。打ち合わせもなく、俺の思った通りに盛り上げてくれる。
「あぁ。ついに封印を解く時が来たんだ」
「封印してから半月も経ってないけどいいの?」
「盛り下げるんじゃない! よーく見とけよ、タツ!!」
若干動揺しながらも、俺は構えを取る。だが、前にやった構えではない。
俺は両手を自分の心臓の前あたりに持ってくる。こっちの方がタツを背負っている体勢でもやりやすく、何よりイメージしやすかったからだ。決してパクリを考慮したからではない、ちゃんと理由があるのだ。
──両手で軽く円を作る。その中心に、自分の熱を──そして魔力を熱に変換して集めていく。
そして、それだけではない。俺を取り巻く周囲、タツを除く周りから熱を集め始める。
高められ、圧縮されていく熱の塊。金色の光を放ちながら成長していく光の玉は、さながら擬似太陽だった。そして高熱を内包する光玉とは反対に、俺達の周りの地面が凍りついていき、空中で何かがキラキラと光り輝いている。
それはダイヤモンドダストという現象だった。熱を奪われ、凍った空気中の水分が、俺の作り出した擬似太陽の光を反射している。その相反する二つが織りなす不思議な光景は、きっとタツを魅了するだろう。
「す……すごいッ」
思った通り、タツはこの光景に見惚れている。
背中越しに感じる──タツのテンションが…… "タツの心" のボルテージは最高潮だということが!
「カザン!!」
「おう!」
俺の呼びかけに、前方で戦っていたカザンが反転する。俺達の後ろに回り込んだ事を確認し、俺は高らかに叫んだ。
「コウタ達への弔い火だぜ!! これが俺たちの────────必殺! 【龍の心】だあぁぁ!!!!」
効果のほどは定かではないが、より破壊力を増すために両手に捻りを加えて突き出す。放たれた擬似太陽が、回転を伴いながら高速で城壁へと向かっていく。その道筋にいたレヴェナント達が、次々に発火していく。
その後の光景は、一度見た事のあるものだった。いや……前に見た時よりも、より洗練された光景だった
城壁に着弾した俺たちのドラゴンハートは、閃光と共に大爆発を起こした。魔力砲もろとも城壁を粉砕し、天高く爆煙が噴き上がる。大きく砕け散った城壁──だが、俺たちの必殺技の影響はそれだけではなかった。
城壁を覆うように張り巡らせてある、黒い血管のような物の内部を、光が侵食していく。まるで伝染するように血管の内部を遡っていく光は、瞬く間に残った城壁一面に広がっていった。
怪しい輝きを放っていた城壁はその力を失い、ボロボロと自壊し始める。たった一発の光弾が、2キロに渡る城壁を崩壊させたのだ。
「はっはっは! やるじゃねぇかテメェら! よし、引き上げるぞ!!」
後ろでこの光景を見ていたカザンが、上機嫌になっている。俺達の作戦はここまで、カザンに従おうとしたその時だった────
「ぐああああ!! こ、腰がぁぁぁぁッッ」
「え!? あッ、ごめん!!」
必殺技に見惚れ過ぎて、タツが俺への介護を忘れていたのだ。
やはり打ち合わせは必要、内緒はよくない。そう痛感したのであった。
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