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第3話:女傑たちの憂鬱

今回、シロガネ族5人のおまけ話となります。

 イズモ村を覆っていた瘴気は晴れ、雲ひとつ無い青空で太陽が燦々と輝いている。そんな暖かな日光が降り注ぐ峠の茶屋にて、見目麗しき五人の女性が休息を取っている。


 イズモ村へと馳せ参じたシロガネ族の戦士、ギンレイ、ユヅキ、シロハナ、レイナ、ミズホの五人は、仮面を外し思い思いに団子とお茶を口にしていた。



「ったくよ〜。こんなに急いで帰ることもないだろ〜」

「そうですねー。さすがに疲れましたしねー」


 ユヅキが団子を口いっぱいに頬張りながら不機嫌そうにボヤいた。そんなユヅキに対して、シロハナはお茶を飲みながらのほほんと相槌を打っている。


 

「イズモ村って温泉があるんですよね? 太陽石の魔力が染み出した魔力温泉!」

「……温泉入りたかった」


 温泉に想いを巡らせ心を躍らせるレイナ。そんなレイナとは対照的に、ミズホは恨めしそうな視線を一人の人物に向けた。



「……はぁ」


 視線を向けられた人物────戦士長ギンレイは仲間の愚痴に辟易したようにため息を吐いた。



「だから、悪いと思ってお団子をご馳走してるじゃないですか。それに、イズモ村の人達と接触してはならないと何度も言ってるでしょう」


「んなもん迷信だろ? あーあ、折角いい男見つける絶好の機会だったのに」

「そうですねー。イズモの男の方は逞しいらしいですもんねー」


「最近は結婚相手がいなくて、シロガネ族の人口も減ってきてるらしいですね!」

「……少子化」



「駄目なものは駄目なんです」


「んだよぉ。つまんねえな」

「そうですねー。でも掟ですもんねー」


「あっ!そういえば援軍に来てくれたカザン将軍、カッコよかったですね!」

「……しかも強い」


 カザンという名前にギンレイが反応し、口に運ぼうとしていた湯呑みがピタリと動きを止める。



「山を吹っ飛ばしたんだもんな。男はそれぐらい強くないとなぁ」

「そうですねー。ユヅキさんも山を吹っ飛ばしてましたよねー」


 <シロハナァ。ワタシヲ オトコダッテイイタイノカ〜?

 <フエエェェ、ゴカイデスウゥゥー



 カザンを話題にし、大いに盛り上がる乙女たち。戦士として強い男に惹かれるのは仕方ない反応と言える。

 ……だが、そんな四人とは違いギンレイは表情に影を落としていた。

 


 

「あの人は……駄目ですよ」


 ボソリと呟かれたギンレイの言葉に、四人の動きが止まる。



「ギンレイ、お前……」

「……」



「何だよお前、もしかして狙ってたのかぁ!? そういやイチャイチャ話してたよなぁ? 久々に会ったって言ってたなぁ!?」

「そうですねー。お耳が真っ赤でしたもんねー」


「そうそう! 私、あんなギンレイ様見たの初めてだったもん!!」

「……一往情深」


「ちッ、違います!!」


 ギンレイが顔を真っ赤にして否定するが、その反応を見た四人は含みのある笑みを浮かべて頷いた。


 

「いやぁー、そうかそうか。ギンレイにも春が来たかぁ」

「いいですねー。青春ですねー」


「ギンレイ様今年で24でしょ? そろそろ相手を見つけないとね!」

「……行き遅れちゃう」


「……貴方達、ユヅキは私と同い年なんですよ」


「シロハナァ……誰が行き遅れだってぇ?」

「ふえぇぇー!私は何も言ってませんーッ!!」


 シロハナを締め上げるユヅキであったが、そんな二人には目もくれずギンレイが勢いよく立ち上がる。

 

 

「とにかく! 駄目なものは駄目なんです!!」

「あっ、おい待てよ!」

「待ってくださいー」


「ほらミズキ、食べて食べて!」

「……むぐむぐ」


 仮面を装着し茶屋を後にするギンレイを、四人が慌てて追いかけるのであった────



 ☆



(彼は、……駄目なんです)


 ギンレイは知っていた。カザンが、誰の想いも受け入れるつもりがないということを。

 戦士として生き戦士として死ぬ。常に死と隣り合わせの自分が家庭を持つなんてあり得ない……そう考えていることを、ギンレイは知っているのだ。


 そして、ギンレイ自身も戦士の一族を率いる『戦士長』という立場にいる。だからこそ、戦士として生きるカザンの生き様を邪魔するつもりはない。しかし、カザンに対して恋心を抱いているのも事実。


 そんな二つの感情の(はざま)で、ギンレイは苦しんでいた。


 

(ツキナギ様は、どんな気持ちで嫁いで行ったのでしょうか)



 シロガネ族において、歴代最強の戦士長とまで称された武人……『華戰(かせん) 月凪(つきなぎ)』。ツキナギは、初対面のライヴィア王国 国王グスターヴに求婚され、それを受け入れた。


 ツキナギと同じ立場になり、シロガネ族の『戦士長』という重みをギンレイは知った。アマツクニ最強と謳われるシロガネ族の戦士長……それは、護国の要と言っても差し支えない。


 そんな戦士長の立場を、ツキナギはあっさりと放棄してしまった。


 初めて会った相手になぜ?

 一目惚れだったのだろうか?

 国を守ることより恋の方が優先されるのだろうか? 


 そんなことを考えるギンレイだったが、答えが出るはずもなくモヤモヤだけが募っていく。



 そもそも、ツキナギとギンレイでは状況も違う。ツギナギは求婚され国を去ったのだ。ギンレイはただの片思い……相手にすらされていないのだから。

 


 (不毛な考えでしたね)


 思考を切り替え、ギンレイは後ろに続く仲間へと視線を向けた。四人は茶屋の時と同じように、楽しそうに談笑している。



「今度みんなでパラディオンに行ってみません? 行ってみたいなぁ、水の都!」

「……まだ戦争中みたいだけど」


「戦争中かぁ。なら、今度は私たちが手を貸してやろうじゃん」

「どうせなら観光で行きたいですー」



「そうですね。機会があればみんなで行きましょうか」



 女としては無理でも、戦士としてならカザンの役に立てるかもしれない……そう考えた末のギンレイの言葉だったが、四人は顔を見合わせテンション高く叫んだ。



「おぉ、いいねいいね! 港町なんだろ? 海の男ってのも悪くないな!」

「そうですねー。お魚には困りませんねー」


「私たち、ナンパとかされちゃったりして! きゃー、ミズホどうする!?」

「……夢が広がる」


 

(戦士として彼の隣に立つ。再び相見えるその日まで……私も更なる研鑽を積むことにしましょう)


 

 一つの決意をし、ギンレイはしっかりと前を向いて進み始めた。

 憂鬱だった気持ちは消え去り、五人の美女はガールズトークに花を咲かせながら凱旋するのであった。

拙作を読んで頂きありがとうございます。感想・質問・指摘などしてもらえると嬉しいです。

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