第1話:新たな仲間達
【間章】は第一章のすぐ後の話になります。全7話を予定しています。
カザンさんと合流した僕たちは、南東へと向かって歩いていた。南東にあるという【イワミ】という港町で船に乗り、ライヴィア王国へと向かうらしい。
イワミまでは徒歩で二日程度。飛んでいけばすぐなんだろうけど、そうもいかない。乗り物に乗っているのはカザンさんだけで、みんな徒歩だった。
「なんでみんな馬に乗らないんだ?」
シンが至極真っ当な疑問をぶつけた。
正直言って僕もそう思う。流石に車とかはないんだろうけど、馬車ならイズモ村でも見たからね。
「よく聞いてくれたわね!……ホント、なんでかしらねぇ」
「だよねぇ。誰かさんのせいでなぁー」
シンの疑問に食いついたのはカシューさんとペロンドさんだった。二人はボヤきながらカザンさんをチラチラと見ている。
「カザンがどうかしたのか?」
「聞いてくれるシン。 あいつ……動物から嫌われてるのよ」
「そうそう。しかも『超』がつくほどね。おかげで馬に乗ろうにも、怯えて進まないわ逃げだすわで、仕方なくオレたちは徒歩なんだよ。オレたちはね」
コソコソと話すフリをしているけど、間違いなくカザンさんにも聞こえるように話してるね、これは。
「テメェら、俺が悪いって言いたいのか?」
「そうよ! アンタが悪いのよ!!」
「三日かけてイズモ村に来て戦って、即また同じ道を三日かけて帰国。……はぁ、温泉入りたかったなぁ」
ギャーギャーと言い合う三人。その様子を見て、周りの傭兵さんも頷いたり笑い合ったりしている。カザンさんによる恐怖で仕切られていると思ってたけど、結構フランクな仲みたいだね。
「みんな仲がいいんですね。もっと上下関係が厳しいのかと思ってました」
「俺たちゃ傭兵だぜ? 騎士様みたいにこだわりはねぇよ。タツ、お前も敬語なんか使わなくて呼び捨てにしな。シンだってそうしてるだろ」
確かにシンはそうしてる。みんなと打ち解けるためにも、僕もそうした方がいいかな?
「うん。じゃあそうするよ、カザン」
「へッ。それでいいんだよ」
敬語をやめただけで、すごくカザンと親しくなった気がする。それにカザンも嬉しそうだ。
「アタシ達のことも呼び捨てでいいからね、タッちゃん。徒歩同士仲良くしましょ〜ね」
「オレもオレも。苦労話に花を咲かせようね」
そう言いつつ、再びカザンに向けてチクチクとした言葉を放つ二人であった。
「……お前らも【ユニオン】と契約すればいいじゃねぇか」
「嫌よ。ただでさえ混じってるのに、もう一匹入れるなんて」
「 【綾陸国】までは船で五日でしょ? そんな長旅したくないな〜」
「ユニオンってのはなんだ?」
うん、それは僕も気になった。あと、カシューが言った『混じってる』ってのも気になるけど。
「ユニオンっていうのは使い魔のことで、自分と魂の契約を交わした動物や精霊のことよ」
「魂の契約?」
「まぁ簡単に言うと、魔力と肉体をやるから力を貸せって話ね。ユニオンとなった動物は主人の一部となり、魔力と肉体を借りて現界するのよ」
「動物や虫は魂に色を持たない。魂を術者の色に染めることができるんだ」
つまるところ召喚魔法って感じかな?
なんでもゲームに例えるのはどうかとは思うけど、そう考えた方がしっくりくるね。
ユニオンが主人と同じ魂の色になると主従契約完了ってことかな。
「そういえば、ダインもカザンと同じ色をしてるもんね」
「ダインとはどこで出会ったんだ?」
シンが少し食い気味にカザンに質問する。
そういえば、シンはこのダインに助けられたんだったよね。
「ダインとは【綾陸国アニマライズ】で出会ったんだ。こいつはそこで『荒神』と呼ばれる程の存在でな。いやぁ、強かったぜ」
「戦ったんだ?」
「あぁ。で、俺が勝ってこいつをユニオンにしたんだ。動物には珍しく、こいつは色付きだったみたいでな。かなりの苦痛を味わったはずだが……まぁ、こいつも外に出たがってたみたいだから丁度よかったんだな」
ダインには以前に契約者がいたってことなのかなぁ?
こんなすごい牛さんと契約してた人ってどんな人なんだろう……世紀末覇者みたいな人かな。
「アニマライズってどんな国なの?」
「動物しかいない国なのよ。大袈裟じゃなくてマジで人が一人もいないわ。海に囲まれてるし、空を飛ぶか船にでも乗らないと脱出できないでしょうね。『エリュイ』の方がまだマシね」
「エリュイ?」
「アタシの出身国の名前よ。世界で最も美しい国なんて言われてるけど、アタシに言わせれば文明の発展を放棄した後進国ね。まぁそれで言えばアマツクニも似た様なもんだけど、エリュイはそれ以上よ。動物同然の暮らし方をしてるわ。そのせいもあってか、エリュイの人間は動物の魂が混じってるのよ」
「あぁ、そういえばさっき混じってるって言ってたもんね」
「そうなのよ。あたしには鳥が混じってるわ。ちなみにこのペロンドもエリュイ出身よ」
「ちなみに俺は犬な。わんわん」
ペロンドが舌を出し、チンチンの真似をしている。
うーん、面白い人だ。
「ちなみにカシューは動物同然の暮らしって言ったけど、そこまでひどくないからね。エリュイってのは観光客が多くてさぁ、それ向けのパフォーマンスでもあるんだ」
「パフォーマンスでも何でも、腰蓑姿で見せ物にされるなんてまっぴらごめんよ!」
「ダイン……アニマライズ……空を飛ぶ……」
シンは僕たちの会話には参加せずに、ぶつぶつと何かを考えてるみたいだ。
でも何かを思い出すには至らなかったようで、ため息を吐いて首を振っている。
「そういえば、ダインに他の人は乗れないの?」
「呼び出すのは俺しか無理だが、誰でも乗れるぜ。タツ、乗ってみるか?」
「え、いいの?」
「あぁ」
ふふふ、実はちょっと興味あったんだよね。でっかい牛さんに乗ったことなんてないし。
カザンが快く了承してくれたので、カザンの前にお邪魔することにした。
おぉ、これが乗馬……もとい乗牛かぁ。
乗り心地は悪くないし、揺れもそんなにない。カザンの魔力をもらって現界してるらしいけど、その辺が普通の牛さんとは違う感じにカスタマイズされているのかも。黒金の鎧も暖かくて心地良い。
そう思い黒金の鎧を撫でていると────僕の身体に異変が起き始めた。
そこまで揺れがないはずなのに、世界が回るかのように揺れ出した。まるで身動きの取れない密室に閉じ込められたかのような閉塞感が襲いかかり、激しい吐き気が込み上げてくる。
「うッ……」
「お、おい! どうしたタツ!?」
僕の異変に気づいたシンが、僕をダインから離すように持ち上げてくれた。
「だ、大丈夫? 顔が真っ青よ」
「酔ったのかな?」
「も、もしかしたら……そうかも」
「乗り物酔い? お前、そんなに乗り物に弱かったっけ?」
僕は乗り物酔いをするほうじゃなかったと思う。この身体になったことで何かが変わってしまったのかな……。
「悪かったな。まさかそんなに酔うとは……」
「いやいや、僕自身びっくりだよ。もう大丈夫だから!」
カザンが申し訳なさそうにしてるので、回復具合をアピールしておいた。
一緒に乗っけてもらえば楽できるかなぁ〜、なんて少し思ってたけど……頑張って歩くことにしよう。
☆
結局そのあとは、色々なことを話しながら歩き続けた。
僕達は『共鳴魔力』 と『レガリア』についての話に聞き入っていた。魂に色があるように、人には共鳴魔力と呼ばれる波長の合うものが存在らしい。
火を例にしてみると、『自分の魔力を消費して火を操ることができる者』・『火を取り込み魔力を回復することができる者』・『自ら火を生み出すことができる者』・『それら全てを行える者』の4つに区分される。
それらを簡単な言葉にすると、『操作』・『吸収』・『生成』・『万能』になるみたいだね。
そして人間にとって切っても切り離せないモノを共鳴魔力に持ち、更に万能状態にある人を【強化常態】と呼んでいるらしい。オリジンは常人離れした膂力と魔力を有していて、A・Sより珍しい存在なんだってさ。
共鳴魔力も星の数ほどあるけど、『空気』とか『水』とかがオリジンの条件と一致するみたいだね。
ただこのオリジン……完全無欠というわけでは無く、何かしらのデメリット・副作用を抱えてるみたい。強者故の弱点、強い力には反動があるってことらしい。
実はシンもオリジンで、副作用が腰痛やボケだったりして……っていうのは無理があるかな? もしかしたらと思ったんだけど。
『レガリア』についても色々と聞いた。
共鳴魔力を最大限に引き出すために、殺意という凶悪な感情を制御して具現化する魂の武具……その強大な力を操る存在を『玉璽保持者』という。
もちろんカザンはその玉璽保持者で、カシューとペロンドもそうらしい。
でも、カザンと二人ではあまりにも力の差がありすぎる。一概に玉璽保持者と言っても、レガリアに目覚めた方法や魔力量で大分違ってくるみたいだね。
☆
────色んなことを聞きながら随分歩いた。辺りも随分薄暗くなってきている。
『野営の準備とかしないのかなぁ』と僕が思っていると、カザンがみんなに向かってこう告げた。
「このまま行くぞ。昼までにはイワミに着くだろう」
うへぇ、夜通し歩くみたい。
でも、みんなから不平不満の声は聞こえてこない。みんな慣れてるんだね。
それどころか、疲労を感じさせない笑い声が飛び交っている。
「お、おじいさん。挨拶が遅れちゃって」
「おぉ、フィンじゃないか。お前だけは八つ裂きにしてやろうと思ってたんだ」
オドオドと近づいてきた少年に、シンがぼきぼきと指を鳴らしている。
「ひぃ! ご、ごめんなさい!!」
「はっはっは! 冗談だよ。お前にも世話になったな」
シンがフィンという少年の肩をポンポンと叩くと、みんなが愉快そうに声を上げて笑う。
月明かりだけが頼りの薄暗い山中。
でも僕には……この笑い声に呼応するような魂の輝きが、山中を明るく照らしているのが視えていた。
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