第20.5話:騒動の種
ドリューズさんが去り、一人になった私ことフラウエル。
不慣れな作法を何となくこなし、一息ついたその時だった。背後からカシャカシャと奇妙な音がするのに気付いた。
その音がする方に振り返るけど、そこには積み上げられた荷物があるだけだった。
でも、人の気配に敏感な私はその裏に誰かがいるのが分かった。私が裏を覗き込むと、隠れるように一人の女性が縮こまっている。
「あ……」
「な、何で隠れてるんですか?」
明らかに慌てた様子で後ずさる女性。
うーん、怪しすぎる。
「隠れるだなんてとんでもない! 大事な話をされていた様なのでお邪魔にならないようにと!」
フワフワのクリーム色の髪を後ろで束ね、怪しく光る眼鏡をかけた女性。鎧などは身につけておらず軽装で、首からはカメラをぶら下げている。
「あの、私に何か?」
「ごほん、失礼しました。フラウエルさん、ですよね?」
「はい。……なんで私の名前を?」
ドリューズさんとの会話を聞いていたのだろうか? 私には全く覚えのない人だけど、どうして私の名前を知っているのだろう。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました」
ニヤリと笑ったその女性が、掛けられた眼鏡を手に取り天高く掲げる。
「これこそが! 我が祖国【エルキオン】の開発した『魔導具・ソウルスキャナー』!! 魂の情報を読み取り、その人物の名前を知ることができるのです!」
え、なにそれ!? すごいプライバシーの侵害なんだけど! 誇らしげに語ってるけど大問題だよねこれ!?
そしてこの女性が語ったエルキオンという国名。芸術の国と呼ばれ、賢者の国と呼ばれる【スワルギア】と並んで天才賢人を輩出している国だ。ちなみにラヴニール様はスワルギアの出身らしい。
そしてエルキオンはというと……はっきり言って変人が多い。奇人変人の天才が多いと言うべきかもしれない。
世界中に傍迷惑な魔導具や、マニアックな雑誌なんかも輸出している。以前みんなで話していた、異名持ちを掲載しているアリアス大全なんかも、このエルキオンの出版社だ。
私の祖国ソレイシアとエルキオンは、かなり仲が良い。国の元首である大公爵同士が妙に気が合うようで、その共通点はお金が大好きということ。そのため、私はエルキオンという国も少し苦手だった。
私が怪訝の目で女性を見ていると、何を勘違いしたのか胸を張って鼻を高くしている。
「ふっふっふ、安心してください。今は魂の表層である名前くらいしか読み取れませんが、いずれはその方の趣味嗜好・生い立ちまで解読してみせますよ!」
「いやいや! 安心できないんですけど!!」
「おっとっと、自己紹介が遅れてしまいました。私はミラと申します。フラウエルさん、少しお話いいですか?」
「え……えっと……」
一方的に話し始めるミラという名の女性。狼狽える私にはお構いなしだった。
偏見かもしれないけど、エルキオンの人って距離感がおかしいんだよね。出会った瞬間から親友になってるというか……。
「フラウエルさんは治癒士なんですよね? 出身はどちらで?」
「えと、ソレイシアですけど……」
「え、ソレイシアですか? ソレイシアの医師団は激戦区のゲヘナには派遣されないと聞いていたのですが……誤情報だったかな」
「あ、間違ってないですよ。私がいた医師団が壊滅しちゃって、その時助けてくれた傭兵団の人たちと行動してるんです」
「な、なんと。その医師団に生き残りはいなかったのですか?」
「生き残ったのは私だけで、両親も仲間も殺されました……」
「ご両親を!? それは……なんて痛ましい。それでも国に帰らず、単身ここで怪我人の治癒を?」
「まぁ……そうなります」
なるほどなるほどー、と言いながら手帳に何かを書き殴っている。
何これ……取材か何か?
「ちなみに! 昨晩から治癒に励んでおられた様ですが、何人ほど治癒されたんですか?」
「えぇと、数えてはいないですけど……多分百人位ですかね?」
「ひゃ、百人!? それはすごい!!」
「あ、でも! 私の友達は二百人以上の患者を診てたんで!」
驚愕するミラさんに恥ずかしくなって、ついリリィのことを言ってしまった。全員に治癒を施してたわけじゃないけど、癒しは与えてたみたいだし嘘は言ってないよね?
「それってリリシアさんのことですよね? 確かに、彼女のいる診療所には長蛇の列ができてましたね」
うッ、既にリリィの名前も獲得済みなんだ……。
「その時フラウエルさんはどちらに?」
「私は、重症者の方達を診てました」
「あの大きなテントですね? かなりの怪我を負った人が収容されてると聞いたのですが、何人ほどいたんですか?」
「28人でしたね」
「それをフラウエルさん一人でお治しに? 重傷患者ですよね?」
「一応……はい」
矢継ぎ早に繰り出される質問に抗いきれない。何か術中にハマってる気がしてくる。
「……マジかよ、聖女アラテア並じゃねぇか」
「え?」
ミラさんがメモを取りながらボソリと呟く。なんて言ったか聞き取れなかった。
「あぁ! いやいや、何でもないんです!! ところでさっき助けてくれた傭兵団と仰いましたが、なんて名前の傭兵団ですか?」
「カザン傭兵団ですけど……」
カザンと言う名前を聞いたミラさんの動きが一瞬止まる。そして、恐る恐る私に視線を向ける。
「えーと、カザンって……あの全滅のカザンですか?」
「た、多分そうです」
掛けられたメガネがキラリと光る。そして勢いを増したペンが、手帳に何かを記入していく。
「なるほどなるほど!あのカザンの部隊でしたか! カザン傭兵団所属の治癒士、と……貴重なお話をありがとうございます!!」
「い、いえ……」
「ご協力感謝します! 戦いが始まりそうなので私はこれで引き上げますね! ではフラウエルさん、お気をつけて!!」
そう言い残し、砂煙を上げ猛ダッシュで走り去るミラさん。
何てスピード……もう見えなくなりそう。履いてた靴が光ってた気がするけど、アレも魔導具なんだろうか?
「……何だったんだろう」
嵐が過ぎ去り、一人ポツンと取り残される私。
そして私は知らなかった。
この出来事が、後日パラディオンを巻き込む騒動に発展するという事を。
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