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タツノシン ~Astral Stories~  作者: コーポ6℃
第二章 As フラウエル
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第17話:作戦会議【前編】

 ゲヘナ城塞を見下ろすことができる小高い丘……そこに敷かれた陣に一際大きな天幕が存在している。天幕に立てられた五種類の紋章旗。そこへ、兵卒によって新たな紋章旗が掲げられる。それは水の都パラディオンの紋章旗だった。

 

 傭兵にすぎないオウガ達の旗が、王国の騎士団と同等の扱いを受けている。これこそが、カザン傭兵団が救国の英雄と評される証明でもあった。


 騎士に案内され、天幕の中へと入るオウガとオルメンタ。中には五人の男女がテーブルを囲んで座っている。

 五人の視線が二人に向けられ、上座に座っていた壮年の騎士が手を広げながら立ち上がった。



「オウガ殿、お待ちしておりましたぞ」



 夕焼けを思わせるようなオレンジ色の髪と髭。太陽のように明るいその笑顔が優しさを感じさせると共に、目尻に刻まれたシワがその男の培ってきた経験と威厳さを表している。

 深みのあるシルバーに金色の装飾が施された鎧……この騎士こそが二大騎士団の一つ、ソラリス騎士団の団長レオンだった。



「チッ……なんで我ら正規軍の軍議に傭兵なんかを。しかも女連れとはな」


 クルリと巻かれた髭をいじりながらボヤく男。恰幅のいい体型と豪華に装飾された鎧が、彼の地位の高さを表している。【クレセント騎士団】団長ドリューズは、オウガ達を歓迎していないようだ。



「ドリューズ卿は女に偏見をお持ちのようね」


 鋭い目つきでドリューズを睨み付ける女騎士。朝霜の如き純白の髪と鎧、冷気を纏っているかのような視線がドリューズをブルリと震わせる。

 【オーロラ騎士団】団長エリンシアは、オウガに無礼な態度を取るドリューズに対して不快感を露わにしている。



「この者の名はオルメンタ。我らを幾度となく勝利へと導いてくれた、優秀な戦士にして参謀です。どうか同席をお許しください」


 オウガがオルメンタの背中を優しく押し、オルメンタがペコリと頭を下げる。オルメンタの表情に緊張はなく、真っ直ぐに五人を見据えている。



「男も女も関係ない。今必要なのは優秀な戦士だ。ならば何の問題もない」


 素っ気無く言い放つ重装備の騎士。その顔にはシワだけではなく、幾つもの傷が刻まれている。

 【バリアント騎士団】団長ドラコスは、さっさと軍議を進めろと言わんばかりに机を指で叩いている。



「そうですよぉ。そもそもオウガ殿を招いたのはレオン閣下です。 ドリューズ卿はそれに異を唱えるおつもりですかな?」


 ニコニコと笑みを絶やさない、おかっぱ頭の青年。しかしその細い目に宿る眼光は、決して生易しくはない威圧感を放っていた。

 【テラス騎士団】団長ルシスは、まるで揶揄うかのようにドリューズの肩を叩いている。



「ぐッ……く……」


 迂闊な発言によって全員から顰蹙(ひんしゅく)を買ったドリューズは言葉に詰まり、顔を真っ赤にして体を震わしている。



「ドリューズ。貴公の言葉には私怨が混じっているように思える。オウガ殿に申したい事があるならハッキリと述べるがよい」

 

 レオンの言葉を受けたドリューズが、両手を力強くテーブルに叩きつけ勢いよく立ち上がる。



「我がクレセント騎士団の一部隊がエルミン地方のモスリン村で消息を絶った! 捜索に向かわせたところ、既に村は焼け落ちていて、部隊の亡骸を発見した……殺したのはこの傭兵どもだ!」

「ドリューズ、何か証拠があるのか?」



「……生存者はいませんでした。しかし、村外れにいた木こりの証言によると『白銀と真紅の鎧を着た兵士』を見たと。もはや疑いの余地はありませんでしょう!?」

「ほ〜、それは由々しき事態ですねぇ。騎士殺しは重罪ですからねぇ。どうなんですかオウガ殿?」



 フラウエルの両親と仲間を殺した騎士団……その騎士団の団長の物言いに、オルメンタが殺意を露わにする。だが、オウガは剣を抜こうとするオルメンタを手で制し、弁明を始めた。



「確かに、モスリン村で略奪を行なっていた賊を誅殺しました。彼らは村に火をつけ、ソレイシアから派遣された医師団にも手をかけ、女性を慰み者にしようとしていました」

「なッ……略奪だと!?」



 オウガの言葉にドリューズの顔が青ざめる。まさか自分の部下が略奪を行なっていたなぞ、夢にも思わなかったのだろう。



「騎士の風上にもおけないわね。なるほど、それなら先程の発言も納得だわ。クレセント騎士団は女を慰み者としか思っていないようね」

「いやぁ、これは由々しき事態ですねぇ。略奪行為は極刑……ドリューズ卿の責任問題にもなってきますねぇ」

「胸糞悪いッ。ならば傭兵どもには何の非もないわけだ」



「オウガ殿。くどいようだが、その話に証拠はあるのかな?」

「ソレイシアから派遣された医師団の治癒士を保護してあります。彼女が唯一の生き残りでした」

「生き残りが……いたのか……」



 まるで脱力したかのように席につくドリューズ。生き残りがいたことに安堵したのか、絶望したのか……その表情は暗く、先程までの覇気はない。



「加えて申し上げます。確かに賊どもを誅殺しましたが、我らが駆けつけた時には既にクレセント騎士団の部隊は全滅していました。恐らくライザール兵と交戦して敗れたのかと」

「な、なにッ?」



 予想だにしなかったオウガの言葉に、ドリューズは勢いよく顔を上げた。オルメンタもオウガの発言に困惑し、目を見開いてオウガを見つめている。



「モスリン村で略奪を行なっていたライザール兵とクレセント騎士団が戦闘になり敗北。その後、オウガ殿達によって仇を討ってもらえた……と、いうことでよろしいかな?」

「はい。閣下の仰る通りかと」



「よろしい、ならばこの件はこれでおしまいだ。ドリューズ、貴公も構わないな?」

「は、ははッ!」


 レオンの下した裁定に、ドリューズは素直に従い頭を下げた。

 


「閣下。その保護した治癒士の少女なのですが、類を見ないほどに優秀な治癒士です。彼女は怪我人の治癒の為に、ここまで我らと共にやってきました。陣中には多数の負傷者がいる様子……彼女を王国の医師団と共に働かさせていただけませんか?」

「なんと……それは願ってもないこと。王国中から医師と治癒士を連れてきているが、重傷者が多く手が足りていないのだ。『ソレイシアの治癒士』が駆けつけてくれたとあれば、現場の士気も上がるというものだ」


 

 オウガの提案に、レオンは諸手を挙げて喜びを表現した。


 勧告が出され、ソレイシアからはこのゲヘナ城塞に医師団は派遣されていない。しかし、たった一人とはいえソレイシアの治癒士がここに来てくれた……そのことにレオンの顔が明るくなる。

 それほどまでに、『ソレイシアの治癒士』というブランドは大きいのだ。



「さぁさぁオウガ殿、お掛けくだされ。共にゲヘナ城塞攻略に向けて意見を出し合いましょうぞ」

「失礼致します」



「さて、オウガ殿も来られたことだ。まずは現状を説明しよう。先日クレセントとテラス騎士団で攻撃を仕掛けたが、城壁に設置した魔力砲によって多くの死者を出した。その上、自在に転移してくるレヴェナントによって陣形を掻き乱され、城壁に到達することすらできていない」


 レオンの説明にドリューズは顔を伏せ、ルシスは恥ずかしそうに頬を掻いている。



「いやぁ、魔力砲は次弾装填までに猶予があるんですけどね? 時間稼ぎに四方からレヴェナントが現れるんですよぉ。そいつらの相手してたら再びドカン! かなり痛手を被りましたよ」

「しかも死んだ騎士は地獄炉に吸収され、新たなレヴェナントとして我らの敵となる。……あの外道どもめッ」


 

「入口の存在しない城壁。地獄炉を破壊する為には、あの城壁を破壊するか乗り越えなければならないわ。でも、城壁は破壊しても時間が経てば再生する。攻めるなら総攻撃しか手はないわ」

「エリンシアの言う通りだ。我がバリアントの重装歩兵が盾となる。魔力砲が再度装填される前に、全軍で片をつけるべきだ。近付きさえできれば、レオン閣下のレガリアで城壁を粉砕することもできよう」


 

 日輪の英雄レオンの持つレガリアは、代々受け継がれてきた太陽の剣・ヘリオスパルス。


 強大な玉璽保持者(レガリアホルダー)はレガリアを完全に具現化し、後世にアーティファクトとして遺すことができる。無論、そのアーティファクトは誰もが扱えるわけではない。レオンはまさしく、太陽の剣に選ばれた伝承者であった。


 レオンの所有するヘリオスパルスは太陽光を剣身に纏い、その斬撃と光波によってあらゆるものを滅することができる。たとえ再生する地獄の壁であろうと、近距離ならば打ち崩すことも可能だった。



「確かに。私のレガリアは射程距離は短いが、近付きさえすればあの城壁を崩すこともできよう。……しかし、総力戦ともなればどれほどの死者が出るか──」

「閣下ッ、迷っている暇はありませんぞ!! 今こうしてる間にも、タルタロスではセレナ将軍が激戦を繰り広げている。セレナ将軍が持ち堪えている間にゲヘナを落とし、早々に救援に駆けつけねば!」



 思案するレオンを見て、ドラコスが拳を握りしめて立ち上がる。このゲヘナを落とせば、戦いの勝敗は決する。だが全軍を上げての決戦ともなれば、味方の被害は計り知れないだろう。


 そして、レオンが決戦に踏み切れない理由はもう二つあった。


 もしこのゲヘナを落とせば、この城塞に蓄えられていた戦力がタルタロス砦に送られる可能性があるのだ。ここからタルタロスまでは急いでも二日はかかる。その間にもしセレナが敗れれば、王都ブロスディアに危機が及ぶ。それ故にレオンは決戦に踏み切るのを躊躇していた。


 そして最後の理由。それは……未だ戦場に姿を見せない『死の翠星ルジーラ』を警戒しているからだった。


 

(しかし、ここで手をこまねいていても戦況は悪化するばかり。一か八か、決戦に挑むしかないか)

 

 眉間に深くシワを刻み、レオンが意を決して口を開こうとした……その時だった────



「────閣下」


 天幕内にオウガの声が響き渡る。全ての不安を払拭してくれるかのような凛然とした声に、皆の視線がオウガへと向けられる。



「閣下。私に考えがあります」

拙作を読んで頂きありがとうございます。感想・質問・指摘などしてもらえると嬉しいです。


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