§2-1. 現代への帰還、そして輝く化粧室
おはようございます、こんにちは、アンドこんばんは。
そして、お立ち寄りいただきましてありがとうございます。
ぜひページのラストまでお付き合いくださいませ。
第2章です。
何だか大変なことに巻き込まれたんだろうなぁ――と、どこか他人事のように考えていた。和気藹々と雑談に興じているかつてのクラスメイトたちと腐れ縁たちを眺めながら、現実と非現実とが交錯している現状をどう理解したらいいのか、何か名案や妙案はないかと私は考えていた。
もちろん、そんなモノを私がすぐに思い付けるわけもないのだけれど。
――いや~、だってさぁ。
無理っしょ、そんなの。
何だか怪しい連中が周囲の時間経過を止めている間、私の意識は昔の私の中に入り込んでいて、いつの間にか戻ってきてみたら歴史が変わっていた――ってそんなフィクションめいたことが起きるなんて想像できるはずもない。
生憎私はそこまで非現実主義者ではないので、想像できるはずのないモノが導き出してくる未来なんて、当然簡単に想像出来るわけもないのだ。
アタマはそれほどカタい方ではないと思っているけれど、どれだけ柔軟な発想の持ち主だったらこんな状況でも乗り越えてくるのだろうか。とんでもない空想に基づいたような質問を入社試験の面談の時にぶつけてきた会社もあったけれど、それでもここまでではなかったはずだ。
「(まさかねえ……)」
そこそこの人気はあったはずの先輩が、親の人脈ごとまとめて潰れているなんて思わなかった。しかも学校祭の最中の、わずか10分にも満たないくらいの時間で起きた出来事をきっかけとして。
そんなドラスティックに人の歴史が変わってしまうのか――と少しばかり怖くもなる。
『何をきっかけにして人生が変わるかわからないものですねー』なんて、有名人のスター街道を追う番組でMCが言ったりするけれど、それが良い方向か悪い方向かなんて問わない。ああいう場面で取り上げられる人はイイ方向に変わっているからそういった番組に出られるわけであって、敗れ去った者など省みられることはない。
――嗚呼、怖い怖い。
「おーい、紗結綺。聞いてるー?」
「んえ? ……んー、聞いてる聞いてる」
「ウソ吐け、この」
「はい、すみません」
つかさが何か言っていたらしい。当然聞いていなかったので素直に謝っておくに限る。「で? 話題は?」
「その中2の学校祭から順繰りに思い出を辿っていたんだけどさ」
「ほうほう」
とはいえ、そこに一体何があろうか。
「球技大会?」
「お前、アホほど話聞いてなかったのな」
「は?」
小生意気なツッコミが武田真皓――マッシロから飛んできたので、目線を含めて牽制。
「怖っ。1文字の威嚇怖っ」
「その話はもう終わった」
「あ、そ」
それを言え。先に言え。
「……じゃあもう、3年になるまでとくに無くない?」
秋の半ばに球技大会を終えてしまえば、冬休みの前にあるイベントは2学期の期末テストくらい。冬休みを過ぎればあとは卒業式や修了式くらいしか残っていないような気がするのだが。
「あ、そういえばさ」
つかさには何か覚えていることがあるらしい。黙って先を促す。
「いつだっけ? 何か、めっっっちゃくちゃに吹雪いたことなかった?」
「あー……、言われてみれば、あったかもしれないなぁ」
「あったよね! たしか、集団下校とかになった気がするんだけど」
「あ! あったあった! 思い出した!」
吹雪くことは往々にしてある。純粋に真横に叩き付けてくる雪に加えて路脇の雪が再度舞い上がって地吹雪状態になると、本当に一寸先が雪になってまともに見えなくなるのだ。雪の湿り気が少ないとそうなりやすい。
ただ、集団下校にまで悪化することはほとんど無かったはずだ。最近ならばわりと『危険なので臨時休校』となるハードルは下がっているはずだが、10年前はまだそこそこスパルタな部分が残っていたのでそんな日でも学校はあった。
「集団下校とか、昔近所でコンビニ強盗起きたときとかにもあったような」
「それも覚えてるわ! いつだっけ、あれは小学校のときだっけ?」
道重くんがネタを発展させて、つかさが答える。
「いや、あっちは中1じゃないか?」
「そうだっけ? うわぁ、覚えてないわぁ」
「老化じゃない?」
「やめて! そういうこと言うの!」
さらにマッシロも加わってまたしても盛り上がり始めた。ああ、なるほど? 私がさっき物思いに耽っているときに、こんな感じになっていたってことなのね。
――猛吹雪の集団下校、ね。
イマイチ、覚えてない。
このメンバーは家の場所は少しずつズレているし、その分登校時間も微妙にズレていて、滅多に一緒のタイミングで登下校をすることがなかったはずだった。大体の方角はいっしょなので、集団下校となればまとまって帰宅しているはずなのだが。
やっぱりあまり覚えていな――
「……あ?」
今、気付いた。
――また、トイレの方で明るく輝きだしている。
これはつまり、また時間が? 止まるとか言う話?
私以外はしっかりと盛り上がっているようなのでこっそりと距離を取る。
スパイミッションのような動きでぬるりと離れて、そこからは急ぎ足。
トイレの方に近付けば近付くほど明るさは増していく。
周りの景色も徐々に動かなくなっていく。
光速を越えるか、あるいは――というようなSFチックな視界。
丁度私が式場の広間のような空間の入り口付近に辿り着いたタイミングで、塵ひとつたりとも動きを止めた。
動いているのは私と、あのふたりだけだった。
〇
「改めまして、お疲れさまでした」
先に私の存在に気が付いたのは一宮さんの方だった。この人は落ち着いた笑顔を見せる。イマイチ歳が解りにくい感じもある。
「……どうも」
「お疲れさまです、大塚さん」
中森さんの方も少し遅れて笑顔を向けてくる。目尻の皺が一段と濃くなった。
「いかがでしたか。『変わったこと』はありましたか」
その言い方的には不思議なこととかいう話ではなく、何か以前と変わった過去はなかったかという話だろう。実際に確認してきたらどうだと言ってきたのだから、それで間違いないはずだ。
「ありましたね。……まさか、そこそこ人気があったはずの先輩が思いっきり失脚しているとは思いませんでした」
「ほう? ……と、言いますと?」
詳しく話せということらしいが、長くなるのはこっちがイヤなので掻い摘まんで教えていくことにする。
学校祭の時に話しかけてきた先輩の人気がほとんど無くなっていたことに加えて、その先輩の家庭ごと大変な没落を遂げていたことがメイン。それにプラスして、ここに来る直前に話していた友人たちは『歴史の変化』に気付いていないようであったことも付け加えておいた。
「まぁ、……それはもちろん気付きはしないでしょうねぇ」
少しだけ苦笑い気味に中森さんが答えた。
「他の方々にとっては『記憶が書き換わった』なんて思わないですからね。あくまでもそれが常に真実の歴史であり続けるわけですから」
何だかまどろっこしいことを言われた気がする。
「あの当時――中2の学校祭の2日目のほんのちょっと時間だけ、私が私ではなかったということは誰も知らないんですか?」
「そもそも、大塚さんは大塚さんであり続けているので、そのような認識を周りの方がされるという可能性もほぼゼロだと思いますよ」
「バレない?」
「……絶対、ということはございませんが」
ある種、私は当事者でありつつもかつての世界を俯瞰する立場であり、私の友人たちを含めて私以外のすべての人は私の操縦によって未来が変えられたことにはほとんど気が付かない――ということのようだ。
状況はなかなかに複雑そうだ。
「……でもまぁ、その先輩のことを、私が単純に興味も無くて話のネタにしようともしてなかっただけで、そもそも凋落していた可能性もありますけどね」
「おや。疑り深いですねえ」
そりゃそうでしょ、と内心睨む。おいそれと信じてたまりますか、ってンだ。
私のかつての記憶の中では、薬野原先輩と話をしたこと自体が皆無だし、彼を話題にしたこともない。つかさは何度か話題に上げたことはあっただろうけど、私にそこまでした記憶が無いので適当に聞き流していた感じがする。
結局そもそもがその程度なのだ。
「それにしても……」
話題を変えようとしているのか、珍しく一宮さんが口を開いた。
「先ほど中森も言っていたのですが、大塚さんは素晴らしいです」
「は」
――何がだ。
次はいったいどこへ飛んでいくのやら。
ということで、ここまでのお付き合いありがとうございます。
何かありましたら、遠慮無くどうぞ。
いろいろとお待ち申し上げております。




