§2-7. 予期せぬ終焉、容赦なき時間
おはようございます、こんにちは、アンドこんばんは。
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猛烈な疲労感と共に帰還すると、とても柔和な笑みのふたりに迎えられた。
「おかえりなさいませ」
「……ただいま戻りました」
何て返せば良いのか迷ったが、結局無難なチョイスに落ち着く。奇を衒うような必要も無いし、そもそもこの妙な疲れのせいでイマイチ思考回路がうまく回ってくれていない感じがあった。
「最初、戻って来れないかと思いました」
「……え? ああ、あの『2日目』のことですかね」
「ああ、そういえばそうでしたっけ」
話が一瞬噛みあわなくなったが、これは根本的なところの認識の違いが原因だ。というか、私が少し詳しいことを忘れていたことが原因だ。
こちら側のふたりは、私が向こうで見たり聞いたりしたモノをリアルタイムで検知することは出来ず、『何か大きな変化が生まれたとき、あるいは変化が生まれてしまったときにようやく初めて検知できる』ということだった。やっぱりアタマがスッキリしないとダメらしい。
ひとまずは向こうで起きたことを大雑把に説明しておく。冬場の日常ということで荒天となり集団下校をするハメになったことと、その翌日も似た様な災害的な雪のせいでまとまって帰るハメになったことなどなど。
「……ところで、何ですけど」
「はい」
「今回のタイムリープって、何が変わったんです? ……ああ、いや、ちょっと違う? そもそもこんな感じの大雪だった日の記憶も無いんですよね。何かこう、しっくり来ないまま2日間を過ごしてきたみたいな感じがあって……」
とにもかくにも、私にとっての問題点はたったひとつ。この雪害だった。
何度思い出そうとしても、2日連続でこんな天気になっていた記憶はないし、ましてやあんな感じでセルフ集団下校をした記憶なんて一切無い。
喩えて言うなら、1度目となる中2の学校祭へのタイムリープのせいで変わってしまった『過去の未来』を、自分の目で確認するために向かったような感覚があった。
「実際のところ、『天気』は変わったようですね」
「ですよね。あんな記憶無いですし」
「とくに2日目に充たる方の吹雪ですね。そちらは確実に変わった過去であるようです」
でしょうね。
「そのきっかけが何か……ってところは?」
「さすがに現段階では解りかねますね」
「……なるほど」
そうなると、私が過去に戻ったことがきっかけで選ばれるようになった道筋だ、と見做してしまうのがラクだろう。ここはきっと考えるべき本筋の話題ではない。
ふぅっとひとつ大きく、肺の中の空気を吐き捨てたところで、中森さんがタイミングをしっかり計って話し始めた。
「それにしても、……無事に帰れて良かったですね」
「……え?」
冗談――ではないらしい。冗談のような展開しか(現実世界での時間進行上)ここ数分見ていないのでこれも冗談かと思ってしまうが、あの表情や口調から察するに本当なのだろう。
「えー……っと? それは、どういうことで?」
「……申し上げてもよろしいですか」
そんなに言いづらい内容なのか。さすがにたじろぐ。私でも気後れする。ごくりと音付きで唾を飲み込んだ。ああ、なるほどこれが『固唾を呑む』ということなのね――とかいうどうでも良いことばかりが脳裏を過っていく。きっとある種の現実逃避方法なのだろう。
「……、…………大丈夫です」
意を決して、答える。
聞かないことももちろん選択肢のひとつだが、さすがにそれはできない。してはいけないとすら少し思った。
一応、深呼吸をひとつ。何を言われても動じないように――。
「……あの日、大塚さんの通われていた中学校と同じ地域の別の学校では、『帰宅が遅い』という連絡が相次いでいたり、中には、その……なかなか帰らない子も居たという……」
「えっ」
――帰らない。
あの日はたしかに、簡単には帰れないような状態ではあった。
ただ、『帰れない』と『帰らない』とでは大きく意味合いが異なってくる。
さながら今回のタイムリープ前に私が言われた、事故で『帰れなくなった』パターンと、自分の意志で『帰らないことを選んだ』パターンのような。
でも、やはり違う。この場合はそういうことではない。
「それって、まさか………………あっ」
「……すみません、今回のタイムリミットのようです」
「ちょ、ちょっと待って。そんな……!」
「申し訳ございません。また今一度……」
視界が光で満ちていく。
ゆっくりと、そしてしっかりと白色の光に満ちていく。
私は、目を瞑るしか無かった。
〇
「紗結綺ぃ」
「ごめんて。……え、何?」
戻ってくるなり、つかさにウンザリしたような顔を向けられる。反射的に謝ってしまったが、そもそもどういう感情? それすらもよくわからないような表情だった。
「アンタ、体調悪いの?」
「いやそんな、……まぁ、ちょっと疲れてはいるけどさ」
完全否定できないのはもどかしいが、疲れているのもまた本当だったりする。
そりゃそうだ。アンタたち的にはいいところ十数分しか経っていないのだろうけど、こちとらもう48時間くらいは余計に多く時間を過ごしている。
――あれ、これって、私の寿命も縮んでいたりするのかしら?
またひとつ訊いておかないといけない内容が増えてしまった。
――あれ? でもこれって、またあのふたりに会わないとダメってこと?
たしかにまた会いましょう的なことは言われたけども。
「で、今何の話してた?」
とりあえずは話の中身を確認しないことには始まらない。脈絡も全部ぶっち切りにしてしまう。
つかさは呆れながらも付き合ってくれる。私、アンタのこういうところ好きよ。普段わりと突っ走り気味で私らがわりとぜえぜえ言いながら付いていくハメになってたけど、こういうところもあるから憎めないどころか好ましさすら感じるわけで。
「いやぁ、集団下校とかしたよねーって話をさ、してたわけよ」
「……集団下校って、……ああ、猛吹雪のとき?」
「そうそう」
あれ。思った以上にテンションが低い。
さっき過去に行く直前では思い出話に花が咲く的な感じで話していた気がしたのだけど。もっと『そうそうっ!』みたいな、そんな感じで来ると思っていたので、わりと拍子抜けを喰らった。
「あの冬、結局ずっとヤバかったじゃん?」
「だなぁ。何か、観測史上最多レベルとか言われてたよな、たしか」
――え。
つかさと道重くんの会話に、付いていけない。
「学校云々とかじゃなくて、雪自体がヤバすぎて全然笑えねえって話だったな」
「ウチの姉貴なんて電車通学だったっしょ?」
「ああ、毎日のように愚痴られてたってシュウ言ってたな。今思い出したわ」
「良く覚えてんなぁ。真皓のくせに」
「……あのなぁ。愚痴った方は愚痴ったからどーでもよくなるんだろうけど、それのとばっちりを受けた方って忘れねえんだわ」
マッシロと道重くんの会話にも、付いていけない。
そんな過去は知らない。
その記憶は、どの私にも存在してない。
何だ。いったい何が変わった?
「この場で出す話題でもない気もするけど、たしかさぁ、……隣の市の中学だっけ?」
胸騒ぎ。
虫の知らせ。
――『覚悟をしろ』という、通達を受けた気がした。
時間よ進めと祈る。
ただ、もう少しゆっくりと、私自身に受け入れる覚悟ができるまでは――――。
「危うく亡くなるところだった子、居たよな。隣の中学だっけ?」
「……あったなぁ。あれ、ウチの先生が見つけてなかったらガチめにヤバかったヤツだろ」
「そうそう。で、あの時、部活を無しにしなかった学校、むちゃくちゃ叩かれてたよな。子供を殺す気かって」
「……まぁ、それはウチもそうだったけどな」
「校門のところで取材されかけた記憶あったわ。ただでさえ雪で狭くなってるところに集まってさぁ……。邪魔だわコイツらって思わなかった?」
「思った思った。で、無視しろって学校から言われたよな。……アレってブラックだよなぁ」
「今にして思えばね」
時間は、容赦なく進む。




