しょうちゃんのたまご
しょうちゃんは、四歳の男の子。
「しょうちゃん、これあげるね」
いとこのお姉ちゃんのさっちゃんが、
そう言ってしょうちゃんに何かくれました。
「あ、たまごだ」
しょうちゃんの手のひらに乗るくらいの、白いたまごが一つ。
外側はもこもこしているのに、押してみると少しかたいのです。
ママが作ってくれる、たまご焼きやゆでたまごとは少し違うようでした。
「これはね、ひつじさんの毛で作ったんだよ」
さっちゃんの言葉に、しょうちゃんはびっくりしました。
「たまごは、ひつじさんの毛でできてるの?」
パパが読んでくれた絵本には、
にわとりさんがうむ、と書いてあったはずなのに。
五つ年上のさっちゃんは、それを聞いて笑いました。
「違うよ。これはあたしが作ったの。
しょうちゃんが持ってるくまさんのぬいぐるみと一緒だよ」
羊毛フェルトでうさぎさんを作ろうとしていたさっちゃんですが、
ものすごくたまごっぽくなってきたので、
たまごが大好きなしょうちゃんにあげたくなったのです。
茶色いくまさんと、白いたまごが一緒なんて、
しょうちゃんはますますびっくりです。
「これ、なんのたまご?」
「え? えーと、その大きさだと、にわとりかなぁ」
「これ、あたためたらヒヨコさん、でてくる?」
「さぁ、どうかなぁ」
さっちゃんは笑いながら言いました。
ぼく、ヒヨコさんにでてきてほしい。
しょうちゃんは、その日からたまごを持ち歩くようになりました。
ポケットに入れたり、自分の手であたためるようにして持ったり。
寝る時はもちろん、一緒のベッドです。
ヒヨコさんはなかなか出て来てくれそうにありません。
でも、しょうちゃんはあきらめずにあたため続けました。
そうして、三ヶ月が過ぎましたが、
やっぱりヒヨコさんは出て来てくれません。
もらった時は白かったたまごも、
しょうちゃんがずっと持ち歩いているのですっかり汚れてしまいました。
「ヒヨコさん、どうしてでてくれないのかなぁ」
何も変わらないたまごを見て、最近のしょうちゃんはとても淋しそうです。
ある日。
「あれ? ない。たまごがないよぉ」
しょうちゃんと一緒にベッドに入っていたはずのたまごが、
なくなってしまったのです。
ベッドのおふとんをめくったり、ベッドの下をのぞいてみたり、
おもちゃ箱をひっくり返してみましたが、たまごはありません。
たまごがどこにも見当たらず、その日のしょうちゃんは一日中泣いていました。
泣き疲れたしょうちゃんが目を覚ますと、もう朝です。
ふと横を見たしょうちゃんは、ある物に気付きました。
枕の横にあったそれは、黄色いヒヨコさんです。
「あっ、ヒヨコさんだ」
しょうちゃんの両手にちょこんと乗る、かわいいヒヨコさん。
あのたまごのように、もこもこしているのに、押すと少しかたく感じます。
しょうちゃんはそのヒヨコさんを連れて、急いでお部屋を出ました。
「ママー、ヒヨコさんだよっ」
ヒヨコさんを見たママは、にっこり笑いました。
「あら、本当ね。きっと、あのたまごから生まれて、
しょうちゃんの所へ戻って来たのね」
「そっか」
たまごがなくなったのは、ヒヨコさんが生まれようとして動いたのでしょう。
そして、ママが言う通り、しょうちゃんの所へ戻って来てくれたのです。
「ママ、さっちゃんにヒヨコさんをみせてあげたい」
さっちゃんがくれたたまごから生まれたのですから、
しょうちゃんはこのヒヨコさんをさっちゃんに見てもらいたくなりました。
「そうね。さっちゃんの所にも、
そのヒヨコさんのお友達がいるかも知れないわよ」
「ぼく、ヒヨコさんになまえをつけてあげなきゃ」
さっちゃんに会えるまで、しょうちゃんはヒヨコさんの名前を
一生懸命考えてあげたのでした。