女の人の家のトイレを借りるのは、ラスボス前の四天王攻略並みに、難しい。
ココアちゃんに嫌われながらも、戯れること一時間ほど経過した。
「そういえば、先輩は猫飼わないんですか? それだけ猫好きなのに」
「俺ん家は、動物飼えないんだよ。悔しいことに」
「そうなんですか。もったいないですね」
「ああ。なんなら今すぐにでも引っ越したい」
「引っ越せばいいじゃないですか。お金はあるでしょ。引きこもってばっかなんですから」
「おい。一言余計だぞ。まあ、今住んでる所は、会社に通いやすいし、交通の便も良いから、引っ越す気は今のところはないがな」
「へー…」
「な、なんだよ」
「いえ別に」
なんやそら。いやほんとは、猫飼える家にするつもりだったんだが、会社の近くに良い物件が無かったしな。
あと俺が猫を飼ってしまうと、マジで引きこもりになってしまう自覚がある。なんなら、会社を辞めるまである。
「あの…」
「うん?」
「も、もしよかったら、今度先輩の家に遊びに行ってもいいですか…?」
「な、なんでだよ…。言っとくが、マジでなんもないからな。満足させることはできんぞ」
「いえ別に、そんなこと期待してませんから」
「こいつ…」
「なにか?」
「いえなんでもありません」
なんでそうやってすぐキレるんや。こいつは。
「いや、まず女の子が、野郎の家に一人でいるのが、問題であって」
「それじゃあ、この状況はまずアウトですね」
「うぐ…」
「とにかく、先輩の家に行く事は、確定しましたので」
「はあ。わかったよ。今回、ココアちゃんと遊ばしてもらったしな」
「…よし!」
なんかガッツポーズしてるが、そんなに嬉しかったのか。こいつも変わってんな。
「ち、ちなみに、過去に先輩の家に、遊びに来た人っているんですか…? 女の人限定で」
「あん? そんなもんいるわけ…、あー。まあ、一人いるな」
「え、いたんですか!?」
「まあ、遊びに来たって感じじゃなかったけどな」
「そ、その人は、先輩の同級生とかですか…」
「いや? 花山主任だけど?」
「…………あ?」
「ひぃ!」
な、なんかめっちゃ怒ってる…。え、俺なんか言った? こんな殺意湧かすような事言った?
「あのー…。何か失礼な事言ってしまいましたか…?」
「先輩」
いや怖すぎわろた。
「何か変な事されませんでしたか…?」
「いえ…。特になにもありませんでした…」
「そうですか…。チッ…。あの女…。いつか絞める…」
怖すぎて草生えるわ。今なら睨んだだけで、人殺せそう。
「先輩!」
「ひゃい!」
「私が先輩の家に行くことは確定事項なので。もし変な理由で断ったら、色々ぐしゃぐしゃにしますよ…?」
「しょ、承知しました…」
なんや、色々ぐしゃぐしゃにするて。せめて原型は残してくれ。
「くそ…。先を越された…。完全に油断した…っ」
「……」
なんかめっちゃ怒ってらっしゃるが、今の俺には、最優先でこなさないといけない任務がある。
それはトイレだ。結構前から我慢してたが、内山の、ものすごい気迫に圧倒され、ついに限界がきている。
イヤ、俺なんにも悪い事言ってないつもりだけどね?
もうすでに漏れそうなのだが、いかんせん、女の子の家で、トイレ借りるなんて、初めてなもんで。
情けないことに。
なので、誰か助けてください…。