後輩をいじるには、まだまだ難易度が高かった。
昼飯を食べて、電車に乗って十分ほどして、内山の家の最寄り駅に着いた。あんまりこっち方面には来ないんだが、なかなかいいとこだな。住みやすそうだ。
「なかなかいい所だな」
「でしょ。私も気に入ってるんですよ。駅ちかだし」
「確かに。内山は、一人暮らしはするつもりはないのか?」
「そりゃしたいですよ。けど、マ…、お母さんはともかく、お父さんが許してくれないんですよ」
「まあ、そらそうか。こんな可愛い娘が一人暮らしなんて、普通に泣くな。お父さんからすれば」
「え!? い、いま可愛いって言いました!? 言いましたよね!?」
「え…? いやまあ、言ったけど」
「せ、先輩に可愛いって言われた……っ か、可愛いって…っ」
「ん…? 可愛いなんて言われ慣れてるだろ」
「せ、先輩は別なんです! 私にとったら…」
「とったら?」
「……っ。な、なんでもないです! これ以上変な事言ったら、お父さんに無理矢理、襲われたって言いますよ!」
「僕が悪かったですそれだけは勘弁してください」
「ふ、ふん。ほんと先輩は、引きこもり陰キャ変態野郎ですね」
「こ、こいつ…」
こいつはほんとに口が悪いな。可愛いって、ちょっと褒めただけやん。なのにこの言われよう。
つくづく陰キャには人権ってものがないのがわかる。
ここは一発ドカンと、先輩として説教してやる。
「内山君。ちょっと口がわるーー」
「ああ?」
「すいませんでした」
イヤ怖すぎー。ちびると思った。なんでこんな怖い顔をできるんだ。こいつは。
「さて、もう着きますよ」
「お、おう」
「なに緊張してるんですか? あ、もしかして、女の人の家に入るの初めてですか? ぷぷ。だっさー」
「う、うるせえな。別にいいだろ」
「は、初めてだったんだ。私が初めて…。ふふっ」
「なに笑ってんだ。失礼だー-」
「は?」
「なんでもありません…」
クソ情けねえ…。でも怖いもんは怖いもん。これで反抗してきたら、それ以上に攻撃してきて、号泣する未来しか見えない。
「さて、ここです。入りますよ」
「お、お邪魔しまーす」
緊張するな。女性の部屋に入るなんて、あの時以来か。
そう、実は女の子の家に入る事は、これが初めてではない。高校生の時に、一回だけあるのだ。最悪の思い出だけどな。あんまり思い出したくない。
「ここが私の部屋です。適当にくつろいでください」
「お、おう」
「飲み物持ってきます。なにか変な事してたらぶち殺しますからね」
「は、はい…」
じっとしとこう。まあでも、やっぱり気になるわけで。部屋の中を見渡してみる。
まあギャルって感じの部屋だな。机の上は化粧品でいっぱいだし、ピンク色のベットに、ゼブラ色の毛布。
いや、絶対ド〇キやん。ド〇キにしか売ってへんわ。あんな毛布。
それに写真がいっぱい飾ってあるな。夢の国の時の写真や、喫茶店の時の写真。
普通にエンジョイしてやがる。
「お待たせしましたー…。何か変な事してませんよね」
「し、してねえよ」
「ふーん…。まあいいですけど。じゃあ早速、うちの猫連れてきますね。いま一回にいるんですよ」
「お。おう! 早く触らせくれ!」
「うわキモ。今の普通にキモいです」
「う、すまん…」
ちょっとはしゃぎすぎたな。反省反省。猫の事になるとつい反応してしまう。
しばらく待っていると、内山が一階から上がってきた。
「こちら、うちのココアちゃんです!」
「…にゃー」
「お、おう! 可愛い! 可愛すぎる! ちょっと抱っこさしてくれ!」
「どうぞー」
「どれどれ。モフモフ具合を確かめる……いたっ」
「にゃー」
「あははー。引っかかれてやんのー。だっさー」
内山が、ココアちゃんを抱きしめながら、俺をいじってくる。普通にうぜー。
このままでは、俺の猫好きとしてのプライドがズタボロになってしまう。
「コ、ココアちゃーん。こっちおいでー」
「……にゃ」
「この俺が猫ちゃんに、そっぽを向かれただと…」
「どこの俺ですか…」
バ、バカな…。十年間猫ちゃんに癒されてきたが、こんな経験は初めてだ。でもそっぽ向く猫ちゃんも可愛いな…。
「なににやけてるんですか…。それにしても、うちのココア可愛いでしょ」
「ああ…。天使だ…」
「うわキモ…」
ふむ。ツンデレな性格も全然ありだな。
「けど、飼い主にはあんまり似てないな」
「どういう所がですか?」
「そりゃー、同じツンデレでも、飼い主のほうが、ツンが多いーー」
「殺すぞ」
「すいましぇん」
やっぱり内山の事いじるのは、難易度が高すぎる。怖い。