後輩の毒舌は防御力無視の、即死級。
「とりあえず、午前中のノルマは終わりそうだな」
只今の時刻は、午前十一時。何とか午前のノルマは終わりそうだな。とりあえず主任に頼まれてたやつは終わったし、あとで見てもらうとするか。それと昼飯どうするかなー。
ラーメンにするか、とんかつ屋にするか。やっぱり、仕事中の楽しみは昼飯に限る。
というより、何かしらの楽しみがないと、モチベーションが上がらんわ。そして、家に帰ってから、猫ちゃんの動画を見て、癒されながら晩酌をする。これが俺の平日のルーティンである。
猫ちゃんはいいぞ。どんなに嫌なことがあっても、猫ちゃんの動画を見れば、すぐに忘れさせてくれるからな。今、想像しただけで癒される。素晴らしい。
そんなことを考えながら、ニヤついていると、隣の内山が、顔を赤くしながら俺に話かけてきた。
「せ、先輩」
「どうした?」
「前に、うちで猫飼ってるっていう事を、お話しましたよね…? よ、よかったら今度うちに見に来ませんか…?」
な、なんだと…。ものすごく行きたい。今すぐに行きたい。今すぐにモフモフしたい。
いや、冷静になれ。今まで女の人から、遊びに誘われて、良いことなんて一つでもあったか?
いや、ない。たいがいが、人数の埋め合わせか、好きな人と付き合うためのダシにされるかの、どっちかだった。
あの時の事はできるだけ思い出したくないが、まあ、酷かったな。
あいつら、俺の事を人間として見てなかったから。
けれど、内山はそんな感じの人間ではないはず、だと思いたい。まあ、この二年間、一緒に仕事をしてきたが、俺には罵声をちょくちょく浴びせてくるが、根っこの部分はいい子だと思う。
とりあえず、日程を聞こう。……なんか緊張してきた。俺は、どもりながらも、内山に返事を返す。
「そ、それは、ぜひ行きたいな…。して、日にちはいつ頃でしょうか…?」
「か、勘違いしないでくださいよ! 別に先輩を好きで家に呼ぶわけじゃないから! もし家で変なことしようとしたら、包丁で心臓抉り出しますから!」
いや、怖っ! 包丁で心臓抉り出すとか、普通に犯罪やん。人殺しちゃってるやん。
やっぱり俺の事嫌いやん。絶対嫌いやん。やっぱ行くのやめようかな…。
「今度の土曜日はどうですか?」
泣いてる俺にお構いなく、日程の提案をしてきた。ふむ。今度の土曜日は特に用事はないな。
「いいぞ。何時頃いけばいい?」
「……しゃ! え、えーとですね。昼の十二時とかで大丈夫ですか?」
「…? わかった。じゃあ十二時に駅でいいか?」
「は、はい。それでお願いします」
「ん。了解」
久しぶりに、猫ちゃんをモフモフできる。いやー楽しみ。うちのアパートは動物を飼うの禁止だからなー。まあ、生意気な後輩付きだが。
てか、ちょっと待てよ。あれ。これもしかして内山と二人きり……?
いくら、職場の後輩とはいえ、女の子の家に女の子と二人きり…?
まずいまずいまずい。色々まずい。猫ちゃんのことに気を取られすぎた。しかも美人な女性と来た。
これはまずい。てか内山って実家暮らしだよな? え、親御さんいるやん
怖いお父さんとかおるやつやん。やっべー。今の内に遺書残してたほうがいいかな…。
絶対殺される。かわいい娘がいきなり、いかにも怪しい男を連れてきたら、俺でも殺意湧いちゃう。
なんなら、ボコボコにして埋めちゃうまである。
とりあえず、内山にそれとなく聞いてみよう。
「う、内山さんや……。その、当日は親御さんは、いる感じ……?」
「いませんよ……っ。 か、勘違いしないでくださいよっ! 別に先輩が好きで家に呼ぶわけじゃないですからっ! 勝手に変な妄想しないでくださいっ! もし、変な事しようとしたら、いろんなところ切断して、ミキサーにかけちゃいますよっ!」
「あ、はい。さーせんした」
いやもう、怖い通り超してグロい。切断してミキサーにかけるとか、どこのB級映画やねん。
だがまあ、親御さんはいないのか。まだマシかもしれん。まあ、二人っきりの時点で、色々ヤバいが。しかし、俺も立派な社会人。そこらへんは弁えてる。
それにこの子、俺の事なんて、そこらへんの埃ぐらいしか思っていないだろうし。普通に猫ちゃんをモフモフさせてもらおう。
せっかく家に、こんな俺を招待してくれるんだ。手土産でも持っていこう。今日の帰りにでも買いに行くか。
楽しみだな。猫ちゃん。