俺の上司と後輩は時々、めっちゃ怖い
「とにかくっ! 私が先輩の事を嫌っているなんてことはありえませんから」
「……そ、そうか。良かった」
「か、勘違いしないでくださいよっ! 嫌いじゃないだけで、好きってわけじゃないからっ! ほんとに先輩はキモイですね!」
「あの、そんなにキモキモ言わないでくれる? 先輩泣いちゃうよ? 泣きすぎて塩水一ℓくらい出てきちゃうよ」
この後輩は、ほんと俺だけに罵倒を浴びせてくるんだよな。ほかの男たちにはニコニコしてるくせに。
美人な女の人は、見てくれはいいが、腹の中は漆黒のように黒いらしいって、同じ部署の田名君と前川君が言ってた。まあ本人たちにの前では絶対に言わないだろうけど。
だがまあ、俺はあの二人とはそれなりに付き合いが長いわけで。そんな二人の陰口を聞くと、それなりに腹が立つわけで。俺にもそれなりに喜怒哀楽の感情は湧くし。
だからと言って、陰口を言ってる奴らに怒鳴りこめるほどの勇気はない。
「さあ。そろそろ時間よ。みんな仕事して」
主任が全員にそう声をかけると、みんなそれぞれのデスクについて仕事を始める。
月曜日のこの、仕事の一週間の始まりみたいななのがほんとに慣れない。この感覚は、この世の社会人たちと共有できるきがする。
そんな事を考えながら俺も仕事をこなしていく。とりあえずまあ、頑張りますか。
只今の時刻は、午前十時。一時間半ほど仕事したので、いったん休憩を入れよう。
とりあえず、ブラックコーヒーを買いに自販機に向かう。そこには、たまたま同じタイミングで、休憩を入れようと思ったのか、花山主任がいた。
「あら、影山君。お疲れ様。影山君も休憩?」
「お疲れっす。まあそんなところですかね」
「そう。 ……ね、ね影山君。」
会話が途切れたと思ったら、なんか主任が顔を赤くしながら俺に喋りかけてきた。
なんか怒ってる? 俺なんかしたかな。なんにも心当たりがない。こういう時って心当たりがないほうがヒヤヒヤする。もしかしたら自分では良かれと思ってやっていることが、とんでもないミスを犯しているなんてザラにあることだ。俺は恐る恐る主任に返事をする。
「は、はい。何ですか…?」
「こ、今週の金曜日の晩って予定あるかしら……?」
なんか普通に今週の金曜日の晩の予定を聞いてきた。良かった。怒られるわけじゃなかったみたいだ。安心安心。内心めっちゃドキドキしたけど。
この人怒ったらマジで怖いから。何人か怒られて泣いてる所見た事あるし。まあこの人の言う事はちゃんと筋が通ってるから、なにもおかしくはない。
理不尽なことは絶対に言わない。あのハゲと違って。さて、金曜日の晩は特に用事はないな。
「いえ、特に用事はないですけど」
「そ、そう……。よ、良かったらでいいのだけれど、私と…」
「お疲れ様でーす! 主任と影山先輩!」
主任が何か言おうとしたところに、内山が話に割って入ってきた。
俺は内山に挨拶を返す。
「うす。お疲れ様」
「……お疲れ様。内山さん」
「いやー、寝不足なんで余計に疲れますねー」
「自業自得だろ…」
内山も同じタイミングで休憩だろうか。俺と内山が何気ない会話をしていると、さっき主任が言いかけた事が気になったので、俺は主任にさっきのことを聞いてみる。
「それで、主任。さっき僕に何か言おうとしてませんでした?」
「……いえ、やっぱりなんでもないわ…」
「は、はあ。わかりました…」
なんか妙にイラついてないか…?
なんかイヤな予感がするので、さきに仕事場に戻るとしよう。うんそうしよう。こういう正体不明のイヤな感じがした時は、さっさと、その場を去るのが一番無事に済む。
「じ、じゃあ俺まだ仕事があるんで。先に戻りまーす…」
「はーい。私たちはもう少し休憩しときまーす。ね? 花山主任?」
「……そうね。影山君。また後で」
なんか内山も、妙に機嫌が悪いような…。
こわっ。ほんとに俺の上司と後輩は、時々あんな雰囲気を醸し出すから、マジで怖い。まあ女性同士にしかできない話もあるんだろう。
こういう時は、空気を読んでその場を去るのが男の務めだよな。うんそうに違いない。
ほんとは、いざこざに巻き込まれるのが嫌なだけだが。とりあえず、残っている仕事を片付けよう。
あと二時間もすれば昼飯の時間だからな。そう意気込みながら、俺はデスクに戻る。
その後ろでは、女同士の修羅場が起こっていると知らずに。