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意外な場面でしゅらばんばん。

「「……」」


花山と松井はお互いに睨み合っている。


「ちょっ、ちょっとー、落ち着きませんか……?」


「「……」」


全然話を聞いてくれない……。


なんでこんなことになってしまったのか俺にも分からんが、なんか嫌な予感がする。

こういう時の俺はいつもすぐに退散するのだが、今は店の中なので、この状況をほったらかしにはできない。


この状況の打開策を考えていると、花山がこの沈黙を先に破った。


「そもそもあなた、影山君の元クラスメート、ですって?」


「そ、そうだけど……」


「そう。それなりに仲は良かったのかしら?」


「え、えっと……。それは……」


「あー……。まあ、それなりには仲は良かったぞ」


松井が答えにくそうだったから、俺が代わりに花山の問いに答える。

すると松井が驚いた顔をしていた。


「……影山君……」


「まあ、元クラスメートだし。それなりに会話もするだろう」


「か、会話……」


今度は逆に落ち込んだような顔をしていた。

こいつ、こんなに感情を表に出していたか?


「そ、そう。あなたに昔の知り合いがいたのは意外だったわ」


「バカにすんな。俺にも知り合いくらいいるわ」


「し、知り合い……」


「そうよね。たかが知り合い程度よね。たかが」


花山はなぜか、マウントをとるような言い回しで松井に話しかける。



「まあ? 私は? 影山君とは七年の付き合いだし? 何回もデートに行ってる仲だし?」


「何を自慢気に語ってるのか分からんが、デートなんて行った事なんてねーじゃねーか」


「……影山君」


「な、なんだよ」


松井がなにか可哀そうな目で俺を見てくる。


「女からしたら、それをデートって言うんだよ」


「……最低」


「……え、あの……」


花山。なんだその目は。そんな汚物を見るような目で見ないでくんない?


いつの間にか、俺が悪者になってるんだが。なぜに? さっきまであなたたちで争ってよね?

争ってる理由は分からんが。


なのになんで俺がそんな目で見られなくちゃいけないんだよ……。


「で、でも男の言うデートは、どこか遊園地に行って喫茶店でお茶する、みたいなことだと思うんだが……」


なんかムカついたんで、ちょっと反論してみた。


「……は?」


「影山君……。それはちょっと……」


「な、なんだよ……」


俺はこれしきの事でこいつらに屈したりはしない!


「影山君。女と男が二人きりで出かける、その時点でもうデートなんだよ。れっきとしたデートなんだよ」


「……女の敵ね」


「いやいやでもー-」


「あなたの意見は聞いてないわ」


「理不尽!」


理不尽にもほどがある! これが権限の乱用か。


「……松井さん、と言ったわね……。あなたもこいつに苦労してきたのね」


「うん……。まあね……。でも昔に色々あって……」


「その『私は昔の影山君を知ってる』みたいな言い方やめてくれる? ムカつくから」


「いや理不尽! 今めっちゃいい雰囲気だったじゃないですか!」


「黙りなさい。昔の事なんてどうでもいいわ。大事なのは『今』よ」


「そ、そうだよね……。花山さんの言う通りだよ……」


……なんか、めっちゃ仲よさげやん……。俺だけ置いて行かれてる感がすごいんだが……。

こいつらさっき初めて会った同士だよな? 初対面なのに、もうこの仲の良さ。

これが陽キャというやつか。陰キャの俺には理解できん。


まあ、影は光が強くなればなるほど影も大きくなると言われるしな。あ、今のちょっとカッコイイ。


「さてと。おしゃべりはここまでにしときましょうか。一人置いてい行かれてる人もいるし。それに松井さんも誰かと一緒に来ているのでしょう?」


「あ、うん……」


「ああ。松井の彼氏か」


「だから、彼氏じゃないって!」


「す、すまん……」


「松井さん。良かったら連絡先交換しない?」


「あ、是非!」


花山と松井はスマホを出して、お互いに交換しあっている。


なんて自然な交換方法なんだ……。


さすが入社して二年目で主任に選ばれただけはある。

容姿端麗だけではなく、コミュニケーション能力も高いとは。


しばらく待っていたら、二人ともスマホをしまっていた。連絡先の交換は終わったようだ。


「さて、これで三人目ね」


「……? なんの話ですか?」


「獲物を狩ろうとしている、女の数よ」


「獲物……。あっ……」


松井が顔を真っ赤にしてこちらをジッと見てくる。


「……? なんだよ?」


「……まあ、あなたも分かってると思うけど、こいつはいつもこんな感じだから。苦労するわよ。そしてそのまま戦線離脱してもらって構わないわ」


「り、離脱なんてしませんよ! 私だって高校生の頃から想ってたんですから! 想いの長さなら負けません!」


「……そう。それは楽しみね。せいぜい頑張るといいわ。まあ最終的に手に入れるのはこの私だけど」


「わ、私だって負けません! これからガンガンアタックしていくし!」


……なんか、良きライバルみたいな感じになってるけど、なんの話だ?


「なんだよ。なんかのゲームの話か?」


「「………」」


「サーセン」


どうも違ったらしい。


「それじゃあ、私そろそろ行くね。影山君。絶対連絡するから。返事してよね!」


「お、おう……」


「それと花山さん。負けないから。あなたにも。そしてもう一人にも」


「ふふ。全力でかかってきなさい」


「……うん! それじゃあ!」


「おう」


「ええ」


松井はこちらに手を振りながら、元居た席に戻っていった。


「さて、私たちもそろそろ出ましょうか」


「……なあ。結局なんの話だったんだ?」


「さあ? いずれ分かるわよ」


「ふーん……」


なんのこっちゃかさっぱり分からん。


「ここは私が出すわ」


「いやいや俺が出すって」


「いいわよ。また今度奢って頂戴」


「……わかったよ」


そして俺たちは会計を済ませて店を出て、そのまま駅に向かっている。


「今日は二軒目は行かないのか?」


「……今日はそんな気分ではないわ」


「……なにか気に障る事言ったか?」


「そんなことじゃないわよ。ただ今日は早めに帰って作戦を練らないといけなくなってしまったから」


「なんの作戦だよ……」


「ふふっ。それは乙女の秘密よ」


そう言って笑う花山は、いつにもまして綺麗な笑顔だった。なにか憑き物がとれて、重荷がなくなったような、そんな感じの。


ちょっとキュンと来たのは、ここだけの秘密だ。

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