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酒に飲まれる人とは、極力一緒に呑みたくない。

松井との一件があってから俺は、すぐに家に帰った。正直いい気分ではない。

俺にとっては、学生の頃は、あんまりいい思い出ではないから。むしろ黒歴史ばっだな。


その黒歴史の中の一部が、先ほどの松井日向である。とある一件」で、彼女との縁は切れてしまった。

いや、俺の方から切ったという方が正しいのかもしれない。まあ、今更どうこうしようという気持ちはないが。そして意外だったのが、向こうが俺の事を覚えていたのが驚きだったな。


てっきり忘れられているのと思っていたからな。だからなんだって感じだけど。


俺はベットの上で先ほど買ったコーヒ―を飲みながら、昔の事を思い出していた。


俺は、生まれは大阪で、中学二年までは大阪で暮らしていた。そして俺が中学二年になろうとした時に、母親が病気で死んだ。親父は、俺が生まれて間もないころに既に亡くなっていたので、顔は覚えてない。

母親が死んだ事をきっかけに、俺は東京に住んでいた祖母のところに転がり込んだ。その祖母も、俺が十八歳の時に死んだ。


そこから俺は、一人暮らしをしながら、就職して、絶賛社畜中である。

まあ、なかなかヘビーな人生を送っている。


高校に入ってからは、なかなか苦労した、俺はもともと人付き合いが得意の方ではない。そのため、高校では万年ボッチだった。そこで出会ったのが、先ほどの、松井日向である。


彼女は、当時も綺麗で、クラスの中心人物で、学校中で人気でだった。

当時の俺は、まだ東京に慣れていなかったため、つい大阪のノリで、クラスメートと仲良くなろうとしたのがダメだったのかもしれない。


関東の人からしたら、関西の喋り方は、どうもきつく聞こえるらしい。当時の俺は、そんなことは頭に一切入っていなかったので、バリバリの関西弁で喋っていた。そしていつの間にか、周りから人が離れて行って、気が付いたら孤独なボッチになっていた。まあ、短期だったのもあるかもしれないが。


そんな中変わらず優しく接してくれていたのが、松井日向である。

あの時の俺は単純だったので、こんな俺にも優しくしてくれるなんて、なんていい人なんだろうとか、そんな大したきっかけなんてなかったんだが、俺の中では友達と認識していた。あくまで俺の中ではの話だ。


だが、()()()()があってから、俺の中ではもはや友達と言えなくなってしまった。あれはさすがにこたえたな。


っていかんいかん。つい昔の事を思い出して主任の呑みの前から、ブルーな気持ちになるところだったぜ。

すると、スマホに一件の通知が入った。



「なんだ……?」


スマホを見てみると、主任から恐ろしいラインがきていた。


『お疲れ様です。駅前に十八時半集合で。断るなんてしないでしょうけど、もそ断ったら、私ナニするか分からないので、そのつもりで、なので絶対に来ることを推奨します。以上』


「うわぁー……」


い、行きたくねぇー。まあ主任のご命令なので、行くしか選択肢がない。つかなんだよ、ナニするかわからないって。どんな脅迫の文面より恐ろしいわ。



「今は、十七時か。まだ時間あるな。集合場所の近くの喫茶店で時間潰しとくか」


俺はさっきの服装とは違う服に着替える。あまりにお洒落に興味はないが、さすがにダル着では相手に失礼なので、ぱっと見でダサくない服に着替える。


とりあえずズボンはユニ〇ロのスリムなジーパンにして、上は、無地の白のTシャツにその上から、淡い水色のジージャンを羽織る。これでぱっと見ダサくないはずだ。多分。知らんけど。


「お金は、一応多めに持っていくか」


俺は財布に、三万ほど入れてポケットにしまう。主任はたま二軒目三軒目に行く時があるから、お金は多めに持っていく方がいい。女性にごちそうになるのは男としてかっこが付かないからな。


さて、そろそろ駅に向かうとしますか。というか、主任って今日は休みなのか? 今日は土曜日だから、もしかしたら、休日出勤してるかもしれない。もし休みだったら、よほど酒を呑みたかったんだろうな。

いつもは仕事終わりに呑みに行くのに、今日は休みの日にいくくらいだからな。


そんなこんなしてたら、駅に到着してしまった。そして電車に乗り込んで、十分ほどして、待ち合わせの駅に着いた。


「えーと、確か、この辺に……、おっ、あった」


俺はある喫茶店に入って時間を潰そうとしていた。そのある喫茶店とはこの間、内山に教えて貰った喫茶店である。なかなか気に入ってしまった。


あいつの店選びのセンスには驚かされたもんだ。

俺があんまりキラキラしたところが好みではないのも分かってこの店を選んだのだろう。

そういう所は尊敬する。あとは俺に対する言動をもう少し優しくしてくれると助かるんだが。


「あ、すいません。ホットコーヒー、一つ」


俺は店員を捕まえて注文をする。

この後居酒屋で食べるから、今はあまり食べない方がいいだろう。


「はあ……。あんまり酔わないでほしいな」


俺はつい独り言を呟いてしまう。俺は割と酒には強いほうではあるから大丈夫だが、主任はあんまり酒には強くないからな。酒は好きだが、すぐに酔ってしまう感じだな。


これを以前はほかの同僚に話すと、『そんな主任は見たことがない』とのことらしい。

俺が一緒に呑みに行く時だけそうなってしまうのか、いまだに謎だ。


ちなみにこれを内山に話すと、『なめてるんですかぁー?』とか言われた。

内山には、今後一切主任の話はしないと誓いました。


コーヒーを啜りながら猫ちゃんの動画を見てると、一通の通知が来た。


「なんだろう」


『私はもう駅周りに到着しているので、駅に着いたら連絡ください』


「えぇー……。まだ十七時半だぞ……。早くね?」


この人どんだけ酒飲みたいんだよ……。まあいいか。俺もすでに近くにいるから、駅に向かうとしよう。

俺は会計を済ませて、店を出る。


「とりあえず、主任に連絡だな」


『僕も、もう駅についてます。今どのあたりにいますか?』


「送信っと」


送信ボタンをタップすると同時にあたりを見渡してみると、いた。なんかめっちゃ視線の的になってる。

まあつい視線が向いてしまうのも分からんでもない。


いつもは髪を下しているが、今日はパーマをかけていて髪の毛を巻いている。これだけでも印象が変わる。

服装は、黒色のタイトスカート、上は緑色の少しフリルなシャツに、その上から紺色のカーディガンを羽織っている。靴はもともと身長が高いからなのか、そんなに高さがないヒールを履いている。


そして手には小さい緑色のバック。全体的に、ダークな感じだが、主任のカッコイイ雰囲気がより一層増している。


「声、掛けずれー……」


俺も一応身なりを気にして出てきたが、釣り合ってないだろ、これ。


「あ、主任、こんばんわ。すいませんお待たせしてしまって」


「影山君。こんばんわ。私も今来たところだから、そんなに待ってないわ」


「そうっすか。それならよかったです」


「それより、いつもはダル着なのに、今日はおしゃれしてきてくれたのね」


「ええ、まあ。さすがにちゃんとしないと、失礼だと思って。まあ、釣り合ってませんけどね」


「そんなことはないわ。私はカッコいいと思わよ」


「あざっす。主任も、いつもきれいですけど、今日は一段と綺麗ですね。なんかカッコいい感じと言うか」


「そ、そう……。あ、ありがとう……」


主任は照れて、顔を背ける。いや、やめて。こっちまで照れちゃうから。

普段こんなこと言わないから、余計照れる、


「そ、それより影山君。こうしてプライベートで二人に時は、どうする約束だったかしら?」


「あー……。お互いタメ口で話す、でしたね…」


「そう。その方が私も楽なの。あと、なにか特別な感じがするし……」


そう。俺と主任は。会社の中では部下と上司だが、年齢と入社した時期が一緒なので、こうしてプライベートで会う時は、お互いタメ口で話す決まりになっている。

俺はまだあんまりまだ慣れていないんだがな。


「じゃ、じゃあ行きますか。ここから近いんすか?」


「……敬語」


「す、すいま……あ、いや、すまん……。まだ慣れていないんだよ……」


「早く慣れてもらわないと困るわ。私も何かアドバンテージをとらないと……」


「なんか言った?」


「いえ、なんでもないわ。ここから歩いて五分くらいのところよ」


「了解」


「今日は久しぶりにお酒を飲むから、変に酔わないで頂戴ね。介護するの大変なんだから」


「どの口が言うとんねん……」


「なにか?」


「いや、何も」


いつも介護してんのはこっちじゃボケ。どんだけ苦労してるか……。

あらやだ。タメ口で話すという謎ルールのせいで、俺も主任に対して遠慮がなくなりつつある。

気を付けないと。すいません主任。心の中で謝っておきます。


「影山君はすぐ酔っぱらってしまうんだから。自分では気づいてないでしょうけど。たまに何言ってるか分からない時もあるんだから。程々にね」


それはお前が酔って聞き取れてないだけじゃい!


前言撤回。今日は遠慮のえの字もないくらい突っ込んでやる。

上司? なにそれ食えんの?


覚悟しとけよこの野郎。



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