主任はクールっぽく見えて、意外に喜怒哀楽が激しい。
俺は今、エントランスの最難関ダンジョンの入り口に立っている。
この先には、史上最強のボスが君臨している。さあ、どう攻略するか。
いろいろ考えてみたが、何も思いつかない。覚悟を決めたはずだが、普通に足が重い。
こういう時は、当たって砕けろ、だな。なんかこの言葉を使う場面がいろいろおかしいような気がするが、まあいいだろう。さて、いざゆかん! 戦場へ!
「あ、あの、どうも、お疲れ様です主任…」
「……おつかれさま。待ってたわよ…」
「あ、はい…。お待たせしました…」
いや怖すぎー。もうむりー。ダレカタスケテ。
「それじゃあ早速。聞きたいことが山ほどあるから、順番に聞いていくわね。まず一つ目。土曜日に内山さんと遊んだって言っていたけれど、あれはどういう経緯でそうなったのかしら? 簡潔にわかりやすく説明して」
「え、えーと…」
やっぱり土曜日のことか。予想的中だな。
どういう経緯か。これは普通に説明しよう。
「お、俺が猫が好きって話を内山と前に話してて、それで内山の家で猫を飼ってるらしくて、それで、せっかくだから猫ちゃんを紹介してもらった、って感じですハイ…」
俺は嘘偽りなく、経緯を説明した。うんなにも嘘はついてないぞ。どんなふうに遊んだかは聞かれていないからな。あくまで、経緯についての説明にのみだ。
「そう。それじゃあ二つ目。内山さんの両親があなたの事を気に入ってるという話をしていたけれど、これはどういうことかしら?」
「これには、わけがありまして…」
「さっさと言いなさいよぶっ殺すわよ」
「ハイ」
主任までなんなん…。最近の女の人は全員、こんな物騒な事いってんのか…。
「いやあのー。まあ、その当時は、内山の両親は帰ってこない予定でして。それで二人でゆっくりお茶してたら、急にご両親が帰ってこられて。それで成り行きで内山の両親も交えて、お茶することになりまして…。そんな感じですハイ…」
「ふーん…。そう…」
「は、はい…」
「あのクソガキが…。抜け駆けしやがって…。ミキサーにかけて、犬の餌にしてやろうかしら…」
「え」
「何か? 何も言ってないわよ?」
「あ、はい」
いや絶対なんか言ってだろ…。こいつら実は仲悪いんか…?
「まあいいわ。それで影山君。今度の土曜日、予定あるかしら?」
「え…。あー、今度の土曜日はちょっと…」
「予定あるかしら?」
「いやあのー…」
「予定あけろ」
「了解しました」
ふぅー。汗が止まらねぇよ…。こんなのずるやん…。こんな怖い顔されて『あけろ』なんて言われたら、うなずくしかねえだろ…。断れるやついたら、連れて来てくれ…。そしてその断り方をぜひ伝授してほしい。代わりに駄菓子屋の飴ちゃんやるから。
「そ。予定があいていてよ良かったわ。駅前に安くて美味しい居酒屋ができたのよ。おごるから、一緒に行きましょう?」
「え、飲みっすか…」
「ええそうよ? まさか断るつもり…?」
「ぜひ行かせていただきます」
絶対に行くから、だからどうか目の中に光を取り戻してくれ…。そんな瞳孔開いてちゃだめでしょ…。
「そう。良かったわ。時間はまた連絡するわ。ごめんなさいね。貴重な休憩時間に。おかげで、色々やらなくちゃいけない事が分かったわ」
「そ、そっすか…。それは何よりです…」
「ええ。色々と、ね…」
なんかよく分からんが、関わらない方が良さそうだ…。俺の勘がそう言ってる…。
てか、主任と呑みかー。いや、いいんやけど。いいんだが、ちょい酒癖が悪い。
てかまあ、だいぶ悪い。一回悲惨な目にあったからな。あんな経験はもうしたくない。
「それじゃあ、私はこれから取引先のところに挨拶しないといけないから。影山君も残りの仕事頑張ってね。あ、あと、土曜日の件だけれど、もし変な理由で断ったら、生かしてあげられる保証がないから。くれぐれも気を付けてね…?それじゃあ」
「うっす…。いってらっしゃい…」
主任は嬉しそうにエントランスを出て行った。
アー。コンドノドヨウビタノシミダナー。ハハハ…。




