嫉妬という感情は、どんなに出来た人間でも、狂人へと変える力をもっている。
今日は、いつもの憂鬱な月曜日。土曜日にあんな事があったので、少し疲れが溜まっている。
普段、人と遊ぶなんてことなんてしないからな。慣れない事はするもんじゃない。
現在の時刻は午前八時。仕事が始まるのが八時半からなので、まだ時間がある。
コーヒーでも買いに行くか。朝の飲み物はコーヒーに限る。
自販機で我が愛しの『BOSS』のブラックコーヒーを飲んでいると、花山主任が同じタイミングでやってきた。
「おはよう。影山君。今日も怠そうなしてるわね」
「……おはようございます主任。主任は朝から元気そうですね」
「ええ、まあ。……朝からあなたの顔が見れるし……」
「なんです?」
「な、なんでもないわ。そ、それより影山君。今度のー---」
「おはようございまーす」
「おう。おはよう」
またまた同じタイミングで、今度は内山がやってきた。前にも似たような事があったな。
「………ちっ。このクソガキが…」
「……!?」
え? なんか主任から舌打ちが聞こえたんですけど。え? いやいや、え?
しかもなんか、クソガキがとか聞こえた気がするんですけど。え?
この中で俺より年下のやつは、内山しかおらんぞ。まさか内山に向かって言ったのか?
「……おはよう。内山さん」
「……おはようございます…」
いや気のせいだな。うん。気のせいだ。そういう事にしておこう。
こういう時は、即座に退散するのが吉だ。なんかデジャヴを感じる。
「そ、それじゃあ俺は先に席に戻りまーす……」
「あ、せんぱーい。土曜日はありがとうございました」
うぉーい! 今それ言うか!? いやなんも悪い事はしてないけど、なんか主任に知られると、なんかまずいような気がする。何がまずいこのか俺にも分からんがな!
「………土曜日?」
ほらー! なんか怒ってるやん! なんで怒ってるのか俺にも分からんがな!
「お、おう。こちらこそ。じゃ、じゃあ俺はこれで…」
「はーい」
「………………」
めっちゃキレてるー! 今にも刺してきそうな顔してるー! 空気読めよ内山―!
「ちょっと待ちなさい。土曜日って何のことかしら?」
「い、いや、あのー。た、たまたま偶然内山と会って、それで少しー-」
「いやー。楽しかったですよね。私の家で二人きりで。まあ、途中から両親が帰ってきて、ちょっと気まずくなっちゃいましたねー。でもうちの両親は、先輩の事すごく気に入ってましたよ。またいつでも来てくれとの事です」
おいー---! なんて事言ってくれてんのこいつは! ほら! 主任の顔がどえらい事になってんじゃん! 鬼を通りこして、般若になってるよ。背中に鬼の顔を背負ってるよ。今まで一番怖い顔してるよ。
「……へー。そう。二人きりで……。しかも両親も交えて……。そう。そうですか」
「フン」
いやなに『やってやったぜ』みたいな顔してんの!? お前が変な事しでかすから、えげつない空気感になっとるやんけ!
「……良かったわね。仲がいいのは大変よろしいことだけれど、あんまりハメを外しすぎないように。それじゃあ、私は先に戻るわ、あなたたちも、遅れないように」
「は、はい…」
なんか普通に戻っていったな。ぼろくそにやられる覚悟はしていたが。
「ふぅー-。朝から死ぬかと思ったわ。おい内山。あんま誤解を生むような発言はー-」
「なんなのあいつ、なによあの澄ました顔は。むかつく。これしきでは動じないってこと? 自分の方が親密な関係だからって事? きっしょ。死ねばいいのに。あー。今日の帰りに事故死しないかな」
……大人しく席にもどろ。
このなんとも言えない複雑な空気感から逃げ出そうとすると、俺のスマホから通知の音が聞こえた。
「なんだよこんな時に……、ひっ!」
スマホを見てみると、『お昼 エントランス 集合 無視したら どうなるか 分かるわよね』と花山主任から、ラインがきていた。
……終わった。終わったわ。俺がバカだった。あそこで上手く誤魔化しとけば、まだ軽傷で済んだかもしれない。
……みんなさようなら。また地獄で会おう。




