天使と悪魔、同時召喚。③
とりあえず、内山家が全員集合した。
いや、マジかー。土着祖緊張する。
今は、リビングにいるのだが、俺と内山が隣同士で、内山の両親が、俺たちの前に座っている。
「さて、じゃあ単刀直入に聞くけど、あなたたちは付き合っているのかしら?」
「だ、だから、付き合ってー--」
「そのような関係では、決してありません」
「……そこまで否定しなくてもいいじゃん……」
「なんか言ったか?」
「なんでもありません」
とりあえずちゃんと否定したが、内山がご機嫌斜めに。わっかんね。
「ふふ、まだ、ね。わかったわ。それで先輩君」
「は、はい…」
「そんなに固くならないでいいのよ。将来家族になるかもしれないんだから」
「は、はあ…」
「それと、私の事は紗也乃でいいわよ」
「いえ、まだ初対面なのに…」
「それじゃあ、お義母さん、かしら?」
「紗也乃さんでお願いします」
「ふふ。よろしい」
「……ちょっと。ママ。変な事しないでよね…」
「しないわよ。ふふふ」
「もう!」
あっぶね。綺麗すぎて、危うく墜落するところだった。
ほんとに人の親か? 仕草、言動、行動全てが完璧なんだが。
「………おい、小僧…」
「ひゃ、ひゃい!!」
やべー。親父さんめっちゃ怒ってる。そら怒るよな。可愛い娘と不審者みたい奴が、二人で家にいたんだから。そらキレるわな、あー終わった、詰みましたー。皆さんさようならー。
来世は鳥になりたい。
「貴様は、俺の可愛い娘では飽きたらず、俺の愛する妻まで奪おうとするのか…!」
「い、いえいえいえ! そんなこと一ミリも思ってませんよ!」
「………ほう? ならさっきから、俺の愛する妻の、俺に対する態度が違うんだが? 悪い意味で」
いや知らんわ! 今までの自分に聞けや! 過去の自分がすべて物語っとるわい!
「い、いやそんなこと言われましても……」
「どうなんだ! 小僧!」
「ちょっと、パパ! 先輩はパパが思ってるような人じゃないから! 確かに見た目は、陰キャで、性格はだいぶ捻くれてるけど、ちゃんと筋の通った人だから。もしこれ以上先輩に何か変な事言ったら、パパと一生口聞かないから」
「な、なんだって! そ、それは困るな……。だ、だがな。かやたん。パパは、かやたんの事を思ってー-」
「いい加減にしろや。桂也乃がここまで言ってんだから、それを黙って見届けんのが、親の役目だろうがぶっ殺すぞ」
「申し訳ございませんでした」
いや、紗也乃さんの方が、普通にヤクザなんだが。こういう所はちゃんと血を引き継いでんな。
内山も、将来こんな感じなんだろうか。
「そもそも今日は、うちの猫を見に来ただけだから」
「それはただの口実で、ほんとはワンチャン狙ってたんじゃないのー?」
「ち、違うって! いやまあ、違わなくもないというか…」
「あなたが、そんな顔をするなんて。よほどいい人なのね。今まで、何人か男の人連れてきてたけど、そんな顔をしてるの、見た事なかったわ」
「む、昔の事はいいから! ほら、駅まで送りますから。さっさと帰る準備してください!」
「お、おう。急だな…」
「あら。もう帰っちゃうの? 晩御飯くらい食べていったらいのに」
「いやさすがに、そこまで迷惑かけるわけにはいきません」
これ以上は、俺の身が持たない。精神的な意味で。
「ふ、ふん。さっさと帰りやがれ。小僧め。娘はやらんからな!」
「はは…」
別にそんな関係になるつもりもないし、俺が告ったところで、普通に振られるだけだ。
「妻もやらんからな!」
なにを言うてねんこの人は…。
「それじゃあ、先輩を駅まで送ってくるから」
「お、お邪魔しました」
「いつでもいらっしゃい。次は色々お話したいし」
「い、色々とはなんだ! 貴様! 次はこの家の廊下を跨げると思うなよ! 次こそ貴様を、スクラップにしてやー--」
「ハイハイ黙った黙った。それじゃあ、気を付けて帰ってね」
「は、はい。あ、ありがとうございました」
親父さんが今にも、天に召しそうな顔してるんだが。大丈夫かあれ。
紗也乃さんは、扉が閉まるまで、。手を振ってくれた。よくできた母親だな。綺麗だし。
「ちょっと先輩? まさか私の母親にまで、手を出すつもりですか?」
「い、いやなんでだよ! むしろ今まで、女の人に手を出した事なんてねえよ」
「よく言いますね…。あの女までを毒牙にかけて。はあー。いっその事、毒で殺してやろうかな。私の知らない間に、先輩の家に転がり込むなんて…」
なんか、ぶつぶつ言ってるが、そっとしておこう。いやな予感がする。
そんなこんなしてると、駅が見えてきた。
「それじゃあ、いったん。ここでお別れですが、また後で連絡します。今度、先輩の家に遊びに行く日程を決めないといけませんので」
「お、おう。あれ本気だったのか…」
「は? 当たり前でしょ?」
「あ、はい」
なんで帰る時まで、こんな怖い思いをしなくちゃいけねぇんだよ。
まあ、それなりに楽しかったな。久しぶりに、人とちゃんと遊んだ気がする。
たまには、こんな日も悪くないかもしれない。たまには、だがな。
少し、にやけながら内山に別れの言葉を言う。いや、まあ会社で会うんだが…。
「それじゃあな。送ってくれてありがとう。今日は、まあ、なんだ、ひ、久しぶりに、楽しい時間だったよ…。ココアちゃんとも遊ばしてくれたしな。じゃ」
「……っ! わ、私も楽しかったです! また連絡しますから! 既読スルーとかしたら指の爪全部はがしますからねー!」
はは。最後のは聞かなかったことにしよう。もうずいぶん距離があるので、ひらひらと手を振って返事をする。駅のベンチに座って、電車を待つ。
いやー---。つっかれた! いやマジで! いや楽しかったよ? 楽しかったけどさ。
両親の登場は聞いてなーい! 生きた心地しんかったわ。いや耐えた方だよ。
自分で自分を褒めたい。自画自賛とはまさにこのことを言う。今日で、精神耐性のレベルが五十くらい上がった気がする。今日はよく寝れそうだ。
あ、あかんわ。内山からラインが来るんだったな。眠いから、できるだけ早く寝たいんだが。
色々考えてると、色々気を張っていたのか、一気に睡魔が襲ってきた。
この電車の中のちょうどいい気温が、余計に眠気を集めてくる。
細かいことは、家に帰ってからだな。
電車の窓から、オレンジ色に輝く夕日に照らされながら、眠りつく。
懐かしい感じの眠気だった。遊んだ後に疲れ切って、死ぬように眠る感じが。
十年前のあの時のような。このまま、目は覚まさないでほしいと願ったあの日と、すごく似ていた。




