やっぱり部長が禿げてたら、だいだい変態説ある。(偏見)
「ピピピピピピピ」
「……うるせぇ…」
寝ぼけながらスマホのアラーム音を止める。時刻は朝の六時。
起きて洗面所に向かい顔を洗う。
鏡に映るのはいつ見ても死んだ魚のような顔をした、俺こと影山影人は職場に出勤するための準備をこなしていく。
「ついにやってきてしまったか……。絶望の月曜日が。いやほんとマジで憂鬱なんだけど。世の中の社会人の皆さんはどんな気分で月曜日を迎えてるのかねぇ…。もし気分上々で迎えているのなら、そいつら本物だわ。本物の社畜だわ。」
朝からこんなネガティブな独り言を呟いているが、いやほんとつぶやきたくもなる。
社会人になって七年ほど経つが、この感覚はいつまで経っても慣れない。金曜日とのギャップが激しすぎる。金曜日と月曜日の違いを分かりやすく説明しろと言われて、上手く言葉にできる人なんて、この世に何人いるだろうか。あんまりいないと思う。
とりあえず駄々をこねていても仕方がないので、憂鬱になりながら家を出る。
俺が住んでるアパートから会社まで、電車で二十分で行ける距離なので、通勤時間に関しては苦ではない。通勤時間に関してだが。会社についてからが問題である。
俺は過去に色々あり、人が苦手なのである。俗に言うコミュ症というやつだ。
家族などとは、普通に喋れるが、それ以外の人間と喋る時は、すぐにどもってしまう。特に女性は苦手だ。職場に何人か女性がいるが、マジで怖い。なに考えてるかほんと分からん。
一人の上司は俺と喋る時だけ目つきヤバいし、後輩の一人は俺にだけ当たりめっちゃ強いし。
なんて余計に憂鬱になりそうな事を考えていながら、電車に揺られる。
数分すると、会社の最寄り駅に着き、電車を降りる。
とりあえずコンビニでブラックコーヒーを買い、会社に入る。俺が務めいる会社はただの中小企業だが、それなりにホワイトである。普通に有給とれるし、土日も休みだし。残業はそれなりにあるが、ちゃんと残業代でるし。ただ、癖が強い人間が多い。まあ俺もその中の一人だが。
会社に着いた俺はやる気のない挨拶をしながら、自分のデスクに向かっていく。
「おはようございまーすぅー」
「おはよう。影山君。いつも言っているけれど、挨拶はちゃんとしなさい。だらしないわよ」
「……はい」
今俺に説教を交えながら挨拶を返してきた人は、俺の上司である花山凛子さん。
一応俺と同期入社だが、かなりの美人で、滅茶苦茶仕事ができるし、細かい事も抜かりない。
その実績を認められて、みるみるうちに出世していき、いつの間にか俺の上司になっていた。
職場でも超モテモテである。食事のお誘いをされているところとか、デートに誘われているところとか頻繁に見かける。だが全て断っているらしい。なぜだろうか。
「影山君。この前作ってもらった資料を拝見させてもらったけど、さすがね。一つもミスが無かったわ」
「あざす。あ、あとこの資料も作っときましたよ」
「ありがとう。相変わらず仕事が」早いわね。なのに出世できないのは何故かしら」
「さあ。愛想が悪いからじゃないんですかね。知らんけど。そもそもあんまり出世したいと思ってないし。なんだったら部長に嫌われてるし」
「なんでそういう所は自覚してるのよ……」
溜息しながらそう呟く花山主任。いや割と自分の悪いところはちゃんと自覚してるよ?
ちゃんと自分の悪いところを自覚してるだけマシだと思うけどな。まあ今更悪い所を直す気もさらさないが。
つかその直す気がないのがダメなんだろうな。だから部長にも嫌われてるんだろうな。
まあ別に、あのハゲ親父に好かれたいなんて思わないが。
あのハゲは、女性社員には優しいが、男にはめちゃ厳しい。花山主任とかにはすんごいいやらしい目で見てるから。いやマジほんとに。そしてそれを軽くあしらう花山主任。マジかっけー。
それでもしつこく言い寄る部長のメンタルも異常だけど。ダイヤモンド並みの硬さだわ。俺なら泣いて土下座するまである。
そんなことを心の中で愚痴ってると。一人の女性社員が、花山主任に眠そうな声で挨拶をしていた。