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Green Way 〜記憶を失って転生し、絶望を知る〜  作者: SS
1章 英雄の誕生編
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9話 狂人が映す狂気

「おーい、タイカルー!」


「あ、キキョウ、ユズ。今行く〜!」


 山から降りた俺とユズは、まず一番にタイカルの家に行った。タイカルは先に一人で仕事を始めていたのか、俺らの家の枠組みに乗っていた。

 返事をすると、結界魔法を駆使して軽々と降りてくる。意外と高性能だなこいつ。


「へいへい、なんっすか?」


「仕事中に悪いけど、ちょっと山が緊急事態なんだ。急な要件だから明日の朝には出発したい。それを伝えに来た」


「黒くて超デッカい芋虫みたいなやつが住み着いていてね。駆除しよう」


「・・・オレが手伝うの?」


 疑問を抱いている。そして嫌そうな顔だ。こんな突然の頼みに、手伝ってくれること前提で動くのは傲慢すぎたか。もう少し様子を見て、本当に嫌なら断ってもらおう。


「ごめんね、こんな急な話で。でも、見れば分かるけどめっちゃ強い。できれば転移者男組の全員で向かい打ちたい」


「ユズが倒せないレベルとか...... めちゃ怖」


「もちろん危険な仕事はさせないつもりだよ。可能な限り僕とキキョウの魔力を残して戦いたいから、タイカルには道中のサポートをお願いしたい」


 タイカルは行くかどうか迷っているようだ。正しくは、行くべきなのは分かっているけど怖いから葛藤しているというべきか。

 正直、俺はタイカルが怖いなら安全地帯に留まってほしい。手伝ってあげたいという気持ちだけで十分嬉しい。

 ただ、俺はデカブツの強さもユズの自信の程もよく分からないから、出しゃばるのは良くないだろう。村全体の問題だ。

 ここは妥協案を出すか。


「もう少し様子を見てからでも良いぜ。俺とユズもしっかりと強さを確認したわけでは無いから」


「急ぎの用事って言っていたじゃん。山の生態系に問題が出ているとか? なら渋々手伝うよ...... 絶対安全を保証してくれるなら」


 結構嫌がっていたが、根はいい奴なのだろう。ユズがそこまで言うならと、タイカルは渋々と俺らの申し出を了承してくれた。


「ありがとうタイカル。安全な策を考えるよ」


「どういたしまして。あぁでも、ユズも感謝される側だ。ありがとう」


「うん、安全な策を考えるよ。頑張ろう」


「俺からもありがとな。二人とも後でなんか奢らせてくれ」


「「金の文化は無いね」」


 綺麗に被ったな。


「えっと...... まあ仕事は後ででいいや。もう少し聞かせて。デカブツは1体、1匹? だけなの?」


「あぁ、あんなんが沢山居たら悪夢だけど、確かに虫だし1匹じゃないかもな」


「そしたら1日1匹頑張るしかないね」


 毎日山を登るだけでも結構重たい作業だ。しかし、タイカルはそれを聞いて、むしろ安心していた。ユズの楽観的な様子を見るに、1匹ずつなら勝てるって言っているようなものだからな。


「1日で2匹ずつ増えたら?」


「その場合はもう潔く山ごと燃やそう」


「俺に任せとけ!」


「2人とも過激派!! もう少し悩んで!」


 でもエネルギー的に考えて、あんな大きな虫が1日に1匹増えるなんてことはないだろう。元々土の中に埋まっているかなんかで、それがたまたま現れたと考えるのが妥当だ。


「まあいいや。あとは...... 一応レアにも明日留守になること伝えなきゃなのと、作戦は明日聞くとして、待ち合わせ場所はここでいい?」


「うん、日が登って気温が上がったタイミングでここに来るよ」


「おっけー。他に話すことは...... 無さそう」


「じゃあ。本当にありがとね。お仕事頑張って。ばいばーい」


「明日よろしくな」


「二人も、頑張ってね」


 俺らはタイカルに言いたいことは全部言った。そうして振り返って歩き始め......


「ッツァ!」

「ったぃ......」


 額と額がぶつかった。


「あぁ、悪ぃ。見てなかった......」


 ぶつかる直前まで全く意識していなかった。0距離になって初めて居たことに気づいた。

 俺の不注意...... と思っていたが、そうではなかった。ユズとタイカルは、信じられないものを見る目で彼女を見ていた。


「あ、あ...... え?」

「ん?」


「はぁ......」


 露骨に溜息を吐き、ズカズカと歩き続ける彼女。その後ろ姿には、短くて艶やかな黒色の短い髪と、綺麗な背筋と歩き方が映る。彼女の残り香はいい匂いだった。


「えっと...... 謝ったよな?」


「うん...... そのはず」


 彼女は乱れた髪を整え、早歩きで行ってしまった。


「なんか態度悪いな。ちょっとムカつく」


「キキョウがぶつかったんでしょ。......まあ、一概にそうとも言い切れないけど」


「あんな子、村に居たっけかな」


「チッ」


 乾いた舌打ちが響く。周りには人が少ないため、余計にその音はよく聞こえた。人に悪意を向けられたことは少ないのだろう、ユズとタイカルはビクッと震え上がった。


「なあアンタ」


「......」


「お前だよ黒髪ショート。おい」


 無視して歩き続ける黒髪に向けて、少し圧をかけて話す。タイカルが「やめた方が良いですよ!」とでも言うように俺の裾をちょいちょいと引っ張っているが、俺はその程度じゃやめない。


「今回は、まあ? 俺にも非はあるし? 別に心から謝れだとかは思わないけどさ。こっちは謝っているんだぜ? 形式上だけでも謝るのが、礼儀ってもんじゃねぇかな?」


「......貴方は強い?」


「は?」


 予想外の返答が返ってきて、素っ頓狂な声が漏れる。え、まあ...... え? 質問の意図がよく分からない。


「まあ強いと思うけど...... なんだよ」


「ふーん。ねぇ、貴方がぶつかってきたから、アタシは相当傷ついてしまったわ。責任を取ってくれないかしら」


「......何だよ。無理やりお前に頭を下げさせろと。お望みなら力ずくでやってやるけど」


 その後ろ姿に何か異様な雰囲気を感じ、負けじと脅すような言葉で煽る。彼女が怯む様子は全くない。


「ふふっ、嫌いじゃないわ。貴方みたいな人。質問するわね」


 彼女はそう言うと、ようやく俺にその面を見せた。そして俺は......


「貴方達は、アタシにどう責任をとるの?」


 いやめっちゃ可愛い!? え? ん? え!? ちょっ、え、可愛すぎる。ん!!?? どうしよっ、めっちゃ怒鳴ったけど。明らかに印象悪いことしたけど大丈夫か!?

 ってか何言ってんだよ、本当に何言ってんのかわっかんねぇんだけど!?


「ねぇ、貴方達は、アタシに何をしてくれるの? 痛くて痛くて......」


 その声が、俺の頭に響く。内容は意味不明だが、とにかく聴き心地が良い。脳がとろけそうというフレーズはこういう時に使うのか。

 顔はやや童顔で、ムッとした無表情とつい触りたくなる柔らかそうな白い肌、目は紫色で妖しく光っている。

 帽子は無いものの、魔女のような黒が基調の服が特徴的で、意外と起伏に富んだ身体を惜しみなく強調していた。指先から足の先まで一目惚れだ。


「貴方達のせいで。貴方達のせいで、今にも死んでしまいそうだわ」


 しかし、やはり何を言っているのか理解することはできない。さっきまで何言っていたっけな。もう少ししっかり話を聞いておけばよかった。


「えーっと...... 何を言って......」



「だから、貴方達のせいで死ぬって言ったの」


 そう言うと彼女は右手にナイフを作り出し、自らの腹に刺した。

 血が垂れる。血が吹き出す。彼女はさらに自分の身体を刺し続け、そして俺の方に倒れ込んだ。

 腕を回して頭を預けるその姿勢は、まるで抱きついているようだった。ベッタリと俺の服に血が付き、彼女の力が急速に失われていく。


「............は?」


「え......?」


「あっ......えっ......」


 三者三様に驚愕を表し、そして全員が青ざめる。それはそうだ。だって彼女は......



 死んだのだから



「う...... あぅ...... うげぇぇ......」


 タイカルが嘔吐し、それに釣られるようにユズも口元を押さえる。あまりにも唐突すぎて、脳内の処理が追いつかない。


「............」


 誰も一言も発さない。死体が俺の右半身を伝い落ちて、血がぴちゃっと跳ねる音が響いた。


「......あっ、あっ、え」


 ユズが何かを言おうとして、言葉に詰まる。


「はぁ、ふぁ、うっ、うぐっ...... うっ、うっ......」


 過呼吸。


「......あ...... 落ち着け、深呼吸しろ」


「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ...... けほっ、けほっ」


 俺はユズの口を塞ぐ。酸素の供給を一時的に失くす、荒療治だ。


「うぷっ......」


 タイカルが再び吐き出す。俺は迷い、何も分からず、放置した。ユズの過呼吸は治りつつある。手を離すと、上唇の端に血痕が残っていた。......俺の手のひらについた血だ。思わず顔が引き攣る。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ......」


 ユズは一旦落ち着き、ようやく台詞を吐いた。



「......これって、僕らのせい......なのかな」



 彼女は最後まで、俺らのせいと連呼していた。意味が分からない。俺がぶつかったことが理由? 俺以外は? ユズとタイカルは何のために?

 考えちゃダメだ。迷っちゃダメだ。演じろ。この場を収めろ。

 俺は深呼吸をした。2回した。そしてなんとか声に平静を保つことができそうなことを確認して、舌打ちをした。


「......チッ、馬鹿らしい。俺が何をしたっつうんだよ。悪いことなんてしてねぇのに、罪悪感を感じる必要なんてねぇだろうが」


 あぁそうだ。俺が悪い理由がない。俺が悪いという証拠も死んだ。罪悪感を感じる必要なんてない。


「で、でも、もしかしたら......」


「後ろ向いてろ。タイカルも」


 俺は魔法で穴を作り、彼女の死体を中に入れる。その柔らかな肌は、その軽いのに持ち上げられないほどの質量は、確かに人間であることを示していた。

 吐き気がする。幸い見られていない。俺は声を殺して吐瀉物を死体にぶち撒けた。もう下をまともに見ることはできない。

 考える時間は十分ある。俺は太陽を見上げた。目に強い日光が刺さる感覚。30秒ほど目を焦がしていると、頭も冷静に回るようになった。

 俺は血のついた上着を脱ぎ、死体に被せる。ズボンの方は...... 膝でも刺しとけばいいか。治癒魔法で完治済みって言えば、疑われることはないだろう。


「もしかしたら、俺が悪いかもしれないって思うか?」


「「.......」」


「いいさ、たとえ俺が悪かったとしても、お前らが何も言わなければ何も問題はない」


「......キキョウは、無理していないですか?」


 さっきまで吐いていたのに。俺を本気で心配しているんだ。


「あぁ。別に、悲しくもないし」


「......僕は、それでも罪悪感がある」


「罪悪感を持ってどうする? 遺族の場所は? 村にはどう説明する?

 罪悪感を持っても無意味だろ。やったったぜ ぐらいに思っておけばいい」


 彼女は俺らの友達でも何でもない。ましてや、俺らは悪いことはしていない。さらに、彼女の情報は何一つ分からない。罪悪感を持つ必要も理由もない。


「はぁ...... この場で集まっていると目立つ。解散だ。もう帰ろう」


「......うん」

「......はい」


「ユズ、先帰ってていいぜ。一人で風を浴びたい」


「分かった......」


 俺とユズとタイカルは、それぞれ分かれた。



××××××



 周りに人が居ないことを確認し、俺は地面をもう一度掘り起こした。魔法で掘り起こす方法を知らないから、スコップと筋力増加魔法で少しずつ穴を広げていく。

 片足が見えた。防音効果を強めた結界で囲い、魔法弾を撃つ。着弾した魔法弾は、土を巻き込み跳ね上げた。口に砂利が入る。

 水魔法で身体を洗い流し、炎魔法で結界の中心を熱する。身体についていた水滴が10秒経たずに蒸発し、皮膚が溶け出した。これを2、3回ほど繰り返し、最後にもう一度魔法弾で粉砕する。

 治癒魔法で火傷と被爆痕を治して、結界を解除した。


「ふぅ」


 既に魔力はほぼ残っていないが、ユズに悟られないよう魔力に余裕がある風に振る舞わなければならない。できるだけ魔法を使わないよう立ち回らないとな。

 結界魔法を解除し、帰ろうとしたところ、横から一つの声がかけられた。この声には聞き覚えがある。というよりは、さっきまで聞いていた声。幼げはあるものの美しく透き通る、綺麗で妖艶な声だ。


「ねぇ、何をしているのかしら」


「......は?」


 黒くて短い艶やかな髪。紫色に光る大きな目。見ただけで質感が伝わる白い肌。


 今、俺が破壊した少女が目の前に居た。


「証拠隠滅ご苦労様。徒労になってしまったみたいだけれど」


「えっ。......双子さん?」


「違うわ。本物よ」


「え、え、えーっと...... さっきのは魔法で作った幻体か何かってことか」


「良い発想ね。素直に称賛するわ」


 パチパチと拍手をしだす少女。ということは、その解釈で正しい...... っていうことか?


「アタシの名前はフィルク。貴方の名前は?」


「き、キキョウだ。よろしく...... よろしく?」


「場合によってはよろしくとだけ答えておくわ」


 雰囲気、言動の全てが気持ち悪くて、とてもよろしくする気にはなれない。


「え......?」


「困惑するのも仕方ないわ。見てなさい」


 彼女がそういうと、隣に魔力の因子ができていき、彼女と全く同じ姿の人が現れる。


「これが分身。片方が死ぬまでは視覚も感覚も共有されているし、魔法だって使えるわ。何か質問はある?」


 いや、何か質問はある? と聞かれましても。なんかすげぇ。便利そう。どうしよう......


「じゃ、じゃあ、何体まで出せるんだ?」


「そうね。3桁ぐらいは出せると思うわ。他には?」


「......」


 3桁って多いな。......3桁!? 100以上!? いや、え? やっば。どうやってやってんだよ。


「無いわね。話の続き。はい」


 突然、話しているフィルクの舌がちぎれ、口から血が溢れる。仰向けになって倒れると、分身はその喉を締め付け始めた。


「この分身、好きにしていいわよ。襲うでも殴りつけるでも。死体の処理はアタシがする。見られるのが嫌なら場所を変えるわ。どうぞ」


「・・・何で俺がそんなことするんだ?」


「容姿には自信があるのだけれど。こんな貧相な身体ではお目にかからなかった?」


「......あぁ、待って。思考が追いついていない。整理する」


「待たないわ。さっさと考えなさい」


 俺は今何を要求されているんだ? これは何だ? どういう状況? 何かの儀式かなんか? 今って不味い状況?

 頭に大量のハテナを浮かべ固まっていると、フィルクは作り出したナイフで死体の衣服を切り始めた。


「おい待て待て待て。本当に何? 何がしたいんだ?」


「......これは何かの駆け引きではないわ。貴方がどういう行動をしても、アタシは貴方に何もしない。保証はできないけど、信じてくれるかしら」


 俺の困惑を見て、フィルクは衣服を切り裂く手を止める。胸は今にもはだけそうで、目に悪い。


「......それ、おまえに何の得があるんだ?」


「そうね...... 貴方がどういう人間なのかを見たいわ。今のところは、偽善者か慎重か臆病者のどれかね」


 なんか急に罵倒された。


「俺の人間性を確かめてどうするんだよ。俺がどうならどうする予定なんだ?」


「貴方が強い我を持つ人間ならば、味方に引き入れるわ。そうでなければ殺す予定。貴方はどっち?」


 えーっと...... 殺す...... 殺す!!??

 ちょっ、一旦落ち着け。ようやく話が見えてきた。フィルクは俺の我の強さを見ていて、返答を間違えたら死ぬ。緊急事態だ。

 まず、俺は我が強いか弱いか。俺は間違いなく前者である。それは間違っていないと思う。それを示さないといけないのか。この分身という複製体を使って。

 ......どうしよ。とりあえずぶん殴っとけばいいか? いや、ポーズを取るだけじゃダメな気がする。全力で蹴ろと言われたら蹴れなくはないけど、それが自我の証明になるか?


「早くしなさい」


「今考えているんだよ黙ってろ」


 反射的に暴言が出てしまったが、殺されない。大丈夫...... だよな? こういうのを求めているはず。間違っていない。

 待って。仮にコイツに認められたとしても、味方にならないといけないということか? それを断っても殺されるとしたら、俺は現状詰みだ。マズイマズイマズイ、どうすればいい!?

 分身、3桁...... 頑張れば、全員殺せるかもしれない。今目の前にいるのは2人で、片方は既に死んでいる。流石にどこかに他の分身が潜んでいるとは思うが、周りを見ても3人目は見つからない。もう片方を殺せば逃げられる......


 俺は彼女の首を絞めた。


 ギリギリと、力強く首を絞める。フィルクの顔色は変わらず、うっとりと嬉しそうに俺の目を見ていた。そして......

 俺の後ろへと視線を移す! 魔法弾!


「へぇ、視線で。すごいわね。貴方は」


 くそっ、結界魔法で防がれた! 爆風で俺も持っていかれる。もう魔力は残ってない。逃げるしかねぇ。爆風をいい感じに使って、地面蹴って......

 そんな俺の必死の抵抗は、黒色の壁によって遮られた。

 一か八かで、3人目に壁を使って切り返して跳び蹴りを入れようとするが、空中で運動を止められ地面に叩きつけられる。


「ふふっ、待った甲斐があったわ。ただ、少し甘いわね。魔力に余裕が無いのかしら」


「......万が一のために隠し持ってるんだよ」


「この状況で嘘を吐く姿勢は素敵だけれど、嘘の吐き方はなっていないようね」


 俺の手を引いて立たせて、余裕そうに語り出す。その姿は、狂人というほか無いだろう。

 俺が彼女を睨みつけると、その視界の隅に黒く小さな球体が走った。それは俺の左頬に少し触れると、鮮血を散らす。


「あ!? ぐっ、アァ......!」


 彼女は俺の頬に手のひらを優しく当てると、治癒魔法を使う。右手に血が付いたことなど気にせず、彼女は話を続けた。

 俺は震えそうな身体を無理矢理抑え、あくまで冷静を振る舞いながら話を聞く。


「アタシはいつでも貴方を殺すことができるわ。変に畏まる必要は無いわよ? 少し会話をしたいだけだから」


「......」


「ねぇ、神様って信じている?」


「......考えたことねぇ。信じられなくはないけど、今は信じていない」


「なら信じなさい。神様は存在するわ」


 フィルクは強く言った。俺の考えた無難な回答、すべき答えは肯定だったらしい。彼女が神を信じているとは、なんというか、意外だ。


「じゃあ信じる」


「あら、そんな簡単に信じていいの?」


「お前が信じろって言ったんだろ。......どうせ信じないって言ったら殺されるし」


「なら良いわ。死にそうになったら神様に祈りなさい。良い?」


「......まあ」


 俺がそう言うと、彼女はクスリと笑った。宗教の勧誘...... ってことか? 足の震えは止まり、冷静に話すことこそできているが、心臓が痛くなるくらいに大きく跳ねている。


「あぁそう。話は変わって、山に虫が沢山湧いているのだけど、それは知っているかしら」


 急にデカブツの件が持ち出された。俺らも知ったばかりだが、あれの犯人だと誤解されている、とかか? 先に断っておこう。


「......知っているけど、俺らは関係ないぜ」


「その原因、アタシが関わっているわ」


「......は?」


 あのデカブツも虫も、こいつの仕業ってことか? どうやって? なんでそれを俺に言う?

 既に頭はパンク状態なのに、少女はさらに俺に無茶振りを課す。


「山に入って抗ってみなさい。あと、入らなかったら殺すわ。理解できた?」


 また殺すという単語。フィルクが関わっているってことは、山にはフィルクが何かしらの仕掛けをしている? 何のために? 入らなかったら殺されると言うが、入れば生きられるのか? 彼女が仕掛けをしているのに?


 ......実験台ってことか。


 その結論が出た時、俺の背筋は凍った。同時に、大きな殺意が湧いていた。彼女を、絶対に消してみせると。


「返事は?」


「......死ね」


 不意打ちの特大の魔法弾。自爆上等の一撃は、彼女を肉片にした。俺は肉片に水と土をかけ、全身から血を出しつつも、なんとか走り出した。


「言ったでしょう? 嘘がなっていないと」


 横からの突然の声かけ。分身4人目......! 読んでたのかよ。


「いいわ。見逃してあげる。魔力を回復しておきなさい。明日、楽しみにしているわ」


「......ありがとう」


「......? どういたしまして?」


 俺は彼女に見逃された。

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