6話 爆薬系趣味
「食材も十分集まったし、そろそろ降りようか」
「うん、そうだねっ」
豚肉を追いかけ既に300メートルほど登り、折り返そうという方向に。
「実は登ったら魔獣が居るとかない?」
「そんな展開はありません。強いていうなら熊とか大きな虫とか猪とかなら居るけど」
「割と人里に近いけど大丈夫かそれ」
「全然問題無いよ。魔法があるからねっ」
人間だけ魔法扱えるの、最初から生態系が壊れているよな。山火事ぐらいなら簡単に引き起こせるし。まあ消すのも簡単だから良いんだけどさ。
「やっぱりスリルが欲しい?」
「あはは。まあ折角魔法が使えるからな。戦いたいというわけじゃないけど、俺ツエーはしてみたい」
「今度僕と戦ってみる? 俺ヨエーなら体験できると思うよ」
「絶対やらねぇ」
ユズがどんぐらい強いか。俺はこの1週間ちょいで理解した。頭おかしいぐらい強い。
俺が魔法弾を暴発させたら、結界魔法かなんかで打ち消す。俺が超スピードの槍魔法を撃っても、1秒経たずに物体生成魔法が道を塞ぐ。腹立った俺が不意打ちで後ろから水をぶっかけようとすると、全部跳ね返ってくる。謎だ。
「でも大変なこともあるよっ。頂上でキャンプするとね、虫が大変なことになるのっ!」
「それは大変だなー」
生返事をする俺に、ユズは真面目な声で忠告をした。
「勘違いしているかもしれないけど、頂上でキャンプはガチサバイバルだよ」
「死ねるってことか?」
「うん。ミゼはその時は6人で行っていたらしいから、魔力のゴリ押しで何とかなるだろうけどね」
「エンパーさん達が夜ずっと見張っていてくれたんだっ」
話を聞いてみると、ミゼが12、クルメトが15の頃、山の頂上に興味が湧いたらしく、大人の人達が登山隊を作って連れて行ってくれたらしい。
なんかヤバさの規模がショボい気がするが、面白そうだから行ってみたいな。未発見の植物とかもあるだろうし。
「ユズは登ったことあるか?」
「もちろん。朝6:00起きでずっと登っていたよ。......辛かった」
「辛かったんかい」
「見て回るのが目的だったからね。虫被害が散々だったよ」
流石にユズも身体は子供ということか。それでも1日で1000m弱を往復するのは凄いけどな。
「タイカルは?」
「え、オレはいつもここら辺までしか...... 頂上行くことに興味も無いし。......虫嫌いだし」
「なるほどなー」
虫が思ったよりキツいみたいだ。でかいとか言っていたけど、どんぐらいなんだろうか。平均5センチとかだったら確かに嫌だな。
「ユズの動物図鑑に虫は無かったよな?」
「虫だと思ったら殺せ。特徴なんか知る必要無い」
「うわ思想だ」
ドスの効いた声で言うと、普段のユズの子供っぽい声とのギャップを感じる。
「ちなみにお二人は?」
「大っ嫌い」「同じく」
宗教かな。忌み嫌われているなぁ。ミゼが平然とした顔で大っ嫌いと言っているのも、解釈不一致というか余程のものを感じる。
ここまで言われると、むしろちょっと見てみたいな。価値観は共有しておきたいし。
「なんか見てみたいって顔しているね」
「まあ少しな」
「じゃあそこから2.36メートルだけ右から67度の方向に動いてみよっか」
「分からん分からん。急にどうした?」
「で、タイカルはストップ」
「え、うん」
一応言われるが通りに動いてみた。大体の数値だけど。
「ん? なにも起きないけど」
ユズは無言でいた。気になるミゼが俺の所に来て2秒後。俺の頭の上に何かが落ちてくる。少しギザギザしていて、いい頭皮マッサージだ。
「きゃっ!」
ミゼが軽く悲鳴をあげ、俺は現実を見る。右手で硬いそれを掴み前に出すと、正体が分かった。
「............マジかよ」
反射的に地面に叩きつけ、虫の低い鳴き声が聞こえる。それは人間の顔より少し小さいぐらいのサイズの、蜘蛛だった。
「頂上にはこれより一回り大きいサイズの蜘蛛があちこちに居るからね。地獄だよ」
「うわー...... 行く気失せたわ」
俺はひしゃげた肉塊を見つめ、やや気持ち悪くなって物体生成魔法の布で覆い隠し、水魔法で手を洗う。
「もうユズ、ビックリするでしょっ!」
「ミゼが?」
「え、あ、そう、私が!」
「俺がだろ!」
本音が隠しきれなかったミゼをケラケラと笑うユズをぶん殴ろうとする俺。そしてタイカルがまあまあと宥めようとして......
グシャ 「「「あ」」」
「......うわぁ!」
俺が緑色の布で隠したせいか、見事蜘蛛の死体を踏み、それを気づいた瞬間後ろに倒れ尻餅をつく。
「いってて......」
「だ、大丈夫っ?」
「ごめん......」
「そこは素直に謝るんだ」
「だって見てよ。タイカル......」
起きあがろうとしたタイカルは、よろけ、そして後ろ向きに転がり落ちていった。
「ね?」
「『ね?』じゃねぇ! 助けろ!」
「そろそろ魔力が......」
「謝るなら誠意と魔力出して謝れ!」
その言葉に納得したのか、ユズは物体操作魔法でクッションをぶん投げる。寄ってみると、タイカルは無惨な姿でクッションに埋もれていた。
「......蜘蛛は嫌い」
「すげぇ。俺なら全責任ユズに押し付けるわ」
「まさかこんな大事になるなんて。後で服縫うから許してください」
「うん。そうそう。偉いっ」
謝るだけで褒められる小学生を横目に見ながらタイカルに治癒魔法をかけていると、タイカルの服についている黄緑色の染みが目に入った。なんとなく、危険な物質だと直感が訴える。
「なぁユズ、この染みって何か分かるか?」
「あぁ、それはあれだよ。ゴジアオイの油」
「ゴジアオイ!?!?」
ゴジアオイとは、簡単に言うと高温で自然発火する油を出す花である。自然に存在する、時折密林の火事なども引き起こすヤベェ花だ。
「の、油みたいなものだね。実際は全く違うものだよ。名前はファイブルー」
「へぇ、あれか。思わぬ発見」
「加工したり火をつけたりしなきゃ、山火事を引き起こしたりはしないと思うよ」
自然発火、加工、山火事、いい響きだ。
「なあタイカル、少しだけ火をつけていいか?」
「ダメって今言っていたよねユズが」
「ちぇっ。好奇心が無いのかよ。チビでパサパサとか需要あるか?」
「ひっどい言われよう」
俺はタイカルが落ちた所まで小走りする。
「ちょっと、どこ行くの?」
「その花探してくるー!」
「火はつけちゃダメだからね? あの、聞いているー?」
キキョウは現在異世界の油に夢中で、ユズの忠告は耳に入っていなかった。ユズ達も仕方なくキキョウを追って歩く。
「発見!」
ユズの図鑑で見た絵を頼りに、ファイブルーを見つける。タイカルは完全に潰したのか、既に全身が死んでいた。痛かったろう、可哀想に。
まあそんなことはどうでもよく、黄色い液体、もとい油の出口に切り込みを入れる。ジュクジュクと絞り出される油に指で触れ、顔に近づけると、良い火薬の匂いがした。感触も扱いやすそうで良い感じだ。
「ファイア」
俺は油を魔法のバケツに入れ、躊躇なく火魔法を使った。直接つけても良いが、少し離して加熱した時の反応を見たい。
油はパチパチと音を立てたと思うと、すぐに火がついた。40℃と少しぐらいか。山の標高を考えたら気温が40℃になることは殆ど無さそうだが、摩擦熱とかで意外と達成できてしまう。
さらに温度を上げてみると、油が音を立てて弾け飛んだ。
「あっつ!」
皮膚が火傷する。こんな危ない油があるなんて、流石異世界。楽しませてくれるじゃないか。いいねー。
「おっ、偉い。ちゃんと秩序を守って遊んでい...... なかった。やめなさい」
熱した油をばら撒くという環境破壊行為をしていると、ユズがピョンピョンと姿を見せた。
「なぁ、これ見てくれ! めっちゃ爆薬にピッタリじゃない?」
「あぁね。着火剤としては確かに便利そうだね。加工すれば扱いはさらに簡単になるだろうし。僕が作ってみようか?」
「いや、俺が作るから大丈夫。目標は量産」
「うん、普通にやってきそうなのが怖いね」
高圧ガスを硬い容器に密閉して、外から上質な油を染み込ませ、炎魔法で火をつければお手軽に爆弾ができるだろう。魔法のおかげで容器を硬くしたり、油を染み込ませたりするのも簡単だ。
俺はユズと一緒に種を探し出し、見つかった二粒を乾かして、ポケットに入れた。
「これは山入った甲斐あったな」
「植えるならあと一ヶ月は待った方がいいと思うよ。陰になる場所は避けて、正しく水やりすれば、山の麓でもちゃんと咲くと思う」
一ヶ月経つまで、できるだけこの花を見つけてみるか。とりあえず、そろそろ戻ろう。
「あれ? ミゼとタイカルは何処行ったんだ?」
「先行ってもらっているよ」
「あらら。そんな急ぐような時じゃないだろ」
「まあまあ。大した距離じゃないし走ろ」
ユズに道案内してもらいながら、山の中を走る。大した距離じゃないとは言っていたが、山の不安定な足場を全力で駆けるのは難しく、ユズと歩調を合わせなきゃいけないのもあって、結局話しながら早歩きに変わった。
「キキョウは爆弾とか好きなの? 魔法もなんとなく荒々しいよね」
「好き...... そうだな。ロマンがあるよな!」
「分からなくはないかも」
兵器が好きというよりかは、爆発という事象が好きだ。色々吹き飛ばしてくれる感じがする。
「さっきさ、ミゼに趣味が無いって言っていたじゃん」
「その時から聞いていたのか」
「そう。あれ、本当?」
「え、そりゃ本当だけど......」
何故疑われた? この何日か、ユズも見ていたはずだ。俺に趣味が無いことに、なんかユズにとって不満でもあるのか?
「いや、ほら。キキョウって結構物事にのめり込み易そうな性格しているじゃん」
「まあそうだな」
「だから、趣味が無いっていうことは、本当はもっとやりたいけど、できないことがあるのかなって」
「その発想力すげぇな。流石に考えすぎ」
ユズは冗談めかして笑ってみせた。ユズの表情が戻る。前を見ると、ミゼとタイカルが見えた。予想より早い。ゆっくり進んでくれていたようだ。
「あっ、来たっ!」
「あぁ。待たせてごめんな。でも収穫はあったぜ」
「何か見つけたの?」
「さっきの自然発火する油を出す花の、種を手に入れた。テッテレー」
俺は種を高く掲げた。
「おぉ、危険。何しでかす気?」
「危ないことはしないでね......」
あまり反応が良くない。俺は手に纏わせている油に火をつけた。大した量では無いが、それでもそれなりに燃える。
「あっつ、ちょっ、あっつ! ほら、こんな感じ!」
「ちょっ、馬鹿馬鹿馬鹿っ! 物体生成魔法!」
ユズの物体生成魔法でできたドロドロの冷たい液体により、火は消え、手に冷たい感覚が残る。
「「え.......」」
タイカルとミゼもドン引きしている。悲しみ。
「えっと、今危ないことしないでって言ったばっか!」
「別に治癒魔法で簡単に治るんだからいいじゃん」
「魔力の無駄遣いにも程があるでしょ」
「そういう問題じゃ...... いや、何も言わない」
俺は治癒魔法で手を完治させてみせた。魔力は1割も削れていない。やっぱり何の問題も無いじゃんか。
「そのドヤ顔はなに。僕もその程度の傷完治できますけど」
どやー
「えっと...... 今のは何だったのっ?」
「キキョウさんの...... 性癖?」
「性癖じゃねぇわ! ただ見せたかっただけだよ。そんな引くような行動か?」
「「「......」」」
うわっ、沈黙が一番応える。魔法を有効活用しているだけじゃねぇか。価値観の違いで仲間外れになるなんて酷いぜまったく。
「ほら、出発再開するぞ!」
「い、いえすっ!」
「「......」」
空気を入れ替えようと健気なミゼに感謝。そしてナチュラルに反応できていないタイカルはともかく、分かってて俺をおちょくるために無言を貫いているユズを恨む。
タイカルに言い訳をしながら、俺らは山を歩き続けた。
××××××
キキョウ達の住む村とは遠く離れた土地。天界。そこでは、ある事件が起こっていた。
「......」
「あの......大丈夫? 元気出して......」
「......うん、ごめん。フィルクはともかく、ザグマは早く助けないといけないね......」
ここは天界と名付けられた、小さな小さな土地である。そこには、天使と呼ばれるものたちが住んでいた。
「ケニエ様にお願いしよう?」
”フィルク“ と “ザグマ” が攫われた。その事実は、彼ら天使たちを酷く悲しませた。
ただ1人を除いて。
「じゃあ、ボクらは全員でザグマを助けに行こう」
ただ1人、澄ました表情をした天使がいた。ザグマが消えたというのに、悲しみなんて感じていない。
その名は “フィルク“ 。
「そしてフィルクは......」
「アタシのところに行く。全員、返り討ちにするわ」
「......」
「もちろん、ザグマのところにもついていくわ。といっても、手伝う気はあまり無いけど」
「......いや、うん。そうだね。ありがとう」
フィルクの位置は、高速で動いていた。しかし、その方向は一定で、どこか目的地があるような軌道だった。
仮にその目的地というのがあるとすれば、フィルクには見当が付いていた。
ケニエ様曰く、そこは魔力が満ちていて、人は少なく文明は進んでおらず、酷く平和ボケしているとのこと。
××××××
何十分か歩いて、もう麓付近にまで戻った。
「なあタイカル、タイカルは趣味とかあるの?」
「え、オレは...... そうっすね...... 趣味というより仕事だけど、建築は楽しいよ。他の大工さんも優しいし、仕事終わったら村の皆が美味しい肉くれるんだ。
前の世界は週7労働だったし、特に良い待遇は無かったし、それに比べると相当ホワイト」
「え、そんなものがあるんだっ。大変だったね......」
「転移前事情初めて聞いたけど社畜で草。労働基準法が息していないね。お疲れさま」
ってかタイカルって15歳とかそんぐらいだよな。社畜とかいうレベルじゃないじゃん。転移前の事情はやっぱ人それぞれなのか。
「あ、そうだ。そろそろ村に近いし、木材持っていかせてくれないかな。せっかく魔法上手い人揃っているし、重いんだけど良い?」
「おっと早速社畜設定を発揮していくー!」
「そういうんじゃないから!」
こんな陽気でヘッポコなやつなのに。こんなんだからブラック企業に引っかかったんかな。だとしたら御愁傷様だ。
「じゃあここら辺、切られていない木が多いし、これ切ろうか。2本でいい?」
「ありがとうだけど、そんな行ける?」
「余裕余裕。帰りはキキョウが頑張ってくれるから」
おい待て2本はキツイ。いや普通に考えて1本でもだいぶキツイぞ。
「じゃあ切るよー。みんな離れてー」
「ちょいちょい! マジで俺が帰り2本持つの!?」
「タイカルとキキョウで持ちきれない分は僕が魔法で運ぶよ。魔力も少し回復したし」
「流石ユズっ!」
「ミゼさん!?」
ミゼが少し離れた場所から迫真の裏切りを見せる。タイカルもちゃっかり離れていた。おい、おまえは俺の味方しろや! 大工!
「行くよー。物体生成魔法。物体操作魔法」
俺が離れていないのも無視して、ユズは大きな槍を作り、物体操作魔法で吹き飛ばした。槍魔法の大きい版。ユズがやると、これだけでやや太めの木を折ることができるみたいだ。
「ユズ凄いっ!」
「おー!」
「......」
そして2つ目の木も切られ、もちろん俺の方向に倒れるといった事故もなく、無事俺の前に大きな木材が2つできた。
「......身体強化魔法。ふっ!」
1本は持ち上がった。問題は2本目。どう考えても不可能だ。
「キキョウさん凄い、持った!」
「おぉー!!」
「2本目頑張れー」
俺はユズに無言で魔法弾を放った。成長だ。あっさり結界魔法で防がれたけど。
「しゃーない。2つ目は僕が運んであげよう。物体操作魔法。浮遊魔法」
重力軽くしたりもできるのか。ユズはもう片方を魔法だけで持ち上げた。しかし、やや不安定だ。流石に少しキツイか。
「おい、大丈夫か?」
「正直重い。タイカルも物体操作魔法して」
「あ、はい。ありがとう」
「じゃあ私も」
俺も重いんだが? なぜユズに集まるのか。とかいう俺もユズを心配してしまったんだよな、ちくしょうめ!
「じゃあ歩こうか」
「うん、僕に一本押しつけたんだからバテないでね」
「おまえ俺が怒らないと思っている?」
「オレも持ちます! すいません!」
タイカルが木の一端を持った。おっ、ちょい楽になった。
「じゃあミゼ、先導よろしく頼むわ」
「おっけー! 任せてっ!」
そして、俺たちは声をかけながら一歩ずつ進む。
「えっさっ、ほいさっ」
「えっさっ、ほいさっ」
「えいさっ、ほっさ」
「えっさっ、ほっさ?」
「えいさっ、ほっさ」
「えいさっ、ほっさ」
「えいわっ! 魔法弾!」
「おわーっ!!」
ユズが突如魔法弾を撃ち、木の一本が落ちる。
「どうしたのっ!? 大丈夫っ!?」
「僕らは魔法で運んでいたから大丈夫。ちょっとね」
俺とタイカルも一旦木を置き、ユズの魔法弾の先を見ると......
「......やっと異世界らしい展開が来たじゃねぇか」
複数の獣の目が、赤く輝いていた。




