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Green Way 〜記憶を失って転生し、絶望を知る〜  作者: SS
1章 英雄の誕生編
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47話 これから

 俺は転移する際、記憶を失った。この物語は2度目の人生。だから俺は、転移じゃなくて転生と思っている。魔法が使えて、のどかな村があって、何の苦役もない異世界への転生だ。

 俺は主人公だった。強くて、皆を守れて、敵を手懐けて。でも、俺の名前は分からない。俺は俺のことを「俺」と呼び、皆は俺のことを「君」と呼んでいた。


「大丈夫、君!? そんな怪我して!」


「はは、全然問題ないから大丈夫だよ。ただ魔法が暴発しただけ」


「君! 見て見てっ! すごい形の石でしょっ。歩いていたら見つけたの!」


「おぉ、たしかにすげぇな。洗って飾る?」


 あれ、そういや、ユズはどこ行ったんだ?


「......!」 ?


「......!」 .......


 しゃーねぇ、助けに行ってやるか。








「誰だよ! 誰だよ君! 来ないで!」








 キキョウは布団から身体を起こして呟いた。


「......夢か」


(懐かしい、俺の名前はユズから付けてもらったんだよな。たしか、ユズの転移前の友達の名前だったっけか)


 キキョウが珍しく間抜けな台詞を吐いたからか、興味深そうにフィルクが近づいてくる。パジャマ姿で髪を下ろした少女はとても美しく、キキョウは寝起きながらも目を見開いた。


「おはよう。どんな夢を見たの? 悪夢?」


「おはよう。あぁ...... 見方によっては悪夢かもな」


「......チビ関連?」


「ははっ......」


 キキョウは虚な目をしていた。朝一から、憂鬱だ。こんなにも毎日が新鮮なのに、充実しているのに、でも憂鬱だ。


「金髪が起きて朝食を作るまで時間があるわ。特訓するか遊ぶか、どちらがいいかしら」


「とりま朝シャワー浴びてサッパリしてくる」


 キキョウはバスルームへと向かった。フィルクが自然と付いてきたが、怒鳴りつける気力もなく、かといってノコノコと脱衣所に入って来られるのも嫌だったので、ドアを勢いよく閉めて自作鍵をかけ、廊下へと追い出した。


 ザー、ザー


 鳥のさえずりが掻き消され、シャワーの音だけが聞こえる。頭に比較的高温の湯を浴びると、気持ちが穏やかになった。

 全身を拭いて、空気を含ませながら髪を乾かす。使い終わったタオルを洗濯カゴに入れドアを開けると、フィルクが待っていた。


「やあやあ、気分バッチリだぜ。身体も起きたしランニングするか」


「違う特訓を所望するわ」


「ガチで走るわけじゃねぇから、そっちは走行魔法でもかければ普通に追いつけると思うぜ?」


「朝にランニングなんて愚の骨頂だわ」


「じゃあ夜やるよ」


「そういう話じゃないわ」


 結局、キキョウはプランクをすることになった。洗いたての椅子ができたフィルクは、背もたれが無いことに少々の不満を垂れながら、本題へと話を移す。


「キキョウ、この村に元々居た人じゃなくて、かつここで認識されている転移者以外の人に会ったことはないかしら?」


「どゆこと? フィルクでもユズでもタイカルでも、レアでもキュリアでもそして村の人でもない人ってことか?」


「合っているわ」


「うーん、誰も居ないはず。それこそ誰かが化けているとかじゃない限り」


「そう。ならいいわ」


 キキョウは疑問に思った。フィルクと会う前はクルメトとミゼ以外の村の人とはほぼ話さず、会った後はフィルクが殆ど俺と一緒に居る。聞くまでもない質問だと思ったからだ。


「どうしてそんな質問したんだ?」


「......」


「言え」


「キキョウが出会った頃より情けないからね」


「何で言ったんだよ。本人の前で言う必要なかっただろ。それか具体的な問題と改善案を話せ」


 キキョウにとっては、普通の感性とは違うフィルクが、いつもみたいに無理難題を吹っかけてきただけ。フィルクに呆れられるのは嫌だったから、手早く改善を見せるつもりだった。


「分からないわ」


 しかし、フィルクは答えられない。それもそうだ。手早く解決する手段があるなら、既に伝えている。


「あくまで俺の問題か。しーらね」


「向上心が皆無ね」


「あるし。俺が情けなかったら世の中の男全員情けない。つまり無理難題だ」


 キキョウの自己評価は高いが、概ね正しい。彼は自信があって勇気もあって、それに見合う実力も持っていて、責任感もあって決断力もある。多少口と性格は悪いが、味方につけるとこれ以上頼もしい存在は無いだろう。

 しかし......



「でも頼もしかったら、チビはキキョウに頼っていたわ」



「......」


「......あ」


「その『あ、やべ、やっちゃった』みたいな雰囲気を即座に出すのクソウゼェから止めろ」


 ユズはキキョウに頼るどころか、一切の悩みを打ち明けなかった。ユズは今何をしているのか、キキョウには全く分からない。

 キキョウは溜息を吐いた。そして筋肉が緩み地に伏した。自重とフィルクの体重により、肺が締め付けられる。その時、部屋の扉が開いた。


「起きているー......? ん!?」


 タイカルの目には、キキョウの踵がフィルクのこめかみに当たる寸前で止まっている光景が映った。


「おはよ」


「あ、おはよう。今どんな状況?」


「筋トレ失敗って感じかな」


「はえー......」


 自分が筋トレについてよく分からないからだと、タイカルは納得した。


「早速で悪いけど朝食よろしく。手抜きでいいぜ」


「じゃあ野菜の収穫手伝ってください。マッシュポテトに野菜と干し肉和えて完成」


「野菜と芋と肉...... 食材3つも使って簡単なのか?」


「食材2つでできる料理なんて卵かけご飯ぐらいしか無くない?」


 キキョウ達はパジャマ姿で畑に向かった。キキョウはクルメト院で何度か畑仕事をしていたから、もちろん収穫もできる。野菜の種類すら分からないフィルクは、暇そうに歩き回っていた。


「先輩! 虫! コーンの中にでっかい虫居た!」


「これが本当の畑の肉ってな」


「あっち行け!」


「ちょっ、俺の方にやるなよ! あっちのサボっている奴の方に行け!」


 大きなカブトムシのような虫をなすり付けあいながら、収穫を終えた。鍋サイズの籠の、半分ほど埋まっている。


「なんか多くね?」


「4人分だしこんなものでしょ。余ったら昼に回します」


「4人分...... あぁ、レアを含めてか」


 キキョウも失念していたわけではないが、ナチュラルにレアのことを気遣っているタイカルに感心する。


「今日の午後は、オレはレアと居ますかね」


 キキョウはタイカルとレアの関係を詳しくは知らない。それでも、タイカルがレアにとって大きな存在であることは間違いなさそうで、少し罪悪感があった。

 顔に出ていたわけではないが、タイカルはそれを読み取ったらしい。


「安心してください。レアは基本的に一人の方が好きっすから。オレのはただのお節介です」


「そうか。なんかタイカルの謙虚さは鬱陶しくなくて好きだわ」


「それ褒めてます?」


 キキョウの本音だった。レアの問題は100%キキョウのせいなのに、2度は責めず、むしろ謙虚にタイカルなりに向き合ってくれているのだ。内心ものすごく有難かった。

 人間関係の絡れが嫌いなキキョウにとって、優しさ故の行動だと保証されているタイカルは、フィルクの基地外さと同じぐらいには信頼できる存在だった。


「タイカルは変な隠し事するなよ。そのままで居てくれ」


「はい、先輩も隠し事は無しっすよ」


「じゃあ早速ありのままで話すわ。料理上手くなりたいけど、クルメトとミゼに言うのはダサいから教えて」


「オレもありのままを。ぶっちゃけダルイ」


「ありがと」


「嫌だって」


 程度の低い争いをしながら、食材を持ち運ぶ。結局心優しい (もといチョロい) タイカルが折れることになった。


「しゃーない。先輩が反抗したら止めます」


「やったぜ☆」


「とはいっても、大したことしないっすけどね。芋を茹でて、潰して、細かく切った乾燥肉と千切った野菜合えて、タレをかけて完成。朝食なんてこれで十分です」


 難しいことはない、精々芋の皮剥きを教える程度。タイカルはそう甘く考えていた。しかし......


「先輩! それもう皮剥きじゃなくて輪切り!」

「火力抑えて抑えて! すごいスピードで蒸発してるじゃん!」

「肉使いすぎでしょ! それ塩っぱい奴だから、5:5はやりすぎ!」


「??????」



 約一時間後



「やっと...... できた....... 芋十つと肉三百グラムと包丁二つと鍋一つを犠牲に......」


 キャベツらしきものが散乱していなければ、今すぐ床に倒れ込んでいそうなほど、タイカルは疲労していた。


「最初なんだからもう少し簡単な奴教えてくれよ。まだ指が痛いぜ」


「十分簡単ですから!」


 キキョウは治癒魔法で原型に戻した指を見つめた後、改めてタレまみれのポテトサラダを見た。


「でも、ありがとな。やり方は覚えた。もう失敗しない」


 タイカルは満足気なキキョウの表情を見て、同じく満足気な溜息を吐いた。


「本当に失敗しないなら、せめてミゼと先生に見せられるようになるまでは、これからも手伝いましょうか?」


「マジで!?」


「オレもただ料理するだけじゃ暇ですし」


「毎日でもお願いしたい!」


 素直な反応を見せるキキョウの前に、ポテトサラダが装われた器が突きつけられた。


「まずは食べましょうっ」


 一口指で掬って、舐めとる。明らかにタレがかかりすぎだったが、芋の茹で加減はバッチリだった。



「不味いのは兎も角、遅いのはいただけないわ。真面目にやりなさい」



「穏やかな空気が一瞬で砕けたな。ニートの癖にそんなこと言っちゃいけません」


「一時間は待たせすぎだわ」


「それは否定できない...... ごめん......」


 現実世界で言うと、現在約8:30。十分健康的ではあるが、たしかに人によっては遅いと感じるだろう。フィルクは多数の分身を扱っているから、早朝や深夜のような人と関わることのない時間に、栄養を補給することが多いのだ。


「じゃあとっととレアのところに持ってった方がいいか。悪いけどお願いしていいか?」


「オレがこれを作ったと思われるのは嫌ですし、先輩も一緒に行きません?」


「言い方ひっどいな。別に俺はいいけども。むしろレアはいいのか?」


「先輩が作ったと言ったら、心読んで唐辛子を入れていないと分かるまで、一口も手をつけないっすね」


「マジかよ」


 キキョウは信じてしまったが、タイカルの冗談だ。実際は、レアとキキョウの接点を増やすためである。

 タイカルはキキョウがレアを突き放した真意を理解していなかった。これからの長い間、レアとキキョウが一生関わらないというのは難しい。そう思った故の、善意からの行動である。


「しゃーない俺も行くか。フィルクは来なくていいぞ」


「行ってもいいなら行くわ」


「絶対に攻撃しない?」


「口頭でそう約束するわ」


 キキョウはレアの家の玄関を開けたら即フィルクを殺そうと決意した。


「ごちそうさま。じゃあレアの分装ってくる!」


「あ、下部から取ってくださいー。上部はタレが酷いんでー」


「おっけー。上からねー」


 鍋の中。改めて見るとタレが酷かった。良心が残っていたのか、下の方から取る。というよりかは、それが理由で残されるのは嫌だったのかもしれない。


「よし、これなら美味しいな」


 適量のタレを移し、タッパー風の容器に詰める。


「準備できたぞー」


「オレらも食べ終わってます」


「行きましょう」


 フィルクの差し出してきた手を握り、キキョウの両手が埋まった。


「仲良いなぁ本当」


「もう悪癖になってんだよな」


「身体に良いから悪癖ではないわ」


「はいはいそうですねー」


 タイカルはドアを開けた。

 その時だった。キキョウの動きが止まった。



 ユズの後ろ姿が映ったから。



「......あ」


「ユズ! ユズ!」


 ユズがこちらの声に気づく。振り向いた。


 ユズの表情は、失策と衝撃を示していた。


 ユズは顔を隠して逃げ出す。


「ユズ! ユズ!」


 キキョウの声で、逃げられないことを察したユズは、威嚇をするように面を上げた。

 キキョウには、それがとても恐ろしく感じた。なぜなら......


「どうしたんだよ! その怪我!」


 ユズの両頬と首に、大きな白い傷跡があったから。そして、髪がいつもより青色になっていたから。キキョウを見下す目が、いつもより青がかった黒色に輝いていたから。

 とある理由で急に三人称になりましたが、すぐ戻ります。安心して(?)

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