46話 自称奴隷
新しい家。リビングで俺とタイカルとフィルクで高度な大富豪十本勝負を繰り広げ、全員が消耗しきった後。
「レアが帰ってこない......!」
俺は悲痛の声をあげていた。
「いやいや追い出したの先輩でしょ」
「そんなこと分かっているんだよ! それでも悩むことはあんの! 人の心わかんねぇから貧民なんだよ!」
「その理論だとアタシが一番人の心が読めることになるわ。論破ね」
「全体的にはおまえ一番下だろうが!」
なんとか貧民を脱したが、富豪のフィルクに勝てなかった。都落ちとかいったルールを作ったやつは一回出てこいぶっ飛ばしてやる。
「まあ今回はユズやキュリアちゃん? と違って、あっちでいつも通り平穏に暮らしているから、そんな悩む必要はないんじゃないですか? というか、先輩達と一緒にいる時の方がレアにとっては危険」
「でもさー、このメンバーだとイベントがなさすぎてさー。こんなクソ暇など田舎でも、人数いるから楽しめるっていうのに。この三人でずっとトランプやっているだけだと飽きる」
「それはたしかに。今日はミゼ呼んだから急用がなければ来るはずっすよ」
「マジナイス」
この家は元タイカルの家の隣に建てられたもので、他の建物からだいぶ遠くにある。そのため、ご近所さんがほぼいない。もちろんちょっと歩けば十分遊び相手はいるが、それも電話がないここだと連絡を取ることも難しいし、色々と面倒だ。
「はーあ、なんで追い出したんだろ」
「アタシは追い出して正解だったと思うわ。ウザいもの」
「オレもせっかく作った家が1日で修復必要になるぐらいなら、距離とった方がいいと思います」
「す、すまん......」
タイカル及び関係者には申し訳ない。いや俺のせいじゃないけども。でもタイカルの言う通り、俺がレアに殺されかけたのは事実で、やっぱり近づくと危ないよなぁ。態度に出してないだけで相当怖かったし。
「やっぱあの時に本気で勝ち拾いにいった方が良かったかなぁ。うーん......」
「悩んでいても仕方がないわ。キキョウは既に失敗したの。反省は別にいいけれど、後悔は無駄よ」
「後悔するぐらいしかやることがない現状が悪い。......そうだな、なんか目標見つけるか」
フィルクの手厳しい合理的なアドバイスのおかげで、ひとまずは暇を潰せそうだ。
「オレは噂の先輩の料理の腕を見てみたいっすね。そして改良していくってのはどうっすか」
「結構いいなそれ」
「実験台になるアタシが可哀想だと思わない?」
「まったく」「別に...... 痛い! なんでオレだけ!?」
「チッ。もっと有意義な目標がいいと思うわ」
フィルクは料理に興味がないんだろうなぁ。食材に火を通しているかいないかぐらいしか気にしていないだろうし。
しゃーねぇ。料理だけじゃ朝昼夜以外は結局やることないし、違う目標も考えるか。フィルクの好きそうなことというと戦闘関連だが......
「あれ、そういや山にいるディスアって今どうなってんだっけ」
「・・・・・・あ」
「おまえ忘れていただろ絶対」
山にデカブツや人面蜘蛛をばら撒いて、現在ユズを山から出れないようにしている張本人だ。
「ディスアってなんです?」
「暴走団みたいなもん (適当)」
「へぇ。フィルクの仲間っすか。フィルクはそこのボス? それともその娘?」
「わざと言っているでしょう、IQ30。あとアイツは現状好き勝手やっているわね。放置でいいわ」
「......なんかごめん」
哀れタイカル。正直笑う。
「俺が倒すっていうのは?」
「なかったことにさせてもらえると、ありがたいわね」
「そうか。いいけどね」
人面蜘蛛もデカブツももう戦いたくないし。残りはユズがなんとかしてくれるだろう。......ユズは人面蜘蛛を相手にして大丈夫っていうのが、本当なら。信じ難いけど、本当なんだよなぁ。
「楽しいことが起こると期待していたけれど、最近はよく分からないイベントが多くて残念だわ」
フィルクが不自然なタイミングでボヤいた。えーっと、つまり......
「アイツを殺すのは楽しいイベントのはずだったと」
「そういうことね」
「なんか慣れてきたわ。ですよねー」
「......クルメト院に帰ろうかな」
フィルクはディスアを敵視しているわけではないが、“アイツ”は非常に嫌っている。しかも、憎んでいるとかではなく、マジで嫌いなだけだそうだ。いじめは許しません。
でも、よく分からないイベントが続いているというのは同意だな。加護も虫もキュリアの行方も、断片的情報はあっても、何が何だかサッパリだ。
「そういや、楽しいことが起こると思っていたんだ。俺と会ったから? 悪いな、ここ平和すぎて。今度新しいゲームでも作るか」
「それはそれで楽しみにしておくけれど、アタシがそう思っていたのは転移前にケニエ様に言われたからよ。楽しいことが起こるって」
「なるほど?」
「キキョウと会えたし医者のご飯も美味しいし、それらのことを言っている可能性もあるけれど......」
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「これはミーから何か言う必要はなさそうだねぇ。サプライズだ、楽しんでくれたまえ。しばらくは好きに遊んでていいよぉ」
「遊ぶ、ですか...... わかりました、ありがとうございます」
「あぁ、ちょっと待って。人を殺すのはNG、オーケー?」
「となると、拷問して遊ぶっていうことですか?」
「違う違う。何もしなくても、楽しいことがあるのさ。あと、過度な暴力は禁止ねぇ」
「あまり信じられないですが...... いえ、すいません。了解しました」
これが、アタシがセレネに来る前の話。ケニエ様が言うなら楽しいことがあるのは絶対なはず。期待というよりは、何があるかという好奇心がそそられていたわ。
そして髪を整えて背筋を伸ばしてカッコよく転移して......
「ッツァ!」
「ったぃ......」
思いっきりぶつかった。こんなにしまらない転移があっていいはずがないわ。殺してやろうかと思ったけれど、禁じられていたことを思い出す。アタシは不機嫌に立ち去ろうとした。
「おい」
ただぶつかっただけなのに、敵意が感じられたわ。銃声のような重い音。半分はただの反抗心だけれど、アタシは残りの半分に興味が湧いた。
『黒き罪への白き天罰』で溶ける。小さな子供と金髪がオロオロする中、キキョウは驚きつつも警戒を怠らず、その2人を庇う姿勢を見せた。さらに惹かれるわ。
アタシは彼の力が見たかった。もちろん現時点での実力なんてたかが知れているわ。見たいのは、どれぐらい期待できるか。
臆せず山に入ってくる覚悟。実力差をきちんと理解し、それを埋めようと策を練る行動力。へりくだるような真似は考えもせず、アタシに真っ向から歯向かう意志の強さ。それなりに高かったはずの期待を、大幅に超えてきたわ。
そして次も誘って遊ぼうと思った、今度は仲間を呼ばせて。キキョウは少し仲間意識が強すぎるかもしれないと、思っていた。そしてそれは今も思っているわ。
その時は最近の子供は意外と強いことを学んだ程度で、キキョウのことはあまり見れなかったわね。何かやっていたらしいけれど、印象に残っていないわ。ただ『プリズム・サンライズ』はカッコよかったから今後定期的に見たい。
そしてクルメト院というところに住むことになる。最初はだいぶキキョウに嫌がられていたけれど、可愛さをアピールしいたら仲良くなれたわ。色仕掛けによる肉体関係みたいな一時的な関係ではダメだったから、これは素直にありがたいわね。
次に、魔眼持ちの女と出会い、キュリア様がこの地に君臨し、神が何か関わっていることを知る。考えてみれば、ケニエ様がオススメしたところなのだから当たり前だけれど、衝撃は強かったわ。
キキョウも加護をキュリア様から手に入れた。一見弱そうだけれど、考えてみれば意外と使い道は多そう。他の効果が隠されている可能性もあるし、2つ目との噛み合いにも期待できる。
それに伴い、貧弱医師と年下詐欺ピンクも加護を手に入れる。アタシは彼女らを料理の腕以外で大した評価はしていないけれど、神様が評価したということは何かあるのか。もしくは計画の一環か。アタシは加護を貰えなかったわ。残念。
そして、虫野郎、嘘つき野郎に出会った。アタシの知らないところで、ディスアでも何かしらの動きがあるみたい。アタシが居るからキキョウに危害が加わるはずがないと思っていたら、まさかの事態が発生したわ。
ユズという子とテルト (虫野郎)が長期対決。
勝敗はさして問題じゃない。というより、チビが負けるとは思えない。人面蜘蛛も平気だそうだし、例えアタシの知らない致命的な弱点があったとしても、チビなら頭を回してアタシかキキョウに頼る。
問題なのは、長期というところ。あまりにもダサすぎて言うのが躊躇われるけれど、あえて単刀直入に言うのなら......
キキョウが寂しがる。
本当に。残念なことに、本当に。別れ方に納得がいかないようで、ずっとソワソワしていたわ。具体的に言うと、レアという心が読める生意気なチビに、初手で見抜かれるぐらいには。
そして問題はまだ終わらない。キュリア様がお帰りなさったわ。これの何が問題なのか、これまた残念なことにキキョウがメンタルブレイクしたわ。最初に会った頃は、メンタルが強いと感動したものだけれど...... なにか、精神魔法のような、でも精神魔法じゃないような、不思議な影響がある気がする。
少しキキョウの実力に懐疑的になったところで、いつのまにかメスガキとの勝負発生。心が読める相手にも、個人的には遠回しすぎたと思うけれど、彼にとって最高の結果を得ることができた。再評価、とまではいかなくても期待はできるわ。
それで追い出すことに成功? したのに、キキョウが何故か再びのメンタルブレイクを発生 ←イマココ
控えめにいって馬鹿。意味が分からないわ。
こんな感じで、キキョウは成長途中。現在でも申し分ない実力を持っているけれど、精神的にも行動的にも危うさが残るわ。アタシの尊き教えも伝え、鍛錬にも励み、ベースは作られたはずだから、あとは見定めるだけ。面白いイベントは数多くあったけれど、未だ泥々とした苦しい経験はない。
ケニエ様が関わるなら、必ずこれから何かが起こる。キキョウに悪魔を倒せるほどの気概と実力があるか、それが分かる時はもうすぐ。アタシの予想だと、それはユズが帰ってくる日......
キキョウの声が聞こえた。
「あるけれど......?」
キキョウにこれを説明するのは、面倒だし後々のリスク。やめときましょう。なら、あえてあざとく、人差し指を唇に当てて......
「ないしょ、おたのしみよ」
キキョウの頬が赤らむ。チョロい主人だ。
コンコン、ドアのノックの音がする。
「おっ、ミゼじゃん。行ってくる!」
からかいたかったけれど、キキョウは行ってしまった。ゲーム、どんなのを作るのだろう。
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アイカブルー。それは甘い甘い蜜。ユズは左人差し指に付いたこれを舐めた。
実はアイカブルーには魔力の回復という効果があるが、ユズはそれを目的にしているわけではない。
蜜の香りに誘われて、蜘蛛が近づいてきた。人面蜘蛛ではない。もう消えてしまった壁が守った、生き残りだ。
こんなものを守るために、壁を作ったのではない。ユズは蜜を蜘蛛に垂らし、勢いよく踏み潰した。
人面蜘蛛は山に残っている。新たに沸くことはもう無くなった。一匹残さず駆除しよう。駆除しないといけない。無かったことにするんだ。
はぁ、面倒だな。
せっかく、テルトを殺したっていうのに。




