45話 良心か利益か
「さ、流石に重いな...... 元の世界に比べれば全然少ない方だけど......」
「その程度で悲鳴をあげているようじゃ不甲斐ないわ」
家が完成し、俺らは荷物運びをしていた。訂正、俺だけが荷物運びをしていた。台車を使っているため、上り坂が特にキツイ。
「おい歩いているだけで息荒くなっている奴が何言ってんだ」
「キキョウの歩きが絶妙に速いのよ。女を気遣えないと利用できないわ。せっかく容姿が良いんだから...」
「ぶつぶつうるせぇな。荷物の半分持ってくれたらゆっくり歩いてやるよ。おっ、タイカル達見えてきた! おーい!」
「あ、こんちゃーす!」
「......」
タイカルは9割ぐらいの荷物を台車で運んでいた。そして手持ちサイズの荷物を持って、嫌そうな顔を見せるレア。相変わらず生意気だ。
結局家主の件は何も決まっていない。どうやってレアを説得するかが大事だな。俺の心が読まれているから、結構難しい。考えながら、扉を開けた。
リビングを挟むように部屋が右3つ左3つがあって、玄関の反対側に風呂と手洗いがある。部屋を選ばないとだ。おそらくどの部屋にも違いはないと思うが、どこにしようか。
「レアは一番他の音が入りにくい部屋使って。その向かいはユズ、隣はオレ。あとは先輩がレアの対角線上。フィルクは適当に。ラス1は...... キュリアは居ないし、次の転移者ですかね」
「あ、あぁ。......結構ちゃんと考えているんだな」
「ふっふ、でしょ!」
「......」
タイカルがドヤ顔をしている。普段爆弾製作とかで音を立てている俺はレアと遠い方が良いだろう。異論なしだ。
あとはフィルク。俺の隣か向かいってことだな。フィルクは触らなければ祟なしだから、どっちでも問題ないだろう。意外とクルメト院でも迷惑はかけていなかったし。
「じゃあアタシはキキョウと同部屋で」
......そういやそんなこと前も言ってたっけ。今も名目上は違う部屋でも俺の部屋に住みついてくるから、変わらないんだよな。空き部屋が1個増えるぶんそっちの方がいいだろう。
「許そう」
「2人がいいならそれで」
「............えっ!?」
レアが遅れて反応する。反応するのは別にいいが、反応が遅れたことは疑問だな。心を読めるのに。
「どした?」
「え...... いや、ダメ...... じゃない?」
「フィルクのワガママ券が1つ消費されるなら、これぐらい許そう。大丈夫、レアから一番遠いところだし、うるさくはならないはず」
「そうじゃなくて...... 夜とか...... 同じ家だと思うと、嫌......」
「おいムッツリ。言っていただろ寝袋使うって。変なことはやらねぇよ」
「......じゃあいいです」
納得いっているのかいないのか、レアは諦めた。少し変な態度だ。違和感がある。心を読んで何かがあったのか。だとしたら、フィルクが何か考えていたとか? あるいはタイカルの...... なんだろう。
でもわざわざ聞いてもお互い面倒なだけか。どうせこれも読まれているし。一旦話題を変えよう。
「部屋割り決まったし役割決めようぜ。掃除は全部タイカルに押し付けて、農耕はタイカルは中心で俺が時たま。料理はユズが来るまでタイカルで我慢ってのがいいかなって思っているんだけどどう?」
「異論ないわ」
「勝手に決めないでください! そんなやれるわけない!」
「やれるやれる。全国の主婦さんを見習え」
「......」
レアの顔を伺うが、変わらず不機嫌だ。話題を変えたのがまずいってわけではなさそうだが、いやどうだろ。話しかけてみよう。
「レアはどう思う?」
「......どっちでも」
「じゃあ2.5票で多数決で勝利。対戦ありがとうございました」
「くっ......」
今の『どっちでも』は、『話題を変えても変えなくても、どちらにせよ話す気はない』ってことか。もちろん本当にレアがそう思っているかどうかとは別問題だ。内心は変えてもらって安心している可能性も十分ある。
「冗談は抜きにしても、ユズが来るまではタイカルに料理を全部担ってもらうしか無いんだよな。代わりに農耕は仕方ないから俺とフィルクが持つ。掃除は、俺とタイカルで分担してやろう」
「あ、良心的。じゃあそれでお願いします」
「えー......」
フィルクが不満げな声をあげる。おまえには大して仕事振っていないんだが。
「まさか本当にタイカルに全部押し付ける気だったw?」
「それもそうだけど」
「それもそうなんですか」
「メスの方のチビが何もしていないのがムカつくわ」
酷い言い方だ。しかも、何もしていないわけではない。
「アイツは服作っているらしいぜ」
「......うん」
「それが何。金髪は家作りながら役割の半分を担っているわ」
「タイカルは別に良いんだよ。過労死した時のための墓もちゃんと用意してあるし」
「してあるの!?」
「してねぇよ馬鹿じゃねぇの」
「......金髪を例に出したのが間違いだったわ。使えな。じゃあいいわ、役割分担はそれで」
タイカルは意気消沈している。でも確かに快く沢山の仕事を引き受けたのに、それが弄られて無能呼ばわりされるというのは...... 流石におもしろいw
「......っw」
「レアにも笑われた。複雑」
「どんとまいんど。他に決めることある?」
「......家主、まだ決めてない」
おっと、ここで掘り返してくるか。とりあえず、心を読まれていると情報力で差が出てくる。埋めるために会話を続けないとな。
「昨日俺になった」
「ミゼか先生がそう言ったの?」
「いや、俺が5人の中なら俺が適任と判断した」
「そうっすか......」
「異論ある人〜」
「......はい」
レアが静かに言う。話しても返事が来るイメージがあまり無いから、絶対に自発的な返事が来るこの状況は新鮮だ。もっと楽しもう。
「居ないな。じゃあ決定で」
「......」
さーて、だんまり。こっちの方がしっくりくるな。どうせ魔法弾が来るんだろ。上か下か...... ジャストガード!
魔法弾を結界魔法で防ぐ。フィルクのよく分からん防御魔法もあって、この家にもダメージはなさそうだ。タイカルが驚いて転がっている以外は何の問題もない。
「怖い! やめてくださいよ、先輩も大人げない。レアもすぐ魔法で訴えかけるのはやめて! オレが居るから、言ってくれればオレから話すから!」
タイカルが間に入って腕を広げる。レアは拗ねるように目線を逸らした。フィルクがその隙を見て反撃の槍魔法を。......ん? 目を逸らしたってことは魔眼が働いてなくね?
「ちょっ、おい!」
黄色の壁が間に挟まる。タイカルの物体生成魔法だ。
「危ない! ほんと、本当にそういうのやめて! 仕返すのは良いとしても、レアだって手加減して大事にしないようにしているの! 誰も人殺しなんて望んでいない!」
「アタシも手加減しているけど?」
「フィルク、たかがガキの癇癪にキレて倍で反撃して、それで責められたら強さを誇示して逆ギレは、流石にダサくねぇか?」
「うっ」
フィルクには説教よりこっちの方が効く。今更クールぶってカッコよく立っているし、ひとまずは落ち着いてくれたかな。にしても本当子供だなこいつ。
「ふぅ、ありがとうございます先輩」
「で? レア君よ? トップがそんな凶暴でいいんでしょうかねぇ?」
レアが睨む睨む。でも言い返せない。やっぱり正論は強いってことだね。
「はぁ、早くユズ帰ってこないかなぁ。オレ一人で治安を維持できる気がしない」
「......ユズが帰ってきても、フィルクがいる限り平和は保たれないんじゃねぇか?」
「......」
「案外オスの方のチビも肝が据わっているところあるから、どうなるかしら。キキョウが上手く彼を利用すれば、可能だと思うわ」
「それ自分で言うんだ......」
家主問題は相変わらず解決しない。レアを説得するか、俺が誰かに家主を譲るか、そのどちらかが行われない限り終わらない問題だ。
正直、家主の肩書きは別に要らない。レアと戦ったのも、家主が欲しかったわけではないし。だが...... 年下が俺の上に立つという事態は嫌だ! しかも俺に致命的な欠点があるわけではない。不正当な理由で下になってたまるか!
そして、俺が下を認めるということは、つまり俺が年下より劣っていると認めるようなもの。レアに舐められたまま、まともに話すことはできず、同じ屋根の下暮らす。嫌に決まっている! 思春期の娘相手のパパさんじゃないんだぞ!
おまけにフィルクの説得も面倒くさい。説得するとしたら、「俺は気にしてねぇよ」とでも嘘をつけばいいのか? 心を読めるレアの前で? ダサすぎて笑えない。
「とりま、それはユズが帰ってきてから考えようぜ」
俺は両手を叩いて話を終わらせようとする。そもそも家主という役職の存在が邪魔なんだ。家主なんて無しにすればいい。けど、それを俺から主張するのはちょい嫌だから、一旦引き延ばす方向で話をまとめたい。
ちなみに、↑はそのままレアに伝わっている。マジで面倒。レアから家主問題を無しにしてくれたら、こっちとしても楽なんだけどなぁ。
「そうやって...... 引き延ばしにする......」
「はぁ、プライドだけは高い」
「っ......!」
レアは俺に真っ向から向かってくるようだ。ちくしょう、舐められてんなマジで。
「ほらほら右手前に出して、また魔法弾撃つ気? 単純でちゅねー」
「今度は...... タイカルに譲る」
「・・・え、オレ!?」
......舐められているという点なら、実はタイカルの方が酷いのかもしれない。フィルクは警戒されているけど、やっぱ心読めるから危険度とかが分かるのかな。たしかに俺むっちゃ優しいもんなぁ。
「言っとくけど、相手がタイカルでも容赦しないぜ」
「同じく。むしろやりやすいわ」
「ギブギブギブ!」
「よし、レアがタイカルに勝負を譲って、タイカルがギブアップしたのなら、すなわち俺の勝ちってことだよな。ラッキー!」
「......まじめにやって」
タイカルがあっさり降参したためレアに責められる。しかしフィルクが俺側についているため、タイカルの判断は正しい。タイカルじゃ何やっても勝負にならない。
「いやいやいや、なんでオレ」
「私、そろそろフィルクさんに殺される......」
二人が小声で話す。レアは本気で怯えているようで、声が震えていた。俺は聴覚強化して聞き取り、伝言魔法でフィルクに伝えた。
「なっ。盗み聞き......!」
「目の前にいるけどな。フィルク、安心させてやれ」
「アタシはキキョウが拒むなら殺しはしないわ」
「......」
あぁ、レアの目を見るに、多分フィルクは『事故に見せかけて殺そう』とか『キキョウにバレないように殺すだけ』とか考えているな。初めて同情できる。可哀想に。
「タイカル、お願い......!」
「嫌だよ! そもそも、仮に勝てるとしても、オレは先輩が家主が一番丸いって思っているの!」
「......っ、裏切り者!」
「人聞きの悪い!」
俺、段々とレアの扱い方分かってきたわ。ずっとツンツンしながらタイカルと漫才繰り広げてもらうのが、お互い一番楽しいな。よし、今日からレアと話す時はタイカルを置くことにしよう。
あぁ、えーっと...... レアはそれでいい?
「......心の中から話しかけないで、ください」
ついでに、タイカルにこの旨を伝えてもいい?
「......嫌です」
なるほど。タイカルにも手伝ってもらえたら楽だったんだけどなぁ。レアが拒むなら仕方ないけど......
......
あれ、なんか、なんか違和感あるな。さっきの会話。なんだ?
「っ......! 気づかなくていい!」
「おっと!」
フィルクの結界魔法にヒビが入る。本気の威力の魔法弾だ。壁は焦げ、床の板は一部壊れている。
......これ、まともに喰らってたら死んでたな。
「......あっ、え」
「ねぇ、キキョウ。この威力の魔法弾、容易に即死も有り得るけれど...... これは、悪戯で許していいのかしら」
「......いや、ダメに決まっているな。これは無い」
「えーっと...... レア、気持ちは分かるけど、流石に......」
明らかに雰囲気が変わり、殺す意志を見せるフィルク。言葉で静止するのは時間がかかりそうだ。俺は槍魔法でフィルクの首を刺した。
タイカルとレアの小さい悲鳴。その後の静寂で、空気が更に冷たくなる。長い長い数秒で、みなの頭は冷えたはずだ。
「ご、ごめ、ごめんなさい......」
「謝れるなら俺は許すよ。おまえがそれで納得するなら、今のは無かったことにしてやる」
「ほ、本当に!? それでいいの先輩?」
「珍しく謝罪しているからな。けどもう一度言うよ。レアがそれで納得するのなら、許す」
カンマ数秒遅れて、タイカルは疑問を抱く。
「レアが無かったことにすることに罪悪感を覚えたら、許さないっていうこと?」
「あぁ。そういうことだけど」
「......?」
客観的に見たら、たしかにちょっとおかしいかもな。反省しているなら許さないって言っているように見えるかもしれない。
「......でも、許さなくて...... いい」
レアの回答は、こっちだった。自分に嘘つけないんだろうな。葛藤が見えるのが可愛いところだ。
「偉いな。じゃあ、出て行け。危険なやつは近くに置けない」
レアは言い返すことはできなかった。文字通り読めていたんだから、大人しく全部無しにしてもらえばよかったのに。馬鹿なやつだ。
「許して欲しくなったら、手首落として俺のところに来い。治すついでに許してやるから」
「......はい」
俺は泣きそうなレアの頭を撫で、そのまま髪を掴んで投げ飛ばした。
「ちょっ!」
「タイカル、レアの仕付けをよろしく。くれぐれも俺がクルメトに怒られないようにな」
「えっ、えっ?」
レアは走って玄関の外に出た。タイカルが引き留めようと、拘束? の魔法を使う。黄色い植物の蔓のようなものが、レアの足を床に縛り付けていた。距離があるのに大した魔法だ。
「レア、どういうこと? オレにはさっぱり分かんないんだけど......」
「......キキョウさん。私は...... 許す」
「そもそも悪いことしてねぇっての。......悪かったな」
「は? 何言ってんの?」
レアに近づけたのに、タイカルはやっぱり俺を見ている。隠していたつもりはないが、多少は説明する必要がありそうだ。
「レアの地雷踏んで謝りはするけど反省はしていないっていうことだよ」
レアは俺に魔法を撃ったことに、謝るだけでなく反省もしていた。タイカルは情報を整理しようとして、そしてなお混乱している素振りを見せる。
そんなこんなのうちに、レアはタイカルを振り払って行ってしまった。タイカルは悲しげに言葉を漏らすも、今度は止めはしなかった。
「......なんで先輩は、レアを許さなかったんですか? レアに罪悪感を、与えないため?」
「それはどうでもいい。というか、今回に関しては罪悪感持ってくれ。二度目があったら俺でも怖い」
「じゃあなんで?」
さて、なんでだろうか。一言で言うのは難しいが、強いて言うならこうかな。
「俺を嫌う正義より、俺を嫌う悪の方が、同情できるから」
俺は何かしらの原因でレアを傷つけた。あの攻撃は、反射的に出た突発的なものであるはずだ。レアに悪意は、無い。もちろん害があるなら話は別だが、少なくともあの程度なら即急に対処する必要性はない。俺は許したかった。
正直、あのまま無かったことにするつもりだった。まさか断られるとは思わなかった。自分の利益より、自分の良心を優先したんだ。
「はぁ、子供は綺麗だよな。なんで嫌われているんだろう」
「......先輩が悪だからじゃないっすかね」
「なあなあ、本当に手首千切ってくるかどうかで賭けしようぜ。俺しない派」
「開き直ってます? オレもしない派。レアにそんな度胸はないです」
利益と心か。意外と俺も迷うなぁ。どっちだろう。......ユズの件とかも、できるだけ早く帰ってきてもらおうと1ヶ月に交渉したけど、本当は今すぐ帰ってきてもらいたいなぁ。
優先順位...... か。フィルクが言ってたっけ。なんとなく分かってきたかもしれない。
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「先輩が地雷踏んだの、マジで仕方ないとこあるよなぁ。レアがオレの心読めないって初見で気づけるわけないし。これに関しては100%レアが悪いよ。反省しな」
「ごめん......」
「というか、多分いずれバレるよ? 先輩の観察眼鋭いし、ユズはそれの3倍鋭いし」
「......違う。バレるバレないだけじゃなくて......」
「先輩が魔眼を分かったような雰囲気出すからムカつく、でしょ? 気持ちは分かるんだけどねー。けど先輩も内心ではそうかもしれないけど、外面がウザいわけじゃないからさ。防ぎようがないと思うんだよね」
「うん。......私は、フィルクさんともキキョウさんとも、もう話さない......」
「......はぁ」




