44話 心が読める少女の独白
私の住んでいたところは、地球と言った。詳しくは、日本。ハーフだから、黄色の髪と黄色の目は元々のもの。アメリカからお母さんの故郷へと帰ってきたんだ。
学校にも通っていた。父に似た金髪と、慣れていない日本語、母譲りのコミュ障のせいで、転校生なのに友達は少なかった。クラスで女子3人。そういえば、金髪を気にしない男子も少し話しかけてきていたな。全員子供っぽかったから、避けていたけど。
突然のことだった。学校からの帰宅途中、パーカーのフードを深く被った人とすれ違い、急に手を握られた。頭が真っ白になった。
「......な、なんですか......?」
「......」
沈黙だった。その人の顔は、俯いていて見えなかった。人一倍警戒心が高い私は、誘拐を疑った。ランドセルのブザーをこっそり手に持つ。
「離してください......!」
「......これ、受け取ったら良いよ」
「......ど、どれ......」
手の中のことを指していると思う。けど、私とその人の手のひらに挟まれて見えない。
「受け取る? 受け取らない?」
きっと覚醒剤っていうやつだ。恐怖で身体が震える。受け取って、そしたらブザーを鳴らして学校に走ろう。帰り途中の生徒も沢山いる。
「受け取り...... ます......」
「......」
その人が手を離した瞬間、私はブザーを鳴らして走る。その人は焦って逃げ出した。よかった、追ってこない。安堵で涙が出てくる。
10秒ぐらいして、追ってこないことを確認し、私は手の中を見た。そういえば、何も感触がない。何が入っているんだろう。
手の中には、何も入っていなかった。
不思議に思いつつも、とりあえず家に帰ろうと立った、その時。どう表現すればいいのか、脳に情報が入り込んできた。
(あの子、泣いているけど大丈夫かなぁ。綺麗な髪、ハーフ?)
......え?
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(髪、黄色一色だぁ。目も黄色なんだ、おもしろー!)
(なんか感じわる〜。外国人とか関係なく性格悪そう)
(レアちゃん跳び箱できるんだ! 普段大人しいのに、意外だなぁ。外国に跳び箱ってあるのかな?)
(可愛いなぁレアちゃん。抱きつきたい......)
(レアちゃんって友達いたんだ〜。私も話しかけてみたいけど...... なんか怖いなぁ)
(レアちゃんにゲームの説明するの面倒だなぁ。日本語読めないし。え、あ、来ないの? やったぁ)
(食べるの汚いなぁ。箸も持ち方変だし。あぁ、こっちはこっちでハンカチ机にひいてないよ。あ、レアちゃんもいただきます言ってない! しかも背筋悪いし...... はぁ。しっかりしているのは私だけね)
(レアちゃんが食べているお菓子美味しそう...... ジーッと見つめていたらくれないかなぁ。あ、くれた! レアちゃん優しい!)
クラスメイトは大体馬鹿だった。3人の友達のうち、1人は心の中で私を友達だと思ってくれなかった。1人は心の中に留めていることが多すぎて、一緒にいるのが嫌になった。最後の1人は他のクラスメイトと同じように子供っぽくて、他の2人と接点が減ると同時に話すのを止めた。
ある時、私は転移した。ぼーっと歩いていたら、急にだ。心の中まで優しくて頼れたお父さんとお母さんとも離れ、私は泣いた。ミゼと先生は、同じくらい優しかったのを覚えている。
ここで、魔眼がピンク色になったことに気づいた。今までも片目を瞑ると心を読む効果が消えることには気づいていたけど、色が変わったことで不可解さを再認識した。
やがてタイカルがやってきた。彼の心は読めなかった。理由は分からない。おそらく悪い人じゃないし、これからの転移者にそなえて家を作り始めようとなった時は、付き合いやすいタイカルを選んだ。(まあミゼとクルメトはクルメト院に必須だから、ほぼ必然だけど)
次に、ユズっていう子がやってきた。この子は、なんというか...... うん......
「はじめまして、名前はユズだよ。よろしくね、レアちゃん」
(あぁ子供めんど〜。ミゼと先生を独占したかったのになぁ。しかも年上だし、生意気そうだし、頭悪そうだし。このプライド高そうなやつなら、年下の僕が圧倒的な実力差見せれば自分から出ていくかな? よし、魔法とやらもそれ以外も、ことあるごとに格の差を思い知らせてやろう。あぁでもオッドアイと金髪っていう2属性持ち合わせているのは良いかも。顔面偏差値も高いし。依存させてみよう。あ、洗脳術実践で使ったことないし、試しにやってみるのも手だな。どうしよっか)
台詞と一緒にこの情報量が流れ込んできた時の私の気持ちを考えてみてほしい。短時間でここまで頭が回る人は初めて見た。ある意味この腹黒さを一部スルーできるからよかったのかもしれない。
この子とはほとんど会話しないまま、私とタイカルはクルメト院から離れた。
そしてタイカルと平和に静かに暮らしている時に現れたのが......
「「ただいま〜!!」」
こいつら。死んでしまえ。
(魔眼!? 魔眼!!?? 魔眼!!!??? なんでこんな取り柄のなさそうなチビが魔眼を持っているの!?)
フィルクさんは魔眼を知っているようだった。私の安寧の生活を壊した元凶かもしれない。ただ、それよりも......
(身体つきを見るに武術を嗜んだ経験は無さそうね。魔法の実力もあの雄の子より下となるとたかが知れているわ。目を見るに敵意はあれど殺意はない。ゴミクズ同然ね。意識する必要ないわ)
この性格に、私は怯えていた。
中に入ってきた。私は殺されると本気で思って、恐怖の中魔法弾を撃ち続けた。歴代最高火力だと思う。だけど、あっさり対応されて、私は地に伏せた。
その人の近くにいた男が、治癒魔法を使ってくれた。この人は良い人なのかもしれない。言動的にそこまで強くないらしいし、私は少し安心した。
(この子の魔法弾すげぇ。俺も撃ちてぇ! 火力全振りで魔法弾を撃ってドカーンだな、激アツ大音量フロアが湧き上がりましたー。連射できるなら、色んな方向にカラフルに撃ってー、全部破裂させてー、みんなパーリィ。あぁそれ絶対気持ちいい! やりてぇ! なんか魔法弾撃ちたくなってきた、どっかで撃てないか? この子強いし撃っても大丈夫かもな。俺とフィルクとこの子で爆発エンドか、おもしろ! 家も大破して、破片が良い感じの味を出してくれてー、タイカルに怒られると。何やってんだタイカル! でも起承転結綺麗でかっけぇ!)
......ここまで意味不明なのは初めて見た。
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キキョウさんとフィルクさんは、ことあるごとに私に絡んできた。拒絶反応を示してもだ。キキョウさんは頭がおかしいだけでまだマシだけど、フィルクさんは害悪。最近悪夢に出てきたぐらいには無理だった。
「ごめん! 先輩たちが本当に!」
「いや、うん...... アイツらのせいだから気にしなくていいよ......?」
「でも1番被害受けているの確実にレアだから。今日も部屋に変な香りが染み付いたし!」
「良い匂いだから...... でも結界の中だと頭がおかしくなるかと思った......」
「ごめーん!」
土下座する勢いだった。タイカルは普段から思春期の女の子に近づけないお父さんみたいな感じだけど、キキョウさん達が来るといつも以上に情けなさすぎる。そこまで反抗期じゃないから、できればやめてほしい。コミュ障であることを自覚してしまうのが嫌だ。
そして次に来たのが、キュリアちゃん。小さくて可愛い。実は私は一瞬で眠らされて殆ど記憶がない。ただ、ほんの少し読み取った内容だけでも、キュリアちゃんの異質さは伝わった。もちろん他のメンツより30倍マシだけど。
(魔眼......! 魔眼だー! 誰からだろー。欲しいなぁ。うわっ、抱っこされた! 子供扱いだ! どうしよどうしよ、ほっぺぷにぷにされてる! うざい! 死んじゃえ! とりあえず眠れー!)
善悪の区別がつかない子にこんな危ない魔眼持たせちゃダメだと思う。
残念ながらキュリアちゃんとの思い出はあんまり無いまま、別れることになる。これはタイカル経由で知った話だけど、ミゼからも同じことを聞いた。
「こんにちは〜! ミゼですっ!」
「あっ、今行く〜」
訪問してくれたミゼに、私も会いに行く。
「どうしたの?」
「それがねっ、キュリアちゃんがどっか行っちゃったの......」
「前のキュリアを見つけたら教えてっていうお願いとは違う話?」
「そうそう。あのあと会ったんだけど、キキョウと2人で話すことになったのっ。キキョウは元の場所に戻るって言われて、急に見失っちゃったらしい......」
いまいち内容は伝わってこなかった。けど、キキョウさんからの伝言で、急に見失うなんて不明瞭なことを言われたと。
「それ、どう考えてもキキョウさんが......」
「違うよっ! 失礼だよっ! いや、私も実はちょっと疑っちゃったから人のこと言えないけど...... けど違うはずっ!」
「でも先輩だしなぁ。キュリアちゃんを害したとは思わないけど、ミゼに隠し事しててもおかしくなさそう」
同感。良識が全くないとは思っていないけど、頭のネジが外れているから何かしでかしていると思う。
「でも、大変そうだったよっ! その日はあんまりいつもと変わんなかったんだけど、次の日の夜になってもキュリアちゃんが来なかった時には少し元気無くなってて......
一人で外にまで探しに行って、でも見つからなくて、その次の日とかもう表情が死んでいるのっ!」
「え、もっと早く言ってくれれば手伝ったのに......! 先輩は今は大丈夫なの?」
「うん、なんとか持ち直してくれたっ......」
(フィルクが暇だ暇だって騒いでそれどころじゃなくなっちゃった......)
面倒だなぁそれ。初めてキキョウさんに同情した。
でも、意外だな。あの中学生版ジャイアンみたいな人がそんなになるなんて。映画版中学生版ジャイアンだったんだ。
「それを伝えにきたの。フィルクの分身を使ってもキュリアちゃんは見つからなかったから、探して欲しいとは思ってなくて、けど言わないとって思ってっ!」
「うん...... ありがとね、ミゼ! 言ってくれてありがと!」
「......じゃあ、お邪魔しましたっ」
どことなく寂しい雰囲気のまま、私たちは別れた。
そして翌日。家が完成することになり、キキョウさんたちがまた来た。
(おぉ、家すげぇ! 壊し甲斐ありそうだなぁ。火薬で埋め尽くしたいなぁ。ここちょうど周りに人居ないし、やれそうじゃね? よし、やろう、今やろう。あぁでも今は流石にタイカルが悲しむか。しゃーない、やめとこう。いやでもやりたい! 別に良いかな? タイカルならちょっと怒るだけで許してくれるんじゃないか? いやでもなぁ)
これが私がコイツにだけは家主をやらせてはいけないと考えた理由です。分かってくれるでしょ?
というか、キュリアちゃんのことでまだ落ち込んでいるんだと思っていたのに。少し期待していたのに。持ち直すのが早すぎる、やっぱりこの人は苦手だ。
そして色々あって戦うことになった時も......
(わぁ! すげぇ火力! ビリビリ来るぜ! ぱう!?)
こんな調子で集中することができなかった。
そして一番嫌だったのが......
(レアの魔眼がどのように働くか知りたい。それによって付き合い方も変える。だけど魔法弾の猛攻でそんなん考えている暇はねぇ。とりあえず観察だけ続けて、魔眼を使った実験は魔力を削った後にしよう。
よし、魔力はだいぶ削った。さて、どうしようか。処理能力を試すために適当な交渉しかけてみるか。内容は...... 目を瞑った時の状態も確認したい。あとサイコロを使った実験もしてみたいんだよな。よし、これでいくか。
交渉断られたか。結構魔眼の効果は強いらしいな。最後に、脳死で突撃したらどうなるのか。日常の会話は基本的には感覚的に反射的に行われる。その際にレアの魔眼がどう働くかは重要だ。行くぜ!)
私に要らない気を遣ってきたこと。キキョウさんは、私と仲良くなりたかったらしい。興味本位で近付いてきたクラスの男子と重なる。頭は良いのかもしれないけど、馬鹿だった。だから私は、この人が嫌いだ。
キキョウさんが帰った後、私は泣いた。




