42話 VS レア
「我帰還なり〜」
「おっ、おかえりー。どうだった? レアとは仲良くできた?」
「決闘を挑まれた」
「え」
前回のあらすじ終了。俺は今からレアをぶっ倒さないといけなくなったのだ。なんてこった。
レアの目的は俺をフィルクに幻滅させて、自分の身を守ること。よって俺はただレアに勝つだけではいけない。場外戦闘も味方集めも無し、正真正銘タイマンということだ。
ということを、軽くぼかしながらクルメトに話していきましょう。
「え、え、どういうこと......?」
「まあ簡単に言うと、怒らせて『ちょっと面貸せ (コワモテ)』って言われたみたいなもんよ。レアは俺をボッコボコにする予定らしいが、俺はなあなあにしてやるだけでいい。危ねぇことにはならないと思うぜ?」
「なら安心......じゃないね。怒らせちゃったのか」
「怒らせちゃいました」
流石に適当に略しすぎたのか若干違う伝わり方した気がするが、誤差の範囲だろう。セーフセーフ。
ってかそろそろクルメトに誤解させすぎて申し訳ないな。どっかで忘れているかどうかチェックしよう。
「ま、まあそれは仕方ないことだよ。切り替えて、ね? レアの対策しよう」
あ、優しい。純真すぎる。それにつけ込むの簡単すぎる。絶対にバレないようにしよ。
ところで、レアの対策...... 対策? なんというか、若干物騒な言い方だな。
「対策ってどういうことだ?」
「え、レアに攻撃されるのが嫌じゃないの? あ、思いきって初手降参ってこと?」
「いや初手降参は流石にレアに認められねぇだろ。例え相手しなくてよくなったとしても、関係が回復するわけではないし」
「じゃあやっぱ勝たないと。で、そのためには対策を練らないとでしょ?」
レアと戦わないと関係が変わらないorやや悪化。レアに負ける=レアにボッコボコにされた上で、クルメトは知らないがユズに家主を取られる。よって俺が勝たないといけない。それはそう。
じゃあ対策を練る...... 正しいか。いやまあ正しいんだけど。なんか物騒なんだよな。なんだろうかこの違和感。
「レアは短時間での高威力魔法弾の連射が強い。シンプルだけど、いや、シンプルだからこそ対策は難しいよ」
「うーん...... あ、分かった。もしかしてノープランで挑んだら俺が負けると思っている?」
「え、うん。............あ、ごめん! 決してキキョウを侮っているわけじゃなくて、ほら、キキョウが本気出したらオーバーキル気味になるから、キキョウはハンデを抱えているんだよ! それにね、えーっと、えーっと、相性的にも治癒魔法が得意なキキョウに短時間決戦は難しいところがあるとかないとか......!」
違和感の正体発覚! 気持ちいぃ! そしてクルメトが珍しくあたふたしている。可愛い。
でも俺が負けると思われているのか。たしかに俺の手首を一瞬灰燼と化したあの魔法弾の威力は馬鹿にならない。それと連射性能もたしかフィルクを少し煩わせるぐらいには高かったような気がする。
あとあれか。俺の速攻不意打ちパンチを避けた魔眼。言われてみれば、レアの猛攻中に俺が勝つのは無理そうだな。レアの連射時間は短いらしいが、それでも魔法で守りきるのは俺の魔力量だと厳しそうだ。
「なるほど、勝てるビジョン全然浮かばねぇな。なんで俺ノープランで勝てると思い込んだんだろう」
「レアはちっちゃいからね」
「それか」
あとなんだかんだ結界魔法→自爆やら、結界魔法→香水魔法やらで勝っているんだよな。たまたま。
......あれ、おっと、おっ? どうなってんだ? なんかおかしくね? もしかして......
「分かったー!!」
「えっ? えっ?」
「俺が勝つ方法、じゃないか。勝つ方法は今から考えるけど、その方針が決まった!」
「そ、そう...... どんな方針?」
「ははっ、マジかよっ、ははっ、面白くなってきたー!!」
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「あれ? 珍しく先生が外に......」
「師匠、レアにもその認識されていますよっ」
「いや、まあ、うん。正直否定できない。既に歩き疲れた......」
「普段料理とかしているのに、歩くだけで何でそんな疲れているんすか」
「このまえ料理教わったけど、火じゃなくて加熱魔法を使っていたり、その他諸々もめっちゃスムーズだったからな。体力が奪われる要素は少なかった気がする」
「というより、単純に強い光が苦手なだけだと思うわ。体力が極端に無いということはなさそうね」
総勢6人。フィルクは勝手についてくるし、タイカルはレアの決戦の詳細を知っているから必然。ミゼとクルメトはタイカルが作った家を見ることも兼ねて来たくなったそうだ。
「昔からずっと家に篭っていたからね」
「え、それって、なんか......」
「あぁ、そんな深刻な話じゃないよ。ずっと患者さんと話していただけさ」
「あ、優しい。安心しゃーした」
「ちょっと盛った! 患者さんが居ない時の方が多かったですっ! 私に畑とかの仕事を全部押し付けていたっ!」
「ど畜生じゃねぇか」
平和な会話だ。レアは会話に入ってきていない。表情を見ても...... ちょっと分かりづらいな。俺の予想が合っている証拠にはならない。
「......」
「じゃあ、早速ですけど始めます?」
「準備運動だけさせてほしい。5分後でいいか?」
「......いつでも」
屈伸などをしつつ、レアの表情を見る。レアはこっちを見ていない。意図的に気にしていないように見せているのか、それとも本当に気づいていないのか。
準備運動の時間を取ってもらったが、結局分かんなかったな。まあ、どうせ予想が外れていたら普通に負ける可能性が高い。予想が合っていると信じて戦うしかないよな。
「キキョウ、アタシ達はここに居ていいのかしら。どうせ爆発とか使うんじゃないの?」
「あぁ、たしかに。ちょい離れといた方がいいかも」
フィルクには戦うことだけ言っておいて、理由と作戦は効かせていない。手伝ってもらえるなら楽だが、フィルクの作戦で勝ってもレアには響かないだろうからな。俺との実力差をストレートに見せてやる。
「......作戦立案は1人でやったんだ」
「あぁ」
「分かった...... これでキキョウさんが勝ったら...... 受け入れる」
「言質取ったぜ?」
向かい合って、5mほど離れる。俺が考えた作戦の、大まかな方針はシンプル。粘り勝ちだ。つまり、初手の速攻を抑えないと話にならない。
「じゃあ、えーっと、あー、レアと先輩の勝負......」
情けない開始の合図とともに、レアが手を前に出し、俺は受け身の体制を取る。
「始め!」
「魔法弾」
約3つ、少なくとも俺の頭よりは大きいサイズの魔法弾が緩急つけて向かってくる。結界魔法や物体生成魔法を使うと、粘り勝ちの前に魔力と体力が切れる。よってここは、ダメージ覚悟で受け身だ。
背中を向け、魔法弾を喰らい吹っ飛んでいく。あえてどこに吹っ飛ぶか計算はしていない。そのまま地面に身体を引きずり、倒れ伏せた。なかなかの高威力だ。
「痛いなぁ。これ耐え切れるか?」
まだまだ追加で魔法弾は飛んでくる。しかもスピードの差があるから、リズム良く回避すれば何とかなるものではない。俺は全て、受け身で喰らっていく。
「ねぇ、ねぇ、キキョウ大丈夫なのっ!? 痛そうだよっ」
「と、止めていいのかな? ダメかな?」
「ダメだよ。死にはしないんだから、見守ってあげないと。あと、このまま反撃せずに負けはしないでしょ。多分」
「あ。貴方達、離れなさい。キキョウが攻撃できないわ」
「えっ? あっ、うん。......わー!!」
空気を察してミゼが退いてくれたから、俺は手榴弾を投げ込む。一方的に攻撃し続けると危ないという、心理的な隙を作るためだ。
そして、魔法弾で吹っ飛ばされまくったおかげで、少しレアと俺の距離が開いている。つまり、連射しすぎると、俺が避けた時に、無駄撃ちが多く生じてしまうということ。これでだいぶ攻撃を受けやすくなった。
「屈曲魔法弾」
レアはスピードを落としてカーブを描く魔法弾を出す。正面だけを意識していると、斜めから攻撃を喰らうということか。キッツイなぁ。
「跳躍魔法!」
これも身体強化魔法の応用。ジャンプで抜け出す。しかし、それは逃げづらくなることを意味するわけで......
「魔法弾」
スピード速めの魔法弾を空中の俺に向けて連打! マジ容赦ねぇ!
「物体操作魔法! アンド手榴弾!」
手榴弾で魔法弾を撃ち落とし、その爆風に乗って前へ。そのままレアの方へ。ここで結界魔法! 焦ったところに自爆を狙う。
が、レアは魔法弾を止め、物体生成魔法で地面から巨大な棘を作り、段々と大きくすることで結界を物理的に破壊。その間は2秒もない。この間に地面に着地しておきたかったが、無理だった。
「結界魔法!」
ほとんど魔力を込めていない、スカスカだが大きめの結界魔法。あの棘では破壊しづらいはずだ。レアは一瞬迷ったあと槍魔法で突破したが、俺も着地。
レアの腕を掴もうとしたが、避けられた。なら、代わりに爆発魔法で自爆する。
「んっ......!」
俺はもう一回距離を取る。が、レアは混乱し、時間を取ろうと結界魔法で自分を囲み、複数の魔法弾で周りを牽制。魔力をだいぶ使わせることに成功した。
「おぉ、やるわね」
「おぉ、賢い! すごいなぁ」
「えっ、今キキョウがなんかしたのっ?」
「構図的には完全にレアが優勢なんだけど、レアは魔力を今のでだいぶ消費したから、長期的に見れば先輩の方が優勢なんだよ」
「な、なるほどっ」
と、ガヤがガヤらしく良い解説をしてくれている。その通りだ。た、だ......
レアはさっきより慎重さを増した感じで魔法弾を撃つ。これ、慎重に量を調整されるとキツイな。一気に魔力を消費させることができないから、逃げ惑う時間が増える。
フィルクはキキョウのジリ貧をなんとなく察していた。
キキョウならもう少しあっさり勝負つけられると思うのだけれど...... 不確定要素も多いし、今それを求めるのは酷ね。頑張っている方だわ。
自分を苦しめるほどの精神魔法を使って、あとは策を2つか3つ交えれば、十分レアを倒せると、フィルクは踏んでいた。
さて、金髪の言う通り長期的に見ればキキョウが優勢となったわ。でも、あの生意気なガキにはあの魔眼があるわ。簡単に状況をひっくり返せるでしょうね。
キキョウがそれに気づいていないと相当キツイけれど...... こっそりとサポートしましょうか。あぁ、いや、それを今ここで考えちゃ意味ないわ。難しいわね。
フィルクが頭を悩ます中、レアはゆっくりと着実に勝利へと前進していた。手始めに、キキョウと距離を詰め、魔法弾で後退させないように地面を吹き飛ばしながら、曲がる魔法弾に緩急をつけて、確実なダメージを与える。
「おっとっと、囲まれた。絶対当たる配置ね。エッグ〜」
「余裕そう......」
魔法弾が弾ける! あぁ、やっば。めちゃめちゃ熱い。風圧がすごい。色が派手。視界がパチパチしている。全てにおいて俺の好きなシチュエーションだ。
足だけは守りたいな。腕はこの際折れても仕方ない。なら、耐久強化魔法を足だけにかけて......
「おし耐え切った。治癒魔法っと」
骨折しなけりゃちょっとした魔力ですぐ治る。運良く左腕も折れていない。これなら殆ど問題ないな。
「なんか普通に歩いてない? えっ、無傷っ?」
「先輩の治癒魔法すごっ。文字通り死ななきゃかすり傷」
......とはいえダメージはしっかりと負っているわ。駆け引きの手札は大きく減った。いっそ魔力を使って全回復することもアリな場面だけれど、その選択はしないのね。
「ふぅ、余裕だぜ」
キキョウの強がりは、普通の相手ならそれなりにビビらせる効果がある。距離も空いていて土も被っているから、キキョウの傷は分かりづらいのもある。けれど、それもレア相手じゃ効かなかったそうよ。
足と胸を同時にめがけて、カーブしながら連続に魔法弾が飛んでくる。単純だけれど、前後にはもちろん、横に避けてもカーブの餌食に、縦に避けても足が動かなくなるか内臓にダメージが入る。ボロボロの身体では、それ以外の選択肢を取るのも難しいわ。
「あぁ、えー、まずくね?」
俺が選んだのは前。重力魔法で自分の身体を重くして、結界魔法で軽く受けながら、道連れ覚悟でレアに飛び込む!
「物体生成魔法」
レアは壁を作って俺と遮断。なら魔法弾ももう来ない。被弾は少ない、治癒魔法でゴリ押せる。
「あっ、これ、キキョウが勝ちそう」
魔力を使ってでも無理やり回復したら、全力で壁に向かってパンチ! そのまま貫通してレアを...... 読まれていたっぽいな。あ、やべ、どこにいる? 横!?
「物体操作魔法!」
壊した壁をなんとなくで再構成して、魔法弾を防いで距離を取る。ふぅ、この壁に強度があって助かったな。
「はぁ、低レベルな戦い」
「これで低レベルなんすか。こっわ」
「こんな運と相手のミスに助けられるような戦いで勝っても、調子に乗るだけでしょう?」
「たしかにさっきの壁作ったのは選択ミスって感じするけどさ...... 急に先輩が近くで腕を振りかぶったら、驚くでしょ?」
「別に」
「分身持ちの価値観はよく分からない......」
「そもそもあんな魔眼持っているしか取り柄のないチビに辛勝で喜ばれたら困るわ。むしろ彼女に勝って欲しいわね。今後の教育方針のためにも」
「マジすかフィルク。おっと、展開が少し変わってきました。見ないと見ないと」
レアの猛攻が止まった。よし、流石に魔力切れ...... と見せかけて若干余力を残しているパターンかもしれない。どちらにせよ、ようやく持久戦に持ち込めるということだ。
もう俺の集中力切れかけているんだけど...... 俺の推測が正しければ、どちらかというと今からが最も気をつけないといけないんだよな。
顔面を引っ叩いて気合いを入れ直すっと。熱が俺の神経を伝う。覚醒演出を入れたくなるぐらいの熱さ...... よし、OK。いける。
「第2ラウンド、開始!」
後ろにいつのまにか配置されていた魔法弾を、腕で弾き飛ばすと同時に、持久戦が始まった。
状況を整理しよう。レアの魔力はほぼ切れている。俺の魔力は少なく見積もっても残り70%といったところか。ところどころで使っているとはいえ、まだまだ余裕だ。
しかし怖いのが単発火力。単純に魔法弾との相性の差か、レアは同じ魔力量でも俺やユズより強い魔法弾を使える。特に秀でているのが、その最大値。
仮に俺が50MPで50ダメージ、レアが50MPで100ダメージとする。この時、100MP使うとどうなるか。実はこれは比例ではない。グラフを書くとボールを投げる時のように、限界点があるのだ。100MPで俺は70ダメージ。レアが190ダメージということも普通にあり得る。300MPなら、俺は75ダメージでレアは550ダメージと、流石にこれは盛りすぎだが、でも違いはハッキリと意識してもらえただろう。
連射は残り魔力的に厳しいだろうから無いとしても、この単発火力だけで十分な脅威だ。慎重に行かないといけない。追加で、魔眼も意識しておかないと。
「なぁ、一応聞くけど、このまま俺が自爆覚悟でぶん殴りに行ったら、おまえヤバくないか?」
「......正直めちゃめちゃヤバい......です」
「......なんとなく嘘ついてなさそうだな。とはいえ、こっちもカウンターが怖いから、そんなゴリ押しはしたくないわけよ」
「はぁ......」
「ってわけで、交渉。それはしないでやるから3秒間だけ目を瞑れ」
目がキョトンとしている。言っていることが理解できない、ってな感じだ。まあ確かに緊張感の欠片もないこと言っているしな。
レアは少しして答えを返した。
「......それ、こっちが受ける必要、ない......」
「あると思うけどなぁ。カウンターが怖いって言ったけど、別に俺は喰らっても1発ぐらいは多分耐えるわけだし。それに対してそっち、俺の攻撃がどっかに当たったら、痛いじゃ済まないと思うぜ?」
「......分かった。じゃあ目を瞑る。3、2、1、0」
「ちょっ、カウントダウン早い!」
どうせ3秒守ってくれないなぁ思っていたけど、一応守る意志はあったらしい。
「......お互い口約束。そっちが殴りかかってこないことも、こっちが3秒待つことにも、保証はどこにもない」
「いや、俺が守ることには保証があるだろ?」
「......」
「俺の心を読めば分かるはずだ、おまえが3秒しっかりと待てば、約束を守ること」
レアに驚く素振りはない。それはそうだ、俺がこう言うことすら、分かっていたのだから。つまりはさっきの会話は全部茶番だ。
「えっ、待ってっ。ついていけないっ! 師匠分かります?」
「今ロード中。......読み込み失敗だね。フィルクは?」
「分かるけど解説が面倒。貴方が話しなさい」
「オレ知らないよ?」
「......あぁ、そういえば前にそう言っていたわね。じゃあ私が面倒だけど解説してやるわ」
「嫌な態度ぉ」
アタシはタイカルに電気魔法を浴びせ、そして手っ取り早く、単刀直入に最も大事なことを言う。
「レアは心を読める魔眼を持っているわ」
「「......魔眼?」」
「魔眼というのは、貴方達がちょっと前にもらった加護のうちの一つ。レアはずっと昔から貰っていたわ。その魔眼で人を見ると、その人の考えていることが分かる...... とアタシは予想しているわ」
「意外と分かりやすい解説ごめんなさい! 褒めているだけ! 他意はない!」
「これの厄介なところが、対策を考えても見破られてしまうこと。反応できない速度で攻撃しようとしても、どこを攻撃するか分かってしまうし、範囲攻撃をして避けられないようにしようとしても、距離を空けられて攻撃はできないわ。使用者がアタシだったら相当強いわね」
とはいえ、抜け道は無限にあるから、せいぜい強スキル止まり。キキョウもおそらく抜け道を思い付いてはいるのだろうけれど...... はぁ。
「バレた...... か」
「ドヤっ」
「槍魔法」
「うおあっぶね!」
3秒目を瞑るというのは、魔眼を封じてもらうためだ。あえて短く設定したのは、交渉に応じてもらうため。俺もレアもゴリ押し展開は望んでいない。俺に分があるからレアは当たり前だし、俺としてもほぼ運任せの特攻で勝つのは素直に喜べない。
「ちなみに、フィルク達はなんで気づいたの?」
「アタシは最初の襲撃時に違和感を感じて、襲撃を繰り返している間に気づいたわ」
「うん、あえてツッコまないでおくよ。そうなんだ」
「キキョウは...... 目が良いからかしら」
「視力3.0だっけっ?」
「そうそう (棒)」
色々と気付ける場面はあったが、神経衰弱をした時のレアの暗記力。あれを思い返した時に気付いた。あの時レアは、俺の心を読んでいたから数字が分かったんだ。
「で、3秒目を瞑ってくれるのか?」
「......」
レアは無言で、何もせずに立ち尽くしていた。迷っている、というわけではなさそう。
「はいかいいえで」
「......」
「え、えと、YESならまばたきを3回......」
「キキョウ、じれったいからさっさと終わらせなさい!」
これに関してはフィルクの言っていることの方が正しいが...... 魔力を回復させる時間与えるのも嫌だしな、やるしかないかぁ。
「反応ないなら、行くぜ?」
「......どうぞ」
「火球魔法!」
中身は詰まっていないものの、結構大きめな炎の弾を飛ばし、耐久強化魔法と走行魔法をかけながら突撃。炎は防がれるなら魔力を使わせるので結構、受け技を溜められたなら、視界を奪いながら熱と囲まれている雰囲気で判断力を奪う。カウンターを取らせない動きだ。
レアが取った選択は中間択。物体生成魔法で最低限正面にだけ薄い壁を作る。周りに火が燃え移るが、直接的な被害はない。あ、俺との間に炎の壁が作られたのか。
俺は火の中に躊躇なく飛び込み、腕を振りかぶる。本気でぶん殴るつもりはない、そしてレアにもそれは知られている。けれど、本能的にガードしたくなる...... はず!
「オラァ!」
ビビらせるために大きな声を張り上げた。一歩遅れて、レアの魔法弾が刺さる。ただ、その一歩の遅れが大きくて、お互い爆発に巻き込まれる。
「うっ...... ぐっ......」
俺は宙を舞い、レアが風圧で床に叩きつけられる。しかし、耐久強化魔法を使っていた俺とノーガードのレアじゃダメージの違いは歴然。一回転しながら地面にカッコよく着地し、治癒魔法で痛む全身を治した後、俺は倒れているレアの元へ歩いた。
「おぉ! 先輩すげぇ! どうしたら勝ちか決めていないけど...... これはもう判決していいっすよね?」
「うんうん、良いと思うよ。いやぁ、面白かった。時には外に出てみるのも楽しいね」
「本当っ、こういうのあんまり起きないから、新鮮っ! レアちゃんには悪いけど、キキョウカッコよかったっ!
なにやら向こうで大はしゃぎしている。喜んでくれて嬉しいわ。よかったよかった。
「俺の勝ちだな。えい」
俺は勝利宣言をし、レアの額にデコピンをしようとして......
魔法弾でぶっ飛ばされた。
「「「「・・・・・・え?」」」」
「いや、は? なんで最後油断した?」
「え、あの状況から負けるってマジ?」
「これは...... うん......」
「ちょっとなんというか...... 勿体ないっ......」
......えっと、まだ全身から血垂らしながらも生きてはいるんだけど...... 起き上がるのが恥ずい......
「......これ、どうする? 両方寝てるんですけど」
「......俺は起きてます。ドローでお願いできますか......」
「あ、はい......」
××××××
「もうアタシは頭が痛いわ」
「ドンマイ」
「貴方のせい!」
結果的にはドロー。つまりはレアのわがままは無かったことに。全くの問題はない。というのに......
「本当に、なんで最後喰らったの? 1発ぐらい防ぐだけの魔力は残っていたはずだわ。それに、魔法弾が来ることぐらい予想できたでしょう?」
フィルクがこんな調子だ。声に少し熱がこもっている。
「いや、まあ、そういう時もあるだろ」
「キキョウの戦闘経験の少なさを知ってなお、あれぐらい防げたとアタシはいうわ」
「あの、でも、結果的には良かったじゃん、大丈夫だよ。すごかったよ。その...... 後々強くなりたいなら? 今は身を安静にしないと......」
「黙ってて」
「うーん......」
俺は大怪我を負い、クルメト院に。治癒魔法をかけてもらったからだいぶ楽になったものの、動ける状態ではない。
「そもそも、あんな真正面から戦っていることがおかしいわ。弱いんだからもう少し万全に準備しておきなさいよ」
「今回は勝つことじゃなくて負かすことが大事だったからさ?」
「それで貴方が負けてちゃ意味ないじゃない」
「負けてないし! 引き分けだし!」
「あんな雑魚と引き分けた時点で実質負けだわ。超反省しなさい」
「ちくしょうめ」
今回は良い実戦経験を積めた、反省点は沢山ある。恒例行事となっている実戦練習の後の言い争い(8割で俺が負けている) も終わったし、
「じゃあ反省会を始めるか」
「あ、そういう話題になるの? じゃあ私は出るね」
「あぁ、怪我治してくれてありがとう。また後で頼るからよろしく」
「はーい」
ドアが閉まる。開ける時の勢いはすごいが、閉める時はゆっくりだ。
「さて、どこから話すか。順を追うなら、序盤のレアの魔力を枯らすところかな。あそこは大体作戦通りに進んだから問題はないけど」
「魔力を削るという案は良いわ。心が読めても、取れる手段が少なくなれば、キキョウの攻撃に対応することは難しくなる。自分のアドバンテージを活かせるという意味では、王道の戦い方ね。合格点は超えているわ。
ただ、問題はやり方。運と相手の判断に任せすぎだわ。少なくとも、実力が未知数の相手に対しては不正解。相手が魔力をセーブする可能性と、削る前に自分が倒される可能性が平気であり得るわ」
流石だ、手厳しい。実際フィルクの言っていることは正しい。結局は俺が良いやり方を思い付かなかっただけだけど、一応俺が考えていたことを細かく話していこう。
「魔力をセーブされたなら、俺はレアに近づくつもりだった。一回近づけたら防ぐことは難しい。なら、魔法弾を撃って近づけさせないことしかレアはできないわけだ。だから、魔力をセーブしたところで、引き延ばしにしかならない」
「でも、それが読めているなら、中途半端に近づけさせてから、魔法弾でカウンターするのが一番効率が良いわ」
「それはそう。だから俺は、レアにとって有利な距離で戦うしかできなかったわけだな。それでも魔力を削るメリットを取ったわけだけど」
「そう、分かっていて良いやり方が思いつかなかったなら仕方がないわ」
フィルクは時々天然を晒すけど、教えるのはちゃんとしっかり上手い。スパルタだけど、優しい。俺がちゃんと考えていれば、合格点をくれる。
「次、魔力を削る前にキキョウが倒される可能性。大問題」
「ふっ、俺もそれは考えたさ。けど、それを考えてなお大丈夫だと判断した」
「その心は?」
「フィルクに撃ってた魔法弾の威力見て、治癒魔法で5、6回ぐらいは回復できるし多分大丈夫だと判断しました☆」
「0点」
「いや、あんな連射できると思わないじゃん! 威力とスピードに対して数と頻度がおかしい!」
「練習すれば、キキョウでもあの7割ぐらいの量は出せるわ。もちろん同じ威力スピードで。もちろん頻度は驚異的だけれどね」
マジか。となると、ユズは分からんけど、フィルクならレアと同じかそれ以上に魔法弾の数を出せるっていうことか。やっぱり練習って大事なんだな。(ユズは火力系の魔法弾と相性が悪い)
「そうなんか......」
「あの子の今後の可能性を一切考慮せずに話したけど、少なくともあの程度なら普通。それを予想できないのは正直言って論外が甚だしいわ」
「論外が甚だしい......? まあいいや、次行こう。特に話すことがないとこは省略して...... あそこか、交渉か。綺麗に突っぱねられたやつ」
思ったより上手くいかなかったやつだ。魔眼の対策はやっぱり難しかった。
「魔眼を封じたいけど、その作戦を立てても見破られてしまうから、いっそ自分から目を瞑ってもらうために交渉をした...... ということでいいかしら?」
「そうそう」
「その時点で正直赤点ギリギリね。実際、魔眼を封じるのは難しいわ。けれど、嘘や騙しも使わずに交渉したところで、自分が違う方向でより不利になるだけ。意味ないと思うわ」
「たしかにな。心を読める相手に嘘はつけないから、俺は騙すっていう方向性で考えたんだよ」
「つまり心を読める相手を、騙すことはできると? 興味深いわ」
無論、騙すといっても相手に誤解を生ませるーといった方法は駄目だ。俺が正しい理解をしているなら、それを読めばいい。そこで自分の判断を信じるような真似はできないだろう。
逆に言えば、俺が考えていることを盲信だと思い、自分の判断を信じてくれれば良いわけだ。言うなれば、俺の考えに対する不信感を植え付ける。
「そのための3秒という時間制限だ。タネも仕掛けもないことは心を読めば簡単に信じてもらえるし、3秒で普通はやられるわけない。この交渉を受けなければ、俺が脳死で特攻するわけで、その場合は俺の方が勝率は高い。なら、目を瞑る方を選ぶのは必然だろ?」
「いや選ばれていなかったから必然ではないでしょう」
「うるせぇ」
「というか、3秒で勝てない...... というのがそもそも間違っていることは良いとして、その仮定の下なら相手が目を瞑ったところでキキョウは勝てないわ。交渉が成功したら何をするつもりだったの?」
そう、レアがこの交渉を受けない理由は無いんだ。俺がレアの立場だったとしたら、絶対に受けていた。
「交渉が成功したら、魔法弾でも撃ってたんじゃないかな。知らんけど。その時点ではノープランだったんだよ」
「......言いたいことは理解したわ。一応続きを」
「3秒目を瞑ってもらったら、俺はどう攻撃するか悩むんだ。ポッケにサイコロあってさ、方向性が出目に割り当てられているんだ。例えば、1なら魔法弾からのコンボ! みたいな感じで」
「あぁ、本当に想像通りだったわ。マイナス90点」
「ちょっと待てちょっと待て!」
「待たないわ。要は3秒目を瞑ってもらっている間に方針だけ決めて、結局脳死特攻しようっていうことでしょう?」
「うん」
「そりゃ交渉受けてもらえないわ。馬鹿じゃないの」
「ひでぇ」
マイナスは初めてだ...... マジか、我ながら良い案だと思ったのに。
「方向性は決めるあてあるけど、なんだかんだノープランなんだぜ!? 3秒プランを目を瞑って防ぐだけで、俺の練りに練った脳死突撃を防げるんだ!」
「練りに練った脳死突撃とは一体。IQが30を下回っている猿じゃなければ、冷静にその交渉を受ける意味がないと見抜けるわ」
俺の天才的感覚による説明はやはり理解してもらえなかったか...... フィルクって結構理論派だもんな。やっぱりガリ勉と天才の間には一際大きな壁があったのか。
「すごい失礼なことを考えている気がするわ。まだ雑魚もいいところなのに」
「俺の『プリズム・サンライズ』に翻弄されていたくせに
「ねぇ、キキョウ」
フィルクは食い気味に言った。
「その技、彼女相手に使えると思わなかったかしら?」
やっば、やらかした。考えて話すのはどうも苦手だ。どうしても感覚的に反射的に答えてしまう癖がある。
「......思ったけど、それがなに」
「光なら、魔眼を封じることができる可能性があるわ。魔眼を焦がしたり、視界を光一面に染めたりね。それを読んで目を瞑ったならそれはそれで良い」
「けど、俺の魔眼はその程度じゃ効かなさそうだったぜ」
「アタシはそっちが珍しいと言ったはずだわ。それに、貴方の光魔法はハッキリ言って強い。大した魔力は使わないし、仮に魔眼の対策にならなかったとしても良いダメージと妨害になるわ。試しておいて損はないと思うけれど」
「あぁ、たしかにそうだな。参考になるわ」
「......手加減、していた」
その声からは、複雑な感情が読み取れた。驚き、哀れみ、怒り、落胆、呆れ、そしてこれからどうにかしようという意志。
「死なないよう手加減する、といったレベルなら百歩譲って受け入れるわ。ただ、光魔法なら確実に死なないはず。何故手加減したの?」
「......光線魔法じゃ流石に効かないし、『プリズム・サンライズ』だと威力の制御が難しいんだ。ちょっと分かりづらかったけど、フィルクのさっき言った死なないよう手加減したっていうことだよ」
「嘘をつくのが上手になったわね。じゃあもう一つ。交渉した理由、本当はもう一つあるんじゃないかしら」
「マジで? そこまで分かっちゃう?」
「これは金髪からヒントをもらったわ」
「あいつ実は結構すげぇよな」
見た目はチャラい、中身はビビリでギャップ感じていたら天才優男。これはモテそうだなぁ。
「で、手加減の理由は何かしら」
「うーん...... まあ強いていうならハンデ付きの方が良い実戦練習になるかなぁって」
「・・・・・・」
「全力で勝ちに行ったところで、別になー? なんなら引き分けなれたら一番良いなって思っていたぐらいだし。結果論だけど考えていた通りになって良かったわ」
嘘偽りはない。隠していることもあるけど、これが理由の一つだ。
「キキョウ」
「ん?」
意外と優しい声だった。責められると思ったから、意外だ。
「目先にとらわれず、自分のすべきことを考えて行動するその姿勢は評価するわ。だから、今回のことは責める気はない。けれど、覚えていてほしい」
フィルクは槍を俺に投げる。受け取れるスピードではあったが、普通に危ない。俺はフィルクにその2倍のスピードで投げ返した。肩に刺さる。血が垂れないよう魔法で傷を塞いだ。
「その優しさは、キキョウには似合わない。いずれ、絶望を知る」
その言葉には、忘れられない重みがあった。




