38話 また何も知られない
みなさん、どうもキキョウです。今更ですが、自己紹介でもしましょうかね。
名前はキキョウ。趣味は自爆。好きな食べ物は忘れました。異世界転移して、それなりに面倒な事態に巻き込まれまくりましたが、楽しくやってます。
しかしですね、現在今までで1番精神的に来ている状況なのです。
理由としては......
「お兄ちゃんお兄ちゃん! 目! 目つけて!」
「キキョウ、上に顔を向けて。入れにくいわ」
この2人のロリの頭がおかしいからですかね。とりあえず俺はフィルクの顔面をぶん殴った。
「痛っ」
「キュリア、フィルク...... 真剣に聞いて。俺はそういう暴力的な行為は好きじゃないんだ。特に、おまえらみたいに悪意のない暴力はな......」
「今お姉ちゃん殴られたよ?」
「コイツは別に良いんだ」
「悪意なし......」
人間もどきに温情は必要なし。悪への優しさは人類の敵だ。
「キュリア、聞いて。フィルクは手遅れだからおいといて、キュリアはその価値観のまま何の対策もなしに生きてちゃ、後々みんな離れていっちゃう」
「ふむふむ。多様性が否定される世界だ」
「どこで覚えたその言葉? まあ実際そうだから、キュリア、2つ俺と約束してほしいんだ。
1つ、血を出さないようにすること。2つ、血を見たらすぐさま振り返って嘘泣きすること。いいな?」
「分かった!」
俺は1人の少女を社会的に救った。偉すぎる。俺以外は誰にもできない役割だ。
「あ、お兄ちゃん、トイレ!」
「あぁ。場所は分かる?」
「うん! 大丈夫!」
キュリアは走り出した。子供って話の転換が急だよな。本当にさっき言ったことが頭に残っているか、心配だ。
・・・逆じゃね? 場所分かってなくね?
「反対だぞ〜!」
......応答なし。これはあれだな、騙されたな。
「『必殺、速く見えない速歩き』!」
俺は独特のテンポを保ちながら、足音を減らして大股で歩く。名前は今適当につけた。
「おお、文字通り速く見えないけど結構速いわ。......でも何故走らないの?」
フィルクが俺の隣を同じように歩こうとする。......手出してきた。速歩きが難しいから連れて行けと。
俺は多少速度を落として、フィルクの手を掴んだ。
「俺が全力で走ったら怖いだろ。キュリア程度ならこれで追いつく」
「前から思っていたけれど、他の人への優しさに対してアタシだけ扱い暴力的じゃないかしら。蹴られる焼かれる炙られる叩きつけられる殴られる、アタシのライフはもう0よ」
「でも残機999じゃん」
「アタシは最強ね」
「ナルシズムに浸るなサンドバッグ」
「は?」
呆れて前の方を見ると...... なんかまた色付きの結界作られている。これだいぶ魔力使うはずなんだけど。
・・・・・・
「あぁ! フィルクが変に足止めするから!」
「やっと気付いたのね」
俺は身体強化魔法で結界を叩き割り、走った。キュリアの姿がぱっと見じゃ見えない。何か細工してやがるな!
「右行った!? 左行った!?」
「アタシも見ていないわ」
ということは......
「またかよー!!!」
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「また?」
「はい、俺が逃しました。マジすいません」
「別にキキョウは悪くないけど......」
「またすぐ帰ってくるんじゃないです?」
「うん、さっきも怪我見たけど異常なかったし、今回も問題は起きないと思うよ。キュリアは結構魔法使えるし」
ミゼとクルメトは探しに行くつもりはないそうだ。俺は...... 微妙だなぁ! 付き合い短いこともあって、キュリアが何しでかすか読めねぇなぁ!
「俺は一応探しに行ってくる!」
「そう? じゃあ私も手伝おっか?」
「疲れているだろ、大丈夫。俺一人で探してみるよ」
またキュリアがアタオカなことしていたら困るからな、事前に回避だ。
さぁ、とりあえずどっち行ったか知りたいな。足跡は...... 肉眼じゃ見えないな。浮遊魔法かなんかの応用か? とりま拡大鏡魔法を使おう。
「よし、右か。走行魔法!」
身体強化魔法の派生だ。フィルクのために考えていたら、思いついた。フィルクには難しいらしいが、俺には効果抜群だ。速度は約1.2倍! 俺はかのウサイン・ボルトをも超えられる!
何十秒か走った。拡大鏡魔法で足跡を追うのは一旦やめ、周りを見渡す。そろそろキュリアの姿を...... 把握できんぞどこ行った。
え、マジで居なくね? そんな速い? ま?
「千里眼魔法!」
・・・全然見えない。マジかよ。割とまじめにどうなってんのこれ? 全く分からんが。
と、とりあえず引き続き足跡を追ってみるか。
......見えなくなった。
見えなくなったというよりかは、他の足跡と混ざった。靴なんて皆ほぼ一緒だし、注意深く見てもさっぱり分からない。
くそっ、見失ったか。マジかよ。なんのトリックに引っかかった?
ってか頭良すぎだろ。さっきの飛び出る魔眼や、足跡の隠蔽、そして謎の追跡不可。幼児が数秒で思い浮かぶようなものじゃない。
「......流石におかしくね?」
考えてみよう。例えば俺。俺はたしかに天才で運動もできて努力できて要領良くてイケメンで欠点なしだけど、それでも策は上手くいかないことの方が多い。
もっというなら上手くいった経験は、フィルクが舐めプした時と虫との再戦時とミゼ&クルメトに嘘ついた時ぐらいだ。
次にユズ。アイツはIQ300ぐらいありそうだけど、戦闘経験もなくメンタルも弱いから、フィルクとデカブツ相手に準備なしだと頭脳戦なんてする暇もないまま負けている。
一応会話でなんとか上手く運ぼうとしていたらしいが、走りながら、魔法使いながら、相手は狂人だから、様々な理由で全然無理だったらしい。
それをだ。言葉を覚えてたかが3、4年程度の子が、俺を騙すなんかできるか?
......肝心のキュリアが居ないと、幾ら考えてもなんの進展もないな。ちくしょう。
「......あれ?」
そんな頭いいなら、なんで転移したことについてあんなにも脳天気なんだ?
そうだ、キュリアは転移したことをとっくのとうに自覚していた。なんで? それは、どうして転移という不可解な現象が起こったのか知っているから......
「神......」
そういえばフィルクが、転移の神様だのなんだの言っていたような気がする。と、いうことは?
・・・分からんな。フィルクを通した限り、神がキュリアの居場所を知らないと言っていたのも引っかかる。何か思いついても、どこか矛盾点が生じてしまう。
一応このことは覚えといて、とりあえず帰ろう。
「あれ、フィルク、来てたのか」
「えぇ」
フィルクの分身は至る所に存在する。隠密魔法で普段から隠れているのもあって、結構見つけづらいのだ。
試しに立ち止まってみると、フィルクを探せ! ができてしまいそうなほど微妙な位置にフィルクが居ることが多い。
「思ったんだけどさ、キュリアと転移の神って、何の関係があるんだ?」
俺はさっき思ったことを素直に告げてみた。
「......」
フィルクは黙った。え、マジか。反応が返ってこない。なんか嫌な予感するんだけど。
俺はビビりながら質問を続けた。
「キュリアや俺はカニエ様によって転移させられた...... んだっけ?」
「ケニエ様よ。さあ、どうでしょう」
「どうでしょうっておい。よく知らんけどフィルクはカニの側近かなんかなんだろ?」
「ケニエ様よ。なぜアタシが蟹の下につかないといけないの。......少なくとも、ケニエ様はその質問に答えてはくれなかったわ」
ケニエ様がどんな人か分からんけど、フィルクがそんな強く出れる人ではないということか。もしくはフィルクの中で俺<ケニエ様の構図が出来上がっているか。
ただ、なにか重要なことが掴めそうな気がするんだ。もう少しだけ問い詰めてみよう。
「んじゃ何してでも聞いてこい」
「上下関係というものを知らないの?」
「フィルクは弱肉強食の肉側ってことか? 相手は男? なら大人しく食われてこいよ」
「え、最低」
割と素の声で素の表情で言われた。なんでだろう、非常に悲しくなる。珍しく冷静不動みたいな雰囲気を崩されたからだ。
「まあベッドイン云々は置いといて、普通にそれぐらい教えてもらえることできねぇの?」
「えーっと......」
やけに可愛い仕草でモジモジとするフィルク。こいつ、なんか企んでんじゃないかなぁ。なんか普段と違うもんな。
「なんか普段と印象違うけど、神様神様で頭パンクした?」
「そう。うん、そういうことよ」
「そうか...... もう帰ってクルメト院で休もうぜ?」
「えぇ、ありがとう。そうさせてもらうわ」
「分身持ちなんだから休む必要ないだろ。馬鹿言ってんじゃねぇ」
「チッ」
適当に話を中断しようとしていたのがバレバレである。やっぱなんか隠しているなフィルク。嫌な予感がどんどんと積もっていく......
なんで嫌な予感があるのか分かったわ。ユズで同じようなことやらかしたからだ。正直今フィルクが1ヶ月どっか行ったら、ストレスのぶつけどころが無くなってしまうから、発狂する自信がある。
「ほら、頭疲れているなら今すぐリセットしろよ。そしてさっさと何をそんな隠したいのか白状しろ」
「......槍魔法」
「えっ」
太ももに槍魔法がぶっ刺さる。ちょっ、痛い! ちくしょう、忘れていた。フィルクはこういう容赦ないやつだった!
「それ以上の深追いはさせないわ。アタシが居るのはあくまで神のためアタシのため。キキョウの命令を絶対遵守したいわけじゃないわ」
痛みで地面に転がる俺を上から見下ろすように言い放つフィルク。槍を抜いて治癒魔法で穴を塞いではくれたものの、その程度で俺の怒りが治るわけがなく、俺は立って深呼吸して、思いっきり言い返した。
「ちょっと前まで奴隷になります〜だの欲深い醜い部分が見たい〜だの言っていたじゃねぇか!」
「命令を守るか、守らず罰されるか天秤にかけただけ。罰したいなら何でも受け入れるわ」
「.......なんだろう、論破された気がする」
「......帰る?」
なんかムカついたので望み通りに光線魔法を何本かで (多分フィルクが気づくか気づかないかの) 罰を与えた。嫌がらせにもなっていなかったと思う。
「帰ろう」
俺は向きを変えて右手を出した。フィルクが掴み返すのを待っていると......
「あれ、どこ行くん?」
「元々この近くにセットされていたアタシが、わざわざクルメト院に戻る必要もないでしょう?」
「あぁ、たしかに。じゃ、バイバーイ」
後々思い返してみると、この時の俺は完全に手のひらの上だったなと、恥ずかしくなる。
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「はぁ、本当にああいう無茶振りはやめて欲しいわ」
「ごめんごめん〜」
「今回は別にいいけれど...... というか、やりすぎじゃない? そこまでキキョウを騙し続ける必要はないでしょう」
「気づかれそうになると、つい焦っちゃうんだよね〜」
「まあ確かにキキョウは頭良いけれど...... 今のところはただの精神年齢10歳のポンコツよ? 気づくはずないわ」
「精神年齢は関係ないよ〜。実際フィルクも気づくでしょ?」
「......は?」
「......失言だったね」
群青の髪をした彼は、事態を好きなように掻き回していく。




