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Green Way 〜記憶を失って転生し、絶望を知る〜  作者: SS
1章 英雄の誕生編
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37話 その狂気に忘れたふりをして

「どうだ? キュリアは山の中に居たか?」


「壁の外は隅々まで探したけれど、見つからなかったわ。壁の内は、体力的にもあのチビのためにも探していない」


「あ、賢い選択。ナイスナイス」


「まあ壁の中に入っていたとしたら、それはそれで彼が保護してくれるでしょうから安心ね」


 本当に戦力的にはユズを高く評価しているんだろうなぁ。俺は1人でもあの壁の中に居続けるのはきついわ。


「うーん...... どこに居るんだろう」


 そして、それから数時間後、俺が腕立て20回目に到達したぐらいの頃。


「ただいまー!!」


 キュリアの声が、響いた。


_____________________________



「うっそマジで!?」「え?」「えーっ!?」「ん?」


 あまりにも急すぎてビックリだ。俺は上に乗っているフィルクを突き飛ばし、キュリアを迎えに行く。


「お兄ちゃんただいまー!」


「キュリア......? だよな?」


「もちろん! キュリアだよっ!」


 疑っていたわけではないが、まごうことなきキュリアだ。子供らしい純粋な笑顔をしている。


「ははっ、おかえり! ハイターッチ!」


「ターッチ!」


 手のひら (ほとんど動かしてない) を魔法のレンガと物体操作魔法でタッチされる。良い威力だ、良いことあったのかな。


「どこ行ってたん?」


「うーん、みかん!」


「みかん......?」


「りんごでも良いよー」


「食べたいだけかい」


 俺は改めてキュリアを見る。最初に来た時と同じように、ゴスロリファッションだ。今回は紺色ではなく赤色をベースにしている。泥や臭いなどはなく、外で遊んできたとかでは無さそうだ。


「キュリア、ちょっと手〜出して」


「? いいよー」


 俺はキュリアの小さい手を両手で優しく包む。親指は脈に当てていた。



「よし、捕まえた。逃げは許さないぜ?」



「あ、『アネスシーザ・アイ』!」


「残念、目は防がせてもらうぜ」


 左目の魔眼が紺色に光った直後、投げたフィルクの服がキュリアの頭から被さる。用意はちゃんとした。最近頭の悪そうなことしかしていないが、流石に幼女に出し抜かれるほど馬鹿になったつもりはない。

 ってか、適当に量産してもらったフィルクの服がバカ役立ってんの笑う。汎用性高すぎる。神様に作ってもらっただけあるな。


「見ーえーなーいー!!!」


「怒んな怒んな。ほら、色々聞かせてもらうぞ。フィルクー!」


「やっと出番ね」


 近くで待機してもらっていたフィルクに、登場してもらう。ちなみに、ミゼとクルメトには一旦待ってもらうよう事前に言ってある。


「まずは謝ります、キュリア様。この暴君が非常に不愉快なことをして申し訳ありません」


「暴君で不愉快でさーせん」


「え、なんかそう畏まられると怒りづらくなる」


「ですが、こちらとしても非常に急を要する状況となっているので、許してもらえると幸いです」


「許す! 許すからその口調と目隠しをやめてー!」


 たしかにフィルクが敬語使っているとゾクゾクくる。普段から無表情で何考えているか分かんないが、敬語を使うとさらに分かんなくなって不気味さが増すのだ。


「じゃあ、普通に話すわ」


「ふぅ...... 目隠しは?」


「外さない。質問するわ。貴方は神様なの?」


「うん! 神だよ!」


「じゃあ、キキョウに与えた魔眼について教えて欲しいわ」


「・・・なんだったっけ。忘れちゃった」


「ダメだコイツ」


 フィルクは無表情を貫いているが、なんとなく疑念が強まっている気がする。まあ確かに、こんなんが神だったら世界がいつ崩壊してもおかしくないよな。


「だってだって! 2日前だよ! しかも相手はキキョウだよ! 忘れてもおかしくないよ!」


「えぇ...... アタシ記憶力高い方だから分からないわ」


「この世には2日前に何食べたかを忘れる人も結構いる、ってか殆どそうらしいぜ」


「みんな馬鹿ね」


 1週間前ぐらいだったら俺は覚えている自信あるな。フィルクはどんぐらいだろ。ユズは多分1ヶ月ぐらいずっと覚えている。


「・・・あれ、相手はキキョウだよって何?」


「今更?」


「俺に魔眼を渡すのはそんな重要なイベントじゃないと!?」


「うん」


「......」


「痛い痛い!」


 俺はキュリアの髪の毛を一本掴んでピョンピョンした。痛そう。


「キュリア帰る!」


「ここがおまえの家だけど」


「じゃあ出て行く!」


「ダメー」


 子供相手に真面目に話そうとすることが間違っているのかもしれないが、全然会話にならない。面倒。


「どこに行ってたのかしら?」


「なんかねー、暗いところー」


「そっかー。何があったか覚えている?」


「暗いから見えてないー」


「もしかして夜だから何も見えていないだけ?」


「そうかもー?」


 わっかんねー! こいつ、頭は悪くないはずなのに、頭が逝ってるぞ! もう少し情報をくれ!

 ちょっと考えてみよう。風呂に入って服も着替えて、それで明かりがない場所...... ってどこだ? いや、まあここも光魔法使わなければそうなんだけど、ただなんか違和感あるなぁ。

 もし仮に建物的な場所に居たとしたら、初めて入ったとかでなければそれなりに詳しく話せるだろう。逆に野宿的な感じなら、風呂を持ち込めるはずもないし、仮に魔法を使ったのなら光魔法も使って辺りを照らせばいい。


「その場所ってさ、床なんだった? 土? 草? それともそれ以外?」


「土でも草でもなかったよー」


「初めて入った場所なの?」


「うーん、多分!」


 フィルクと俺が考えたことは同じみたいだ。一切の情報が入ってこなくて、両方ともガッカリしている。


「質問を変えるわ。他の神様について教えて?」


「残念、口止めされてるからダメ!」


「悪魔は?」


「キュリアは知らないよー?」


「......どうする? くすぐる? 精神魔法使う?」


「.........神様相手にそんなことできないわ」


 迷いの感情が分かりやすく表れていた。


「じゃあ貴方の魔眼について教えて。相手を眠らせる能力以外の、耐久性とか使い勝手とかそっちの部分ね」


「魔力を込めなければ普通の目と変わらないよ?」


「抉ったら?」


「......?」


 当たり前だけど抉られた経験はないんだろう。どうしようか、流石の俺でもキュリアの目に (自主規制) のは気がひける。

 俺の魔眼で好きなだけ試せば良いし、とりあえずはパスでいいだろう。という旨を伝言魔法でフィルクに伝えた。フィルクは俺に目線を向けて頷く。


「全然話が進まないなぁ。ってか、そもそもなんでキュリアは出て行ったんだ? なんで帰ってきたんだ?」


「なんとなく出て、暇だったから帰ってきた」


「うん、予想通り」

「予想通りね」


 本当さー、ビックリするぐらい話進まないなー。もう飽きてきたんだけど。

 キュリアが出た理由、キュリアが出ている間何していたか、キュリアが帰ってきた理由。神やら魔眼やらについて。ぜーんぶ曖昧な答えしか返ってきていない。


「なんか他の質問......」


「もう良いじゃんー!」


「よくない。俺は今から質問責めするんだ」


「でもー、お兄ちゃん、その割には甘くない?」


「ん?」


 キュリアは物体生成魔法で壁を作り、魔法弾で俺ごと自爆した。もちろんフィルクが俺を守ってくれている。ほとんどダメージは0だろう。

 俺はキュリアの手を握っているから逃げられないし、キュリアに被せたフィルクの服も、物体操作魔法でしっかりと押し付けてある。


「まあ流石にな? それぐらいの対策はしてるさ」


「ふっ、甘いね、お兄ちゃん! 右下を見てみるのだ!」


「ん? 何かあるの?」



「「・・・・・・」」



 俺が反応に困っている間に、フィルクは焦ってキュリアに被さった服を払った。キュリアの自慢気の顔が、明らかに欠けている。文字通り、穴が空いていた。

 俺は再び、右下を見た。完全に一致している。信じ難い事実だが、それはトリックでもなんでもなく、本当の物なのだ。



 異様に光り輝く紺色の魔眼が、床に転がっていた。



「『アネスシーザ・アイ』を使っていたら、キュリアの勝ちだったね!」


 楽しそうにはしゃぐその顔は、やっぱり欠けている。左目の赤い穴は、血を噴出していた。


「なんせキュリアは神様だからね! どう? 騙された? 騙された?」


 ......そういえば、こいつ、さっきフィルクの質問で、魔眼についてボカしていた。マジかよ、俺らに爆発を防がれることも含めて、全部計算通りだったってことかよ......!


「え、あ...... 治癒魔法」


 キュリアの左目が復活する。紺色だ。おそらく、魔眼の能力も戻っていると見ていいだろう。

 俺は落ちている魔眼を拾い上げた。何を言えばいいか分からなくなって、小声で俺は言う。


「......血が溢れている。ミゼとクルメトにバレないよう拭いとけ」


「あ、たしかにっ‼︎」


「......」


 キュリアは、何も分かっていないんだろうか。痛くないはずがないんだ。なんで、許容できるんだろうか。


「キュリア、しっかりと聞いてくれ。それは......



いじょう

「キキョウ、大丈夫? どうかしたの?」



 異常だ。人前でそんなことやめた方がいい。そう言いたかった。それを、フィルクに遮られた。

 ああ、そうだ。何で俺がこんなにも抵抗感を覚えているか分かった。


 ユズも、そうだったからだ。


 狂った発言が、なんでもないかのように急に飛んできた。俺の価値観の方が間違っているとでも言うように。俺がおかしいとでも言うように。


「......どうもしてねぇ」


 あの時は、フィルクをユズのところに連れて行かなかった。もし連れて行っていたら、今回と同じように、ユズのおかしさを理解できなかったのだろうか。

 ふと、フィルクと最初に出会った時が頭に浮かんだ。あの時は、フィルクに一切の人間性を、見出せなかったものだ。それを思い出した時、心の中で何かが叫んだ。

 そうだ、あの時を思い出せ。狂っていただろ? フィルクも、そしてお前も!


「ゲぶっ...... あぁ、おぇっ......」


「キキョウ!?」

「お兄ちゃん!?」


 吐いた。なんで? 血を見たから? キュリアが狂っていると知ったから? フィルクがおかしいと再認識したから? ユズとの件を思い出したから?


 違う、違う。俺は......


 キュリアが、抱きついてきた。


「ねぇ、キキョウ」


 吐くのを無理やり抑える。キュリアを汚す願望はなかった。


「岩石魔法! 魔法弾!」


 トレーニングの成果とでも言うべきか。岩を生成し、広がらないよう注意しながら、爆発させて砕く。積み重なった岩石は、事故を演出して、ミゼとクルメトから見えないようにした。

 「きゃっ!」「大丈夫!?」などと悲鳴が聞こえるが、今はそれを無視する。


「なぁ、キュリア。何を隠している......」


 “キキョウ” と呼ばれた。初めて、キュリアに俺の名前を呼ばれた。小声でも、しっかりと聴こえている。

 俺に身を守られながら、キュリアは小声で答えた。


「キキョウは、間違っていないよ......」


 ......どう反応すればいいのだろうか。分からないけど、涙が込み上げてきた。抑えた吐き気の反動か、えずきたくて仕方がない。


「だよな...... そうだよな...... 俺は、間違っていないよな......」


 涙を流しながら、俺は強く言葉を放つ。泣いていることは、きっと俺以外分からないだろう。むしろ、他の人からは、笑っているようにまで聞こえているかもしれない。


「ふぅ、ふぅ、大丈夫っ!?」


 大きな音がして、瓦礫の奥からミゼが走ってきた。俺は、炎魔法で涙を蒸発させる。


「あぁ、悪ぃ悪ぃ。全然問題ないよ〜」


「本当? どうしてこうなったの?」


「色付きの結界があっただろ? キュリアの手を思ったより強く握っちまったんだけど、そしたら反射的にキュリアが結界を作ったわけよ。そしたら壊せなくなったから、俺が壁ごと壊したってわけ。で、出力ミスってこうなったと。あとで直すよ」


「そ、そう...... 無事そうだったから良いけど、もう少し気をつけてね?」


「はーい」

「はーい!」


 顔色が青いのは、なんとか誤魔化せた。キュリアのあの行動も、俺の焦燥も、気付かれない程度の嘘はつけた。


「キキョウ......」


 キュリアが再度小声で俺に話しかける。


「何?」


「やっぱ好き!」


「......」


 俺は()()、楽しく暮らすことを選んだ。

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