36話 2人居なくなって
なかなか狂気的な茶番を終え、翌日を迎えた。トレーニングをして昼食を食べ、魔力も全回復。万全の状態で俺とミゼとフィルクはタイカルの家に着いた。
「おぉ、ほぼ完成しているじゃん! すごい!」
「本当だな。もう入れるんじゃないか?」
俺らが騒いでいると、中から金髪のイケメン、タイカルが現れた。
「こんちゃーす。先輩とミゼが一緒に居るなんて珍しいですね」
「久しぶり〜。今日は私が着いてきちゃったっ」
「レアもミゼが居ると安心だろうしな。それより、もう俺らの家がほぼ完成してんじゃん。もう入れる?」
「はい。ただまだ内装が微妙に終わっていないんで、どうせならお楽しみということに。頑張ったんで褒めてください!」
「頑張ったな、偉い偉い」
「どうしてだろう...... 大して嬉しくない」
持つべきは優秀で弄り甲斐のある後輩である。どんな状況でもコンビニエンスなのは好ポイントだ。
「ありがとっ!」
「あぁ、これが欲しかった」
「これぞ満面の笑みだな」
ミゼはこの家に住むわけではないはずだけど、よくそんな表情できるな。それだけ俺ら転移者に思い入れがあるってことか。
「ほらフィルク、お前も満面の笑みをしてみろ」
「キラッ」
「あんま普段と変わってないな。できるようになるまでここでずっと待ってろ」
「先輩、フィルクを連れて行かない理由を作るのが雑じゃないっすか?」
「ここで待てってただ言われるのも嫌だろ?」
「そうね。練習しているわ。キラッ」
無表情でキラキラ言い続けているフィルクは放置して、俺はタイカルとミゼを連れてタイカルの家の玄関前まで移動した。
なんでフィルクを離れさせたかって? それは真剣な話をしにきたからですよ。みんなはもう忘れているかもしれないけど。
「えっ、フィルクはいいの?」
「先輩のレアに対する気遣いだよ。フィルクはあの通り完全に言うこと聞いているし」
「アイツも多分俺の意図に気づいているし。自覚があるからタチが悪い」
「えっ、えっ、どういうこと?」
そう、先日山に入った直後ぐらいにタイカルと話した内容。俺はアレで一応謝らないといけないと思ったのだ。
レアは転移者。俺とは違って、お母さんのこともお父さんのことも覚えているまま、この世界に切り離されたのだ。
「先輩はレアと仲良くしようと思い直したの。オレは嬉しいですよ。ちゃんと人の心があって」
「まあ俺はこう見えて優しさの塊だからな。よし」
俺は髪型を軽く整え、少しの準備運動を済ませたあと、ドアを思いっきりぶち開けた。
時速何十キロだろうか。木製のドアがタイカルの鼻先を思いっきり擦ったあと、俺は大きな声で叫んだ。
「この俺が来た!!!」
「馬鹿!」
スパーンっと手のひらで後頭部を引っ叩かれた。
「痛い! 叩くな! あと馬鹿ってなんだ!」
「ドアが壊れる! レアがビビる! オレの配慮も少しはして!」
「ドアもタイカルも魔法で一瞬でなおるし。それに、ヒーローが駆けつけた時は、いつだって女の子はビビってるぜ?」
「なおるの漢字は違うし、何にも起こってないのにヒーローはやってこな痛っ! 図星じゃん!」
俺はタイカルにデコピンをかました。ミゼが苦笑しながらタイカルに軽い治癒魔法をかけて数秒後、レアが現れ、近づいていく。
「お、自分から近づいてくれるなんて健気じゃないか。偉い偉い」
「久しぶり、ミゼ」
レアは俺を完全にガン無視して、安心したようにミゼに話しかけた。
まあまあ、この程度で怒るほど俺の器は小さくないんですよ。どうせこうなるだろうなと思ってたし、今回は秘策を用意した。
「じゃーん! お菓子だぜ、あげる」
俺はポッケからピンク色のクッキーを取り出した。壊れないようにしっかりと包まれている。
「きっとミゼが作った......」
「っ!?」
「分かりやすっ」
そして2秒でバレた。ミゼをこの場に呼んだのは間違いだったかもしれない。
「いや、まあ。うん。今は俺が持っているから......」
「餌付けしようとした上にあっさりバレるの流石先輩」
「餌付けじゃない、誠意誠意。一生懸命作ってもらったから、受け取って? な?」
餌付け作戦、あまり上手く行かなかった模様。俺だってできるなら自分で作りたかったけど、2時間やっても上手く焼けなかったんだ。仕方ない。
「......ありがとうございます。食べます。......食べないとミゼに悪いし」
「ちなみに味はこの俺が保証する」
「あ、うん、美味しいと何よりです......」
「先輩のせいでミゼが明らかに反応に困っていますよ」
バレたこととレアに受け取ってもらったこととお菓子の味を褒めてもらえたことで、感情の容量が大変なことになってしまったらしい。
「別にバレたからといって罪悪感抱えなくていいぜ?」
「あ、うん。ありがとうっ」
「どういたしまして」
「感謝させた!?」
「この人、やっぱ性格終わってる......」
終わってる扱いされた。悪いことはしていないぞ!
「じゃあこれは後で頂きます...... あとは、早めに帰ってください」
「待て待て待て待て! まだ持ってきた! これ、トランプ。俺が描いてきた!」
こいつ、全然俺と仲良くする気ねぇ! でも、俺にだってプライドはある。まだまだ秘策を持ってきている、全部お披露目してやるわ!
「すごっ! やけにクオリティ高い! 色まで塗ってある!」
「まあ俺が本気出したらこんなもんよ。ってわけで、遊ぼうぜ」
「......」
すげぇ嫌そうな顔している。酷ぇ。
「やろうよっ。ねっ?」
「まあミゼが言うなら......」
「やりましたね、先輩」
「ふう、頑張った甲斐あったぜ」
俺はトランプを、風魔法で完璧にばら撒いた。
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今回やるのはルールが分かりやすいから真剣衰弱。ルールを説明して、始める。序盤は俺とミゼが見えたペアから取っていって、レアはやや運に恵まれない。タイカルは最初に既出のやつを捲ったり、未出のやつを捲ったりと統一性が無い動きをしている。
「3…… 3っ!」
「あー。じゃあもう一回」
「うんっ、ここが6で、ここも6!」
「あれ、違う」
「あちゃぁ」
「......」
しかし、(俺が位置をこっそり入れ替えているせいで)ミゼがカードの配置を忘れ始める。俺の1位が濃厚だ。ミゼとタイカルが2位争いをし始める中、タイカルも少しずつ点を落とし始める。俺→ミゼ→タイカル→レアの順番だったので、カードの情報が手に入りやすいレアの点数が目に見えて上がり始めた。
もちろん俺が配置を忘れることはあり得ないのだが、今のところ、レアも忘れることはなかった。強い。グングンと追い抜いて行って、もう俺を超しそうだ。
「レアすごい! もう少しで先輩を追い抜けるっすね!」
こいつ...... さては全部仕組んでいたな。言われてみれば、序盤変な動きしていたのも、その後の不自然さをボカしながらレアに適度な情報を与えるためか。なぜそこまでサポート性能が高い。ヤバヤバやん。
「おぉ! 越した! レアがキキョウの点数を超えたよ!」
「やるじゃねぇか」
しかし、この程度でやられるほど俺は甘くない。俺はどうやれば最後の連続2ペアを取れるか、確率を計算しながらやっている。タイカルがサポートをできないよう立ち回って、ついでにタイカルの目を盗んで位置入れ替えて...... これで俺の勝率は7割越えのはずだ。
俺は運も味方して連続得点を重ね、結果的にはそれなりの差をつけて勝利した。
「ふっ、俺に勝つには10年早いな」
「大人げないっすね」
「うるせぇ」
「もう帰ってもらっていいですか?」
「ほらぁ! 何も考えないからぁ!」
「うっそぉ......」
めっちゃ頑張ったのに。なんてこった、こうなったら最後の秘策だ。俺はポッケから新たなものを取り出した。
「今度は何が出てくるんすか?」
「ふっ、聞いて驚け見て驚け。『インサイト・アイ』だあ!」
レアは顔を上げた。レアの左目のピンク色の魔眼に、光が差し込む。
「魔眼......!」
これが、レアが俺に興味を持った初めての経験である。
「そうそう魔眼! 好きなだけ見ていいぜ!」
「わ、わかりましたから...... 見せつけないで、気持ち悪い」
「魔眼ってそんな風に渡されるんすね。こっわ」
俺は人差し指と中指で魔眼を挟み、ピースのポーズで自分の右目に当てる。そういえば、レアとは反対側になるのか。
「なんか怖い...... レアはどうやって魔眼を付けたのっ?」
「私は気づいたら魔眼になっていました。というか...... 逆になんで離れたんです」
レアは普通に想像しやすい感じに受け取ったらしい。そりゃ、こんな可愛い女の子が自分の目をくり抜いてたら衝撃で腰抜かす。
「俺はこの状態で渡された。酷いよな、頭おかしいんじゃねぇの」
「それは酷いねっ......」
「無理やり入れて治癒魔法で回復する、とかで付ける感じっすかね。手伝いましょうか?」
「ありがたいけど、1人でできそうだから問題はないかな。ってか、そんな様子見たくないだろ。むちゃグロいぞ?」
「うっ、たしかに......」
なお、言うまでもないと思うが、フィルクに関してはそんなこと気にする必要はない。
「レアの魔眼はどういう能力を持っているんだ?」
「......言う必要ない」
「俺が聞いているんだから言う必要あるだろ」
「......貴方が聞いているから言う必要ない」
うーん、この子ぶん殴りたいな。あ、でもぶん殴ろうとすると回避されるんだっけか。それなら、条件はだいぶ絞られるな。
「危険を予知できる的な?」
「......当てにきている」
「おっ、もしかして1発で当たった?」
「さぁ、そうなんじゃない......」
この子、くえないなぁ。あ、でもよく考えたら、その能力があったらこの前の香水閉じ込められ事件は起きなかったな。じゃあ違うか。
「俺の魔眼は魔力を見る能力で〜、付けたことはないけど〜、明らか意味不明っつうかさ〜」
「魔力を見る?」
「俺もよう分からん。上手く使えるようになったら、今度どんな感じか教えるよ」
「なんとなく弱そう」
「それな」
魔力が見えたらどうなんだろう。魔力とコミュニケーションできるようになるのかな。いや、流石にんなわけないか。
・・・あれ? そういや、キュリア居なくね?
「そういえば、上手く使えるようになったらで思い出したけど、キュリアはどこだ?」
あえてキュリアから魔眼をもらったという事実は伏せる。情報は制限していくものだ。
「たしかに、キュリアも目の色が違うもんねっ」
「幼女に教えてもらう先輩...... なんか面白いっすね」
「喧嘩売ってる? まあそれはおいといて、キュリアからはタイカルの家にいるって言われたんだろ?」
俺はタイカルに金的キックを入れながら、ミゼに聞いた。ミゼは「うんっ」と肯定する。
「......っ!」
「キュリアちゃんはあの後来ていないよ......」
「あれ?」
ミゼが頭を横に傾ける。レアの嘘かキュリアの嘘か、ミゼが嘘を吐いている可能性は流石にないだろう。
「そうか。じゃあフィルクを連れてきた意味なかったじゃん」
「えっ、来ていたの......」
「あぁ。今外でキュリアのためにスタンバイさせているぜ」
「......」
レアが忌々しそうな顔をする。
......もしかして、レアが嫌っているのって俺じゃなくて、実はフィルクだった?
「あぁ、なるほど。言われてみれば......」
「勘違いしているかもしれないけど、キキョウさんも終わってる......」
「終わってるってなんだおい」
あれか。2人とも好めないけど、フィルクと違って俺は攻撃しないから、実害がないってことか。むしろ嫌だな舐められてそうで。
「話戻すけど、キュリアがいないのか。アイツに新築の話したっけかな。どうする? 2戦目する?」
「しない...... さようなら」
「酷いなぁ」
「えーっと...... ユズの話をしないとだよっ!」
話を変えた方がいいと判断したんだろうミゼ。まあたしかにそうだ。レアの話は終わりにして、ユズの話をするべきだ。
「そうだな、ありがとミゼ。じゃあ...... どっから話そう。レアはユズへの面識がないんだっけか?」
「ほんの少しだけある......」
「タイカル達がクルメト院を出る直前ぐらいに、話したことあるはずだよっ」
「なるほど。そのユズなんだけど、なんか帰れなくなった」
「えっ。なんで?」
俺はタイカルには (人面蜘蛛のことだけぼかして) 本当のことを伝える選択をした。しかし、この場にはミゼがいる。一旦うやむやにする必要があるだろう。
「少し詳しく話したいけど、レアもいるし今度2人で時間作って話そう」
「うーん...... 気になる」
「察して、意外と面倒な事情なんだよ」
「はーい、分かりました」
よし、多少不自然な部分はあったかもしれんが、とりあえずは問題なさそうだ。
「じゃあ帰るか。バイバーイって可愛く言ってみて」
「バイバイ......」
「はい、バイバーイ☆」
意外と素直に答えてくれたレアと、玄関まで見送りに来てくれたタイカルに別れを告げ、フィルクと合流する。
「へいへい、待たせたな。悲報だ、キュリアが居ないらしい」
「それは残念ね。どこにいるの?」
「分からん」
「分かりなさい」
他の家にお邪魔しているとかかね。ミゼと一緒に片っ端から調べてみるか。
「とりまフィルクは分身で色々観察してろ。俺は適当に家を回ってみるわ。ミゼも付いてくる?」
「あ、じゃあっ」
タイカルの家は他の家から結構離れている。俺らの家もこの近くに造られるから、他の家との関わりは珍しいのだ。今のうちにしっかりと信頼を得とくべきだろう。
「こんちゃーユカジィ」
「おぉ、キキョウとミゼじゃないか。珍しいな、寄ってけ寄ってけ」
「いいの? ありがとうございまーす」
「はじめまして。聞いたことありますかね? キキョウです」
「あぁ、あの。はじめまして、私はランキーよ」
「ようプーム。久しぶりだな」
「緑の人! 久しぶり!」
「うんうん、キキョウな。ちゃんと覚えておけ」
記憶喪失の転移者という補正もあって、それなりに俺は有名だ。既に7割程度の人と面識があると思う。
「赤紫色〜みたいな超ちっさい女の子、見てませんかね?」
「ごめんねぇ、見てないなぁ」
「迷子かぁ」
大体の家に聞いてみた。誰もキュリアを見ていない。そんなことあるか? 昨日から今日でそんなに移動できるはずがない。誰も見ていないなんて......
俺はフィルクの分身を探し、聞いてみる。「全然居ないわ」とのこと。
「となると、消去法的にまだ山の中ってことか?」
「もしくは人面蜘蛛の胃の中か......」
「おいやめろ、殺すぞ」
さらっと不謹慎なことを言うフィルクに不謹慎な返しをしたものの、だいぶ不安になる。
一周回ってクルメト院にいる可能性もあるので、一旦クルメト院に戻る。
「ただいまー。キュリア居なーい?」
「おかえりー。うん、見てないよー。タイカルのところのは居なかったのー?
「そうー」
うーん、山に入るかー? でもユズと約束したばっかだしなぁ。前みたいにユズがクルメト院に夜帰ってくるとかだったら然程問題ないのに。
「ちくしょう、しゃーないな。ユズには禁止されているけど、山入るか」
「え、大丈夫なのっ? 入ったらマズイって言ってたじゃん」
「・・・」
やべっ、適当な嘘ついたのがここで響いたな。どうしよ。
「まあ何とかなるだろ、知らんけど」
「ダメだよっ! ユズが入っちゃダメだって言うぐらいだよっ! 絶対なんかあるってっ!」
「うっ......」
ユズへの信頼度が高い! でも実際俺もそう思うから否定できない!
「一応明日以降はキュリアの目撃報告があったらクルメト院に言ってもらうようになっているけど......」
「それだけじゃ安心できないね」
俺らが頭を悩ませていると、フィルクが案を思いついた。
「ケニア様に聞いてみるわ。神界に帰っているかどうか」
「ケニエ様...... 聞いたことあるような無いような。神の誰かだっけ? どうやって話すの?」
「アタシの分身が近くにいるわ。ちょっと聞いてみるわね」
約10秒後
「知らないらしいわ」
「うん、無駄なことで無駄に新情報を入れてくるのやめようか。頭がバグるから」
「めちゃ早いっ。『キュリア様の居場所を知っているかしら?』『知らない』ぐらいのスピード感っ」
「結構似ていて草」
なんだったんだケニエ様の件。要らないだろ。
「でも、キュリア様は本当にどこに行ったのかしら」
「うーん......」
ユズのところに行くか行かないかの話を何度も繰り返したものの、結局は進展がない。珍しくちゃんと心配しているフィルクが勝手に分身を山に送り、この話は終わった。
「キュリアだよっ」
1人の少女が笑顔を作る。1人の と言ったのは、周りに誰も居ないからだ。誰に向けてでもなく、その少女は愛想を振り撒く。
「ごめんね、お兄ちゃん。キュリアは神様だから忙しいんだっ。寂しいけど、帰らないと......」
心底悲しそうな顔をして、そして後ろに振り返る。前にも後ろにも誰もいない。
「今までありがと! お兄ちゃん!」
そして彼女は、表情を消して、トコトコと帰り始めた。




